魔王シェリス・ツィンテルバス。
その名は、遠く離れたエルフの森にさえ、雷鳴の如く轟き渡っていた。この世界で彼女の名を知らぬ者はいない。
ただ一人で先代魔王を打ち倒して、新たな魔王の座に就き、大陸が数百年維持してきた平和を破って全世界に宣戦を布告した、超武闘派。人型の天災、生ける弔いの鐘…。数多の恐るべき言葉が、彼女という一つの存在を表現するために費やされてきた。だが、そのいずれもが彼女の真の恐怖の氷山の一角さえも示してはいない…。そんな噂はエルフの森においてもとうに誰もが知る常識となっていた。
エルフの森のエルフたちも、人間の王国の人々も皆、魔王シェリスの姿を想像していた。ある者は身長三十メートルを超える巨大な怪物だと言い、またある者は全身が触手に覆われた肉塊だと語り、中には魔王シェリスなど実在せず、ただ魔界が作り出した架空の神、魔物たちの狂信の現れであり、戦争を始めるための口実に過ぎない、と考える者もいた…。
見解は様々で、統一される気配はない。なぜなら、シェリス本人は一度たりとも戦場に姿を現したことがないからだ。兵権の全てを配下の将軍に委ね、その容姿に関する情報も一切外部に漏れてはこない。徹底された機密保持か、あるいは、誰もその姿を語るほどの度胸がないのか。
いずれにせよ、どの説も結局はただの伝説。エルフの森の重鎮たちは、魔王が当面自分たちの国に脅威をもたらすことはないと考えていた。数百万年も続く絶対の結界によって守られているのだから。この結界は、エルフたちを数え切れぬほどの苦難から守り抜いてきたのだ…。
だが、誰一人として想像だにしなかった。
今日、このエルフの森のとある建物の中で、魔王シェリスはもはや伝説ではなく、生ける現実として、未だ「幻想」を抱いていたエルフたちの前に姿を現すことになるなどと…。
♦
重苦しい沈黙が、エルフの評議会ホールを支配していた。
シェリス――魔王――その存在自体がまるで空間を引き裂く傷跡のように、全ての貴族に息が詰まるほどの衝撃を与えている。彼らには理解できなかった。数千年受け継がれてきた強固な結界が、エルフ以外の血を持つ存在を通すはずがないのに、なぜこの魔族の君主がここにいるのか。
「き、貴様…！ いったいどうやって結界を突破した！？ 魔王がここに現れるはずがない！」
年老いたエルフの長老が震える声で問い質し、息詰まる沈黙を破った。その問いは、その場にいる全員の心の声を代弁していた。
エルフの森の結界は、生命の樹と聖女が持つ生命の宝珠によって維持されている。エルフの気配を識別し、自由な往来を許すのだ。
だが、何年も前、瀕死の状態だったシェリスは森の境界で意識を失った。その時、エルフの農夫―クルイが彼女を発見した。善良な本能からクルイは彼女を背負い、森へと連れ帰った。まさしく、このエルフに背負われたという事実と、重傷で生命の霊気が欠落していたという状況が、結界にシェリスを「エルフに運ばれる物」と誤認させ、何の妨げもなく彼女を通してしまったのである。
だが、シェリスはわずかに首を傾げ、その唇に意味の読めない弧を描くだけ。
「ほう？ それが何か重要なことかな？」
羽のように軽いその声は、どこか面白がるような響きを帯び、答えるつもりがないことは明らかだった。その意図的な軽薄さが、かえって空気中に不安を蔓延させていく。
その時、マータ公爵――ソラの父親――の顔色がさっと変わった。彼はシェリスの顔を凝視し、必死に記憶の糸をたぐり寄せている。
「シェリス…シェリス…まさか！？」
呟きと共に、彼の瞳孔が激しく収縮した。数日前、娘のソラと妻のマナがローラン一家と食事したことがある。彼女の話によると、ローランの神秘的な母親の名前はまさしく、「シェリス」と。そして今、目の前の魔王シェリスを名乗る女の耳にも、エルフの妻として、母としての象徴であるエメラルドの耳飾りが揺れている。全てのピースが、最悪の形で組み上がってしまった。
「シェリス」という名前は、エルフ族の中で決して珍しいものではない。魔王の名は誰もが知るところだが、エルフの森は広大であり、この名を持つエルフの女性も少なくはない。通常であれば、この名を聞いて即座にあの魔界に君臨する恐るべき魔王と結びつける者などいるはずもなかった。ゆえに、これまで彼女と接触したいかなる者も、その正体を恐怖の魔王と同一視することはなかったのだ。だが、今、状況は違う。
「私の娘は！」
マータ公爵が弾かれたように一歩前へ出た。その声は恐怖に上擦りほとんど裏返っている。
「ソラだ！ 娘に何をした！？ 娘はどこにいる！？」
娘が今夜家を出る前に、ローランのいるアーシュ家へ行き、アーシュ家と共に女神祭へ行くと言った。マータ公爵もローランの実力がソラの護衛隊長に勝るとも劣らないことを知り、ソラの護衛をローランに任せることに何の問題もないと判断し、ソラの護衛隊長を一時的に自分の護衛としてここに連れてきていたのだ。だが、まさか自分の娘が単身、魔王の巣へと向かっていたなどと、どうして想像できただろう。愛する娘が魔王の手に落ち、一体いかなる目に…。想像するだけで、血の気が引いていく。
シェリスの視線がマータ公爵の上で止まった。その眼差しに殺意はない。だが、そこには氷のような値踏みする光が宿っていた。
「ほう？ 貴公がソラの父親か」
シェリスは彼を品定めするように眺めた。貴族でありながら特に華美な装飾はない。歳はそれほどでもないように見えるが、ところどころ白くなった髪は彼が仕事と家族のために少なくない心労を重ねてきたことを物語っている。その顔に刻まれた皺と緊張した表情もまた、この男がいかに娘を愛しているかを雄弁に語っていた。
他の貴族に対してシェリスは全く面識がなく、彼らを知ることに興味もなかった。だがソラのいるマータ家は娘との関係上多少の縁がある。その縁に免じて、シェリスは事実を告げることにした。
「これはこれは、初めましてだなマータ公爵。お宅のソラは実に良い娘だ。お前たちがここで会議を開いていると教えてくれたのも彼女だよ。それに、お宅が私の娘ローランに示してくれた好意と世話にも感謝せねばなるまい。だが、たまにはお嬢様の金銭感覚にも注意を払った方が良いぞ」
彼女は一呼吸置き、疑う余地のない宣告の響きを帯びた口調で続けた。
「ゆえにソラは今非常に安全だ。今頃私の娘と共にどこか安全な場所で美しい花火を眺め、楽しく語らっていることだろう…。奴らは私の正体を知らん…。無論私も奴らに告げるつもりはない」
「本当か！？」
「信じるも信じないもお前次第だ。もしお前の娘に何かあってほしいと望むなら、私がその望みを叶えてやらんこともないがな」
「……」
マータ公爵はその言葉に息を詰まらせた。怒り、恐怖、困惑、そして信じがたい一縷の安堵が一つになり、彼を一時的に言葉を失わせる。娘が安全であるという知らせは救いの綱のようだったが、その言葉を発しているのは最も危険な敵なのだ。
シェリスは彼が思考を整理する時間を与えることなく、瞬時に話題を氷のように冷たい現実へと引き戻した。
「さて、感動的な話はここまでだ。教えろ。お前たちが先ほどまで密室で話し合っていた内容は何だ？」
エルフの貴族たちは表情を固くし、互いに警戒の視線を交わして一斉に沈黙を選んだ。その尊厳と秘密を魔王に譲歩するわけにはいかない。
「言わぬでも構わん」
シェリスはまるで意外ではないとでも言うように、どこか全てを見透かしたような嘲りの色を浮かべた。
「ならば私のただ一つの問いに答えろ」
その視線は固くこわばった一人一人の顔を舐めるように通り過ぎ、最終的にマータ公爵の顔の上で止まった。その口調は、疑う余地のない命令の響き。
「聞いたところによるとこの森の結界を維持する核心は、生命の樹とエルフの聖女が持つ生命の宝珠との共鳴にあるそうだな。教えろ。それらはどこにある。私はそれらを破壊して、結界を解く」
「なっ…！ なぜ貴様が生命の樹と聖女様のことを！」
それは本来、一般のエルフには知る由もない上層部と貴族だけが知る秘密のはず。まさか魔王がこの森についてこれほどまでに深く知っていたとは。無論シェリスはただ冷笑するだけで、彼らにその真相を知らせるつもりはなかった。
だが情報がいかにして漏れたにせよ、魔王はまだより重要な手がかりを掴んではいないようだ。エルフの貴族たちはこれ以上魔王に内情を知られるわけにはいかない。
「思い通りになると思うな！」
ある気の短いエルフの将軍がテーブルを叩いて立ち上がると鋭くそう罵った。
「魔王！ 貴様は悍（かんば）しくも戦争を仕掛け、人間の国を侵略するだけでは飽き足らず、今またその魔の手を我がエルフの森にまで伸ばすか！ いったい何が目的だ！？」
シェリスは短くそして氷のように冷たい笑い声を漏らした。まるで何か極めて滑稽なことでも聞いたかのように。
「目的？」
彼女はわずかに首を傾げた。その瞳には純粋でほとんど無邪気とも言えるほどの冷酷さがきらめいている。
「お前たちが想像するほど複雑なことではない。私はただこの森に眠る豊かな自然資源に目をつけただけだ。もしこれを十分に採集し発掘すれば、我が魔界の発展に非常に良い影響をもたらすだろう。無論…お前たちのような自らを高貴だと信じ込んでいるエルフを、効率的で安価な労働力として酷使するのも悪くない選択かもしれんな」
その眼差しはまるで商品を値踏みするかのように、どこか価値のないものを見るかのように変わっていた。
「馬鹿な！」
マータ公爵がついに自分の声を取り戻した。その怒りは恐怖を上回っていた。
「我々エルフ族には自由の血が流れている！ 断じて魔物に屈することはない！ 結界の秘密は死んでも貴様には教えん！」
魔王が自分の娘に手を出していないらしいことにマータ公爵は多少安堵していたが、だからといって彼が魔王の理不尽な要求を受け入れるわけではない。エルフ族の最後の砦を彼らが譲歩するはずもなかった。
他の貴族も声には出さない。だがその顔に浮かぶ固い決意は同じことを示していた――死んでも屈しないと。彼らは一斉にシェリスを睨みつけ、誰一人としてここで寝返る者はいなかった。
シェリスの顔に浮かぶ冷笑がさらに深まった。そこにはどこか見つけにくい憐憫の色さえ浮かんでいるかのようだ。彼女はそっと首を振り、そのポニーテールがそれに合わせて揺れた。
「わかっている、わかっている」
その声には奇妙な旋律が宿り、まるで相手がそう答えることを初めから知っていたかのよう。
「エルフ族は平和を愛し、友愛、絆、善良さを信じている…。なんと崇高な理念か。実に…反吐が出る。お前たち劣等種はいつもそんなくだらんことばかり考えている…」
その口調が突如として冷たくなった。だがその直後また微妙に和らぐ。
「だが…私も認めねばなるまい。お前たちが固執するものが全て無意味な空論や妄想ではないということを」
その瞬間、シェリスの思考はわずかに遠くへ飛んだ。彼女は自分を背負って結界を越えた若いエルフ＝クルイのことを思い出していた。彼の何の計算もない善意は、静まり返った水面に投じられた石のように、彼女の氷のように冷たい心に最初の波紋を広げたのだ。あの純粋な感情がいかに少しずつ彼女の心の氷の角を溶かしていったのか。
彼女はまた市場で自分の子供たちを脅かす仮面の男たちと対峙した時のことを思い出していた。家族への思いと母性愛が、彼女のとうに静まり返っていた、本来なら二度と取り戻すことのできないはずだった魔王の力を、再び彼女の体内で温かく流れ、覚醒させたことを。
それらこそ、まさしくあのエルフたちが尊ぶ「愛」の力だった。
シェリスの眼差しが再び焦点を結ぶ。その赤い瞳にはまるで炎が燃えているかのようだったが、その炎の核心にはどこか深い複雑な色が宿っている。
「お前たちはあるいは自らを高く評価し、我々魔物には決して手の届かないものを持っていると思っているのかもしれん――信頼、絆、親子の情、生命への博愛…。だが残念だったな。お前たちは間違っている」
その声が突如として高くなった。そこには一点の曇りもない宣告の響きが宿っている。
「お前たちエルフ族が持つその全てを、この私、魔王シェリスもまた何一つ欠けることなく持っている！」
物語の中ではしばしば似たような場面が見られる。絆や愛を理解しない悪役に対し、主人公が仲間への思いによって想像を超える力を発揮し、勝利を収める…。そして敗れた悪役にこう言い放つのだ。「お前に愛や絆がないから、私たちの絆に負けたのだ」と。
だがそんな陳腐な決まり文句は、魔王シェリスには全く通用しない。
「お前たちは何か絆だの友情だの愛だのを持ち出して、私を論破しようとでも思ったか？ くだらん。省くがいい愚かなエルフども！その手の説教は私には全く意味をなさん！ 私がこうしてここにいることこそが、私の心にお前たちに全く劣らないものが宿っている何よりの証拠！ 私はこの世で最も偉大な存在、魔王シェリスである！お前たち劣等種が持つその全てを、この私が持たぬはずがなかろう！！」
エルフの貴族たちは完全に衝撃を受けていた。まさか魔王の口からこのような宣言を聞くことになろうとは。彼らが信じてきた世界の法則が、目の前で音を立てて崩れていく。魔王が…愛を理解している？ そんなことがあり得るのか？ だがなぜ…これほどまでに心を揺さぶる真実味を帯びているのか？
シェリスは彼らが言葉を失っている様子を満足げに眺めると、その話の矛先を再び急転直下させ、氷のように冷たい現実へと引き戻した。
「私も一応この森でしばらく暮らしたことがある、この森の『国民』の一人というわけだ。私は知っている。お前たちが信じるその『美徳』が、お前たちに死んでも同胞を裏切らせはしないということをな。たとえ私が『言わねば殺す』と脅したところで、お前たちはただ潔く死を選ぶだけだろう？」
エルフの貴族たちは歯を食いしばる。その沈黙は肯定であった。だが、まさか魔王がそこまで理解しているとは。エルフたちの間に緊張が走る。この女、何か別の手を考えているに違いない、と。
「ならば…」
シェリスの口元に残酷でどこか面白がるような弧が浮かんだ。
「…これはどうだ？」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、彼女は優雅に右手を持ち上げた。その掌の上に魔力が狂ったように集束し圧縮され、瞬く間に卵ほどの大きさしかない、だが目を焼くほどに眩しい純白の光球が凝縮される。その光球の内部には星々さえ破壊するほどの力が秘められているかのようで、ただそこに存在するだけで空間が耐えきれずに呻き声を上げていた。
何の前触れもなくシェリスは手首を一振りした。光球はまるで弦を離れた矢のように、評議会ホールの高い穹窿（きゅうりゅう）へと撃ち放たれる。
「ドン――ガッ！」
重い爆発音と砕け散る音が響き渡り、強固で防御魔法さえも付与されていたはずの穹窿が、まるで薄紙のように貫かれ、その縁は黒く焦げ青い煙を上げる穴が残された。あの破壊的な光球は瞬時に天の彼方へと消え去り、まるで初めから存在しなかったかのよう。
「き、貴様…！ 何をした！？」
エルフの長老が裏返った声で叫んだ。その顔は真っ白。
シェリスは埃でも払うかのように手を下ろし、その口調は天気の話でもするかのように軽やかだった。
「今のは私が非常に気に入っている余興の一つだ。見た目は小さいが、その魔法弾の中に秘められたエネルギーは、そうだな…エルフの森の半分以上を瞬時に焦土と化し、草一本生えぬようにするには十分だろう」
恐慌がまるで疫病のように貴族の間に蔓延した。森の半分？ それはどれほど多くのエルフの家と命を意味するのか！？
「いったい何を考えている！？エルフの森を滅ぼすつもりか！？」
マータ公爵の声が極度の怒りと恐怖によって歪んでいた。誰もが魔王の先ほどの発言から、一つの極めて恐ろしい結論を導き出していた…。
「簡単なことだ」
シェリスの顔から面白がるような色が消え、そこにはただ氷のような冷酷さだけが残されていた。
「どうせお前たち自身の命を脅したところで、お前たちは英雄的に死を選ぶだろう。だがもし脅かされるのがお前たちの何千何万という同胞、親しい者、愛する友の命だとしたら？ それでもお前たちは座して見ていることができるかな？」
死のような静寂。一人一人のエルフ貴族が心臓を目に見えない手に鷲掴みにされ、ほとんど呼吸さえもできないように感じていた。
シェリスはわずかに首を傾げ、壁に飾られた時計を一瞥した。
「あの小さな贈り物は今、森の上空百メートルのところに浮かんでいる。だがずっとそこにいるわけではない。それは毎分十メートルの速度で非常にゆっくりと、非常に安定して…地面へと落ちていく」
彼女は瞬時に血の気を失った一人一人の顔を見つめ、その声はまるで九つの地獄の底から響く宣告のよう。
「それが最終的に大地と口づけを交わすその瞬間に、それは『ドカン』と一発…何億というエルフの命が純粋な光の中で塵と化す。無論術者である私がいつでもそれを回収することはできる。ただし…」
彼女は一本の指を立てた。
「…これからの十分間のうちに私が満足する答えを聞くことができればな。そうすれば、先ほど言ったことの全てが起こらないということになる」
彼女はゆっくりと歩を進め、その視線は絶望に震える一人一人のエルフ貴族を舐めるように通り過ぎた。
「今お前たちの同胞、お前たちが守るべき国民、その命はお前たちの手の中にある。お前たちはその崇高な『大義』を守り通し、同胞の半分が塵と化すのを座して見ていることを選ぶのか？ それとも『賢く』なり、彼らを守るために『必要』な犠牲を払うことを選ぶのか？ 決定権はお前たちにある」
彼女は歩みを止め時計に背を向け、その赤い瞳には恐怖に歪むエルフたちの顔が映り込んでいる。
「さあ、お前たちに残された時間は…あと十分間だけだ」
氷のように冷たい言葉が最終判決のように重く、エルフの評議会ホールの床に叩きつけられ、そして全ての貴族が必死に保っていた勇気を砕け散らせた。
魔王シェリスが突きつけたこの極めて残酷な選択肢を前に、エルフの貴族たちは顔面蒼白になり冷や汗をだらだらと流している。彼らは絶望的に互いを見つめ合い、仲間の目から一縷の勇気や対策を見つけ出そうとするが、そこに見えるのは同じ恐怖と茫然自失だけ。
チクタク、チクタク…魔法の時計の秒針が動く音がこれほどまではっきりと重く聞こえたことはなかった。まるで命のカウントダウンを告げる弔いの鐘のように、死んだように静かなホールの中で無情に響き渡っていた。
