全一卷

作者:JoyJ 更新时间:2009/11/7 20:06:22 字数:0

とある魔术の禁书目录13

镰池和马

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【テキスト中に现れる记号について】

《》…ルビ

|…ルビの付く文字列の始まりを特定する记号

(例)その赤い|瞳孔《どうこう》が扩缩する。

[#]…入力者注主に外字の说明や、傍点の位置の指定

(例)[#ここから○字下げ]

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[#改ペ—ジ]

底本デ—タ

一页17行一行42文字段组1段

[#改ペ—ジ]

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<img src="img/禁书目录13_001.jpg">

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とある魔术の禁书目录13

学园都市に、ロ—マ正教『神の右席』の一人、『前方のヴェント』が侵入した。彼女が操る谜の魔术により都市机能は完全麻痹、大部分の人间は意识を夺われ倒れていった。

彼女の狙いは、|上条当麻《かみじょうとうま》

ロ—マ正教が公式に认めた敌。

同时刻。

最强の|超能力者《レベル5》·|一方通行《アクセラレ—タ》が彼を支える少女『|打ち止め《ラストオ—ダ—》』を护るため、科学者·|木原数多《きはらあまた》率いる武装集团『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』と激突した。

魔术と科学、二つの惨事が同时に学园都市を袭う。

上条当麻、インデックス、|一方通行《アクセラレ—タ》、|打ち止め《ラストオ—ダ—》。四者四样の想いが交差するとき、物语はは始まる───!

[#改ペ—ジ]

镰池和马

今年も四月に出す事ができました。しかし作中の时间经过はようやく二ヶ月半ぐらいです。そう考えると、我ながら不幸な主人公を书いているなあとしみじみしてしまいます。

イラスト:|灰村《はいむら》キヨタカ

1973年生まれ。新居へ引っ越して数ヶ月、布团もベッドも无いまま寝袋で眠る生活にすっかり驯染んでしまいました。惯れって怖いもんですね……。

[#改ペ—ジ]

とある魔术の禁书目录13

[#改ペ—ジ]

contents

<a href="#chap1">第六章冷たい雨に打たれた街Battle_Preparation.</a>

<a href="#chap2">第七章雨粒を血の色に变えるRevival_of_Destruction.</a>

<a href="#chap3">第八章神の右席と虚数学区とFuse=KAZAKIRI.</a>

<a href="#chap4">第九章立ち塞がる障害の违いTwo_Kinds_of_Enemies.</a>

<a href="#chap5">第十章彼らのそれぞれの战场The_Way_of_Light_and_Darkness.</a>

<a href="#chap6">终章正と负の进むべき道へThe_branch_Road.</a>

[#改ペ—ジ]

<a name="chap1">第六章冷たい雨に打たれた街Battle_Preparation.

九月三○日、午後六时三三分。

学园都市の第三ゲ—トを『神の右席』の一人、『前方のヴェント』が物理的に突破。

同时刻より正体不明の|攻击《こうげき》が发动、治安维持を务める|警备员《アンチスキル》、及び|风纪委员《ジヤツジメント》に|甚大《じんだい》な被害を及ぼす。

警备が|手薄《てうす》になった结果、ヴェントの手によって统括理事会の内の三名が杀害される。

同日、午後七时二分。

学园都市统摇理事长アレイスタ—はヴェントを止めるために、米完成の虚数学区·五行机关の使用を决定。

雨の降り注ぐ夜の街で、|木原数多《なはらあまた》率いる『|猎犬部队《ハウンドドッグ》』が行动开始。

彼らの目的は|检体番号《シリアルナンパ—》二○○○一号『|打ち止め《ラストオ—ダ—》』の回收。

その障害になると判断された|一方通行《アクセラレ—タ》への|强袭《きようしゆう》を木原数多自身が行い、これに成功。

学园都市最强の|超能力者《レペル5》と言われる彼をほぼ|完壁《かんぺき》な形で无力化させるに至る。

ただ、彼ら『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』はここで一つの小さなミスを犯した。

「助けて……」

それは、一人の少女を取り逃がしてしまった事。

そして、

「あの人を助けて!ってミサカはミサカは|赖《たの》み?んでみる!!」

その声が、とある少年の耳に届いたという事だった。

「そこで何をしているの?」

雨の强さは增していた。

ざ—ざ—と降りしきる雨滴の中、暗い夜の街に响《ひび》かせるように、少女の声は地面を|这《は》って『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』や|木原数多《きはらあまた》、そして|濡《ぬ》れた路上に倒れる|一方通行《アクセラレ—タ》の耳へと|染《し》み?んだ。

黑い夜の中に、白い修道服が浮かび上がっている。

インデックス。

|华奢《きやしゃ》な少女だった。シルエットが大きく|膨《ふく》らんだ修道服をまとっていても、小柄であるのは隐せない。腰まである银色の发、绿色に|辉《かがや》く兴大きな瞳それら一つ一つのパ—ツは触れれば|坏《こわ》れる精巧な细工を思わせた。おまけに两手で小さな|三毛猫《みけねこ》まで抱えている。

(最恶だ……)

|一方通行《アクセラレ—タ》は崩れ落ちたまま、ぼんやりと思った。

场违いにもほどがある。チャンスどころか、これでは|厄介事《やつかいごと》が增えただけだ。铳器を手にした『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』はおろか、そこらの里路地で程ている不良にすら|太刀打《たちう》ちできなさそうだ。

事实、木原も|眉《まゆ》をひそめていた。

新たな战力に对する分析や思考などは一切行っていない。例えば野球の试合中に、突然マウンド上にヒヨコが步いてきた事に气づいた、という感じの表情でしかない。

この白衣の男が指示を出せば、あの修道女は数秒で|挽肉《ひきにく》になる。

自动车のドアを穴だらけにするほどの威力を持つサブマシンガンを使えば、あの柔らかそうな人间の肌と肉がどういう风に变化するかは|谁《だれ》でも分かるだろう。

(取るべき道は何だ。见舍てるか。助けるか。それとも利用するか……)

|一方通行《アクセラレ—タ》は自分の首につけられた、チョ—カ—型の电极に注意を向ける。

まだ能力は使えるはずだ。

だが、全身のあちこちに刻まれた伤が、体を动かす事を拒んでいる。

「どうしますか」

周围を固めている黑ずくめの一人が、木原に耳打ちした。

木原数多はつまらなそうに息を|吐《は》くと、

「どうするって、お前」

一言。

「消すしかねぇだろ」

(チッ!!)

|一方通行《アクセラレ—タ》は舌打ちする。

このインデックスは『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の活动を|目击《もくげき》している。そもそも存在自体が隐されているであろう非公式工作组织を、だ。それが示すのは当然口封じという言叶だった。彼女はもう、ここから逃げた所で延々と追迹される立场にある。おそらく三日と|保《も》たないはずだ。

(どのみち|默《だま》っていたって|俺《おれ》が杀される事に变わりはねェ。ならやってやろォじゃねェか!!)インデックスを助けるというより、むしろ木原数多に|吠《ほ》え|面《づら》をかかせる事を目的として|一方通行《アクセラレ—タ》の意思に爆发力が戾る。

(こンなシスタ—なンざどォでも良いが、やられっ放しってンじゃ收まらねェ。今度はオマエが|齿啮《はが》みする番だぜエ、|木《き》ィ|原《はら》ァ!!)

首筋にあるチョ—カ—型电极のスイッチは、さっきから入りっ放しだ。

後は命じるだけで能力は发动する。

そのために、彼は|全《すべ》ての位置を确认する。

|一方通行《アクセラレ—タ》を中心として、半径一○メ—トル以内に、三台の黑いワンボックスが取り围むように停车している。黑ずくめの『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の数は二○人前後。一番の问题である木原|数多《あまた》は|一方通行《アクセラレ—タ》のすぐ近くに立っているが、彼を|攻击《こうげき》するのはほぼ不可能と言って良い。|一方通行《アクセラレ—タ》の防御『反射』は木原の攻击を防げないし、风のベクトルを操って暴风を生み出しても、特殊な音波を使ってベクトルを乱され、无力化されてしまう。

そして。

インデックスは、ワンボックスの轮の外、およそ一五メ—トル先に立っている。

(コイツらの|职灭《せんめつ》ァ後回しだ)

|一方通行《アクセラレ—タ》はうつ伏せに倒れたまま、指先で|濡《ぬ》れたアスファルトに触れる。

感触を、指の腹で确かめる。

(今ここでやるべき事は一つ。安全な场所まで逃げ切る事。あのシスタ—も连れてなァ!!)

その赤い|瞳孔《どうこう》が扩缩する。

能力が发动する。

「おおおおおァああッ!!」

|一方通行《アクセラレ—タ》は绝叫すると、片足の|爪先《つまさき》を地面に押し付け、倒れたまま思い切り|蹴《け》る。その拍子にベクトルを制御する。ロケット并の爆发力を得た彼の体がアスファルトから浮き、恐るべき速度で黑いワンボックスの後部スライドドアへと激突した。

铁球でも食らったように、金属のドアがレ—ルから外れて车内へと押し?まれる。

|一方通行《アクセラレ—タ》の体が、ワンボックスの後部座席へと收まった。

「ッ!?」

运转席で待机していた黑ずくめの男が反应する前に、|一方通行《アクセラレ—タ》は|溃《つぶ》れて押し?まれたドアに手を伸ばしスライド部分の金具を|?《むし》り取る。ギザギザに|尖《とが》った、幅五センチ、长さ二○センチほどの棒状の铁片を握り|缔《し》めると、それを势い良く运转席の背もたれの真ん中に突き刺す。

ずぶり、と。

音というより感触のようなものを得た。

「ぃ───ぁっ!!」

悲鸣すら上げる事もできず、运转席に|缝《ぬ》い止められた男に、|一方通行《アクセラレ—タ》は语る。

「进め」

一切の|容赦《ようしや》なく。

静かに、ただ事实のみを。

「オマエは三○分で死ぬ。さっさと病院に行かねェと手迟れになるぞ」

应急キットでどうにかなるレベルでないのは、男も痛みの程度で分かるだろう。それにそもそも、あの[#「あの」に傍点]|木原数多《きはらあまた》が负伤し足手まといになった部下をどのように?うかは、|谁《だれ》よりも理解できているはずだ。

「ひっ!?」

决断は速かった。

ガォン!!という甲高いエンジン音と共に、|一方通行《アクセラレ—タ》を乘せた黑いワンボックスがヒステリックな举动で发进した。

进路上にいた黑ずくめ|达《たち》がバラバラと左右へ飞び|退《の》く。

木原が|木原が|忌々《いまいま》しげな表情で何事かを怒鸣った。

その间に|包围网《ほういもう》を拔ける。

自分の後方で男达が次々と铳口を向けてくるのが分かる。

运转席越しにフロントガラスの先を|睨《にら》み、|一方通行《アクセラレ—タ》はインデックスのいる场所を把握した。

「左へ寄せろォ!!」

|一方通行《アクセラレ—タ》は绝叫し、ぽっかりと空いた出入口から|邪魔《じやま》なスライドドアを投げ舍て、さらに

そこから身を乘り出す。

车の向かう先、车道の真ん中に、白いシスタ—は突っ立っていた。

「チッ!!」

彼は车外へ腕を伸ばす。

インデックスは两手で|三毛猫《みけねこ》を抱えている。|掴《つか》むなら二の腕の边りしかないが、限界まで腕を伸ばしても届くかどうかの保障はない。

それでも腕を伸ばす。

パン!!という铳声が|响《ひび》いた。

颜のすぐ横を弹丸が|掠《かす》めたが、|一方通行《アクセラレ—タ》は无视してインデックスの腕を掴んだ。そのままベクトルを操作し、强引に车内へと钓り上げる。

「わ、わああ!!」

インデックスが场违いな悲鸣を|漏《も》らした。

|一方通行《アクセラレ—タ》は运转席の背もたれを隐すように、自分の体の位置を调整する。ついでに背もたれを贯通している锐い金属の凶器を、指先で轻く触れた。

「い、がっ!?」

ビグン!!と运转席の男が大きく|震《ふる》える。

|一方通行《アクセラレ—タ》はインデックスに闻こえないよう、小さな声でささやいた。

「……|骚《さわ》ぐンじゃねェぞ。イイから直进しろ。时间がねェのはお互い样だろ?」

「お、お客さん、どちらまで……?」

「イイ医者を知っている」|一方通行《アクセラレ—タ》はあまり兴味がなさそうな声で答えた。「普通の医者じゃダメだろォな。そこまで案内して欲しけりゃしっかり动けよ、运转手」

「あ—あ—あ—あ—」

|木原数多《きはらあまた》は小さくなっていく黑いワンボックスを眺めながら、气の拔けた声を出した。

右手を差し出す。

「あ—あ—あ—あ—っ!アレだアレぇ、アレェ持って来い!!」

ムチャクチャ过ぎる注文の出し方だが、部下は从顺に应じた。残るワンボックスの中から迅速な动きで携行型对战车ミサイルを木原へ受け渡す。

それでも木原はさっさとしろ间拔けと怒鸣って部下を|殴《なぐ》り飞ばすと、プロのオペレ—タ—がキ—ボ—ドを|叩《たた》くような正确さと素早さで、一气に炮を组み立て安全装置を解除していく。

その动きには一切の迷いがない。

むしろ、うろたえたのは『|猎犬部队《ハウンドドッグ》』の部下の方だった。

「う、运转手は!?」

「关系あるかよヤッハ—ッ!脱走兵は即刻死刑!さようなら子犬ちゃん、あなたの事ァニ秒ぐらいは忘れませんってなぁ!!」

ガコッ!と木原は全长一メ—トル、太さ三○センチほどの炮を肩に|担《かつ》いで侧面のスコ—プに目を通す。

照准を合わせる。

追尾ミサイルの引き金に指をかける。

数十メ—トル进んだワンボックスは通りの角を曲がろうとしている所だった。木原は笑った。

间に合う。たとえ自动车が完全に曲がりきっても、ミサイルが车を追って斜めに进み、角のビルの壁にぶつかれば、コンクリ—ト片の|岚《あらし》を|食《く》らってワンボックスはひっくり返るはずだ。

|一方通行《アクセラレ—タ》は死なないだろうが、とりあえず确实に足をなくす。後は伤を负ったその他二名ともども、|一方通行《アクセラレ—タ》をじっくり料理すれば良い。

(甘々だぜェ、|一方通行《アクセラレ—タ》!车なンか使っちまったら、もう|纤细《せんさい》な风の操作は使えねェってのをアピ—ルしてるようなモンじゃねェかよォ!!)

「あばよクソ野郎!その白い体ァ黑焦げにしてやらぁ!!」

ハイな笑みと共に引き金を绞ろうとする木原数多。

が、

「?」

スコ—プ型の照准が黄色一色に染まった。

缩尺のズレた何かが|遮《さえぎ》っているのだ、と思った|木原《きはら》がスコ—プから目を|离《はな》すと、わずか一○メ—トル前後の位置に奇妙な女が立っていた。

冷たい雨粒が路面を|叩《たた》く。大きな通りには、|他《ほか》に自动车も步行者もいない。ビルの窗から投げられた白々しい照明や信号机の光が|濡《ぬ》れた路面を照り返す中、その女はただ一人、ポツンと现れた。

今まで全く气づけなかった。

颜面に无数のピアスをつけているため、左右の对称が崩れている女だった。目元には强调するようなキツい化妆が|施《ほどこ》されている。他人からどう思われるかを全く考えていない颜つきだった。黄色を主体としたワンピ—スみたいなものを着ているが、どうにも古いというか、时代がかっている。まるで中世ヨ—ロッパの人间みたいだ。

が、木原にとって、そんな事はどうでも良い。

今重要なのは、この|马鹿女《ばかおんな》に气を取られたせいで、ワンボックスが通りの角を曲がって消えてしまった事だ。

「……、」

木原の颜から、一气に表情が消えた。

ともすればポカンとしているようにも见える颜のまま、无造作に引き金を引く。

对战车ミサイルが发射された。

喷射烟が一直线に走り、障害物となっていた女の胸のど真ん中にミサイルが突き刺さった。

彼女が颜色を变えたかどうかも分からない内に、炮弹は中から爆发し、|冲击波《しようげきは》と爆炎を周围に|撒《ま》き散らす。

ゴン!!というアスファルトを摇らす|轰音《ごうおん》が|炸裂《さくれつ》した。

幅广の路面に膜のように张っていた雨水がまとめて吹き飞ばされ、周围のビルの看板がビリビリと|震《ふる》えた。街路树からは大量の叶が叩き落とされて宙を舞う。

至近|距离《きより》で爆发したためか、木原の周围にいた黑ずくめ|达《たち》が|煽《あお》りを受けて吹っ飞ばされる。

赤い炎と黑い烟が、|绵饴《わたあめ》のように木原の视界を遮っていた。

ただし。

时间にして、わずか五秒ほどだったが。

ビュオ!!という烈风が|全《すペ》てを吹き飞ばす。

炎も烟も、爆心地で卷き起こった新たな|岚《あらし》によって迹形もなく消え去った。

烧け、碎け、飞び散ったアスファルトの中心点に、女は变わらぬ样子でそこにいた。

衣服も、发の一本にも伤や烧けた|痕《あと》はない。

「良い街ね」

黄色い女は唐突に言った。

|木原数多《きはらあまた》など见ていなかった。

「もっと早く『侵食』が进むものだとばかり思っていたけど、そんなコトはなかった。构成员の大半が教员や生徒だってのは反则じゃない?そういうのが相手だと、私の侵食速度も迟れて当然、か」

もっとも、とあちこちにピアスを贯いた颜で女は木原を见て、

「……アンタらは例外的に真っ黑みたいだけど」

ここにきて、木原はようやく口を开く。

「何者だ」

「杀しの商卖|敌《がたき》」

女はワンボックスが消えた曲がり角を振り返って、

「あの中には私のタ—ゲットも含まれているってコトよ。别に|谁《だれ》が杀してもイイんだけど、横から取られるのは|性《しよう》に合わない」

付き合いきれん、とばかりに木原はため息をついて、

「杀せ」

<img src="img/禁书目录13_021.jpg">

指示を出した途端、周围にいた黑ずくめの一班が一齐に铳を构えた。

が、

「やめとくコトね」

引き金は一度も引かれない。

その直前で、|呻《うめ》き声と共に男|达《たち》はバタバタと倒れていく。一切抵抗はなかった。むしろそちらの方が违和感を觉えてしまうような、あっさりしすぎる|攻击《こうげき》だった。

雨に|濡《ぬ》れた路面はもちろん、中には|一方通行《アクセラレ—タ》に|破坏《はかい》されたワンボックスの|残骸《ざんがい》の上に直接倒れ?んだ者もいる。にも|拘《かかわ》らず、身じろぎ一つなかった。|完壁《かんぺき》に无力化されているのだ。

一体どんな现象が起きたのか。

|木原《きはら》は、ミサイルの炮身をコツコツと轻く|叩《たた》いた。

その场の|谁《だれ》も理解できなかったが、少なくとも女の方はその力を信用していたらしい。一步间违えば|蜂《はち》の巢にされていたかもしれない状况でも、颜色が变わる样子はなかった。

女は退屈そうな颜で、

「にしても、颜色一つ变えずに『杀せ』ときたか。杀意はあっても敌意がない。[#「杀意はあっても敌意がない。」に傍点]敌を敌とも思っていないから、そもそも罪恶感すら抱いていない。杂草を引っこ拔くのと变わらないのかしら。最初の一发目といい今回といい、アンタ本当に性根が腐ってるわね。少なくとも、私と同じぐらいには」

木原は取り合わない、

自分の周りにいた黑ずくめの一人に向かって、亿劫そうに手を振った、

「班を二つに分けろ」

弹を失った对战车ミサイル炮を适当にその边へ投げると、

「今いるメンバ—の中から使えないヤツを顺番に一○人集めて足止めさせろ。その间に俺ともう一班は『|别庄《ほんぶ》』に移动する。分かったか?」

あまりにもザックリした命令だが、从わなければ体中に铳弹を浴びせられるのは目に见えている。それに、木原でなければ|一方通行《アクセラレ—タ》を|溃《つぶ》せないのもまた事实だ。

目の前の不审な女と木原|数多《あまた》と|一方通行《アクセラレ—タ》。

どれが一番『恐ろしくない相手』か判断すると、不气味ではあるがやはり目の前の女が一番难易度は低そうではある。

命令を出すだけ出して、木原はさっさとワンボックスに乘り?む。

その背中に女は声をかけた。

「アンタ、敌意がないのね」

「向けて欲しけりゃ、もうちょっと有能になる事だ」

木原はそれだけ言うと、运转手の後头部を|殴《なぐ》ってワンボックスを发进させる。

後に残されたのは女と|?《おとり》だけだ。

「……まぁ、そっちが何者かも知っときたいトコだけど、寻ねる前にくたばりそうよね。ったく、私は情报收集にゃ向いてないんだよ。|溃《つぶ》しすぎても面倒ってコトか」

女は首をコキコキ鸣らすと、舌を出した。

じゃらり、と口の中から|锁《くさり》が落ちる。

「さて、と。随分ナメられたモンだけど、アンタらはお役に立てんのかしら」

|上条当麻《かみじようとうま》と|打ち止め《ラストオ—ダ—》は立ち尽くしていた。

二人とも伞も差していない。黑い|诘襟《つめえり》の下に赤系のシャツを着ている上条も、青系のワンピ—スの上に男物のワイシャツを着ている|打ち止め《ラストオ—ダ—》もずぶ|濡《ぬ》れだ。彼女のおでこにくっついている电子ゴ—グルもびっしよりだったが、军用なので案外问题はないのかもしれない。

小さな少女に案内されたのは、地下街の出入り口からさして|离《はな》れてもいない、大きな通りの一角だった。最终下校时刻と共に电车やバスもなくなったせいか、真っ暗になった道路に人影は一切ない。

少なくとも、二本の足で立って步いている、普通の人影は。

「───、」

地面には复数の人间が倒れていた。

雨脚の强くなった夜空の下、|水溜《みずたま》りに体を沈めるように、黑一色で统一された男|达《たち》が转がっている。街灯の光を照り返しているのは合成素材の装甲服であり、|薄《うす》い水膜に浸されているのは|祸々《まがまが》しいサブマシンガンだった。ヘルメットや伸缩性の高いマスクで颜面を|覆《おお》ったその格好は、どう考えても一般人ではない|?《にお》いを漂わせていた。

ぱちぱち、という音が闻こえる。

火の|爆《は》ぜる音だ。

男达が倒れている所からほんの数メ—トルの位置に、グシャグシャにひしゃげたワンボックスがある。それが|薪《まき》だった。自动车はガ—ドレ—ルを突き破って、步道の真ん中に|停《と》まっている……と表现して良いのだろうか。飞び散っているという方が正しいのでは、と思ってしまうほど、ワンボックスは原型を失っている。边りには、|他《ほか》に车はなかった。となると、あれは倒れている男达の车なのだろうか。

|打ち止め《ラストオ—ダ—》は倒れている男の一人を指差した。

颜を真っ青にしたまま、彼女は言う。

「この人达に|袭《おそ》われたの、ってミサカはミサカは本当の事を言ってみる」

本当だよ?と彼女は缲り返した。

上条は改めて、倒れている男达に目を向ける。

(|警备员《アンチスキル》じゃ、ない?)

全身黑ずくめという|战斗《せんとう》装备にごまかされそうだったが、よくよく观察してみると、普通の|警备员《アンチスキル》の装备とは规格が违う……气がする。もっとも、どこぞの军事关系者ではあるまいし、パッと见ただけで型番まで分かるほど详しい知识もないので断言はできないのだが。

(でも、|警备员《アンチスキル》じゃないとしたら、こいつら一体|谁《だれ》なんだ?下手すると|警备员《アンチスキル》より高そうな装备を使って、复数で|袭《おそ》ってくるなんて……)

しかも、当の|袭击者达《しゆうげきしやたち》の方がバタバタと倒れている。

状况が|掴《つか》めない。

|上条《かみじよう》は|打ち止め《ラストオ—ダ—》の方を见て、

「ここで袭われてたのって、お前の知り合いなんだろ?」

「そうだよ、ってミサカはミサカは答えてみたり」

「これって、そいつが返り讨ちにしたって事なのか……?」

「それはないかも、ってミサカはミサカは首を横に振ってみる。あの人は气が短くてケンカっ早いから、あれだけやられたのに仕返しがこれっぽっちだなんて考えられないもん、ってミサカはミサカは简单に推测してみたり」

一体どんなヤツなんだそいつは、と上条は心の中でツッコミを入れる。

しかし、

「……、」

能力者は无敌ではない。

|打ち止め《ラストオ—ダ—》の知り合いがどんな能力を使うか知らないが、|超能力者《レペル5》の|超电磁炮《レ—ルガン》などというイレギュラ—でない限り、训练された集团に铳器で袭われたら、返り讨ちにはできないだろう。

|无能力者《レペル0》の上条に言えた义理ではないが、能力者というのは基本的に学生なのだ。その力も『学校の中では通用する』程度のものだと思って差し支えない。

こんな战场にポンと投げ出されても、何もできない。机转を|利《き》かせれば……というのも、そもそも『机转を利かせる』だけの心の余裕がなければどうにもならない。そんな风に觉悟を决めて战うなど、ただの学生にはできないだろう。

普通なら死ぬ。

(とにかく通报しないと……)

|打ち止め《ラストオ—ダ—》の知り合いが捕まったのか逃げている最中なのかは判然としないが、いずれにしても急を要する事态なのは变わりない。ここは素直に|警备员《アンチスキル》に协力を仰いだ方が良さそうだ、と上条はズボンのポケットから携带电话を取り出した。

が。

「……?」

しかし、ボタンを押す直前で、上条は携带电话から颜を上げた。

(……何で……|谁《だれ》も通报してないんだ……?)

目の前を见る。グシャグシャにひしゃげたワンボックス。发火から少し时间は|经《た》っているようだが、それでも大きな光が衰えない炎。これだけの事が起きれば、谁の耳にも届ずだ。远くから见たって火事が发生しているのは分かるだろう。|上条《かみじよう》が携带电话を使うまでもなく、すでに谁かが通报しているのが普通だと思うし、|野次马《やじうま》だって集まっていない。

「……、」

上条は周围を见回す。

明かりの消えた街。|骚《さわ》ぎの起きない、|彻底《てつてい》して静寂に包まれた景色。

もしも。

骚がないのではなく、骚げないのだとしたら。

建物の中では、あの|警备员达《アンチスキルたち》のようにたくさんの人间が倒れているとしたら。

(何が……)

人为的な|攻击《こうげき》なのか、意图のない现象なのか。

それすらも明らかにされない、|完壁《かんぺき》なまでに自己主张のない非常事态。一番怖いのは、その静けさではない。上条が问题に气づいた时には、すでにシロアリが木の柱を食い|溃《つぶ》すように学园都》っているようだが、それでも大きな光が衰えない炎。これだけの事が起きれば、谁の耳にも届いているはずだ。远くから见たって火事が发生しているのは分かるだろう。|上条《かみじよう》が携带电话を使うまでもなく、すでに谁かが通报しているのが普通だと思うし、|野次马《やじうま》だって集まっていないとおかしい。

「……、」

上条は周围を见回す。

明かりの消えた街。|骚《さわ》ぎの起きない、|彻底《てつてい》して静寂に包まれた景色。

もしも。

骚がないのではなく、骚げないのだとしたら。

建物の中では、あの|警备员达《アンチスキルたち》のようにたくさんの人间が倒れているとしたら。

(何が……)

人为的な|攻击《こうげき》なのか、意图のない现象なのか。

それすらも明らかにされない、|完壁《かんぺき》なまでに自己主张のない非常事态。

一番怖いのは、その静けさではない。

上条が问题に气づいた时には、すでにシロアリが木の柱を食い|溃《つぶ》すように学园都市の机能が停止に追い?まれつつあったという事实だ。

それは期末试验の最中に居眠りしてしまって、『あと一○分』という试验官の声で目を觉ました状况にも近い。

|白纸《ちんもく》の|答案《まち》を前に、少年の全身から脂汗が喷き出る。

(この街では今、何が起きてんだ?)

そこで、身动きの取れない上条の视界に、动きがあった。

|打ち止め《ラストオ—ダ—》は倒れた男达の|侧《そば》に|屈《かが》み?んで、装备品をいじくっていた。その彼女が、突然何かに气づいたように颜をあげると、慌てて上条のいる方へ走ってきたのだ。

と、彼女は雨水で冷たく|濡《ぬれ》た手で彼の手を|掴《つか》むと、ぐいぐいと引っ张り始めた。まるでデパ—トのオモチャ卖り场へ亲を连れて行こうとするようにも见えるが、

「早く、ってミサカはミサカは警戒を促してみる」

それにしては、异样に切迫した声だった。

「ヤツらがきた、ってミサカはミサカは路地里へ体を隐しながら报告してみたり!」

|打ち止め《ラストオ—ダ—》に引っ张られるまま、上条はすぐ近くに|停《と》めてあった路上驻车の自动车の阴に隐れた。『ヤツら?』と|眉《まゆ》をひそめながら。

この边りの排水沟が落ち叶などで诘まっているのか、车の周围は池みたいに巨大な|水溜《みずたま》りができていた。一步|踏《ふ》み?んだだけで、靴下まで水分が|染《し》み?んでいく。

しかし文句を言っている暇はなかった。

ガロロロ、と低いエンジン音が|响《ひび》いてきたからだ。

やってきたのは、ヘッドライトを|点《つ》けていない、奇妙な黑いワンボックスだった。

忍び足みたいに低い排气音を出しながら、车は黑ずくめの男|达《たち》が倒れている场所で停车した。後部のスライドドアが开き、そこから全く同じ装备の人间がぞろぞろと出てくる。ザッと见ただけで一○人近く。假に相手が素手だったとしても、绝对に胜てない数だ。

その上、

「……くそ。あんだけの铳をどこから手に入れて来るんだ」

思わず|呻《うめ》いた。

黑ずくめの男达は、全员|?《そろ》えたように同じサブマシンガンを|肩纽《かたひも》で挂けていた。おそらく|他《ほか》にも|拳铳《けんじゆう》やら|手榴弹《しゆりゆうだん》やらで身を固めている事だろう。

学园都市の治安を守る|警备员《アンチスキル》には见えない。

友好的にも见えない。

むしろ|上条《かみじよう》达がこうしている事を发见すれば、即座に铳弹を|击《う》ち?んできそうな|紧张感《きんちようかん》がここまで传わってくる。

彼は自分の右手に视线を投げる。

そこに宿る|幻想杀し《イマジンブレイカ—》は、|超能力《レペル5》の|超电磁炮《レ—ルガン》すら轻々と受け止められる。が、一方で异能の力が一切|络《から》まない铳弹には何の效力もない。

黑ずくめ达は路上に倒れている(おそらく)|同僚《どうりよう》を|担《かつ》ぐと、乱暴にワンボックスの中へ放り?んでいく。そういった作业の|傍《かたわ》らで、别の动きをする人间がいた。ファミリ—サイズのペットボトルを三本ぐらい纵に|系《つな》げた程度の、透明の圆筒容器を背中に担いだ男だ。容器の|尻《しり》にはノズルが取り付けてあり、男は火炎放射器を构えるようにそれを|掴《つか》んでいる。

「アシッドだよ、ってミサカはミサカは通称を呼んでみる」

「何だそれ?」

「|酸性净化《アシツドスプレ—》……特殊な弱い酸をばら|撒《ま》いて、指纹とか|血痕《けつこん》のDNA情报とかを|溃《つぶ》していくの、ってミサカはミサカは证据隐灭マニュアルから情报を引き出してみたり」

「……、」

まずいな、と上条は思う。

あの集团はそこまで大挂かり练穰备を用意してでも、证据を隐灭する必要を感じているようだ。そういう连中が万が一にも目击者などを发见すれば、どのような行动に出るかは想像するまてもない。

结论としては、

(───そんな事态になったら、逃げ切れる自信が全くない)

ごくり、と|喉《のど》が鸣る。

ちゃぷ、という水音が。耳についた。

「───、」

上条は自分の足元に目をやる。

排水沟が诘まっているのか、池のような|水溜《みずたま》りがあった。そして、そこに浸る自分の足が小刻みに|震《ふる》えている。その震えが、水面に小さな波纹を作っていた。盾にしている车の下をくぐって、その向こう侧にまで。

しかし、これぐらいで气づかれるはずがない。

降り注ぐ雨粒だって水溜りを|叩《たた》いている。この暗さなら目を|凝《こ》らしても水溜りの样子など观察できない。だから|大丈夫《だいじようぶ》だ、と上条は祈るように考えていたが、

グルリ、と。

少し|离《はな》れた所にいる黑ずくめ达が、一齐にこちらを见た。

あれから一○分ほど走った。

车で一○分、と言えば『そこそこ』の|距离《きより》だと|一方通行《アクセラレ—タ》は思う。しかし、逆に言えば『そこそこ』程度でしかない。可能性は低いが、连中が大っぴらに卫星などを使ってこちらの逃走ル—トを追迹していれば、あっという间に追いつかれるぐらいのものだ。

运转席のシ—ト越しに|一方通行《アクセラレ—タ》に背中を刺されている男は、ガタガタと震えながら、|掠《かす》れるように小さな声でこう言ってきた。

「(……ま、まだ走るのかよ。はは、冗谈じゃねえ。このままじゃ本当に死んじま───)」

「(……|默《だま》れ。|俺《おれ》が|停《と》まれっつ—まで停まる译ねェだろ)」

ささやき返すと、|一方通行《アクセラレ—タ》は运转席を贯通している钢铁の凶器を轻く动かした。ビグン!!と男の体が大きく震えて、|呻《うめ》き声が车内に|响《ひび》く。

それを闻いたインデックスが、わずかに颜を上げた。

「どうしたの?」

「何でもねェよ。なァ?」

|一方通行《アクセラレ—タ》は前方の运转席のシ—トに体を顶けるようにして、インデックスから凶器を握っている事は隐している。

运转席の男は脂汗をだらだら流したまま、こくこくと|颔《うなず》いた。インデックスは|眉《まゆ》をひそめていたが、今の状况には气づかなかったようだ。

「しっかし……」

|一方通行《アクセラレ—タ》は思わず声を出した。

後部ドアのない、いかにも盗难车ですゴメンナサイみたいな不审ワンボックスが街を走っていれば|警备员《アンチスキル》にぶつかるかと思ったのだが、どうもそういった气配が全くない。あわよくば|黄泉川《よみかわ》とコンタクトを取る手间が省けるかも、と|踏《ふ》んでいた|一方通行《アクセラレ—タ》としては何だか拍子拔けだ。

(まさか、この静けさも[#「この静けさも」に傍点]|木原《もきはら》のクソ野郎が手间暇かけた演出の一つってェワケじゃねェだろォな……)

今、|一方通行《アクセラレ—タ》はチョ—カ—型の电极を通常モ—ドに戾している。

これは单纯に节约のためだ。元々バッテリ—は能力使用モ—ド下では一五分と|保《も》たない。木原との|战斗《せんとう》で随分と削ってしまったし、それ以前にも|普段《ふだん》の生活で少しずつ消费していた。

バッテリ—の残量を考えると、フル战斗はあと七分もできない。

当然、今は最低限の『反射』も使っていない。木原|达《たち》と战うためには、节约が必要だった。しかし现在、例えば|一方通行《アクセラレ—タ》が|袭击《しゆうげき》に气づく前に、いきなりこのワンボックスにミサイルでも|击《う》ち?まれたらそれでアウトである。

そういう事情があるからこそ、|一方通行《アクセラレ—タ》はドアの消えた出入り口から、流れるような夜の街并みに目をやっている译だが、

「あっ、『|丑《みにく》いアヒルの子』发见!」

すぐ|邻《となり》では、何だか世界观が合致しない真っ白なシスタ—が、盗难车の後部座席をゴソゴソ|渔《あさ》っている。

おそらくこの车の本来の持ち主が子持ちなのだろう、硬い厚纸で作られた幼儿向けの绘本をインデックスは引っ张り出していた。彼女の|膝《ひざ》に乘っている|三毛猫《みけねこ》は、表纸に描いてあるデフォルメされたアヒルに狩猎本能を刺激されるのか、何やらジリジリと|距离《きより》を测り始めている。

(何だよこの本好き。目の|辉《かがや》き方がハンパじゃねェぞ……)

「|吞气《のんき》なヤツ。っつか、オマェは何であンなトコにいやがったンだ」

「ん?借りてた物を返しに来たんだよ」

インデックスは修道服の|袖《そで》の中にごそごそと手を突っ?むと、

「ほらこの最新锐日用品!こんな大事な物を预けっ放しにしちゃ|驮目《だめ》なんだよ!困ってたでしよ、でもこれでもう|大丈夫《だいじようぶ》なんだから!!」

「|马鹿《ばか》じゃねェのかオマエは!?こンな使い舍てでなおかつグシャグシャに丸まったポケットティッシュなンざ返してもらっても迷惑だ斗"」

え、そうなの?とインデックスはビニ—ル袋に包まれていたポケットティッシュを、小さな手で|真《ま》っ|直《す》ぐに伸ばし直し始めた。

これはもう受け取るまで终わらないようだ、と|一方通行《アクセラレ—タ》はうんざりした颜でインデックスの手からポケットティッシュを夺い取った。适当な仕草でズボンのポケットにねじ?む。

「そういえば、|怪我《けが》は|大丈夫《だいじようぶ》なの?」

「あン?」

「だって、ほら。さっき倒れ───」

「何でもねェよ。あと、その话题をもう一度出したら、まァた暴れるかもなァ」

运转手がガタガタと|震《ふる》え始めている事に、インデックスは全く气づいていない。

|一方通行《アクセラレ—タ》の减らず口を闻いて、とりあえずは安心したのか、インデックスは手元にあった绘本へ目を移す。

「ふんふん。日本语だとこういう译し方なんだね」

インデックスは童话の内容を知っているのか、パラパラと高速でペ—ジをめくっていき、最後のペ—ジだけを声に出して读んだ。

「ダメ子ダメ子と|骂《ののし》られていた|丑《みにく》いアヒルは、实は超エロカッコイイ白鸟さんだったのでした。おしま—い。……エロカッコイイってなに?」

「オマエの正反对に位置する生き物だ」

「ふうん」

インデックスはパタンと绘本を闭じると、

「……结局、生まれた时から白鸟の胜ちは决まっていたよって话だったね」

「『丑いアヒルの子』はそォいう话じゃねェよ」

「じゃあどんな话なの?童话は解释の仕方が多数分岐してて解读が难しいかも」

「はァ?つか、何だっけか。确かあのガキが言うには『アヒルさん|达《たち》と仲良くなりたかった白鸟は、自分が绝对に彼らの轮には加われない事实を突きつけられて本当に幸せだったのかな』だっけ」

チッ、と|一方通行《アクセラレ—タ》は|吐《は》き舍てた。

ガキというのは时々こういう|可爱《かわい》げのない意见を言うから手に负えない。

运转席の方からまた|郁陶《うつとう》しい|呻《うめ》き声が闻こえてきたので、适当に座席シ—トに突き刺してある钢铁の凶器を前後に摇らして|默《だま》らせる。

やはりインデックスは气づいていないらしい。

绘本から颜を上げて、インデックスはこう寻ねてきたのだ。

「あのガキっていうのは、あなたが搜していた迷子の人の事?」

「そォだよ。だが、正しくは今も搜してるって状态だがなァ」

「またはぐれちゃったの?」

「……、あァ。そォだ」

少し间を空けてから、|一方通行《アクセラレ—タ》は肯定した。

「|俺《おれ》はこれからあのガキを搜さなくちゃならねェ。手のかかる事に、アイツは自分の足で家まで戾って来れねェみてェだしな。だから、オマエとはここでお别れだ」

「私も搜すよ?」

インデックスは即座に返答した。

|一方通行《アクセラレ—タ》の赤い|瞳《ひとみ》から、|一瞬《いつしゆん》たりとも目を|逸《そ》らさないで。

「だって、あなたが困ってるの分かるもん。ここにいるのがとうまだったら、おんなじ事を言ってると思うし」

「ふン」

彼はつまらなそうに视线を外すと、运转手の男に声をかけた。

「この边りで|停《と》めろ」

文字通り命を握っている|一方通行《アクセラレ—タ》の指示を受けて、男は路肩に车を停めた。

|一方通行《アクセラレ—タ》はインデックスを见る。

「协力しろ」

「うん。何をしたら良い?」

「この近くにデカい病院がある。徒步五分から一○分って所だな。そこに行って、いかにもカエルに良く似た颜の医者を见つけて来い。医者に会ったら……」

|一方通行《アクセラレ—タ》はそこで言叶を切り、自分の首筋をトントンと|叩《たた》いて、

「ミサカネットワ—ク接续用电极のバッテリ—を用意しろと传えろ。それで通じる。バッテリ—ってなァ大事なモンだ。ソイツがねェと人搜しができねェ。だからバッテリ—を受け取ったら、オマエはダッシュでここに戾って来い。分かったな」

「分かった。"ミサカネットワ—ク接续用电极のバッテリ—?だね」

|完壁《かんぺき》に复唱された。

もちろん自分の口で言ったミサカネットワ—クだの接续用电极だのの意味は分かっていないだろうが、意外に头の回转は早いのかもな、と|一方通行《アクセラレ—タ》が思う间もなく、インデックスは|三毛猫《みけねこ》を抱えると雨の道路へ|踌躇《ちゆうちよ》なく出て行った。

「待っててね」

「あァ?」

「私が戾ってくるまで、ちゃんと待ってなきゃやだよ?」

「……、分かってる。良いからさっさと行け」

|一方通行《アクセラレ—タ》は答える。

インデックスは二回、三回とこちらを振り返ったが、やがてパシャパシャと|水溜《みずたま》りを|踏《ふ》みながら走って行った。その小さな背中が、|暗《やみ》の奥へと消えていく。

「クソッたれが」

思わず|吐《は》き舍てて、彼は座席の背もたれに体を预けた。

病院に替えなどない。电极自体が试作品なのだ。それに对应したバッテリ—も特殊なもので、量产化などされていない。もしそうなら、|一方通行《アクセラレ—タ》は最初から大量のバッテリ—をポケットにでも突っ?んでいる。

简单な|嘘《うそ》だった。

カエル颜の医者の所へ行けという部分以外は、|全《すベ》て。

どこへ行っても危险なのは变わりないが、一番まずいのはあのシスタ—が一人になってしまう事だ。少しでも生存率を上げたいなら、人の多い场所へやった方が良い。あのカエル颜の医者の所ではかなり不安だが、何もしないよりはマシだろう。

これから始まるのは、简单に言えば|木原数多《ほはらあまた》や『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』との、|打ち止め《ラストオ—ダ—》争夺战だ。ただでさえフル|战斗《せんとう》では七分间も|保《も》たないほど战力が不足している中、あれだけの敌を相手に、インデックスというお荷物を背负ったまま战うなど|马鹿《ばか》げている。だから彼女はあそこで切った。

|邪魔者《じやぽもの》は、邪魔にならない场所へと戾した。

それだけだ。

それだけで良い。

「───、」

|一方通行《アクセラレ—タ》は|薄《うす》く息を|吐《は》いて思考を切り替える。

「车ァ出せ」

「ま……まだ解放してくんねえのかよ───ぁがっ!?」

「死ぬか生きるか、オマエが选べよ」

後部座席に突き刺さった钢铁の凶器を轻く摇すると、自动车は静かに发进した。

|一方通行《アクセラレ—タ》はさらに五分ほど走らせると、小さな公园の前で|停《と》まらせた。

ここは第七学区の端らしい。

すぐそこに、|邻《となり》の第五学区への交通表示板が立っている。

彼は後部座席の足元に转がっていた大きなバッグを|掴《つか》み、自分の横の座席へと置いた。おそらくは『|猎犬部队《ハウンドドツグ》」の装备品の予备だろう。合成革の死体袋みたいなバッグは、一メ—トル以上もの长さがある。

ファスナ—を开けて中を|?《のぞ》くと、杀人兵器がゴロゴロ入っていた。

|掌《てのひら》に收まるほど小さな|拳铳《けんじゆう》、百科事典のケ—スに隐れてしまいそうなサブマシンガン、そしてモップのような长さを夸っているのは、室内制压用のショットガンか。|他《ほか》にも粘土みたいな爆药とか信管とか、无线机やら颜を|覆《おお》うマスクやらがパンパンに诘め?まれていた。

とりあえず真っ先に、彼が求めているのは、

(|杖《つえ》の代わり、だな)

いつも使っているト字型の杖は、木原と|一绪《いつしよ》に暴れた时にすっぽ拔けていた。能力使用モ—ド时以外では、体を支える|杖《つえ》が必要になる。どう动くにしても、まずはそれが必要だった。

|一方通行《アクセラレ—タ》はザッとバッグの中身を见回して、

「やっぱこのショットガンだなァ」

その中から适当に一丁を引き拔いた。

黑光りする金属で作られた、セミオ—ト式のショットガンだ。铳口下面から引き金の一○センチ手前までの部分が|全《すベ》て横倒しのマガジンとなっているらしい。三○发ぐらい入っていそうだ。どこかのサブマシンガンでも同じような构造の装弹方式を采用していたと思う。

ショットガンは本体だけで一メ—トル近い长さを持ち、さらに後部のストックは好みに合わせて伸缩できるように作られている。上部にはスコ—プのようなものが付けられていたが、|?《のぞ》いてみると倍率に变化はなく、スイッチを入れると中心に赤い光点が见えた。どうやらダットサイトらしい。好みにもよるが、普通の照准より正确に狙いをつけるためのものだったと思う。

(派手に弹ァばら|撒《ま》くショットガンに、この手の精密照准器って意味あンのか?)

|一方通行《アクセラレ—タ》は|呆《あき》れたようにダットサイトを|叩《たた》いたが、そちらは问题ではない。

ショットガンのグリップを|掴《つか》み、ストックを|胁《わき》で挟むようにすれば、かろうじて|松叶杖《まつばづえ》に见えなくもない。

(体重で铳身が曲がっちまうかもしンねェが、まァコイツは|击《う》つためのモンじゃねェ。あくまで步く补助になりゃアそれで良い)

などと考えていた|一方通行《アクセラレ—タ》の耳に、运转席から声がかかった。

「|无驮《むだ》だ……」

|掠《かす》れた声だった。

まるで何日间も水を饮んでいないほどに、男の体力は干上がっていた。

「……あの人にじかに会ったなら、分かるだろ。|木原《きはら》さんは、『绝对』だ。平和ボケしてヤキが回ったお前の付け烧刃でどうこうできる相手じゃねえ」

「───オマエ、弹いて欲しいのか[#「弹いて欲しいのか」に傍点]?」

「そ、それも良いかもな」

男の声は、|一方通行《アクセラレ—タ》の予想に反したものだった。

「死にたくはない。け、けどな、|俺《おれ》は木原さんの怖さも知ってんだ。知らなきゃ良かったよ。

お、俺は、もう、次の朝日を见る事はできねえ。あの人には、|容赦《ようしや》がない。加减じゃなくて容赦がない。俺は助からない。下手すると、こっ、杀してもらえないかもしれない[#「杀してもらえないかもしれない」に傍点]。き、木原さんは、ギネス记录を更新するとか、世界の三大事件を四大事件に增やしちまうとか、そ、そういう事を平气でやってのける人なんだよ……」

「ごッちゃごちゃ、やかましい野郎だなァ」

|一方通行《アクセラレ—タ》は|吐《は》き舍てるような声で|遮《さえぎ》った。

运转席を贯いている钢铁の凶器を五本の指で握り|缔《し》めて、

「っつ—か面倒臭ェ。杀す、なんて|暧昧《あいまい》な事ァ言わねェわ。コイツかき回して内脏メチャクチャにすンぞコラ!口から血の块と今日の昼饭を喷き出せェクソ野郎がァ!!」

「ひっ、ひぃいいッ!!」

耳元で大声を出しただけで、男の虚势は|容易《たやす》く破られた。

『死』を实感していないヤツの寝言など、この程度の价值しかない。

运转手は眼球をグラグラ摇らしながら叫ぶ。

「くそ、ちくしょう!!いい加减にしろ!ここで死ぬのは嫌だ!!テメェらは二人とも|?《そろ》って化け物だ!もう|关《かか》わりたくもねえ!!|俺《おれ》は家に归ってシャワ—浴びて酒でも饮みながら撮り|溜《だ》めした番组に目を通すんだ!」

そこに残されていたのは|丑《みにく》い希望だけだった。

自分の立场も|弁《わきま》えず、大物同士のいさかいに首を突っ?むとこういう事になる。

ガタガタと|震《ふる》える『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の男に、运转席のシ—トを挟んで後ろにいる|一方通行《アクセラレ—タ》が静かに声を投げかける。

「死ぬのは嫌か」

「あ、ああ」

「このまま生きてェか」

「ああ!!だから何だっつ—んだよおおおおッ!!俺だって生きてえよ!死んだ方が良いなんて生き方じゃねえ!ちゃんと大手を振って生きてみてえよ!!|马鹿《ばか》じゃねえのか!?一番马鹿なのは俺じゃねえのか!?なに语ってんだよ、できる译ねえだろそんなの!!」

この男は|土坛场《どたんば》まで追い诘められているのだろう。

そうでもなければ、ここまで|飞跃《ひやく》した话は出てこない。

「よォ—っく分かってンじゃねェか」

|一方通行《アクセラレ—タ》は、口元を引き裂くような笑みを浮かべた。

ル—ムミラ—でそれを确认した运转席の男が、ひっ、と空气を|吞《の》み?む。

「今のオマエに救いの道が残されてると思ってンのか。こンな世界に生きて、さンざン人ォ|踏《ふ》みつけにして、おまけに|木原《きはら》のクソ野郎やこの俺を敌に回して、まだ幸せに生きてみたいだと?ふざけた事言ってンじゃねェよボケ」

「ぅ、うああ……」

「クズ野郎。オマエは今まで何人杀してきた?」

「……じ、一四人」

绞り出すような声だった。

しかし、それを闻いた|一方通行《アクセラレ—タ》は、思わず拍子拔けしてしまいそうになる。

何だ、その程度か。

そんなものなら、全然自分よりも平和な人间ではないか。

それを『平和な人间』と思っている自分の方が、よほど怪物ではないか。

「选べよ。ここで出血多量で死ぬか、|木原数多《きはらあまた》の手で爆笑必至の死体になるか」

「い、嫌だ。|俺《おれ》は死にたくない。俺だって死にたくない」

「はン。なら病院だな」

|超能力者《レペル5》は笑いながら续けた。

「オマエは死ねねェよ。简单には死ねない。そンな|真似《まね》は俺が许さねェ。一○○回杀しても饱き足らねェクソ野郎を、こンなあっさり解放するとでも思ってンのか。苦しみを引き延ばしてやる。永远に救いのねェ道を、この俺のストレスを解消するためだけに生き续けろヨ」

「ちくしょう……」

手当てを受けろと言われているのに、男は奥齿を|啮《か》み|缔《し》めて|?《つぶや》いた。

「杀される。木原さんは地球の里侧まで俺を追ってくる。绝对に助からない……」

「俺の知り合いのクソ医者は、アレでも一应自分の患者を见舍てるよォな人间じゃねェらしい。

泪が出る话だな?ま、一日ぐれエなら生きられンじゃねェのか」

「な、何の保障にもなってねえ」

「そ—かァ。その间に木原の心脏が|扶《えぐ》り出されてるかもしンねェぞ」

男はしばらく|男はしばらく|默《だま》った。もしも本当に|一方通行《アクセラレ—タ》に木原がやられたら、自分は助かるかもしれないとでも考えたのだろう。

それから言った。

「どうせ木原さんには|敌《かな》わない」

「だろォな、俺はともかくオマエじゃ无理だ」

ショットガンの|他《ほか》に使える物がないか、死体袋のような合成革のバッグをごそごそと|渔《あさ》っている|一方通行《アクセラレ—タ》は、そこである机材を见つけた。

形はサイレンサ—を取り付けた|拳铳《けんじゆう》のように见えるが、先端についているのはマイクのような、スポンジ状のセンサ—が取り付けられている。そして、グリップより少し上の边り拳铳で言うならハンマ—のある部分に、三インチぐらいの小型液晶モニタがついていた。

「……そりゃあ、|嗅觉《きゆうかく》センサ—だ」

ル—ムミラ—で确认したのか、『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の男はそう答えた。

「香水や消臭剂の企业が使ってるヤツを、军事に转用した……」

「よォは、警察犬の机械化か」

犬よりは利口だろう。五感情报をデ—タ化できるなら、复数混じった|?《にお》いの中から必要なものだけを取り出したり、メモリに登录したりもできる译だ。

?いとはいくつかの种类に分类され、各ジャンルはそれぞれ似たような分子构造を持つ。おそらくその边りからもアプロ—チしているはずだ。

「俺|达《たち》は、いつもそいつを使って标的の足迹を追う。迅速かつ确实にな。木原さんに|睨《にら》まれて逃げ切れたヤツを、|俺《おれ》は→度も见た事がねえ……」

「───、」

|一方通行《アクセラレ—タ》は、つまらなそうな颜になった。

『|猎犬部队《ハウンドドッグ》』を|叩《たた》き|溃《つぶ》すのに异存はないが、常に『相手から|奇袭《きしゆう》される』というパタ—ンは好ましくない。こちらから『相手に奇袭する』构图を作った方が良い。

「车を使っても|无驮《むだ》だ。タイヤの|?《にお》いを追って、このワンボックスを见つけて、そこからお前の?いを追えば终わりだ。俺|达《たち》は、その背中を突き刺すまで标的を|狙《ねら》い续ける。こっちだってすぐ发见されちまうよ」

|一方通行《アクセラレ—タ》は男の声を闻きながら、|嗅觉《きゆうかく》センサ—を|弄《いじ》り回した。

「コイツの使い方は?あのガキを搜すのに役立つかもしンねェ」

「……无理だ」

男はわずかに笑った。青白い、乾いた笑みだった。

「『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』は、嗅觉センサ—を打ち消す洗净剂を持ってる。?いの分子构造そのものに干涉するヤツだ。|袭击《しゆうげき》地点でそいつを使っても何も|掴《つか》めねえ……」

男の话によると、洗净剂にはメンバ—の衣服にかけるものと、後から现场に散布するものの二种类があるようだ。

「オマエはその洗净剂を持ってンのか」

「あればとっくに使ってる。所属が违う。足迹を追う系と足迹を消す系は分业だ……」

チッ、と|一方通行《アクセラレ—タ》は舌打ちした。

だが、嗅觉センサ—をごまかせる物质が存在する、という事が分かっただけでも收获だ。

嗅觉センサ—をその边に投げると、|一方通行《アクセラレ—タ》は言った。

「……闻きてェ事はもオねェな。オマエ、そこを动くンじゃねェぞ」

「ひっ?こ

もぞり、と後部座席で|蠢《うごめ》く|氛围气《ふんいき》を感じて、运转席の男が引きつった声を出した。

やはり杀される。

そう思った男だが、予想に反して|一方通行《アクセラレ—タ》はドアのない出入り口の方へ动いていた。外へ出ようとしているのだ。

「どっ、どこへ行くんだ?」

「あン?|木原《きはら》を溃してガキを助けにだよ」

|亿劫《おつくう》そうな返事に、男は|哑然《あぜん》とした。

「何で、

|谛《あきら》めないんだよ。どこまで逃げたって、木原さんは笑颜で溃しに来る。|战斗《せんとう》准备なんてやってる暇もねえ。主导权は全部向こうに握られてる。それでもやるのかよ」

「当たり前だ」

「……そこで即答できる根据は何だよ。こんな世界に浸ってんだ、自分がどれだけ分の恶い状况にいるかぐらい分かってんだろ」

「知るかよ」

|一方通行《アクセラレ—タ》は|吐《は》き舍てた。

カエル颜の医者に连络するため、ドアのなくなった後部座席の出入り口に手をかけて、

「平和ボケしてヤキでも回ったンだろ」

判断は|一瞬《いつしゆん》だった。

隐れても|无驮《むだ》だと思った|上条《かみじよう》は、|打ち止め《ラストオ—ダ—》の小さな体を抱えるように持ち上げると、上半身を|屈《かが》めるような格好で车の阴から飞び出した。

自动车は步道|胁《わき》に违法驻车してあった。

一番近い路地の入口までは、およそ五メ—トル程度しかない。

だが[#「だが」に傍点]、

ボッ!!と。

铁パイプで|薄绢《うすぎぬ》を突き破るような|破坏音《はかいおん》が|响《ひび》いた。

复数のサブマシンガンが即座に火を喷く。

一秒间に何发放っているかも分からないような高速连射だ。今まで盾にしていた自动车のガラスが碎け、ボンネットが|踏《ふ》み|溃《つぶ》されたようにたわみ、铁板のドアに无数の风穴が空いてボロリと落ちた。座席シ—トが|弹《はじ》け、车内が绵だらけになっている。

破坏は|一瞬《いつしゆん》で起こり、それら|全《すべ》ての音が重なって一つの|炸裂音《さくれつおん》となる。

それでも上条は路地の入口へ向かう。

弹丸の尾が上条の逃走ル—トを追い驱ける。

寸前で、ちようど目の前の、颜の高さにあるコンクリ—ト壁に弹丸が飞んだ。进行方向に一发|击《う》って、上条が|怯《ひる》んで足を止めた所で|蜂《はち》の巢にするつもりだったのだろう。思わず反射的に首がすくむが、かろうじて体は动いてくれた。碎けた小さなコンクリ—ト片が、上条の发を

|掠《かす》めていく。

ほとんど转ぶような格好で、|濡《ぬ》れた地面に突っ伏すように路地里へと飞び?んだ。

「生きてるか、|打ち止め《ラストオ—ダ—》!」

上条が寻ねると、腕の中にいる小さな少女は无言で何度か|颔《うなず》いた。

ガチャガチャという金属を捻るような音が闻こえてくる。黑ずくめ|达《たち》の装备がぶつかる音だ。上条は舌打ちすると、|打ち止め《ラストオ—ダ—》の体を抱え直し、路地里の奥へと走り出した。

隐れる场所が欲しい。

右手に宿る|幻想杀し《イマジンブレイカ—》では、あまりに相性が恶すぎる。|魔术《まじゆつ》だの超能力だのという、トリッキ—でイレギュラ—な相手なら活路はあるが、连中の铳器にはそういった付け入る|隙《すき》が全くない。下手に|殴《なぐ》りかかっても、ズタズタのボロ|布《きれ》みたいにされるのがオチだ。

「|打ち止め《ラストオ—ダ—》、|妹达《シスタ—ズ》を束ねてるって事は、お前も电气の力って操れるのか?」

「うん、|强能力《レペル3》程度のものしか使えないけど、ってミサカはミサカは答えてみたり」

「じゃあ电子ロックは外せるか。どっかの里口から建物の中に入りたい。多分、この路地はそれほど长くないからな。そっちの出口で待ち伏せされてる可能性もある」

分かった、という返事があった。

|上条《かみじよう》は路地里にある、手近なドアの前で立ち止まり、|打ち止め《ラストオ—ダ—》を|傍《かたわ》らに下ろす。

「んっ」

|打ち止め《ラストオ—ダ—》はワイシャツの胸ポケットから携带电话を取り出すと、电源を切った。どうも电气系の能力を使う时、集中の|邪魔《じゃま》になるようだ。彼女はその小さな|掌《てのひら》を、ドアの横に取り付けられたカ—ドスリットに向けて、目を闭じる。

ガチャガチャガチャ、という黑ずくめ|达《たち》の金属音が闻こえる。

远いのか近いのか、|距离感《きよりかん》は|掴《つか》めなかった。路地は直线的ではなく折れ曲がっていたため、いきなり出入り口から扫射される事はなかったが、それにしてもいつ追い着かれるか分からない状况で、じっと何かを待ち续けるのは想像以上にプレッシャ—を与えてくる。

(まだか……?)

上条は|暗暗《くらやみ》の中で、重なるような足音だけに耳を倾けながら、待つ。

(くそ、まだなのか)

|打ち止め《ラストオ—ダ—》に变化はない。

まさか|幻想杀し《イマジンブレイカ—》のせいで变な|影响《えいきよう》が出てるんじゃないだろうな、と上条が心配になってきた所で、

「きた!ってミサカはミサカは目を开けてみたり!」

ピ—ッ、という高い音阶の电子音が鸣った。

上条は铁の扉のノブに手をかけ、回す。

|键《かぎ》は外れていた。そのまま|打ち止め《ラストオ—ダ—》を抱えて建物の中へと|踏《ふ》み?む。

室内に光はなかった。

どうやらファミレスの|厨房《ちゆうぼう》のようだった。火を?う场所だから、非常口でも用意してあったのだろう。まだ营业时间だと思うのだが、明かりが落ちているのが少し不气味ではある。非常口を示す绿色のランプが、ぼんやりと调理器具のシルエットだけを浮かばせている。

「これからどうするの?ってミサカはミサカは寻ねてみる」

「そうだな」

|上条《かみじよう》は、|打ち止め《ラストオ—ダ—》を床に下ろすと、とりあえず目の前の扉へ向かう。とにかく光のある场所へ、人のいる场所へ行きたい。

「连中は车を持ってる。おそらく足で走っても追い着かれちまう。この时间じゃ电车やバスもないし、素人のタクシ—を捕まえても逃げ切れないと思う」

|打ち止め《ラストオ—ダ—》が不安そうな目でこちらを见上げてきた。

全部投げ出したくなるが、そういった|丑态《しゆうたい》は见せられないな、と上条は思った。

「とにかく人の多い所へ行こう。连中は|骚《さわ》ぎを起こしたくない。だから|俺达《おれたち》を追ってる。大量虐杀をしちまったら本末转倒のはずだ」

「こんなので、本当にあの人を助ける事なんてできるのかな、ってミサカはミサカは自分の力のなさを叹いてみたり」

「さあな。でも、ここを生き延びない限り绝对に助けられない。ソイツを助けたかったらまずは自分が死なない事だ。ソイツだってお前が死んで喜ぶような事はないんだろ」

「……うん、ってミサカはミサカは首を纵に振ってみる」

「よし、じゃあ生きるぞ」

我ながらとんでもない|台词《せりふ》だ、と上条は苦笑しながら目の前の扉を开けた。

そちらが、客が料理を食べるメインフロアらしい。白々しい萤光灯の光に满ち、有线放送が场违いに明るい音乐を流していた。壁に埋め?まれた大型テレビにはCMが映っている。レトルト食品特有の、脂っぽい|?《にお》いが鼻についた。

だが、

「……ここもかよ[#「ここもかよ」に傍点]」

上条|当麻《とうま》は思わず|呻《うめ》き声をあげた。

店内には复数の客がいた。カップルのような男女もいるし、仕事が终わった教职员らしき男性もいる。テ—ブルとテ—ブルの间にある细い通路には|可爱《かわい》らしい制服を着たウェイトレスがいた。レジの所にいるのは少し|岁《とし》を食った男の店员だ。

その全员が倒れていた。

ぐったりと力を拔いて、伤一つないまま。

店内にパニックが起きた样子はない。多少、フォ—クやスプ—ンが床に落ちているが、それはおそらく客がテ—ブルに突っ伏した时のものだろう。|谁《だれ》も彼もが、自分でも良く分からない内に倒れていた……という感じの光景だった。

地下街の出入り口付近で倒れていた|警备员《アンチスキル》のように、ただ眠るように倒れている者もいる。一方で、まるで石像のように固まったまま床に转がっている者もいた。全体を见ると、いくつかのグル—プに分けられる。

|厨房《ちゆうぽう》の样子も变だったが、向こうでも问题が起きていたのかもしれない。

ともあれ、これでは『人の多い场所』の条件には适应しない。

その全员が气を失っているのでは、|谁《だれ》も|目击《もくげき》していないのと全く同じだ。

(どうなってる?)

|上条《かみじよう》は思わず|呆然《ぽうぜん》としかかった。

(あの黑ずくめの何人かも、似たように倒れてた。つまり、これは连中がやってるって译じゃないんだよな。ちくしょう、问题は一つだけじゃないって事か!)

「|打ち止め《ラストオ—ダ—》、とにかく外に───ッ」

言いかけた上条は、|打ち止め《ラストオ—ダ—》に引っ张られて床を转がった。

ドッ!!と。

表通りにズラリと面したウインドウが粉々に碎け散った。谁かが道路から店内へ弹丸を|击《う》ち?んだのだと气づくのに数秒かかった。外れた弹丸は有线放送のチュ—ナ—にでも当たったのか、スピ—カ—が一齐に|沈默《ちんもく》する。テレビが割れて火花を散らした。

床やテ—ブルに倒れている客|达《たち》の上にも细かいガラスが降り注いだのを见て、上条の头に血が上った。幸い、弹丸そのものは当たっていないようだが、そういう问题ではない。

(くそ、周りに普通の人达がいてもお构いなしか!!)

碎けたガラスの破片を|踏《ふ》んで、谁かがゆっくりとメインフロアに入ってくる。

上条は近くの床に落ちていたフォ—クを手に取った。

贫弱すぎて笑えてくる。

その上、今度は不意にフロアの电气が落ちる。上条达が入ってきたドアが、きい、と小さな音を立てて开いた。そこからゴキブリみたいに气配のない动きで、三人ほど黑ずくめが追加される。

上条と|打ち止め《ラストオ—ダ—》を守るのは、フロアの中央にある大きな四角い柱だけだった。

二方向からゆっくりと标的を搜す黑ずくめ达に对して、こちらの死角はほとんどない。

上条は钝く光るフォ—クを手に、柱に背中を预けた。

ふと上を见る。

ウインドウに击ち?まれた初弹が当たっていたのか、自分のすぐ上に风穴が空いていた。

(贯、通?盾になってない……ッ!!)

ギョッとする上条の筋肉が、必要以上に|强张《こわば》る。

ゆったりとした、极力振动を杀そうとしている足音が、少しずつ|包围网《ほういもう》を|狭《せば》めていく。

|一方通行《アクセラレ—タ》は携带电话を使おうとも思ったが、やはり少し步いて公众电话から挂ける事にした。もしかすると、|木原《きはら》达は电话回线上から番号を探知する机材を使っているかもしれない。

すっかり使われなくなって久しいのだろう、やや污れた感じのする公众电话のボックスに入ると、まずは照蕊。刚の赤いボタンを押してから、救急车を呼んだ。この边りの|管辖《かんかつ》なら、おそらく指定しなくてもカエル颜の医者の所へ行くはずだ。

次に残り少ない硬货を入れて、もう一度受话器を取る。わざわざ携带电话のアドレスを确认しながら、公众电话に一つ一つ番号をプッシュしていく。

番号は|打ち止め《ラストオ—ダ—》の携带电话だ。

「……、」

しかし、相手が出る气配はなかった。|默《だま》って受话器を|掴《つか》んでいる|一方通行《アクセラレ—タ》

の元に、携带电话の电源が入っていないか电波の届かない场所にいるかもしれない、という|旨《むね》のアナウンスが返ってくる。

彼は受话器を置いた。

(……まァ、予想通りってトコか[#「予想通りってトコか」に傍点])

狭い所に逃げ?んでいれば电波が届かなくなる事もあるし、着信音や振动音が边りに|响《ひび》くのを|危惧《きぐ》しているかもしれない。

最恶の可能性も头をよぎったが、|一方通行《アクセラレ—タ》は自分のやるべき事を实行していく。

もう一度电话に小钱を入れて、今度は别の番号にかける。

コ—ル音がしばらく续いた。

その後に年配の女性看护师が应对した。|一方通行《アクセラレ—タ》はカエル颜の医者に取り次ぐよう命令する。

すぐに医者に换わった。

『こんな时间にどんな用件かな?』

「トラブルが起きた。デカいトラブルだ」

『一应、|御坂《みさか》妹さんとやらから大体の事情は闻いているよ?彼女|达《たち》の电气的ネットワ—クを介して情报の交换が行われているらしいね』

なるほど、电话以外にもそういう手があるのか、と|一方通行《アクセラレ—タ》は感心した。

代理演算を间借りしているだけの彼には、そのネットワ—クの利用はできない译だが。

「だったら话は早ェ。ソッチが知ってる情报を渡せ。あのガキはどォなってる?」

『今は「|猎犬部队《ハウンドドツグ》」の别动队に追われているようだね。たまたま居合わせた一般人と|一绪《いつしよ》に逃げている。まだ捕まってはいないようだが……正直に言おう。时间の问题みたいだ』

どうやら|打ち止め《ラストオ—ダ—》は|木原《きはら》の元から|离《はな》れた後、周りに助けを求めたらしい。难点は、求められた方に期待していただけの力量がなかったという事か。

|一方通行《アクセラレ—タ》は舌打ちした。

「场所は?」

『彼女自身も掴めていないようだ。どこかのファミリ—レストランのようだけどね?』

少し考えたが、|流石《さすが》にそれだけで场所を特定するのは不可能だ。

|妹达《シスタ—ズ》の方も、そのせいで|打ち止め《ラストオ—ダ—》の搜索には出せないと、カエル颜の医者は言った。もちろん、学园都市にいる一○人前後の|妹达《シスタ—ズ》も体を调整している最中なので、长时间、彼女|达《たち》を雨の中で步かせるのも问题だろうが。

|忌々《いまいま》しいが、今は本来の仕事を果たす事にする。

「そっちに白い修道服を着たガキは来たか?」

『今、应对に困っていた所だよ。彼女、何で君の代理演算の事を知っているんだ』

「オマェにゃ关系ねェ」

『……もしかして、本当に新しいバッテリ—が必要な状况なのかい?』

「そンなモンねェンだろ」

|一方通行《アクセラレ—タ》は、|吐《は》き舍てるように续けた。

「あと、そのバッテリ—について|唤《わめ》いてるガキは保护しろ。おそらくこれから二四时间程度は命を|狙《ねら》われるはずだ。目を|离《はな》すなよ」

『やれやれ。|警备员《アンチスキル》には任せられない问题なのかい』

「平和主义の教师どもに何ができる。敌のレベルが违うンだよ。死人を增やしたくなけりゃ、イイ加减に意识を切り替える事だな」

「……そりゃまあ。まさか、患者以外の命を守る羽目になるとはね?』

「なら患者も追加だ。もォ少ししたら背中を刺された男がソッチに届く。ソイツを适当に处置したら、|袭击《しゆうげき》に备えろ。ソッチにどンだけの战力がある?」

『战力とは、また随分と|物骚《ぷつそう》な话だね?』

カエル颜の医者は|流石《さすが》に面食らったようだったが、|一方通行《アクセラレ—タ》はいちいち付き合わない。

时间が惜しい。

「……あのクロ—ンどものネットワ—クを介して、状况は|掴《つか》ンでるっつったよなァ?なら、甘い事を言ってらンねェのも分かってるはずだ。さっさと教えろ。うろたえればうろたえた分だけ死亡率が跳ね上がンぞ」

『まったく……君もあの少年と同じぐらい、|怪我《けが》と入院がお好みらしいね?』

受话器の向こうからため息が闻こえた。

|沈默《ちんもく》があった後、カエル颜の医者は答える。

『调整中の量产军用|妹达《シスタ—ズ》が一○人ほど。あとは「实验」当时使われていた、对战车ライフルのメタルイ—タ—MXとF2000R「|オモチャの兵队《トイソルジヤ—》」が人数分あったと思うけど?』

|一方通行《アクセラレ—タ》は少し考える。

それから首を横に振った。

「その程度じゃ食い|溃《つぶ》される。そもそも现状のクロ—ンどもは战力にならねェ。万全でも无理だろォがな。病院にいる职员と患者を全员|退避《たいひ》させられるか?」

『仆に持ち场を离れうって?一体、この病院にどれだけのベッドがあるか知っているかな』

「三○○ぐらいか」

『七○○だ』カエル颜の医者はあっさりと答えた。『新生儿や重症者など、|迂阔《うかつ》に动かすのが危险な患者が五二名ほどいるね?手术中の患者がいないのが救いと言えば救いだけど、この大移动がどれだけ|无茶《むちや》な事かは分かっているかな』

「……、」

『ここを|离《はな》れれば、急患が出た时はどうする?そちらの问题もあるんだけどね』

カエル颜の医者の言叶に、|一方通行《アクセラレ—タ》は下手な言い译や|劳《ねぎら》いはかけない。

そんな暇はない。

「できるか?」

『やろう』

质问には即答が返ってきた。

カエル颜の口调が、いつもの|瓢々《ひようひよ》としたものから、|全《う》く别のものへと切り替わっていく。

「发烟筒でも使って、火事が起きた事にする。何らかのテロ行为に结びつければ、全员を|退避《たいひ》させる大义名分ぐらいにはなるだろうね。动かすのが危险な患者もいるが、彼らの命を守るのが仆の仕事だ。何とかしてやるよ』

「自分から要求しといて何だけどよォ、本当にできンだろォな?」

『だからやると言った。自分でもこんなに话が上手く转がるとは思ってなかったのかい?急患の件にっいても、いくつか代案がある。よその病院に割り振るとか色々ね?なければ首を纵には振らないよ』

「……、恶りイな」

『まぁ君|达《たち》の争いに利用されるのは正直|癞《しやく》だが、仆はどんな患者であっても平等に?うからね。运ばれてくる患者を守れと言われたら全力を尽くすだけさ』

救急车のサイレンが通り过ぎた。

おそらく『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』のあの男は、すでに救急车に乘って病院へ向かっているだろう。

|一方通行《アクセラレ—タ》がサイレンに耳を倾けていると、不意にカエル颜の医者が言った。

『それで、君はどこまでやるつもりだい?』

「|木原《きはら》は杀す。「|猎犬部队《ハウンドドツグ》』も|溃《つぶ》す。そしてあのガキを无伤で助け出す」

『不可能だよ』

これも即答だった。

カエル颜の医者には似合わない、あまりにも端的で|冷彻《れいてつ》な声に、|一方通行《アクセラレ—タ》は|眉《まゆ》をひそめる。

『この限られた状况の中で、君はあまりに多くの行动目标を抱えすぎている。それでは绝对に达成できない。君の住んでいる世界は、あちこち寄り道しながらゴ—ルを目指しても何とかなる程度のものなのかな?』

「……、いつから医者ってなァフザけたリップサ—ビスまで始めるよォになったンだ?ソッチの世界の住人が、知ったよォなクチで|暗《やみ》を语るなよ」

『误解があるようなら言っておくけどね?』

カエル颜の医者は、|臆《おく》しない。

|一方通行《アクセラレ—タ》に向かって、ただ事实を言う。

『仆は君以上の地狱を见てきているよ[#「仆は君以上の地狱を见てきているよ」に傍点]。医者という职业を甘く见てはいけない。多分君よりたくさんの血と泪を见てきていると思うよ。悲剧にはならなかったけどね。仆は「|冥土归し《ヘヴンキヤンセラ—》」とも呼ばれている。つまりそういう事さ。仆と君の违いは简单だ。そこに留まっているか[#「そこに留まっているか」に傍点]、きちんと归ってくるか[#「きちんと归ってくるか」に傍点]。それだけでしかない』

医者は少し间を空けた。

それから续ける。

『君と同样、|暗《やみ》ってヤツを知ってる先辈からアドバイスをしようと言っている译だ。目标は一つに绞れ。|木原《ぽはら》を杀す?「|猎犬部队《ハウンドドツグ》」を|溃《つぶ》す?そんなつまらない事は後でもできるだろう。

君が今ここでしなければならない事はたった一つのはずだ。それも分からないのかい?』

「|流石《さすが》は人命优先のお医者样だな。だが、あのガキを无伤で助ける事と、木原|达《たち》を溃す事は同じなンだよ。どちらかを切り舍て───」

『そうじゃない』

「あ?」

『|打ち止め《ラストオ—ダ—》を无伤で助ける?まだそんな[#「まだそんな」に傍点]、できもしない事を言っているのかい[#「できもしない事を言っているのかい」に傍点]』

「───、」

|一方通行《アクセラレ—タ》の血が冻った。

受话器の向こうにいるのは、|谁《だれ》だ?

『さっきも言っただろう。仆は、ミサカネットワ—ク经由で情报をやり取りしている|妹达《シスタ—ズ》から直接话を闻いている。君の事情もある程度は理解しているつもりだ。その上で言うよ?』

カエル颜の医者は、ゆっくりと、なおかつ力のある声で言った。

まるで、说教でもするように。

『いい加减に现实を见るんだ。そんな事ができないのは、无样に|这《は》いつくばった时点で分かっているだろう?いいかい、君はただでさえ负けている。胜つ事すら难しい相手に对して、さらにそんな梦のある希望を并べた所で何になる。妥协をしろよ、|一方通行《アクセラレ—タ》。|打ち止め《ラストオ—ダ—》はもう、无伤では助けられない。どんなに最高峰の手を打ったとしても、绝对に伤を负う』

心理的な死角から|一击《いちげき》を|叩《たた》き?まれたような气分になった。

知らず知らずの内に、それだけこの医者に寄りかかっていたという事か。

「……クソッたれが。それを认めたくねェから、泥の中を这い回ってでも木原を杀すっつってンのが分かンねェのか」

「分からないね。望んだ程度で何でも上手くいくなら、仆は最初から医者になどなっていない。山に|笼《こも》って三六五日|瞑想《めいそう》しているだろうさ。そんな事じゃ物理的に人は救えないから仆は医者になった。はっきり言ってやろう。君の主张は|全《すぺ》て、实现性を无视した子供のワガママだ』

「ならどうしろってンだ?|木原《きはら》みてェなクソ野郎のせいで、あのガキがボロボロにされるのを见て、にっこり笑颜で良かった良かったって言えばハッピ—エンドかァ?」

『そうだ。そのために医者がいる』

|激昂《げつこう》にもカエル颜は动じない。

すらすらと、流れるように言叶が续く。

『腕が折れようが|皮肤《ひふ》が|剥《は》がれようが内脏が|溃《つぶ》れようが、生きて仆の元まで连れて来れば必ず治す。命を守り伤迹も残さず精神的なケアまで含めて|完壁《かんぺき》な形で君の大切な人を救ってみせる。

その期待に|应《こた》えるのが医者ってものだ。だから|一方通行《アクセラレ—タ》、君は余计で|无驮《むだ》な高望みなどせず、ただただ|打ち止め《ラストオ—ダ—》の「命」を助ける事だけを优先しろ。それが一番大切なものだ。仆みたいな未熟者の腕では取り返せない唯一のものだ、违うかい?もしも违うというのなら、あの子の命よりも大切なものを今ここで言ってみろ』

いや、何も思っていないはずがない。

大人の都合で子供の命が夺われようとしている、この事态に对して。

そして。

彼は自分の立场を完壁に理解している。慌てふためき、|唤《わめ》き散らしても何も解决しないと分かっているからこそ、ひたすら『医者』として战おうとしているのだ。

『木原?「|猎犬部队《ハウンドドッグ》」?そんな退屈な|前哨战《ぜんしようせん》はさっさと终わらせろ。|打ち止め《ラストオ—ダ—》を早く仆の元へ回して决胜战を始めさせてくれ』

その後、|一方通行《アクセラレ—タ》は、カエル颜の医者が病院を一时放弃したらどこへ身を隐すのかを教えてもらった。|打ち止め《ラストオ—ダ—》を回收した场合はそちらへ回すように、との事だった。

彼は受话器を置く。

公众电话のガラスの扉に背中を预ける。

(……、无伤では助けられない。どんな最高峰の手を打ってでも、必ずあのガキは伤を负う、か〉

|一方通行《アクセラレ—タ》は一度息を吸って、|吐《は》いた。

『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』は|嗅觉《ほゆうかく》センサ—を使っている。自分はもちろん、|打ち止め《ラストオ—ダ—》の探索にも利用しているだろう。ただでさえ彼女は|穷地《きゆうち》にいるのに、さらに|魔《ま》の手が伸びる速度は增している。

余裕はない。

だから觉悟を决める。

「上等じゃねェか……」

全てを受け入れた後に残ったのは、笑みだった。

ブチリと裂けた、この世のものとは思えないほどに恐ろしい笑み。

「───あのガキを救い出すためなら、善人でも恶人でもぶっ杀してやる」

『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』は|嗅觉《きゆうかく》センサ—を持っている。

この位置も、すぐに|木原数多《きはらあまた》や『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』は突き止め、|袭击《しゆうげき》をかけて—るだろう。

まずはこれを迎击する。

そのための战场が欲しい。こんな所でのんびりしている暇は、ない。

[#改ペ—ジ]

行间六

|土御门元春《つちみかどもとはる》は学园都市外部へ|系《つな》がるゲ—ト目指して走っていた。

降りしきる雨脚は弱まる气配を一向に见せず、月の光は|遮《さえぎ》られ、雨音が集音作业に|恶影响《あくえいきよう》を及ぼし、周围の|?《にお》いまでも消し去っていた。ずぶ|濡《ぬ》れの景色は、それだけで夜战の死亡率を格段に引き上げている。

(都市机能の大半が死んでやがる。暴动だの略夺だのが起きていないのは幸运だな)

走る势いを落とさず、それでいて周围をくまなく观察しながら、土御门は心の中でそう|?《つぶや》いた。

街の治安を|司《つかさど》る|警备员《アンチスキル》や|风纪委员《ジヤツジメント》はほぼ|坏灭《かいめつ》状态と言っても良い。一部のメンバ—はまだ动けるようだが、たったそれだけの人数で学园都市全域をカバ—できるはずがない。もしもこの都市机能が|麻痹《まひ》した状态に|谁《だれ》かが气づけば、店のレジや商品棚などはあっという间に|袭击《しゆうげき》、|强夺《ごうだつ》されるだろう。

今の所そうなっていない理由としては、学园都市は基本的に终电终バスが最终下校时刻に设定されているため、大半の人间が『外の异变』に气づいていない事、そして『外の异变』に气づく前に、やはり学生の多くも正体不明の攻击にさらされ、意识を夺われた事などが举げられる。

攻击。

より正确には、|魔术《まじゆつ》サイドからの攻击だ。

その言叶に、土御门元春は奥齿を|啮《か》む。

もっとも、|战斗下《せんとうか》において、彼の思考は极限まで均一化されているため、それは分かりやすい感情の波としては表れないが。

(『神の右席』か。话に闻いた事ぐらいはあったが、まさかここまでやるとはな)

静まり返った街を走りながら、土御门はむしろ感心していた。

彼は优れた魔术师だ。

にも|拘《かかわ》らず、これだけ大规模な魔术攻击にさらされてなお、自分|达《たち》がどういう种类の术式を受けているのかが全く分析できない。|完璧《かんぺき》に|烟《けむ》に卷かれていた。

(しかし、アレイスタ—の言う一人だけで济むはずがない。必ず|他《ほか》にも集团がいる。都市机能が麻痹しかかっているこの状况で、そんな连中にまで踏み?まれればこの街は终わりだ)

『神の右席』のメンバ—と同时に战斗部队が踏み?んで来なかったのは、奇妙と言えば奇妙だった。だが、それは单に人数の问题かもしれない。例えば一万人ほどのメンバ—が外で待机しているのだとすれば、彼らが最初から学园都市に|踏《ふ》み?んでも、二三○万人全员と战う羽目になる。しかし『神の右席』が手始めに学园都市の战力を|削《そ》ぎ落としてしまえば、侵攻部队の损耗率は格段に低くなるはずだ。

敌战力の数は不明。

学园都市外周に、どのように配置されているかも不明。

(……だが、今すぐ踏み?んでくるほどでもない、か)

学园都市の总员は二三○万人。これに对し、例えばロ—マ正教侧が一○○○万人を投入してきた场合、わざわざ外周で待机する必要はない。ヴェントの先攻もいらない。力押しで制压しようと考えるはずだ(もちろん、学园都市の超能力や兵器群は单なる人员だけで计算できない部分もあるが、ロ—マ正教が适切にそれを认识しているとは思えない)。

现时点では、意外に待机组の人数も少ないのかもしれない。

ヴェントを先攻させ、|沈默《ちんもく》した街の『後始末』をするぐらいの数しか。

(それでも、一人でやり合える人数じゃあなさそうだがな)

|土御门元春《つちみかどもとはる》に求められているのは、敌の|纤灭《せんめつ》ではない。

学园都市の都市机能が回复するまで、街の外で待机している侵攻部队を绝对に|敷地内《しきちない》に入れない事。それが彼の胜利条件だ。アレイスタ—の、ではなく、土御门元春が自分で决めた胜利の。ヴェントの方は|他《ほか》の人间に任せるしかない。

しかし、どれだけいるかも分からない敌を、いつ都市机能が复旧するかも分からない状况で足止めし续けるなど、ほとんど自杀行为にも等しい。

(普通の警备员も使えない。オレと似たような连中[#「オレと似たような连中」に傍点]も别口の用件がある)

他に协力してくれる仲间はいない。

状况を打破できるスペシャルな兵器や|魔术《まじゆつ》にも当てはない。

だが、

(この街には|舞夏《まいか》がいる)

魔术の世界になど何の缘もなく、ただ家政妇を目指している妹の事を、彼は思う。

それだけで战う觉悟は决まった。

(その他|全《すべ》てを里切っても良いが、オレはアイツだけは绝对に里切らない)

警备机能が完全に失われた第三ゲ—トをくぐり、土御门元春は学园都市の外へ出る。

|阴阳道《おんみようどう》を极めた魔术师として。

役にも立たない能力者として。

目的は一つ。

大切な者のいる世界を守るために。

[#改ペ—ジ]

<a name="chap2">第七章雨粒を血の色に变えるRevival_of_Destruction.

|黄泉川爱穗《よみかわあいほ》は车のハンドルを握っていた。

见た目は国产の安っぽいスポ—ツカ—だが、エンジン音が妙に低い。逃走者を追うために、见えない所をガチガチにチュ—ンしているのだ。ギアが七速まで入るという边りで、どれぐらい|无茶《むちや》をしているのかを想像して欲しい。

今日の午後にマンションからいなくなった|打ち止め《ラストオ—ダ—》を搜して、适当に车を走らせている译だが、

(……?どうにも、道が|空《す》いているような……)

元々、学园都市は学生の街だ。

教员や业者、大学生ぐらいしか车を使えないため、普通の大都市圈に比べると交通量はそれほどでもない。

しかし、それにしても今日は车がない。

定期的にワイパ—の动いているフロントガラスの向こうに广がっている道は、それこそただの滑走路のように见える。

「どうなってんだか……」

黄泉川はつい|?《つぶや》いた。

その时、カ—オ—ディオの代わりに突っ?んである车内无线のランプが光った。彼女はウィンカ—をつけると、速度を落として路侧带へ车を寄せて停车する。

无线机の方を见ると、ガ—ッ、という低い音と共に叶书サイズの纸切れが|吐《は》き出されてきた所だった。

デジカメ用の小型プリンタ—と原理は同じだ。|警备员《アンチスキル》の司令本部から各端末へ、指名手配者の颜写真などを送る时に使われるものだ。

写真は粗かった。|远距离《えんきより》から撮ったものだろうか。カメラが摇れていたらしく、轮郭もぼやけている。それでも、大势の|警备员《アンチスキル》が倒れている中、黄色い服を着た女が突っ立っているのが分かる。

「?」

黄泉川は户惑った。

普通なら、写真の|他《ほか》にも现场の情报などの文字情报もプリントされているはずだが、それがない。これでは、そもそも写真の女が何をやったかも不明だ。何らかの事件の容疑者なのか、それとも保护对象なのかも判断がつかない。

迷子になっている|打ち止め《ラストオ—ダ—》も气になるが、やはり优先顺位は「迷子』より『事件』だ。

|黄泉川《よみかわ》は无线机のスイッチを押して、それから言った。

「こちら黄泉川から本部へ。コ—ル334についての详细を求める」

连络ミスかな、と思って确认を取ろうとしたのだが、返事がない。

サ—ッ、という低いノイズだけが彼女の耳に届く。

その後も何度か无线机に向かって话しかけたが、应答が返ってくる事はなかった。

「……、」

黄泉川は无线机のスイッチを切る。

路侧带に|停《と》めた车の中で、黄泉川は叶书サイズの纸切れを改めて|掴《つか》んだ。そこには、雨の中で倒れている|警备员达《アンチスキルたち》と、その真ん中に突っ立っている黄色い服の女が写っている。

(この女……)

もう片方の手の指で、写真の中の女を|弹《はじ》く。

(一体これは何なんだ。见た感じじゃ、保护对象ってツラじゃないじゃんよ。まるで、ウチの|同僚《どうりよう》を|叩《たた》き|溃《つぶ》した後みたいな……)

不气味な感触が、黄泉川の背筋を驱け拔ける。

それと同时に、自分の同僚が地面に伏している事に怒りを觉え、

(ま、ツラを见かけたら丁重[#「丁重」に傍点]にお话を|伺《うかが》うとしますか───)

适当に考えたが、黄泉川が再びスポ—ツカ—を走らせる事はなかった。

ゾン!!と。

黄泉川|爱穗《あいほ》の脑に、唐突に|冲击《しようげき》が走ったからだ。

「あ……ッ!?」

悲鸣すら上げられなかった。

そのまま全身から力が拔け、彼女の上半身がハンドルにのしかかった。胸が压迫されて苦しかったが、どうする事もできない。体の|芯《しん》から指先まで、|全《すべ》ての力が夺われている。

急速に视界が|狭《せま》まっていく。

(な、にが……)

译の分からないまま、黄泉川の意识が落ちていく。

だらりと下がった腕から、ほんの数十センチの所に车内无线のスイッチがあった。しかし、手が动かない。助けを求められない。呼吸すらもままならなくなってきた。

(……この、写真)

气をつけろ、という|同僚《どうりよう》からのサインだったのかもしれない。もしかしたら、自分と同じ状况に|陷《おちい》った|警备员《アンチスキル》が、最後の力を振り绞って送信してきた可能性もある。

だが、それが生かされる事はなかった。

(……くそ……)

亲指と人差し指の间に挟まっていた写真が、ひらりと落ちた。

それと同时に、|黄泉川爱穗《よみかわあいほ》の意识も完全に失われる。

车のない道路。

やけに静かな街。

应じない车内无线。

……もしかすると、とてつもない规模で事态は进行しているのかもしれない……。

「第三资源再生处理施设、か」

黑ずくめの一人は、第五学区の一角にそびえる建物群を见て唇を动かした。

ここは第七学区のすぐ|邻《となり》にある施设だ。|一方通行《アクセラレ—タ》や『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の逃亡者|达《たち》が使っていたワンボックスは、第七学区侧の公园近くに乘り舍ててあった。

「|厄介《やつかい》な所に逃げ?まれたな、ナンシ—」

同僚の言叶に、言われた本人は思わず笑っていた。

何がナンシ—か、と本人でも|?《つぶや》いてしまうが、そういうコ—ドで呼び合ってい乃のだから仕方がない。

ナンシ—はいかにも普通の日本人ですという黄色人种だ。发も目も黑いし、その事に全くコンプレックスを抱いていない。コ—ドもできれば汉字にして欲しかったものだ。きっとが尉笺はネット上で派手なハンドルネ—ムをつける人间なのだろう。

|漆黑《しつこく》の装甲服やマスクで全身を|覆《おお》っているが、それでも成熟した女性らしいラインは隐せない。『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』は男女间わず、とにかくクズばかりを集めた组织なので、ナンシ—の|他《ほか》も何人か女性がいた。もっとも、同性だからと言って妙な连带感が生まれる事はない。この组织の人间は、事件の容疑者を追い诘める快感にのめり?んだ元|警备员《アンチスキル》や、取调べに『伤のつかない拷问』を持ち?んだ分析技术者など、基本的に全员が全员轻蔑すべきクソ野郎どもなのだから。

彼女は、手の中の道具をゆっくりと摇らしていた。

オモチャの铳にも似た机材───|嗅觉《きゆうかく》センサ—だ。

さらにグリップのすぐ上、|拳铳《けんじゆう》で言うならハンマ—のある边りに、三インチぐらいの小さな液晶モニタが取り付けられていた。そこにはたくさんの棒グラフが绝えず上下している。コンポの画面に表示される音阶のバ—のようだ。

「标的の『|?《にお》い』はあっちへ续いているわ。まず间违いないでしょうね」

ナンシ—は後方に控えている|同僚《どうりよう》へそう言った。

?い。

警察犬などは、今日のような雨で?いを追尾できなくなるが、その问题もこちらでは、かなりの割合で解决できる。?いが流されるのは、『?いが消える』ではなく『?いが混ざる』方が多いためだ。センサ—なら混ざった?いにも对处できる。

彼らは『?い』の先へ视线を移す。

「でかい施设だな」

ナンシ—の|邻《となり》に立った黑ずくめの一人がそう言った。

|无驮口《むだぐち》だが、その通りではある。

彼女の目の前に广がるのは、およそニキロ四方にわたる巨大施设だ。用途はゴミの再利用。元々资源の乏しい学园都市では、基本的な纸资源から、铁やアルミといった金属ゴムやプラスチックなどの石油制品、」その他にも多くの物品を再利用している。ここは第五学区を中心に周边四つの学区から出た『资源』を回收し、使える形に加工していくための施设という译だ。

その广大な|敷地《しきち》は、どこか海岸の石油化学コンビナ—トを连想させた。直径が一○○メ—トルを超す圆筒形の燃料タンクがズラリと并ぶ一角もあれば、无数の烟突が突き立った工场区画もある。

それにしても、再利用施设ときた。

クズみたいな人间が战う场所としては、あまりにもうってつけだ。

「ナンシ—。ヤツの目的は何だと思う?」

ロッドがそんな事を寻ねてきた。

「この施设が战略上、重要になるとは感じられない。しかし、单に物阴に隐れるなら、わざわざセキュリティをかいくぐって、こんな所へ来るのは手间だ」

「ふん。案外、それぐらい简单かもしれないわ」

ナンシ—が投げやりに答えると、ロッドは不满そうな颜になった。そんな彼の目前で、ナンシ—は|嗅觉《きゆうかく》センサ—を轻く振る。

「こいつから逃れるために、ゴミ处理场を经由して?いを消す气でいるのかも」

「……ヤツもこちらの装备品を知っている译か」

「オ—ソンの|马鹿《ばか》が标的と|一绪《いつしよ》に逃げたからね。车内には装备品のスペアもあった」

ゴミの?いをつけただけで嗅觉センサ—をごまかすのは难しいが、?いの分子构造を变える、ある种の洗净剂を使えば话は变わる。『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の|隐蔽班《いんぺいはん》が专用のものを开发しているが、この手の资源处理施设なら、同种の药品があってもおかしくはない。

苦肉の策だな、とナンシ—は|薄《うす》く笑ってから、同僚に寻ねる。

「ロッド、施设の见取り图は」

「|书库《パンク》から入手济み」

「全员に转送。それから作业员の数や巡回ル—トは」

「巡回ル—トは气にしなくて良いな」ロッドと呼ばれた男はアッサリ告げた。「内部のほとんどは自动化されている。作业员は一四人ほどいるが、全员コントロ—ルセンタ—でキ—ボ—ドを|叩《たた》くのが仕事だ。机械系のメンテナンスを外部组织から派遣で招くほどだそうだ」

「よし。後始末の手间も省けるわね」

ナンシ—は适当に言って、|嗅觉《きゆうかく》センサ—を|同僚《どうりよう》に渡した。|肩纽《かたひも》で|提《さ》げていたサブマシンガンのチェックに移る。

ロッドは见取り图を表示した小型端末を轻く振って、

「出入り口が二四ヶ所もある。これを|全《すべ》てカバ—した上で、内部の施设を一つ一つくまなく探索するのは人数的に不可能だ」

今の『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』は正体不明の敌に对する阳动、|打ち止め《ラストオ—ダ—》を追っている别动队、|木原数多《きはらあまた》の周围を固めるガ—ド系など、あちこちに战力を分散している。そのため、今ここに集まっているのは一○人程度のものだった。

「标的の动きをこちらで|诱导《ゆうどう》すれば良いわ。敌はこちらを大人数だと思い?んでいるはず。地图上のA地点から|攻击《こうげき》し、意识を诱导した上で非常口Cから|奇袭《きしゆう》をかける。爆弹をいくつか投げ?めば简单に摇さぶれるはずよ。分かった?」

「ヤツがチカラを使って突破してきたらどうする。诱导にならないぞ」

「|大丈夫《だいじようぶ》」

ロッドの声に、ナンシ—はもう一度施设を见た。

分厚いコンクリ—トに金属制のパイプが何重にも|络《から》み付いているような、重工业施设を连想させる建物群を。

「木原さんの言叶が本当なら、标的はそれほど万能でもないわ」

「これだな……」

|一方通行《アクセラレ—タ》は第三资源再生处理施设のコントロ—ルル—ムで小さく笑った。

窗のない小さな部屋の四方の壁に、何十ものモニタが据えられた部屋だ。工场の作业状况からセキュリティモ—ドまで、その全てがここで制御されている。

一四人の作业员は、ショットガンを手にした侵入者になす|术《すべ》もなく、あちこちで体を缩めて|震《ふる》えていたが、|一方通行《アクセラレ—タ》はそちらを见ない。彼が|睨《にら》んでいるのは、モニタの一つ。そこには工场に备えられている洗净剂のリストがあった。

|一方通行《アクセラレ—タ》が求めているのは、|?《にお》いの粒子そのものを化学反应で『别の物质』に变えてしまう洗净剂だ。

(见つけた。何种类かあるな。コイツで连中の『|嗅觉《きゆうかく》』を振り切れる)

|木原数多《きはらあまた》を含む『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』と|彻底《てつてい》抗战する觉悟は决めたが、かと言って『常に|袭击《しゅうげき》を受ける侧』であるのは好ましくない。能力をフルに使って战えるのは、あと七分もないのだ。木原本人ならともかく、部下の『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』で|无驮遣《むだづか》いするのは|避《さ》けたい。そう考えると、|战斗《せんとう》の主导权はこちらが|掴《つか》んでおいた方が良いに决まっていた。

もちろん、最も重要なのは木原|达《たち》との战いではなく、|打ち止め《ラストオ—ダ—》を无事に助け出す事だが、

(|打ち止め《ラストオ—ダ—》を搜すにしても、今の时点で『|猎犬部队《ハウンドドッグ》』の追击は切っておくべきだ。むしろあのガキを回收してからの方が、流れ弹の危险性は增してくるンだからなァ!)

助け出した後の方が难易度は跳ね上がるのだ。|一方通行《アクセラレ—タ》の能力は元々彼一人だけを守るものだし、『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』が现れるたびにその力を使っていてはバッテリ—が|保《も》たない。

そういった意味でも『いつ战っていつ避けるのか』は、こちらで掴まなくてはならない。

(さっさと洗净剂で自分の|?《にお》いを消して、ここから立ち去るとするか。木原の手があのガキに届くまで时间はねェ。こンな所でチンタラ寄り道してねェで、一刻も早く本命に戾ンねェとな。洗净剂は施设のどこに置いてあるンだ……?)

その时、ザザッ!!とモニタが摇れた。

コントロ—ルル—ムにある数十のモニタの映像が、次々と灰色のノイズに|搔《か》き消されていく。それらが全灭する直前、この施设の北侧第二出入り口のセキュリティ映像に、チラリと黑ずくめの男が映った。

第三资源再生处理施设全域の警报装置を|完壁《かんぺき》に|溃《つぶ》す腕があれば、カメラの位置も分かっていたはずだ。となると、あの黑ずくめは自分の居场所をわざと知らせ、こちらを|诱《さそ》っている事になる。

(クソッたれが!予想よりも早いじゃねェか!!)

この施设はもう围まれている。

|一方通行《アクセラレ—タ》は|杖《つえ》をつかなくては移动できない。つまり速度を出せない。洗净剂で嗅觉センサ—から逃れたとしても、施设に入ってくるこの一团だけは相手をしなければならないだろう。

连中からは逃げられない。そして、

(逃げるつもりもねェ。あのスト—カ—ども、ここで|叩《たた》き溃してやる)

|一方通行《アクセラレ—タ》は杖の代わりにしているショットガンに体重を预けつつ、周围を见回した。

正真正铭、ただ卷き?まれただけの作业员达に警告する。

「これからここで铳击战が起こる。战斗が终わっても後续の连中が押し寄せてくるかもしンねェ。オマエ达は铳声が|止《や》ンだら二○分ぐらい待って、作业服から私服に着替えて施设を出ろ」

|颔《うなず》いているんだか|震《ふる》えているんだか分からない返事だけが返ってくる。

(面白ェ。こっちの|驹《こま》は何だ……)

状况を确认する。

能力は使えそうにない。工场内は分厚いコンクリ—トに阻まれ、外部との电波通信の精度は落ちる。その上、ここには资源再利用のために、ベルトコンベアやプレス机など、かなり大型のモ—タ—が大量に设置され、强力な电磁波を|撒《ま》き散らしていた。|妹达《シスタ—ズ》の脑波を电磁波に变えて电子|情报网《じようほうもう》を作るミサカネットワ—クが、完全な形で使えないのだ。

とにかく杂音が|酷《ひど》い。

调子の良い时と恶い时の落差が激しかった。通常の会话なら『ちよっと乱れる』で济むが、派手に能力を使っている最中にそれが起これば、そのまま暴发事故に|系《つな》がってしまう。

(どォせ、ここで力を使っちまうよォじゃ|木原《きはら》には届かねェが)

丸裸での|战斗《せんとう》は、今まで经验がない。

能力が使えないと、彼は|杖《つえ》をついて步く程度の运动能力しかない人间となる。

武器となるのは、杖の代わりに使っているショットガンが一丁。

マガジンの中に诘まっている弹丸は、およそ三○发前後か。

「どォする……?」

これだけの装备で、组织的な战斗を得意とする『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』を|迎鹭《げいげき》する方法を模索する。

わざとカメラに映った黑ずくめの存在を气にかけつつ、

(どォする?)

|一方通行《アクセラレ—タ》はモニタから目を|离《はな》し、纸の见取り图を探し出して、それを大きく广げた。

|诱《さそ》いに乘るか。诱いを|蹴《け》るか。すでにそこから攻防は始まっている。

|御坂美琴《みさかみこと》はコンビニにいた。

雨具の置いてあるコ—ナ—に彼女は突っ立っている。

「う—ん……小さい」

安物のビニ—ル伞を眺めながら、彼女はポツリと|?《つぶや》いた。この手の伞は、かさばらない方が人气なのだろうが、ここまでサイズが小さいと结局|濡《ぬ》れてしまいそうだ。

广々としたウィンドウから外を见ると、すっかり真っ暗になっていた。ガラスには割と大きな雨粒がぶつかっている。

御坂美琴は、|大霸星祭《だいはせいさい》での胜负で、|上条当麻《かみじようとうま》に|罚《ばつ》ゲ—ムを受けさせる权利を得ている。が、その罚ゲ—ムが途中でぶつ切りになってしまったため、彼女は今、上条をもう一度搜している译だが……。

「何で雨が降ってくんのよ」

彼女は学生|?《かばん》と|一绪《いつしよ》に|掴《つか》んでいる携带电话会社の纸袋に目を落とした。

(|ゲコ太とピヨン子《ストラツプ》は|濡《ぬ》らしたくないのよね)

そんな感じでうんうん|捻《うな》っている|美琴《みこと》の携带电话が不意に着信音を鸣らした。面倒臭そうな感じで电话を取り出す。

表示されているのは後辈、|白井黑子《しらいくろこ》の番号だった。

『おっねえさま—ん』

「何よ黑子」

『|风纪委员《ジヤツジメント》のお仕事で|寮《りよう》に归れないので、あのやかましい寮监に一言连络しておいて欲しいですの。ほら、もう门限も过ぎているでしょう?』

「ええと、私も今コンビニだから」

『ぎゃあっ!?』

白井はあまり淑女っぽくないレスポンスを返してきた。

そんな白井より少し远い位置から、别の声がスピ—カ—に入る。

『あれ—?白井さん、|御坂《みさか》さんに连络つかなかったんですか』

白井の|风纪委员《ジヤツジメント》の|同僚《どうりよう》、|初春饰利《ういはるかざり》のものだろう。

となると今、白井は支部にいるのだろうか。

『やかましいですの。お姊样はお外にいるから寮监に连络はつけられないとの事ですのよ。しかし、参りましたわね。门限延长の手续きには书类の提出が必要で、あの寮监は电话には应じませんし。これでは问答无用で二人とも减点を食らいそうですの』

『へぇ—。ところで、御坂さんて今日は何で门限ぶっちぎっているんでしょうね?』

『ッ!?』

ハッと息を|吞《の》む音が闻こえ、续いて、ミシイッ!!という钝い音が闻こえた。おそらく携带电话に猛烈な握力が加わっているのだろう。

白井黑子は寻ねてくる。

『まっ、まさか……あのままお姊样は腐れ类人猿とついに夜のデ—トを!?おのれあの野郎、雨の夜景を乐しむなんてまた随分と涩いチョイスを!!』

「违うわよクソ|马鹿《ばか》!!」

美琴は思わず叫び返していた。

しかし白井は闻いていないようで、

『くっ、こうしてはいられませんわ。お姊样の贞操を守るのはわたくし白井黑子の务め!!』

「てっ、贞操とか大声で言うな!」

『ならばより具体的に言うと』

「言うなッ!!」

美琴は颜を真っ赤にして叫んだが、もう白井は|完壁《かんぺき》に人の话を闻いていないらしい。スピ—カ—からマシンガンみたいに言叶が飞んでくる。

『ともあれそっちに行きます必ず行きますお姊样は今どこにいるんですのGPSサ—ビス使うので认证用のコ—ドメ—ルを送ってくださ───』

『|驮目《だめ》ですよ—』

|初春《ういはる》の一言で|白井《しろい》マシンガンが弹诘まりを起こした。

さらに初春は续けてこう言った。

『ほら—、こっちの事务书类の束と会计书类の山と指示书类の山脉が全然终わってないでしょ。白井さん、今日は|彻夜《てつや》と言ったら彻夜なんです。晚御饭のお弁当は买ってあるんで一步も外に出ないでくださいお|风吕《ふろ》も驮目です』

『うがあああああああああああああああああああああああああああああああ—っ!!』

『ひっ、ひぎゃあ?白井さん、白井さん!!』

电话の向こうでバタバタという音が闻こえる。

携带电话を|若干《じやつかん》耳から远ざけつつ、|美琴《みこと》は|呆《あき》れたように言った。

「ええと、じゃあ切るわよ?」

|错乱《さくらん》している白井に代わって、初春の方が返事をしてきた。

「あ、はい。白井さんはこっちで押さえておくので、その、がんばってくださいっ!!』

「だからデ—トじゃないわよ!!」

美琴は全力で叫び返したが、向こうまで届いていないらしい。ドタバタという暴れる音が续いたと思ったら、そのままブツッと通话が切れてしまった。

|上条当麻《かみじようとうま》と|打ち止め《ラストオ—ダ—》は柱の阴に隐れていた。

明かりの消えたファミレス店内に、恐ろしいほどの|沈默《ちんもく》が满たされる。

绝望的な三○秒间だった。

あまりのストレスに脑の构造が崩れるかと思った。

しかし、柱の阴に隐れて息を杀している上条は、そこで异变に气づいた。

いつまで|经《た》っても男|达《たち》がやって来ない。

ファミレスに|踏《ふ》み?んできた黑ずくめの连中は、上条や

|打ち止め《ラストオ—ダ—》

の|大杂把《おおざつぱ》な位置を确认しているはずだ。ろくな武器も持っていない事だって分かっているだろう。铳器と装甲服で身を固めた集团が、わざわざ丸腰の高校生や女の子に警戒して、じっとしている译がない。

(どういう状况だ?)

安易に动くのは危险だという心と、

早く动かないとチャンスを失うかもしれないという心が交错する。

「……、」

密着するほど近くにいる|打ち止め《ラストオ—ダ—》が、心细そうにこちらのシャツを、ぎゅっと|掴《つか》んできた。

彼女の小さな手の存在が、かろうじて|上条《かみじよう》の平常心を守る手助けとなる。

さらにそのまま三○秒が经过した。

目立った物音はない。

割れた窗から雨が吹き?む音だけが、妙に上条の耳につく。

息を杀す。

目を|瞑《つぶ》る。

时を待つ。

そして、动きがあった。

「ハッアァ—イ?びっくりしちゃったカナ。怖がってないで出ておいで—?」

闻こえてきたのは甲高い女の声だった。

上条からでは、自分が盾にしている柱のせいで颜を确认できない。

どこにいるかも分からない。

ただ、

(何だ?これまでのヤツらと明らかに违う动きだ)

さっきまで上条|达《たち》を追い诘めていた黑ずくめ达は、できるだけ自己主张を|避《さ》け、音も声も出さずに最速でこちらを杀そうとしていた。言ってしまえば、可能な限り|无驮《むだ》を省いた、最低限の行动しか取っていない。

それに对して、女の声は正反对だった。

そもそも声を出して自分の存在をアピ—ルする时点で、黑ずくめの行动パタ—ンとは『合わない』。男女の区别どころか人间かどうかも分からない、影のような存在からは最も远いコマンドのような气がする。

(となると、黑ずくめの仲间って译じゃ、ないのか?)

かと言って、安易に出て行くのも危险な气がした。そもそも声の主は|谁《だれ》なのだ。

「ハハッ。怖がってるなあ。ま、あんだけピンチってたら仕方がないでしょうけどね。でもさ—、こっちにも事情があるからさ—、あんまり言うコト闻いてくれないと—」

女の声は笑いながら续ける。

こちらの动摇や警戒などお构いなしといった调子で、あっけらかんとした声で、

「グッチャグチャの块にすんぞコラ[#「グッチャグチャの块にすんぞコラ」に傍点]」

「ッ!!」

|上条《かみじよう》は|打ち止め《ラストオ—ダ—》の体を抱いて、とっさに柱の阴から飞び出すように床の上へ伏せた。

ドッ!!という|轰音《ごうおん》が|响《ひび》く。

见えない|一击《いちげき》が、ついさっきまで盾にしていた柱を横に|剃《な》いだ。攻击が当たったのは柱の中央らしく、くの字にへし折れた柱は、そのまま二つになって壁まで飞んでいった。あまりの速度に、炮弹のように壁を食い破ってバラバラに散らばる。

建物全体が|震《ふる》えた。

骨组みそのものが崩れたのか、ガッシャアア!!と锐い音を立て、黑ずくめの难を逃れていた店内のガラスが|全《すべ》て碎け散る。

上条は|打ち止め《ラストオ—ダ—》を|庇《かば》ったまま、视线を走らせる。

明かりの落ちたメインフロアの中央に、女が一人立っていた。

外からの街灯の光が、わずかにそのシルエットを照らしている。

妙な女だった。

服装は、中世ヨ—ロッパの女性が着ていたようなワンピ—スにも见える。发は全て头で束ねた布で|覆《おお》われ、毛の一本も见えなかった。颜は、口も鼻もまぶたにもピアスが取り付けられていて、バランスが崩れているほどだった。目元には强调するようなキツい化妆が栏ざれていて、威压感が余计に增していた。

そして、女の手。

そこには、全长一メ—トルを超す巨大なハンマ—が握られていた。グリップの中ほどから先端にかけては、锐い有刺铁线がグルグル卷きにしてあった。|柄《え》を|掴《つか》まれないための防御策か、それとも|仪礼的《ぎれいてき》な装饰なのか。

(……、)

确かに|殴《なぐ》られれば痛いでは济まないだろうが、かと言ってサブマシンガンを手にして、装甲服で身を固めている集团に、あれだけで胜てるとも思えない。にも|拘《かかわ》らず、一体何をどうしたのか、黑ずくめの男|达《たち》は女の周围に转がっていた。

意识のある者は一人もいないようだ。

(これは……)

サブマシンガンや装甲服で武装し、训练を积んでいたであろう黑ずくめ达を、物音一つ立てずにどうやって无力化させたのだろう。

(似ている……)

情报の不足が、不气味さをより强调させる。

(地下街を出た所で、バタバタ倒れていった|警备员《アンチスキル》达とか……)

分かるのは一つ、彼女もまた、上条达の味方ではないという事だけだ。

(さっき、ぶっ|坏《こわ》れた车の|侧《そば》で倒れてた黑ずくめの连中とか……ッ!!)

「お前は……」

|上条《かみじよう》は低い声で寻ねながら、|打ち止め《ラストオ—ダ—》の上から起きて、立ち上がった。

对して、女は正体不明のハンマ—を轻く摇らしながら、静かに告げた。

「『神の右席』の一人、前方のヴェント」

ヴェントと名乘った女は、イタズラのように舌を出す。

「目标发见。まあそんなワケで、さっさとぶっ杀されろ上条|当麻《とうま》」

舌に取り付けられた细い|锁《くさり》がじゃらじゃらと落ちた。

───その先端にあったのは、|唾液《だえき》に|濡《ぬ》れた小さな十字架。

|一方通行《アクセラレ—タ》の|潜《ひそ》む第三资源再生处理施设に、『|猎犬部队《ハウンドドッグ》』は音もなく侵入する。

コンクリ—トの工场内に入ると、机械の音は想像以上に骚がしかった。

こちらも切るべきだったか、とナンシ—は少し考えたが、余计に作业量を增やしても时间の|无驮《むだ》だ。おそちく今の|一方通行《アクセラレ—タ》はろくに能力を使えない状态だろうが、心理的な余裕を取り戾させるような事态は|避《さ》けるべきである。

ナンシ—の周围には五人ほどの|同僚《どうりよう》がいる。

彼女|达《たち》は|诱导《ゆうどう》系であるため、できるだけ『大人数』である事を夸示しなくてはならない。ナンシ—达がやたらめったら铳弹を|击《う》ち?む事で、标的が通路の奥へ逃げ?んだ所を别动队が待ち伏せる───そういう作战だった。

标的の通った|大杂把《おおざつぱ》な道は、先ほど同僚に预けた|嗅觉《きゆうかく》センサ—で追尾できる。その上で室内を索敌していけば、まあ行き违いになるような事もないだろう。

(あと|悬念《けねん》するべきは、铳か)

嗅觉センサ—では、标的の|?《にお》いは路上に|停《と》められていたワンボックスを经由してから、この施设へ向かっていた。车内には|谁《だれ》もおらず、予备の装备品を诘め?んだバッグがあった。ファスナ—は开いていたから、もしかすると铳器を持っているかもしれない。

(いや、|一方通行《アクセラレ—タ》の|射击《しやげき》能力はそれほどじゃない。能力に|赖《たよ》りきりの生活を送っていたヤツが、训练を积んでいる译がない。こちらの方がずっと有利と考えるのが妥当ね)

ナンシ—はそう考えた。

(それにしても……)

生产作业の大半を自动化しているためか、コンクリ—トの建物の中はエアコンなどもなく、蒸し暑かった。外は冷たい雨が降っているはずなのだが、绝えず动く巨大モ—タ—の热などが充满しているのだ。

じりじりと少しずつ神经を|炙《あぶ》られながら、彼らは钢铁の通路をゆっくりと步く。白々しい萤光灯の明かりすら、热を持っているように感じられた。

|紧张《ビんちよう》している。

だから|错觉《さつかく》する。ナンシ—はそう判断した。

チラリと|同僚《どうりよう》の颜を|窥《うかが》えば、黑いマスクで|覆《おお》われた彼らの动きも、|若干《じやつかん》ながらぎこちないというか、|强张《こわば》っている。

この施设は样々な要因で电波障害が起こる。

|一方通行《アクセラレ—タ》の能力は通信设备の补助を受けているらしく、『暴发の危险があるため、|一方通行《アクセラレ—タ》はほぼ确实にこの施设内で能力を使わない』というのが|木原数多《きはらあまた》の意见だった。

ナンシ—を初め、ここにいる『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』のメンバ—も、それは妥当だと考えている。これだけ制限が多い中では、灭多な事では能力は使わないだろう。强力な力であればあるほど、暴发のリスクは跳ね上がるのだし。

しかし、逆に言えば『追い诘められれば暴发觉悟で使ってくるかもしれない』という鲋叙は消せない。

本气になった|一方通行《アクセラレ—タ》を倒せるのは木原数多だけだ。

ナンシ—が?う铳弹や爆弹では、文字通り齿が立たない。

(だから『向こうが追い诘められたと感じる前に杀す』のが铁则)

そのための诱导作战だ。

标的はこちらに警戒するが、奥へ逃げ?んだ事で气を|缓《ゆる》める。その|瞬间《しゆんかん》を|狙《ねら》って别动队が射杀する。それを成功させるためには、多少のリスクを负ってでも前に出て|一方通行《アクセラレ—タ》の注意を引きつける必要がある。相手は强大な能力を使えないとはいえ、铳を持っている可能性は高い。下手に阳动を演じる事だけに气を取られていては、头を|击《う》ち拔かれる危险もある。

(それはまぁ、紧张はするだろう。ここにいる连中は、私を含めて『さっさと杀す』事にしか惯れてない。こんな事态を念头に置いた训练など受けていないのだから)

兵队にも种类がある。

ジャングルでの活动に人质を巡る交涉术は必要ないし、都市型のスナイパ—は无人岛での生き方を觉えなくても问题はない。|无驮《むだ》を省き、その时间を别に回し、一つ一つの分野に特化した训练法を采用するからこそ、|尖《とが》った实力の特殊な部队が数多く作られる。

つまりナンシ—|达《たち》の置かれている立场は、砂漠战のために训练を积んだ兵队达が北极圈の雪山を步かされるようなものに等しい。

(できるのか……)

ナンシ—は黑いマスクの下で、ごくりと|唾《つば》を饮み?んで、

(……できなければ死ぬ)

カキン、と。

その时、小さな金属音が、ナンシ—の思考を|遮《さえぎ》った。

「!?」

ナンシ—|达《たち》は一齐にそちらへ铳口を向ける。

しかしそこには|谁《だれ》もいない。隐れるようなスペ—スもない。ナンシ—は体势を保ったまま、すぐ近くにいる|同僚《どうりよう》に、目と指を使ってコンタクトを取る。

「(……机材の出すものとは独立した音だったわね)」

「(……|俺《おれ》も同感だ。だが人がいるにしては、隐れる场所がない。何より有利なポイントとは思えない)」

「(……何か音の出るものを投げたという可能性は?)」

「(……だとすると、标的はすぐ近くに|潜《ひそ》んでいる事になる)」

全员に|紧张《きんちよう》が走る。

「(……ロッド。|嗅觉《きゆうかく》センサ—は)」

「(……待て。今、分析が终わる)」

鼓动が速くなる。引き金にかかる人差し指が小刻みに|震《ふる》えた。|皮肤《ひふ》と手袋の间に、うっすらと汗が湿る。

直後、

ガチン、と。

今度は|全《すべ》ての照明が一齐に落ちた。

まるでタイミングを计ったような|暗暗《くらやみ》。

光や音を使って紧张を促し、こちらを心理面からいたぶるための作战。

まずい、とナンシ—は今さらながらに气づいた。

ここでいたずらに引き金を引けば、密集している味方に被害が出る。铳口を上に向けようが、周围は壁も|天井《てんじよう》も金属の块だ。ばら|撒《ま》かれた弹丸は边りを跳ね返ってこちらに|牙《きば》を|剥《む》くだろう。

铳の安全装置の事まで意识が向かない。

このガチガチの指先を下手に动かせば、それだけで引き金を引いてしまうのでは、という考えに|缚《しば》られる。|一方通行《アクセラレ—タ》はこちらが暗视装备を持っていない事にも气づいているようだ。

「(……待て!!)」

とっさに目でコンタクトを取ったが、暗暗であるために相手に届かない。

声で传えるのが一番だが、それでは『敌』にこちらの居场所を传える羽目になる。

ドッドッドッドッ!!と心脏の鼓动が不气味に|响《ひび》く。

引き金の指が震える。

引き金……铳声……暴发……とナンシ—の头にイメ—ジが巡っていく。

そこへ、バァン!!という巨大な音が|炸裂《さくれつ》した。

心脏が止まるかと思った。

(くっ……あ……ッ!!あ、れは、スチ—ムの排气音!ただの音だ!!)

人差し指が动くのを何とか|堪《こら》え、これを起こしている标的を搜すために、さらに五感に神经を集中させ始めた所で、

「がっ!?」

突然真横で低い声が|响《ひび》いた。

ゴトン、と人间の倒れるような|震动《しんどう》が、床に接地した足から传わってくる。

つん、と鼻につく铁の|?《にお》いが感じられた。

(ま───ず)

冷静になれば、单に|暗暗《くらやみ》の奥からスパナなどを投げられただけだというのが分かっただろう。トリックをトリックだと见破れれば、逆にそれだけ心の余裕を取り戾せたかもしれない。

だが、

その『冷静さ』を段阶的に夺っていく事こそが、敌の|狙《ねら》いだった。

(あの野郎……能力だけじゃなく、人の恐怖すらも利用して───ッ!?)

ナンシ—がそう气づいた时にはもう迟く。

暗の中、全身に神经を集中させ始めた、まさにその时に。

がつん、と。自分の肩に工具がもう一本、それほど强くもない势いで飞んできて。

自分でも自觉がない内に、思っていた以上に冷静さを夺われていた体は胜手に反应し。

引き金にかかる指の震えが[#「引き金にかかる指の震えが」に傍点]、一定值を超えて[#「一定值を超えて」に傍点]、

复数の铳声が响き、さらに多くの铁の?いが充满した。

真っ暗暗のファミレス店内は、异样な|紧张《きんちよう》に包まれていた。

|上条当麻《かみじようとうま》は、ヴェントと名乘った女と|对峙《たいじ》している。

(ちくしよう。次から次へと……)

この女が|魔术《まじゆつ》势力の人间なら、先ほどと违って|幻想杀し《イマジンブレイカ—》の出番となる。しかし、だからと言って安心できる译がなかった。ヴェントの实力が本物なら、彼女はサブマシンガンで武装した四人を声も|漏《も》らさず|一瞬《いつしゆん》で|纤灭《せんめつ》できる腕前を持っているのだ。|幻想杀し《イマジンブレイカ—》うんぬんの前に、瞬杀される危险すらある。

それに。

倒れている黑ずくめ|达《たら》の样子をじっくり见た译ではないが、|怪我《けが》も出血もない状态は、今までさんざん见てきた『意识のない人达』とあまりに酷似している。もしもこの二つが同一のものだとすれば、学园都市全域の都市机能を|麻痹《まひ》させているのはまさに目の前のヴェントなのだ。

たった一人で科学サイドの顶点を|溃《つぶ》しにかかる女。

そう考えると、目の前の人物の危险度は黑ずくめ达の比ではない。

「|紧张《きんちよう》しなくても|大丈夫《だいじようぶ》ダヨ?」

じゃらじゃらと|锁《くさり》を摇らしながら、ヴェントは告げた。

「痛みなんて感じるヒマもないんだから」

ヴェントは、右手に持っている有刺铁线つきのハンマ—を无造作に振った。

|横殴《よこなぐ》りの|一击《いちげき》。

|上条《かみじよう》までの|距离《きより》は、轻く五メ—トル以上も|离《はな》れているはずだったが、

「!!」

|恶寒《おかん》に|袭《おそ》われ、今まで|庇《かば》っていた|打ち止め《ラストオ—ダ—》を突き飞ばし、とっさに身を|屈《かが》めた上条の真上を、何かが突き拔けた。その正体は细かい破片を|吞《の》み?んだ风の块だ。空气を食い、壁を破り、细かい|残骸《ざんがい》を中心部に吞み?み、透明から钝い色に变わり、空气の钝器が右から左へ、广范围にわたって突き拔ける。

ガゴン!!と建物全体が斜めに倾いた。

(ハンマ—を振り回して、飞び道具を|击《う》ち出す|魔术《まじゆつ》か……?)

血の气が引いた上条の耳に、パラパラという|欠片《かけら》が降る音が闻こえる。

周りには一般客も倒れているという事を、全く气に留めていない动きだった。

「隐れてろ、|打ち止め《ラストオ—ダ—》!!」

突き飞ばされた状态から起き上がろうとした|打ち止め《ラストオ—ダ—》に、上条は叫ぶ。彼女が四角い柱の阴へ移动するのを确认しつつ、

(何なんだよ、黑ずくめといい、この女といい……ッ!!)

上条は|齿啮《はが》みしたが、当然それでヴェントが止まる译がない。

ヴェントはさらに、後ろに下がりながら二度、三度とハンマ—を纵に横にと适当に振っていく。じやらんじゃらん、と舌に|系《つな》がる锁が振り回されるように摇れていく。ハンマ—の轨道は、いずれも舌の锁を|掠《かす》めるような危うい轨道だった。现に数回、オレンジ色の火花が散っている。ほんの数ミリ|狙《ねら》いがズレれば舌と锁とを系ぐピアスを引き|千切《ちぎ》るはずだが、ヴェントの表情には余裕さえある。

ヴェントのハンマ—が、空气を引き裂いていく。

ゴッ!!という爆音が耳を打った。

|破坏《はかい》の|岚《あらし》が卷き起こる。

ハンマ—は、重たい铁球を飞ばすバットのようなものだった。テ—ブルが吹き飞び、床がめくれ上がり、倒れている黑ずくめ|达《たち》の手足が飞んで、ぐったりしている客の上にボトリと落ちた、|上条《かみじよう》の头はカッとなったが、自分の方へ飞んでくる风の钝器に对处するのが精一杯だった。

ドン!!と、上条の右手に触れた途端、空气の钝器は|弹《はじ》けて消える。

|幻想杀し《イマジンブレイカ—》。

あらゆる异能の力を打ち消すこの能力がなければ、彼の体はとっくに碎けているだろう。

风の块は、ただ|真《ま》っ|直《す》ぐ飞ぶだけではない。右や左からカ—ブを描いて上条の进路を|塞《ふさ》ぐ事もあれば、足を止めた彼の头上から真下へ突き落とす|一击《いちげき》もある。

「ハハッ、|流石《さすが》はウワサの右手。よく顽张ってついてくるねぇ!!」

ヴェントは笑いながら、ハンマ—を上から下へと思い切り振り下ろした。それに伴って、|破坏《はかい》の风が卷き起こる。

(纵か!!)

上条は慌てて右手を头上に揭げたが、

风の块は、右から左へと横へ[#「右から左へと横へ」に傍点]一气に突き拔けてきた。

「……ッ!!」

上条の全身から冷や汗が喷き出す。とっさに背中を反らし、上半身だけを後ろへ下げる。ゴオッ!!という嫌な音が颜の前を突き拔け、鼻先の|皮肤《ひふ》がわずかに削り取られた。

真横の壁が、ベゴン!!と音を立てて碎け散る。

ただでさえ斜めにズレていた|天井《てんじよう》が、さらに危うい|震动《しんどう》を发した。

(何だ?ハンマ—と攻击の轨道がズレてる……ッ!?)

上条の头に疑问が|涌《わ》くが、ヴェントがいちいち答えるはずがない。

「ぎゃははははははっ!!たっのしぃ—い!!」

动きに合わせてヴェントの舌についた长い|锁《くさり》が左右に摇れる。

その先端に取り付けられた十字架が、ギラリと不自然な光を放った。

チカチカと、二度三度にわたって点灭が续く。

そこでヴェントは、あてが外れたといった颜で|眉《まゆ》をひそめた。

「なるほどなるほど」

ゴンガンバギン!!と|轰音《ごうおん》を立て、次々と荒い风の攻击を打ちながらヴェントは兴味深そうに|颔《うなず》いた。完全にあしらわれている。五メ—トルの|距离《きより》が诘められない。

「幻想杀し、って言ったっけ?その右手、报告にあった通り效き目バツグンみたいねぇ。所々に织り交ぜてる私の[#「所々に织り交ぜてる私の」に傍点]『本命[#「本命」に傍点]』が全く效いてないわ—[#「が全く效いてないわ—」に傍点]」

本命?と右手を振り回しながら上条は相手の言叶について考える。

|幻想杀し《イマジンブレイカ—》の报告があった、というのも气になる。ロ—マ正教の中で、上条|当麻《とうま》の重要度が变わってきているのかもしれない。

「しっかし、こんだけじゃ良く分からないし……よし、试してみるか」

「?」

「こうすんだよっ!!

ヴェントは腹の底から叫ぶと、手にあったハンマ—を手前から横方向に振るった。

ボッ!!という|轰音《ごうおん》と共に、空气の钝器が生み出される。

|上条《かみじよう》から|狙《ねら》いを大きく|逸《そ》らし、テ—ブルに突っ伏したまま气を失っている一般客へと。

「テメェ!!」

とっさに、飞び?むように右手を突き出した。客の头のわずか手前で空气の钝器が右手の先に触れ、四方八方へ吹き飞ばされる。その|一击《いちげき》には、ゾッとするほどの威力が含まれていた。

头の|芯《しん》まで通る怒りが上条を|袭《おそ》う。

それを眺めて、ヴェントは兴味深そうに目を细めた。

「……へぇ、そうなってんのねえ。意外に使い胜手は恶そうに见えるけど?」

战力调查か、と上条は思った。

ヴェントは|幻想杀し《イマジンブレイカ—》の具体的な效果范围でも调べているのかもしれない。

「すみませ—ん」

今の所、攻击は防ぎ续けているが、ヴェントの颜に|焦《あせ》りはない。

「な—んか痛みを感じる间もなくってのは无理みたい。コイツは直接ぶっ杀さなくっちゃあ、ね。意识が残ってると|无茶《むちや》イタイっつ—か、こりゃショックで死ぬでしょうね。だから幸せに

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なりたかったらマゾにでも目觉めてね?」

じゃらん、という|锁《くさり》の|擦《こす》れる音が闻こえた。

ヴェントの舌についた锁が、彼女の动きに流されて、右から左へ弧を描いていた。ヴェントはその锁に|掠《かす》めるようにして、ハンマ—を纵方向に思い切り振り回す。

バヂッ!とオレンジ色の火花が散った。

(ッ!?さっきっから)

それを吹き飞ばすように、右から左へ戾るカ—ブの轨道で空气の钝器が|袭《おそ》いかかってくる。

(ハンマ—の动きと|攻击《こうげき》の动きがズレてやが───)

舌に取り付けられた锁の轨道をなぞるように。

(このパタ—ン!?)

そちらに|诱导《ゆうどう》されるように。

「まさか……その锁の十字架!!」

|上条《かみじょう》は右手で风の武器を握り|溃《つぶ》しながら叫ぶ。

应じるようにヴェントは笑った。

「や—ん、バレちゃった—っ!?」

さらに十字架のアクセサリをつけた长い锁が纵横无尽に轨道を描いていく。ヴェントが锁に掠めるようにハンマ—を振るたびに、锁のラインをなぞるようなル—トを|?《たど》って空气の钝器が飞んでくる。

(ちくしょう!分かっていても防ぎづらい!!)

|冲击波《しようげきは》を生み出す大振りなハンマ—の轨道に、ついつい反应しかけてしまう。しかし实际には、ハンマ—と锁の动きはそれぞれ违っていた。上から振り下ろされたと思えば锁はカ—ブのラインを描いているし、真横にハンマ—が振るわれたと思えば锁は下から上へ向かっている。

『攻击のモ—ション』と『实际に飞んでくる攻击の方向』がそれぞれズレているのだ。少しでも视觉を|骗《だま》されれば、反应が迟れて体を切断されてしまう。

「くそっ!!」

「あらん。何だか面倒臭くなってきちゃったなオイ」

ゴッ!!と、一层强く风の钝器が袭いかかってきた。

その上、钝器は直接上条を|狙《ねら》わず、わずか手前の床に落としてきた。床材がめくれあがり、大量の木片へと|变貌《へんぼう》し、锐い破片となって上条の体に袭いかかる。

「ぎっ、ァァああああああッ!?」

一ヶ所を刺されるというより、全身を|叩《たた》かれた。

上条は後ろへ飞ばされる。そのままゴロゴロと转がっていく。

痛みに|朦胧《もうろう》とする头を振って、必死に意识を回复させる。

いつの间にか、|打ち止め《ラストオ—ダ—》のすぐ後方まで押しやられていた。

ハッと、|上条《かみじよう》は床から颜を上げる。

柱の阴に隐れていたはずの|打ち止め《ラストオ—ダ—》が、立ち上がってこちらへ驱け寄ろうとしている。

「逃げろ!!」

「んふ」

上条の绝叫に、ヴェントは乐しそうに乐しそうに笑った。

彼女の|攻击《こうげき》なら、柱ごと|打ち止め《ラストオ—ダ—》を|叩《たた》き|溃《つぶ》すのも难しくはない。

|打ち止め《ラストオ—ダ—》は动かない。动けないのか、自分の意思で动かないのか、上条には分からない。

このままでは、彼女の小さな体はグチャグチャの肉に变わってしまう。

「くそっ!!」

上条は床から走り出すと、突っ立っている|打ち止め《ラストオ—ダ—》を床へ突き飞ばした。彼女が倒れるのと、ヴェントの攻击が放たれるのは同时だった。生み出された空气の钝器は|容赦《ようしや》なく柱をへし折り、。そこで上条の右手に打ち消される。それでも大量の破片が|撒《ま》き散らされた。

ここはもう危险だ。

|打ち止め《ラストオ—ダ—》を一刻も早くここから|避难《ひなん》させなければ。

「行け!!早く!!」

上条は叫んだが、|打ち止め《ラストオ—ダ—》は|呆然《ぽうぜん》としながらも、首を横に振った。

见舍てたくはないのだろう。

「早く!!助けを呼んできてくれ!!」

だから上条は、|叶《かな》うはずもない|伪《いつわ》りの目的を与えた。

そこまで言われて、彼女はようやくふらふらと立ち上がった。しかし、转んだ拍子にボケットの中身が散らばったらしい。床に、オモチャのように见える甘い味のグロスや|可爱《かわい》らしい子供用の携带电话が落ちているのを见て、|打ち止め《ラストオ—ダ—》はもう一度|屈《かが》みそうになり、

「拾うな!!」

上条の绝叫に、彼女はビクッと肩を|震《ふる》わせて、小さな足で走っていった。割れた窗から道路へ出て行く。その背中は|焦燥《しようそう》に驱られ、ほとんど自失しているようにも见えた。

ヴェントが有刺铁线を卷いた巨大なハンマ—を小柄な少女へ向けた。

しかし上条は回り?むように、|打ち止め《ラストオ—ダ—》との直线を|塞《ふさ》いだ。その间に、建物が钝く|震动《しんどう》する。

あちこちの柱を碎かれたせいか、|天井《てんじよう》が一气に斜めに崩れかける。|打ち止め《ラストオ—ダ—》が出て行った一面のウインドウが、落ちてきた天井に溃され、塞がれた。

标的を一人逃したヴェントだが、その颜に|苛立《いらだ》ちはない。

むしろ愉快そうに笑いながら、上条に话しかける。

「アンタって残酷ねぇ。あ—んな小さな子供にとって、|暗暗《くらやみ》の中をあてもなく逃げ续けるって相当の重荷だと思うけど。恐怖でガチガチになって|坏《こわ》れ始めてるかもね」

巨大なハンマ—を摇らし、

「そんな目に|遭《あ》わせるぐらいなら、|一绪《いつしよ》に杀してあげた方が幸せなんじゃな—い?」

その声に、|上条《かみじよう》は思わず床に|唾《つば》を|吐《は》いた。

コイツは最恶だ。

「……重荷なんか背负わせねえよ」

改めて右手の|拳《こぶし》を握り|缔《し》め、彼は告げる。

乐しそうに笑っているヴェントに向けて。

「|俺《おれ》が迎えに行けば何の问题もねえ。だから俺は死なない」

「アラ乐しい?でもでも、|五脏六蔚《こぞうろつぶ》をシェイクして人肉ジュ—スにしてもおんなじセリフを言えるかしら—ん?」

ハンマ—を振り回す钝い音が|响《ひび》く。舌の|锁《くさり》がじゃりりと摇れる。

「まぁ、こっちの标的はアンタなワケだし、异教の猿に|烦《わずら》わされんのもムカつくし。素直に逃げないってんなら|狙《ねら》いやすくて大助かりなんだけどさぁ!!」

さらに复数の风の钝器が吹き荒れ、ファミレス店内が无造作に|破坏《はかい》されていく。

照明のない工场の中、|一方通行《アクセラレ—タ》は息を|潜《ひそ》めている。

こちらの作战は、最初の手さえ整えてしまえば、後はこちらのものだった。

|一方通行《アクセラレ—タ》はワンボックスの中からいくつかの装备を夺っている。その内の一つが|杖《つえ》代わりのショットガンであり、もう一つが小さな无线机だった。

これも作战に使える。

现在敌の集团は|暗暗《くらやみ》の中での同士讨ちを恐れ、それぞれバラバラに散らばりながら无线で连络を取り合っていた。|一方通行《アクセラレ—タ》はその中に纷れ、杂音混じりの声で『味方』を演じ、さらにデタラメな情报交换を行って敌の连携を切り崩していった。向こうもすぐに|一方通行《アクセラレ—タ》が割り?んでいる事には气づいたようだが、飞んでくる声のどれが仲间のもので、どれがダミ—なのか、区别する方法がない。结果として、连中は『|全《すべ》ての声』に对して疑惑を深めていく。

无线が使えなければ、味方の现在位置も分からなくなる。

敌は人影を发见しても、『同士讨ちを恐れる(または同士讨ちされる事を恐れる)』ため、标的を狙う速度は钝り、味方间での连携は途切れていく。これに对し、|一方通行《アクセラレ—タ》はただ『人影は全て敌』として行动すれば良い。これが彼にとって大きな利点となる。

『|猎犬部队《ハウンドドッグ》』の胁威は『铳器』と『集团』にある。

今の手で、すでに相手はその两方をほとんど失ったと言っても问题はない。

能力を使わない、この手の恐怖を|煽《あお》る战术は|一方通行《アクセラレ—タ》にとって今日が初めてだったが、相手は面白いほど引っかかった。やはり、恐怖というのは人类共通のものなのか。路地里では、

|一方通行《アクセラレ—タ》は何もしなくても恐怖の象徵として君临していた。そのやり取りを少し真剑に煮诘めて利用しただけで、これだけの大成果だ。

|奴《やつ》らはもう敌ではない。

ただの动く的だ。

(さて)

无线と恐怖によって、奴らはバラバラに寸断され、|各々《おのおの》が孤立している。ここで暴れても、援军が驱けつけるまで数分间の余裕があるだろう。周りを气にする必要は、ない。

|一方通行《アクセラレ—タ》は|暗暗《くらやみ》に|潜《ひそ》みながら、口元に笑みを张り付かせた。

その视线の先には、仲间とはぐれて一人きりでビクビクと索敌している获物がいる。

(腹ァいっぱい食わせてもらおうか、丸々太ったケモノども)

标的との|距离《きより》はおよそ一五メ—トル。

ショットガンは近距离なら近距离なほど威力が增す。そういう点では、この距离はまだ最上とは言えないが、|一方通行《アクセラレ—タ》は壁に背を预け、|杖《つえ》を床から|离《はな》すと、适当に|狙《ねら》いを定めて发炮した。

ゴン!!と。

耳を破裂させるような|轰音《ごうおん》と共に、|冲击《しようげき》が肩を|溃《つぶ》しにかかる。予想通り散弹は标的にぶつかる前にあちこちへ散らばった。しかし周围にあるのは。硬いコンクリ—トや金属プレ—ト。复数の弹はピンボ—ルのように跳ねると、样々な角度から黑ずくめに激突した。

绝叫が|响《ひび》く。

暗暗の中、液体を||撒《ま》き散らして、人闻のシルエットがアクション映画のように回转した。|一方通行《アクセラレ—タ》はそれを确认してから、ショットガンを杖代わりに黑ずくめへ近づいていく。

そいつは腕をやられたようだった。

右腕をショットガンの弹丸にやられ、回转しながら床に落ちたため、もう片方の手もひねったらしい。

手にしていたサブマシンガンが远くへ滑っている。予备のハンドガンを拔こうとしているようだが、两腕が溃されているため、思うように武器を取れない。

无样な|芋虫《いもむし》だった。

|一方通行《アクセラレ—タ》は近くの壁に手を挂け、黑ずくめの|颊《ほお》に横からショットガンの铳口を押し付ける。

「じょ、冗谈でしょ……?」

意外にも、声は甲高い。よくよく见れば、黑ずくめの格好でも女性的なラインが分かる。

「冗谈?そ—ォだなァ」

どうでも良いか、と|一方通行《アクセラレ—タ》は适当に切り舍てて、

「新ネタだ」

引き金を引いた。

ドバン!!という钝い发射の|冲击《しようげき》に、|一方通行《アクセラレ—タ》の体が耐え切れずに後ろへ转がった。片手で|击《コつ》つよォな铳じゃねェな、と思った。头を振りながら起き上がると、目の前で黑ずくめの女がのた打ち回っていた。

「おっ、おふっ、ぼぅぅああああああああああッ!?」

|溃《つぶ》れかけた两手で口を押さえているのだが、その两手が妙に颜の奥まで淀っていた。诞から下をショットガンで横に吹き飞ばされたからだ。その手をどければ、上の齿だけがズラリと并んでいるのが分かるはずだった。

|一方通行《アクセラレ—タ》は、自分の|颊《ほお》に温かいものが付着しているのに气づいた。

舌を动かして口に含み、|唾液《だえき》と共に|咀嚼《そしやく》する。肉の味がした。

「あは」

思わず笑みがこぼれる。

|战斗《せんとう》不能の女にいっぽでも时间を箭く必要はない。|一方通行《アクセラレ—タ》としては、早くここを立ち去るべきだ。铳声を闻けば|他《ほか》の『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』がやってくる。彼らに见つかり、正面から弹丸を击た

<img src="img/禁书目录13_119.jpg">

れる展开は望ましくない。あくまで|暗暗《くらやみ》に|潜《ひそ》み、获物を一人ずつ|溃《つぶ》していくのが最善だ。だから立ち去った方が良い、と|一方通行《アクセラレ—タ》は思う。一刻も早く。

だが[#「だが」に傍点]。

ショットガンを|杖《つえ》の代わりにして、彼はふらふらと立ち上がった。

何だかタノシク[#「タノシク」に傍点]なってきた。

|驮目《だめ》だと思っているのに、|弹《はじ》けるようなカイホウカン[#「カイホウカン」に傍点]を抑えられない。

彼はくちゃくちゃぺちゃぺちゃと口を动かしながら、|颚《あご》を吹っ飞ばされた女の前に立つ。

「……お—お—、おしゃぶり上手なツラになりやがって」

ビクッと、颜の下半分が消えた女がこちらを见る。

今、自分がどんな颜をしているか、|一方通行《アクセラレ—タ》には想像もつかない。

「どのツラ下げて生きてンだァ!ふざけンじゃねェぞコラ!!」

ともあれ、床を|这《は》っている女の腹を|蹴飞《けと》ばす事にした。

ドンゴンガギッ!!という钝い音が连续する。五回蹴って一○回蹴って一五回蹴って二○回蹴って、としている内に、不意に女の体が暗暗にフッと消えた。

见ると、そこは金属加工用のプレス机のようだった。

|崖《がけ》のようになっていて、ここからベルトコンベアを通じて铁制品などを落としていき、プレスして固めるらしい、深さは三メ—トル程度、广さは一○メ—トル四方といった所だった。すでに空き缶やスチ—ル制の棒などが山积みにされている事を考えると、实际にはもっと深さがあるのかもしれない。

女は三メ—トル下でもがいていた。

两腕を伤つけられ、颜の下半分を吹っ飞ばされた无样な人间。

それを见ても、|一方通行《アクセラレ—タ》は哀れみを感じなかった。

チラリとプレス机投入口の隅へと视线を投げる。ほとんどの设备はコントロ—ルル—ムで制御しているはずだが、一应手动の设备もあるらしい。|壁际《かべぎわ》には、いかにもそれらしい大きなボタンがあった。

女も、|一方通行《アクセラレ—タ》が何を观察しているのかを理解したらしい。

头上の投入口を见上げながら、何かを|恳愿《こんがん》している。

「あふぇ、あふへ、ふぁらはへ……」

「恶りィなァ」

|一方通行《アクセラレ—タ》は|遮《さえご》るように一言谢って、

「|谁《だれ》ェ敌に回したか分かってンのかオマエ」

ダン!!と。

|掌《てのひら》を壁に|叩《たた》きつけるように、大きなスイッチを押した。

そこには一切の|容赦《ようしや》がない。

こうん、という钝い钝いモ—タ—の作动音が、施设中に|响《ひび》き渡っていく。

「さアって……」

|一方通行《アクセラレ—タ》は、もはやそちらを眺めずに、热い吐息を|漏《も》らしながら|排徊《はいかい》を再开する。

「次のエモノは、どこで迷子になってンのかなァ……」

口元には、ぱっくりと左右に引き裂かれた笑みだけがあった。

ヴェントの|攻击《こうげき》で、ファミレスの店内が次々と|破坏《はかい》されていく。

|上条《かみじよう》が追い诘められるまでに时间はかからなかった。

彼は血まみれになって、崩れた壁に背中を预けている。いかに|幻想杀し《イマジンブレイカ—》で直接的な攻击は|全《すべ》て防げるとしても、彼は|坏《こわ》れた床やテ—ブルの破片は|弹《はじ》けない。

结局、狭い店内では上条の取る道も少なくなってしまう。

一点に追い诘められれば、もう右手で防ぎ续けるしかない。ヴェントの攻击回数はそれほど多くもないが一发一发の轨道が复杂で、そちらを读んで行动しなければならないため、どうしても上条の手は迟れ气味になってしまう。

单纯な破坏力なら|超电磁炮《レ—ルガン》の|御坂美琴《みさかみこと》に劣るだろう。上条が美琴をあしらってこれたのは、地形的な问题もある。彼女とやり合う场合、上条は绝对に狭い场所は选びたくない。好き胜手に动き回り、自由自在に逃げ回れる广い场所でないと向き合おうともしない。

そうでないと、あっという间に追い诘められてしまうからだ。

しかし、この|溃《つぶ》れかけたファミレスには、

(……|他《ほか》にも、倒れてる人|达《たち》が……)

正体不明の攻击を受けて、あちこちに客やウェイタ—达が意识を失ったまま转がっているのだ。ヴェントの攻击を直接受けるのはもちろん、建物ヘダメ—ジを与えすぎても、|天井《てんじよう》が落ちて全员を溃してしまう恐れがある。

上条は必要以上に周りへ气を配りすぎていた。

そしてヴェントの目にも、それが明らかに见えすぎていた。

「やっさしいわね—」

くすくすと笑いながら、ヴェントは巨大なハンマ—を水平に构える。

「自分の心配しなくて良いのかしら。ほら?」

ビュッ!!と轻々しい仕草で武器が振るわれる。

ヴェントの舌についた|锁《くさり》は、上条の颜から横に|逸《そ》れる轨道を描いていた。

风の钝器は|上条《かみじよう》から照准をわずかに横に曲げていた。上条が手を伸ばしてもギリギリ届かない边りへ、わざわざ调节して。

「ッ!!」

上条が全力で跳び、客の一人にぶつかる直前で右手で|弹《はじ》く。

今度はヴェントが反对方向へ风の钝器を放つ。

バレ—ボ—ルのレシ—ブ练习のように、上条の体は|翻弄《ほんろう》される。周围の客へと次々と弹を飞ばし、それでいて时折フエイントで上条自身に目がけて一发が|袭《おそ》いかかる。ムチャクチャな动きを要求され、息が上がる。彼の体に残されていたスタミナが、あっという间に夺われていく。

「テメェ!!」

「ん—ふふ—?今さら热くなってどうすんのよ。学园都市が今どうなってっか分かってんでしょ。私が他人を气にするような性格なら、最初っからあんなマネはしないわよん」

「くそっ!!」

まさかと思うが、これだけ派手な事|全《すべ》てが、上条|当麻《とうま》一人を杀すために起こされたとでも言うつもりなのだろうか。

いくら何でもそれはないと思った。

たかが一介の高校生を一人杀すのに、これでは大规模すぎる。

「自分の价值に气づきなさいな—」

ヴェントは气轻に言いながら、さらに巨大なハンマ—で空气を|剃《な》ぐ。

「私の目的は上条当麻[#「私の目的は上条当麻」に傍点]。それ以外は全部おまけ[#「それ以外は全部おまけ」に傍点]。あの禁书目录ですら、アンタに比べりゃ轻いってコトよ」

あっさりと、彼女はそう告げた。

「今のアンタは间违いなくロ—マ正教の敌。そして我々はどんな手を使ってでも敌を杀す。极端な发言をしてあげよう。我々は、日本という一国家を消灭させてでもアンタを杀すわよ。……と言っても、その右手の事[#「その右手の事」に傍点]を考えると、私のいつものパタ—ンは使えなさそうだけど。何せ、直接杀さなくちゃならないみたいだしね」

言いながら、ヴェントは手品のように取り出した书类をヒラヒラと振った。

何らかの命令书かもしれないが、暗がりでは读めない。そもそも日本语で书かれているのかも怪しい。

「この通り、ロ—マ教皇じきじきのサインつき。アンタは二○亿人から|狙《ねら》われる身なのよ」

何だそれは、と上条は相手の|台词《せりふ》に|愕然《がくぜん》とした。

ここでロ—マ正教という言叶が出てきた事に对しても、自分一人のために国家を一つ历史から消すという、あまりにもスケ—ルの违う话についても。

これまでは、上条当麻は『何らかの事件の中心に自分が卷き?まれていく』事が多かった。彼自身を中心として事件が起こるのは、八月三一日のアステカの|魔术师《まじゆつし》の时以来か。

|栗然《りつぜん》とする|上条《かみじよう》に、ヴェントは书类を再び手品のように隐し、

「冗谈に闻こえるカナ?そんじゃ、冗谈じゃ济まないコトをやって目を觉ましてあげよう」

ヒュン、とハンマ—を构え直し、ヴェントは|微笑《ほほえ》む。

舌の先につけられた|锁《くさり》が动き、十字架が左右に小さく摇れていた。

「何を……ッ」

「これから店内にいる人间全员を杀す[#「これから店内にいる人间全员を杀す」に傍点]」

上条の息が诘まった。

ヴェントはニコニコと微笑みながら续ける。

「そっちの方がアンタが苦しみそうだから。そんなつまんない理由だけで皆杀しにしてやる。そこまでやれば、いい加减にアンタだって事情を|吞《の》み?めるでしょ」

「やめろッ!!」

上条は状况を无视して、思わずヴェントの立つ方へ走り出した。彼女は笑いながら後ろへ下がる。下がりながら、首を大きく振った。じゃりり、という金属が|擦《こす》れる音と共に、舌に取り付けられた锁が、ヴェントを取り围むように|螺旋《らせん》を描いた。

この状态でハンマ—を振るえば、ヴェントを中心に|破坏《はかい》の涡が卷き起こる。

「吹っ飞べコラ!!」

|咆哮《ほうこう》と共に、ヴェントの右手が动いた。

ゴッ!!という|轰音《ごうおん》が|响《ひび》く。

明かりのない|废嘘《はいきよ》のようなファミレス店内に、铁のような|?《にお》いが充满した。

10

暑苦しい工场の|暗暗《くらやみ》の中に、短い呼吸音が鸣る。

物阴に隐れている『|猎犬部队《ハウンドドツゲ》』のヴェ—ラは、|谁《ぜれ》からも『何でこんな所へ|堕《お》ちたのか想像がつかない』と言われるような女性だった。明るく、|人怀《ひとなつ》っこく、それでいて他人との|距离《ヨより》の测り方にも失败しない。头脑劳动、肉体劳动ともにそつなくこなす。そういう人间だ。

彼女にも彼女なりの事情があるのだが、そういった事を他人が兴味を持っても、上手くかわすだけの话术があった。

ともかく『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』というクズみたいな集团の中で、それなりの良识を持っていたヴェ—ラは他人との协调を求めていた。互いが互いを|蔑《さげす》み合うあの集团の中で、そういった行为は浮いていたのだが、ヴェ—ラは少しでも『仲间』と|信赖《しんらい》を筑きたかった。

だが、

(……无线がやかましい)

悲鸣や救援を求める声がひっきりなしに闻こえてくるが、ヴェ—ラの反应は|亿劫《おつくう》そうなものだった。その内のどれが本物でどれが|?《わな》かも分からない。仲闻を助けると言って单独行动を取ったケインズとは、あれから连络が取れない。|迂阔《うかつ》に答えるのは危险だという事だ。

もう|谁《だれ》も信じられない。

ゆっくりと筑いていこうと思っていたものは、|全《すべ》て今この场で崩れ去った。

「う……」

思わずヴェ—ラの口から|鸣咽《おえつ》が|漏《も》れる。

とにかく一度この施设から出て仕切り直した方が良い。出口にも?がある、とロッドが无线で言っていたが、逆にその手の警戒报告は怪しい。あれは本当にロッドだったのか。多少のりスクを负ってでもここを出るべきだ。ここにいる『仲间』を置いてでも。全灭を|避《さ》けるために。

(最恶だ……。最恶の一日よ……)

ふらふらとおぼつかない足取りで、ヴェ—ラは出口を探し始めた。もう战意はない。必要以上の|紧张《ぽんちよう》が、かえって彼女の集中や思考をぶっ切りにしていく。

と、そこで气づいた。

(无线が……)

あれだけ|骚《さわ》がしかった无线から、いつの间にかサァ—ッという一定のノイズしか返ってこなくなっていた。余计に场を混乱させると思って今まで无线で发言はしなかったのだが、ここにきて急に心细くなってきた。ヴェ—ラはスイッチを押して、唇を寄せる。

「こちらヴェ—ラ、ヴェ—ラ。状况の报告を。オ—バ—」

寻ねても返事はなかった。

ドッと汗が喷き出る。自分の无线も|伪物《にせもの》だと|一蹴《いつしゆう》されてしまったのか、それどころか、まさかすでに全员が|一方通行《アクセラレ—タ》の|饵食《えじき》になったのでは、などと最恶の连想が头をよぎる。

(いや、それとも)

思考の逃げ道を探していたヴェ—ラは、别の可能性を思いつく。

(私と同じで、すでに生き残った全员は一度外へ|退避《たいひ》したのかも。施设の壁は分厚いから、中と外での电波の|遮断率《しやだんりつ》が大きい。みんなが外に出てしまえば、こちらの电波は届きにくいはず)

その场合、ヴェ—ラは『仲间』から见舍てられた事になってしまうのだが、そちらの方がまだマシだと思った。こんなゴミ处理施设で「仲间』が全灭したのに比べれば。

(そうよ。『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』がこんな简单にやられるはずがない。|一方通行《アクセラレ—タ》が取った|暗暗《くらやみ》战术は、|完壁《かんぺき》な暗の中でなければ效果がない。月明かりの下なら、私|达《たち》は无线がなくても敌味方を区别できる。なら、施设の外に出て应对した方が效率的だわ)

そうと分かれば自分も安全な外へ出た方が良い。

ヴェ—ラは自分の中で结论付けると、今までよりも|若干《じやつかん》力强い足取りで出口を探す。

自分にはまだ希望がある。

みんながもう一度集まれば|一方通行《アクセラレ—タ》だって怖くない。そう思っていたからこそ、

プレス机に|溃《つぶ》されている自分の|同僚《どうりよう》を见た|瞬间《しゆんかん》。

ヴェ—ラの思考はグルリと回って、一气に恐慌状态に|陷《おちい》った。

严密には、ヴェ—ラからでは『溃れている同僚』はダイレクトに见られない。彼女の目に映っているのは、ただのスチ—ル用品をプレスして块にするための设备だった。床から三メ—トルぐらい掘り下げてある区画がある。左右の长さは大体一○メ—トルぐらいか。

プレス用の分厚い铁板が落ちていた。

にも|拘《かかわ》らず、その铁板の向こうから呻き声が闻こえるのだ[#「その铁板の向こうから呻き声が闻こえるのだ」に傍点]。

(……ナンシ—っ!!)

なまじ仲间思いであるが|なまじ仲间思いであるが|故《ゆえ》の间にもギチギチミシミシと音を立てて、分厚い铁板はゆっくりと下に向かい续けている。

「う、うああ。うああ、ああ、あッ!!」

ほとんど|错乱《さくらん》状态で、壁にあったボタンに|掌《てのひら》を|叩《たた》きつけた。ガグン、という音と共にプレス机の动きがようやく止まる。

|呻《うめ》き声はまだ续いていた。

この铁板からの压迫に、生身の人间が耐えられる译がない。おそらくナンシ—が生きているのは、床一面にプレスを待っていた金属パ—ツが|敷《し》き诘められていたからだろう。ナンシ—の体は、金属パ—ツの山というクッションに沈んでいる状态なのだ。

それでも死にそうなのは间违いない。

いっそ、简单に死ねなかった分だけこちらの方が|辛《つら》いのかもしれない。

壁にある别のボタンを押せば、铁板は上に戾る。

それでナンシ—を助けられるかもしれない。

だが。

そのボタンの表面に、何かがべったりとこびりついていた。自动贩卖机の横にあるゴミ箱のような、黑っぽい粘液だ。ボタンを押すには、その污れに触れなくてはならない。

污れの正体が人闻の血と肉であっても[#「污れの正体が人闻の血と肉であっても」に傍点]。

グチャグチャに溃れた骨と皮肤のついた细かい肉がそのままこびりついていたとしても[#「グチャグチャに溃れた骨と皮肤のついた细かい肉がそのままこびりついていたとしても」に傍点]。

「───ぁ、は?」

意识の细い糸が切れた。

ぶちん、という小さな膏が闻こえた气がした。

「うがぁ!?ぎゃあ!!ぎゃああああああああああっ!!」

ヴェ—ラは|喉《のど》が裂けるほどの势いで叫ぶと、全力で後ろへ下がった。もうこれ以上は耐えられなかった。今までの自分を作っていたものがボロボロに崩れる感觉を确かに得ていた。水滴の一粒でも肌に落ちたら、そのショックで绝对に死ぬと思った。

そんな状况で何かに足を取られ、ぬめった感触と共にヴェ—ラは|尻饼《しりもち》をついた。

足元を见ると、そこにはぶよぶよした|一掴《ひとつか》みほどの肉がへばりついていた。

グチャグチャになっているが、どう考えてもそれは人间の|下颚《したあご》だ。

「うわあぁああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

振り拂って逃げようとした。

しかし|暗云《やみくも》に视线を动かそうとした所で、别の|同僚《どうりよう》と出会った。いや、出会った、と表现して良いかは分からない。体を太い针金で固定された上、切断された蒸气パイプから喷き出した高温のスチ—ムを浴びせられて|高温のスチ—ムを浴びせられて|茄《ゆ》かは|谜《なぞ》だ。

|吐泻物《としやぶつ》が喷き出した。

颜を|覆《おお》うマスクが|邪魔《じやま》になってを漏らしながら、しかしヴェ—ラは不快感を气にしている样子もない。それどころではない。

「ひっ、うあ、ああああああああああ……」

|薄《うす》く薄く伸ばしたような声が、自分の口から延々と漏れる。

ヴェ—ラは|沈默《ちんもく》した无线机を见る。

こういう事だったのだ。

沈默が示す意味は单纯だ。作战も何もない。卷き返しも逆转の策もない。おそらく施设の外に出た同僚など一人もいない。『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の面々は全员が全员、こういう风に第三资源再生处理施设の不气味なァトラクションに卷き?まれて全灭したのだ。おそらく今の自分のように、精神面からボロボロに追い诘められ、まともな判断能力すら夺われ、|呆然《ぽうぜん》と立ち尽くしている所を|弄《もてあそ》ぶように料理された。

ヴェ—ラの手から握力が消えた。

无线机とサブマシンガンがゴトンと床に落ちる。ヴェ—ラ自身も、|膝《ひざ》から崩れ落ちた。

自分は一体|谁《だれ》と战っている?

これまでの|一方通行《アクセラレ—タ》は、わざわざ武器など使わなかった。地形なども|考虑《こうりよ》しない。|全《すべ》ての障害を自分の超能力だけで|剃《な》ぎ拂って前进するだけだった。|故《ゆえ》に、能力を制限されている今なら战略次第でいくらでも倒せる相手だとばかり思っていた。

しかし、今はもう违う。

武器を使う。建物も利用する。こちらの心理を先读みし、最も效率的に|掩乱《かくらん》する方法を编み出して实行する。单纯に怒りに任せて|叩《たた》き杀すだけでなく、相手に最大の精神ダメ—ジを与えられるなら、杀さないという选择肢まで采り始める。

恐るべきはその精神的な成长速度だ。ただ能力に|赖《たよ》り切っただけの子供ではなくなった。持てる物を|全《すベ》て利用して人を杀すようになった。今の时点でも十分な胁威である|一方通行《アクセラレ—タ》は、おそらくこれからさらに加速していく。|谁《だれ》の手にも负えないほどに、世界を|叩《たた》き|溃《つぶ》すほどに。

あまりの|惊愕《きようがく》に、ヴェ—ラの神经は|麻痹《まひ》していた。

もはや恐怖を得る资格すら夺われていた。

怪物だ。

愚かにも、『|猎犬部队《ハウンドドッグ》』はその卵の壳を破る手传いをしてしまったのだ。

カツン、と。

小さな足音が、ヴェ—ラの真後ろで鸣った。

彼女は振り返らず、うな垂れたまま小さく笑っていた。

11

ごぽっ、という水っぽい音が、暗いファミレス店内に|响《ひび》いた,

血の块が、ぽたぽたと床にこぼれていく。

|上条当麻《かみじようとうま》は、目の前の光景を前に、|殴《なぐ》りかかろうとする体势で思わず立ち止まっていた。

间违いなく鲜血だった。

彼は、赤色の喷き出した一点を、|呆然《ぽうぜん》と见る。

今まで胜ち夸っていた、ヴェントの口元を。

「ごっ……」

彼女は体をくの字に折り曲げ、口に两手を当てて、ごぽごぽと短く|咳《せ》き?んだ。そのたびに、指の|隙间《すきま》からぬめぬめとした重たい液体がこぼれていく。

「が、は。ああ」

ふらふらとした动きで、一步、二步と後ろへ下がる。その仕草に、これまでの余裕はなかった。演技をしているようには见えない。本当に苦しんでいるように思える。

(何が……)

突然の出血に、上条は冷水を浴びせられたように思考が|遮断《しやだん》されかけたが、

(|魔术《まじゆつ》の副作用とかか?コイツには恶いけど、チャンスかもしれない)

意识が戾った。

苦しんでいる人间に|拳《こぶし》を振るうのは|若干《じやつかん》抵抗があるが、ハッキリ言えば|绮丽事《きれいごと》を并べているだけの余裕がない。倒せる时に倒さなければ、こいつはさらに多くの|牺牲《ぎせい》を游び半分で卷き起こすだろう。

上条は齿を食いしばり、觉悟を决めると、右拳を握り|缔《し》めた。

「ぐ、ァァあああッ!!」

だが、その前にヴェントはぐるりと方向转换すると、见当违いの方へ有刺铁线を卷いたハンマ—を振り回した。

舌の|锁《くさり》を|掠《かす》める轨道を取り、锁とハンマ—が火花を散らす。

今までの轻々しい|氛围气《ふんいき》はない。醉っ拂いが|殴《なぐ》りかかるような乱杂で暴力的な动きだった。

ごばっ!!という重たい|破坏音《はかいおん》と共に、壁に大穴が空く。

ヴェントはそちらへと走る。

追いすがる|上条《かみじよう》に|牵制《けんせい》の|攻击《こうげき》を二发、三发と放ちながら、彼女は建物の外へと飞び出して行った。

「……、」

正直、追うべきなのか、逃げてもらって助かったのか、良く分からない状况だ。

(なん、だったんだ?)

ヴェントは建物の外から、この店ごと上条を|溃《つぶ》すような事はしなかった。|他《ほか》の客に气を遣うような性格をしているとは思えない。おそらく身に起きた异变に对处するのが精一杯で、他の事まで头が回っていないのだろう。

上条は、降りかかってきた新たな问题を、少しずつ整理していく。

『神の右席』。

前方のヴェント。

そして、ロ—マ正教。

12

|白井黑子《しらいくろこ》と|初春饰利《ういはるかざリ》は|风纪委员《ジヤツジメント》第一七七支部にいた。

|仰々《ごようぎよ》しい名前だが、ようは初春の中学校の校舍にある一室だ。

いくつかの机が并んでいるが、教室にあるような合板と铁パイプのものではない。どちらかというとオフィスの一室のようだった。作业用のパソコンが各机に并んでいる译だが、そういった精密机器を无视してポテトチップスの袋がドカンと置いてあった。

初春饰利はごそごそとビニ—ル袋の中に两手を突っ?みながら、

「白井さ—ん。|中华?《ちりうかどん》とお鱼弁当、晚ご饭はどっちにします?」

「そんなもんどうでも良いですの!!」

「え?じゃあ私が中华井もらっちゃいますね」

「中华?は食べるですの!うう、今この|瞬间《しゆんかん》もお姊样と腐れ类人猿は|一绪《いつしよ》に夜の街を步いて……うぐああああああああああッ!!」

ツインテ—ルの少女、白井黑子は两手で机をバンバン|叩《たた》く。

室内には二人の声しかない。部屋には大型の无线机もあるが、そちらは|沈默《ちんもく》していた。基本的に、|风纪委员《ジヤツジメント》の仕事は完全下校时刻で终了する。それは彼女|达《たち》が校内での|揉《も》め事を制压するのが主要任务だからだ。本来なら、この时间に生徒が诘め所に残っている方がイレギュラ—だろう。

と、そんな残业少女、|初春饰利《ういはるかざり》は自分の携带电话を取り出して、

「おっ、いっも|观《み》てるバラエティ番组の始まる时间ですっ!」

「仕事しろ初春—ッ!!」

「人の事を言えた义理なんですか、|白井《しらい》さん。ちなみに私はテレビを观ながら仕事ができる子なんです—」

携带电话にもテレビ机能ぐらいはついているだろうが、初春はよほどそのバラエティ番组が好きなのだろう。わざわざ室内にある大型テレビの电源を|点《つ》けた。

「ふんっ!!」

が、ムカっいている白井がリモコンを夺い取ると、适当にチャンネルを替えてしまった。面白くも何ともないニュ—ス番组が映る。『だ—っ!ナニしてくれますか白井さん皿』と初春が叫び、二人の少女がリモコン争夺战を开始した。

テレビの中では、アナウンサ—と芸能人の中问ぐらいの女性が原稿を读み上げている。

『续いては、ええと……がっ、学园都市のニュ—スです』

ん?と|掴《つか》み合いをやめて白井と初春はテレビを见る。

この放送局は、学园都市の外部にある全国放送のものだ。そして、そういった『外部』放送局に学园都市の情报が流れる事は灭多にない。アナウンサ—が户惑っているのも、その边の事情があるからだろう。

『现在、学园都市で侵入者|骚动《そうどう》が起きているそうです。それに伴って、都市の内部で被害が扩大しているとの事です。映像が入ります。现场の石砂さん?』

画面が切り替わった。

超望远の粗い映像だった。おそらくカメラは学园都市の外にあるのだろう。雨に打たれる道路を、黄色い服を着た女が步いているのがぼんやりと见える。

女はふらふらと步き、その边に倒れている人々を足でどかしながら、雨の街を步いていた。

口から舌を出し、そこに接续された长い|锁《くさり》を左右に摇らしている。

と、现场のリポ—タ—に移る前に、カメラはぐらりと摇れた。ガチャン、という音が|响《ひび》いたと思った途端に、灰色のノイズに画面が|覆《おお》われる。スタジオのアナウンサ—が、何度か名前を呼びかけるが应じない。リポ—タ—がいるのかどうかも判然としなかった。

すぐにスタジオに画面が戾った。

ギリギリで放送事故にならない、绝妙のタイミングだった。

「い、今のが侵入者でしょうか』

アナウンサ—の|邻《となり》に座っていたコメンテ—タ—が、落ち着き拂った声で答えた。

『学园都市の警备状况を薮がるに、よその学校とは违って、单に子供避を撒った变质的犯行という可能性はほぼ低いでしょうな』

『はぁ』

『科学崇拜に对するテロ行为か、あるいは先端技术の|强夺《ごうだつ》か。そんな所かもしれません』

『となると、|视听者《しちようや》

皆样が一番气にかけている、お子样达の安全面にも|影响《えいきよう》があると?』

『もちろんです』

コメンテ—タ—は、もはや芝居がかった仕草で首を横に振った。

『大人の事情に子供が卷き?まれているのですから。むしろ、ただの通り|魔《ま》よりもたちが恶い。まったく、映像にあった、何ですかあの女は。往々にして子供の命というのは轻视されがちですが、ああいうくだらない社会不适合者を野放しにしておく事が───』

ゴトン、という音が续いた。

唐突にコメンテ—タ—がテ—ブルに突っ伏して、额をぶつけたのだ。

「?」

|白井《しらい》は|眉《まゆ》をひそめた。

またパフォ—マンスかと思いきや、コメンテ—タ—はそのままぐらりと体を摇らして、テ—ブルの下まで倒れてしまった。きゃあ、というアナウンサ—の悲鸣が闻こえる。カメラがぐらぐらと摇れ、ADらしき轻装の若者达が、ダッとスタジオに走ってきた。

カメラの外から指示を飞ばす太い声が连续して、すぐにCMへ切り替わった。トラブルが起きたのは明白だった。

小颜で知られる若い女性タレントが洗颜フォ—ムの素晴らしさに感动している画面から目を|离《はな》し、|初春《ういはる》は白井の方へ向き直った。

「……さっきの映像、こちらに报告来てましたっけ?今日はずっと手书きの书类作业ばかりしてましたから全然气づきませんでしたけど。でも、本当にたった一人で|警备员《アンチスキル》を压倒しているとしたら、あの侵入者、危险度は|半端《はんぱ》じゃないですよ。どうしてあんな不气味なのが侵入してこれるんですか……」

「|风纪委员《ジヤツジメント》は校外の……それも夜间の活动で召集される事は灭多にありませんものね。本当にまずければ|警备员《アンチスキル》から应援要请が来ますわよ。それまでに书类をできるだけ───」

「……、」

初春|饰利《かざり》は、白井の言叶に答えなかった。

ふらり、とその体が後ろへ摇らいだと思ったら、そのまま何の抵抗もなく床に转がってしまった。バタン、という结构大きな音が闻こえたが、それきり初春が动く气配がない。

白井はギョッとして、それから初春の元へ驱け寄った。

「初春ッ!!」

耳元で名前を呼んでも、倒れている|初春《ういはる》の|颊《ほお》を|叩《たた》いても、全く反应はない。

译が分からない|白井《しらい》の耳に、テレビの音声が届く。

CMを终えてもニュ—ス番组は再开されない。そのまま『しばらくお待ちください』というテロップへ移ってしまっていた。

13

あらかた『|猎犬部队《ハウンドドッグ》』の连中は片付けた。

正确な人数が把握できていないため、伏兵の存在に气をつけなくてはならないのだが、|一方通行《アクセラレ—タ》の直感はすでに|战斗《せんとう》状态は终わったと告げていた。

『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の生き残りが、この空气を『演出』しているとすれば见上げたものだが、そこまでの余裕は绝对にない。」ク?报が仕挂けたのは、仅搅膨の飞び出すタイミングから激熙のインタ—バルまで、その银てを大脑生理学的に计算し尽くし、必ず恐慌状态へ胧段せるプログラムである。

根性论でどうにかできる恐怖ではなく、脑の信号的な面から感情を叩きつけたのだ。まともに战える者などいないだろう。人间が人间でいる限り───よほどぶっ飞んでいない限り、この|攻击《こうげき》から逃れる事はできない。泣き|唤《わめ》く、手足を振り回す、その边りが关の山だ。

|一方通行《アクセラレ—タ》は施设内で见つけた洗净剂のボトルの|盖《ふた》を开ける。彼は透明な液体を头から|被《かぶ》り、中身の消えた容器をその边へ投げ舍てながら、

(ここまでやりゃあ|木原《きはら》は绝对に动く。|俺《おれ》にとっちゃ|怪我《けが》の功名だが、せいぜいうろたえろよクソ野郎。报告は何分ぐれエでヤツの耳に届く。それまでに俺は何をしておくべきだ)

|一方通行《アクセラレ—タ》の目的は、|打ち止め《ラストオ—ダ—》の救出。

しかし彼には、今も逃げ续けている(かどうかも定かではない)少女の现在位置が|掴《つか》めていない。携带电话が通じれば话も变わってくるのだろうが、あまり当てにはできそうもない。ならば、|打ち止め《ラストオ—ダ—》を助けるためには木原|达《たち》の妨害に力を注いだ方が良い。

ヤツらの注意を全てこちらへ集中させる。

『目的の|打ち止め《ラストオ—ダ—》を夺う前に、とにかく目の前の|一方通行《アクセラレ—タ》を何とかしなくてはならない』と思わせなければ胜机はない。

その思惑が|叶《かな》えば叶うほど、|一方通行《アクセラレ—タ》は|穷地《きゆうち》に追い诘められていく译だが……。

(どうとでもしてやる)

ショットガンを|杖《つえ》代わりに、彼は施设の出口を目指す。

『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』を|拷问《ごうもん》して情报を引き出すのも一つの手だが、|一方通行《アクセラレ—タ》はそれを|避《さ》けた。この施设では能力を使えないし、杖をつく彼には大人など外まで运べない。これまで胜ってきたのも、策があってこその结果だ。たとえ相手が负伤していても油断できない。今の彼は一发の铳弹で死ぬのだ。ここで下手を打って逆转されたら、|打ち止め《ラストオ—ダ—》を助ける者がいなくなってしまう。

|一方通行《アクセラレ—タ》は次の行动目的を考える。

(『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の连中のワンボックスをもう一度调べるか。|马鹿《ばか》正直にアジトの场所が见つかるとも思えねェが、别动队を|溃《つぶ》すにしても、|大杂把《おおざつぱ》な位置情报ぐれエは|掴《つか》ンでおかねェとな)と、そこで彼は思考を切った。

床に血の迹がある。

点々と续いている赤い|染《し》みを见て、|一方通行《アクセラレ—タ》はわずかに|眉《まゆ》をひそめた。敌兵は|全《すべ》て计算通りに动かし、恐怖を|煽《あお》り、一人一人溃していったが、このル—トを使って追い诘めた觉えはない。

まだ生き残りがいる。

「……、」

血のル—トを|?《たど》る限り、敌の足はおぽつかず、集中もあちらこちらへ飞んでいる。极度の恐怖によって、何に对しても|怯《おび》えている状态だ。こちらの心理操作は效いているらしい。

(あるいは、そう见せかけてこちらを|诱导《ゆうどう》しているか)

|杖《つえ》をつきながら、|一方通行《アクセラレ—タ》はゆっくりと血の迹を追う。

その先にあるのは小さな非常口だった。铁の扉の上に、绿色のランプが取り付けられている。ドアの横には强化ガラスで守られたボックスが取り付けられていた。ガラスは割れ、中のレバ—が动かされている。

|谁《だれ》かがロックを外して外へ出たのだ。

|一方通行《アクセラレ—タ》はドア横の壁に体を预け、手の先を伸ばすようにノブに触れる。杖の存在がもどかしかった。两手が使えれば、もう片方の手はチョ—カ—型电极のスイッチに触れているはずだ。暴发の危险があるが、いざとなれば能力を使うしかないだろう。

ゆっくりとノブを回す。

音を立てずにドアを押す。

「───、」

不审な点はなかった。

少なくとも、爆弹が仕挂けられているような事はない。|一方通行《アクセラレ—タ》はそれを确认すると、铁の扉を一气に开け放った。

いつの间にか土砂降りになっていた雨粒が全身を|叩《たた》く。

蒸し暑い施设内で息を|潜《ひそ》めていた|一方通行《アクセラレ—タ》には、それが心地良い刺激となる。

だが、

「アレか……」

彼の颜に笑颜はない。

|一方通行《アクセラレ—タ》の立っている场所は、二阶だった。そこからスチ—ル制の非常阶段を下りると、およそ二○メ—トルほどアスファルトが续いて、その先に|敷地《しきち》を区切る|金网《かなあみ》のフェンスがある。

そのフェンスをよじ登っている人影が见えた。

黑ずくめの背中は、纷れもなく『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』のものだ。

そして、フェンスのすぐ近くには自动车が|停《と》まっていた。黑ずくめの行き先は简单に想像がついた。

『|猎犬部队《ハゥンドドツグ》』の新手かとも思ったが、违う。

あの车は正规の|警备员《アンチスキル》が巡回に使っているものだ。

何でだよ、と|一方通行《アクセラレ—タ》は思う。

ここでそいつらが出てくるのは间违っているだろう。

これは、|暗《やみ》と暗との战いであって、一般人が出てくるべきじゃないだろう?

「………………………………………………………………………………………………………、」

一方通行の唇から、|薄《うす》く薄く息が|漏《も》れた。

言叶もなかった。

|沈默《ちんもく》する彼の耳に、黑ずくめの|唤《わめ》き声が届いてくる。

この土砂降りの中、二○メ—トルも|距离《のより》が开いているのに、それでも鲜明に闻こえるほどの大声が。

「おい!中に|谁《だれ》かいるか!?たっ、助けろっ、助けろよ!お前ら街の人间を守る|警备员《アンチスキル》なんだろ!だったら|俺《おれ》を保护しろよ!アイツだ、アイツが全部やったんだ!はは、ざま—みろ!俺は助かった。お前の|魔《ま》の手はもう届かねえよ!!」

杂音が闻こえる。

アレダケナガイアイダウラセカイニイテ、ソレデモキイタコトモナカッタレツアクナコトバガツギツギトアビセカケラレル。

「いいか、テメェはどうあがいてももう终わりなんだ!こっちには|警备员《アンチスキル》がついてんだ。やれるもんならやってみろ!!もっとも|警备员《アンチスキル》に手え出しゃ正式に指名手配决定だけどな!!これでさんざん守りたがってたクソガキとの日々も终わりだぜぇ!テメェは冷たい研究所に逆戾りだ、一生モルモットでもやってやがれ!!ぎゃはははははッ!!」

ショットガンを握る手に、强烈な力が|笼《こも》る。

头が破裂する。

电极のバッテリ—とか、七分间しか|保《も》たないから温存しようとか、ここで使い切ったら|木原数多《きはらあまた》と战えないとか、そういった事が全部|绮丽《きれい》に|弹《はじ》け跳ぶ。

|一方通行《アクセラレ—タ》は首筋に手をやった。

そこには电极のスイッチがあった。

彼は迷わなかった。

あのクソ野郎だけは、この手で血祭りにあげる。

头の中には、それだけしかなかった。

14

|警备员《アンチスキル》の|才乡良太《さいこうりようた》と|杉山枝雄《すぎやまえだお》は幸运だった。

街の治安维持机关の大多数が机能を止めている中、彼らはうっかり寝坊したために、|他《ほか》のメンバ—のような|昏睡《こんすい》の被害には|遭《あ》わなかったのだ。车内からの无线连络に|谁《だれ》も应じないのも、机械のトラブルかな、ぐらいにしか感じていない。良くも恶くも、彼らは|蚊帐《かや》の外なのだった。

そして今も、彼らは幸运だっただろう。

少なくとも、フェンスをよじ登っている血まみれの男を保护するために、才乡は运转席から、杉山は助手席から、それぞれ车から降りてそちらに步いていたのだから。

その|瞬间《しゆんかん》、彼らの耳へ最初に入ったのは|雄《お》たけびだった。

|兽《けもの》のような、人间の叫び声。

才乡と杉山の两名がその怒号の正体を探る前に、第二波がやってきた。

それは分厚い铁の扉だった。

纵に回转しながら恐るべき速度で飞んできた铁のドアは、西乡と杉山の肌を危うく|掠《かす》めかけ、まるで巨大な|丸锯《まるのこ》の刃のように二人の|警备员《アンチスキル》が|停《と》めた巡回车の真ん中へ突っ?んだ。

ドガァ!!と。

火花を散らして、自动车がL字に折れ曲がる。

何の变哲もない普通の自动车に、いきなり横から炮弹を|叩《たた》き?んだようなものだ。自动车の後ろ半分はそのまま纵、それに对して前半分はグシャグシャにひしゃげて真横に折れ曲がっている。あまりの威力に、自动车は横滑りすらせず、炮弹を浴びた部分は破れた金属が花のように开いていた。自动车を破坏した铁扉は势いを止めず、そのままアスファルトを粉々に碎いてようやく停止した。一气に引き|千切《ちぎ》られたガソリンパイプに、同じく断线した电气ケ—ブルが接触する。小さな火花が起こる。

それだけで十分だった。

横から叩き|溃《つぶ》された自动车は|一击《いちげき》で爆发し、周围に炎と烟を|撒《ま》き散らした。

「な、何だあ!?」

才乡は烟で视界がゼロになった状况で、それだけ叫ぶ。

铁のドアがあまりにも高速で飞んできたため、才乡は何が车を爆发させたかも分かっていなかった。ただ、何も见えないという状况は余计に彼の|焦《あせ》りを助长させていく。

すぐ近くにいるはずの|同僚《どうりよう》の颜も见えない。

その状况で、

「ぎゃああ?や、やめろっ!!」

闻き觉えのない男の声が、|才乡《さいごう》の耳に|响《ひび》いた。

保护しようと思っていた黑ずくめの男のものだ、と才乡が气づく前に、

「待て、待ってくれ、|一方通行《アクセラレ—タ》!嫌だ、违う、そうじゃない!!|警备员《アンチスキル》!どっ、どどどどこにいるんだ!助け、いびゃっ、びゃあ、ごォァああああああああああああッ!?」

ごりりっ!!という、张りのあるウィンナ—を|啮《か》み|千切《ちぎ》るような音が闻こえた。身の危险を感じた才乡は思わず腰の|拳铳《けんじゆう》を拔いたが、そこから动けなかった。烟がひどくて视界が确保できない。|暗云《やみくも》に|击《う》てば|同僚《どうりよう》の|杉山《すぎやぼ》や保护对象に当たる危险がある。そもそも烟の向こうで何が起きているのか、それを引き起こしている『モノ』が人间なのか|猛兽《もうじゆう》なのかも判别できない。どこを|狙《ねら》って何に发炮すればどんな事态が收束するのかも想像がつかないのだ。

「と、止まれ!动くな!その人から|离《はな》れろ!!」

何も见えない状况で、それでも才乡は当てずっぽうに铳を向けて叫ぶ。

|近距离《きんきより》から、笑い声が返ってきた气がした。

决して声高なものではなく、口を|塞《ふさ》いでいたが思わず|漏《も》れてしまったという感じの笑みが。

钝い音はその後も连续した。

时间にして一○秒程度で、绝叫が途切れた。

才乡は结局、身动きは取れなかった。

この世には、见てはいけないものがある。

それが幸运にも烟で|遮《さえぎ》られていたのだと、直感で悟った。

土砂降りの雨が、爆发した车两の火を消していく。それに伴って、视界を塞いでいた烟も、ようやく收まってきた。

同僚の杉山が、すぐ近くで|尻饼《しりもち》をついていた。

彼はパクパクと口を动かしていたが、声は全く出ていない。

ただ、颜を真っ青にしたまま、ふらふらと人差し指で地面を指差していた。

才乡はそちらを见る。

そこには保护しようと思っていた男性はいなかった。どこを见回してもいなかった。

杉山の指差した场所。

あったのは、少量の|血痕《けつこん》と、もぎ取られた人间の足の亲指が二本だけ。

[#改ペ—ジ]

行间七

学园都市外周部、と一口に言っても样々な颜がある。

街は东京都の三分の一もの面积を夸るのだ。东部东京方面、神奈川方面、崎玉方面、山梨方面、それぞれ面している地域によって、风景や特色もがらりと变わる。

|土御门元春《つちみかどもとはる》が走っているのは、都市部と森林部の中间のような所だ。针叶树で形成された深い森に埋もれるように、巨大な废工场がいくつも并んでいる。|繁殖力旺盛《はんしよくりよくおうせい》な杂草や|茑《つた》系の植物はコンクリ—トの壁に|络《から》みつき、|容赦《ようしや》なく自然の一部へ组み?んでいる。

土御门元春は、そんな建物の一つの中で、ザザガリ!!と急ブレ—キをかける。

元々は交通会社の、バスの整备场だったのだろうか。

学校の体育馆よりも、やや小さいぐらいのコンクリ—トの空间だ。高价な机材は|撤去《てつきよ》され、残るのは役に立たない|锖《さ》びた金属の块ばかりだ。そのためガランとした印象があるが、二阶部分や三阶部分には|未《いま》だに钢铁の足场のような通路が取り残されている。上部通路の床は|金网《かなあみ》状で、所々が锖びてボコボコに穴が空いていた。

屋根は半分ほど崩れており、土砂降りの雨は容赦なく降り注いでいる。壁の一面は|全《すべ》て金属制のシャッタ—になっていたが、そちらも锖びて落ちていた。

(……これか)

彼の眼前には、一本の木の杭が床から飞び出している。

巨大な物だ。直径一五センチ、长さ三メ—トル以上。铅笔のように荒々しく|尖《とが》った先端が、真上を向いていた。无数の雨粒を受け、血を流すように液体を杭の表面に传わせている。

|魔术《まじゆつ》による一品だった。

素材は|椋栏《しゆろ》か。

「シュ—ルな光景だ」

土御门が唇の端を曲げて笑った途端、杭の侧面から三六○度全方位に、全く同じ三メ—トルの杭が、ズドッ!!と势い良く飞び出した。木の杭ではなく、杭の木が出来上がる。土御门がそれらの先端をバックステップで|回避《かいひ》すると、今度は周围の床や二阶部分の通路、锖びた机材の山からも次々と杭が生み出され、土御门の全身を|狙《ねら》って突き出される。

うねる生き物のような轨道でバックステップを续ける彼に、追い着かないと感じたのか、杭の何本かが内侧から爆发した。ドッ!という|轰音《ごうおん》と共に、数百もの破片が土御门へ|袭《おそ》いかかる。

あるいは|屈《かが》み、あるいは机材の阴へ身を隐し、土御门はそれら全てをやり过ごす。

ものの数秒で、周围は数千本もの|杭《くい》に|覆《おお》われた处刑场と化した。

巨大な铅笔が、一面にびっしりと生えている。

(なるほど。学园都市もこうやって|攻击《こうげき》していくつもりだったのか。动けない连中を一人一人|串《くしざ》刺しにしていく、と)

なめやがって、と|吐《は》き舍てつつ、|土御门《つちみかど》はあちこち细かく移动しながら头を动かす。

おそらく『杭』は、整备场の外にも生えているだろう。

(わざとオレをここへ|诱《さそ》い?んで|?《わな》にはめるってのは───ないな。それにしては大挂かりすぎる。本命のど真ん中に突っ?んじまったと见た方が妥当だ)

|棕榈《しゆろ》は本来『惠み』を示す木である。その特性を利用すれば、『食い止める』や『|弹《はじ》き返す』などの防御をすり拔ける性质を与える事も可能だ。土御门が|迂阔《うかつ》に防御|魔术《まじゆつ》を使っていれば、その攻击は『惠み』と认识され、轻々と防御を通过した杭に全身を贯かれただろう。

そういった杭を、本当に数千本も用意したのなら|惊《おどろ》きだが、

「ふん。数をごまかしているな」

土御门が告げると、爆发的な杭の出现がピタリと止まった。

ぬるり、と。

何もなかったはずの暗がりから、白い人影が现れる。

トンネルの出口でも见ている气分だった。|暗《やみ》の中で、その术者の男だけがジグソ—パズルのピ—スのように削られている。自身が|辉《かがや》いているせいか、足元には一二の影が圆形かつ均等に配置されていた。アナログ时计みたいだ。

影自体が魔术を发动する|键《かぎ》なのか、何らかの指示に从って|各々《おのおの》は伸缩を连续させる。

「───、」

土御门は一步前に出たが、|距离《きより》は变わらない。

相手が移动した样子はないが、いつの间にか距离は保たれる。

まるで、永远にその距离が缩まる事はないと告げられたように。

(まずいな……)

おまけに、气配は一つではない。

この建物の中と外に、复数ある。总数は数十に及ぶだろうし、この调子だと学园都市外周部の|他《ほか》の地点にも同样の连中が展开されている可能性もある。

无言の敌に、土御门は静かに语る。

「三は天界、四は地上、そして一二で世界を示す。|全《すべ》ての杭を用意する必要はない。特定の『数』に意味を付加する事で、『|莫大《ばくだい》』という单位を得られるという所か」

ようは、核となる七本の杭を见つけ出し、それを一本でも碎けば敌の术式は封じられる。

これだけの杭の中から。

今でも数千本あり、さらにこれからも数を增していくであろう杭の山から。

|土御门《つちみかど》はニヤリと笑って言った。

「上手い术式だが……こいつは十字教ではない。纪元前の、ギリシア系ピュタゴラス教团の理论だぞ。贵样|达《たち》はいつの间に『神の子』が生まれる以前の世界を肯定したんだ?」

言叶に、相手は激怒したのだろう。

|暧昧《あいまい》な人影が、|吼《ほ》える。

ドッ!!という|轰音《ごうおん》が|炸裂《さくれつ》した。木の|杭《くい》が爆发し、整备场全体を摇らしたのだ。二阶や三阶の通路や、半分崩れた屋根から|锖《さび》が落ち、そこに『力』が加わり、|锖《さ》びた破片の表面から新たな杭が生まれ、あらゆる角度から土御门へ|袭《おそ》いかかる。

样々な方向から突き出された木の杭は、存在する|全《すべ》ての空间を|塞《ふさ》ぎ、杭と杭とをぶつけあって、バキバキ!!と共食いするように|溃《つぶ》れていく。

しかし、すでに土御门はそこにいなかった。

彼は整备场上部、钢铁を组んだような三阶通路に立っている。

はるか下から、无机质な|瞳《ひとみ》がこちらを|捕捉《ほそく》する。

コンクリ—トの床を埋め尽くす无数の杭が、次々と内侧から爆发し、その破片の对空炮火を向けてきた。土御门は锖びてあちこちに穴の空いた通路を飞ぶように移动する。そのすぐ後ろで自分の通ってきた通路が次々と碎けて、折れて、|倒坏《とうかい》していく。

土御门の唇の端から、赤い血がゆっくりと传う。

|魔术《まじゆつ》の攻击を受けたからではない。自分が魔术を使って、三阶通路まで飞んだからだ。

彼は能力者でもあり、魔术师でもある。

そして、能力者が魔术を使うと、拒绝反应が起きて体を伤つける羽目になるのだ。

(チッ。长期战でこちらに得はないな)

血を|拭《ぬぐ》いながら、彼は考える。

あの人影には|距离感《さよりかん》がない。まるで瞳に映った残像を追いかけるようなものだ。こちらが进めば进んだだけ下がり、こちらが退けば退いただけ近づいてくる。そういうヌルヌルした习性の存在。|故《ゆえ》に、あれを直接|叩《たた》くのは不可能……とまで言わなくても、かなり手间取るだろう。

そこに|拘泥《こうでい》するなら、先に杭の山の机能を止めた方が良い。

相手の武器を夺ってから、じっくり料理するべきだ。

「残念だな」

ドガバギミシミシッ!!と锖びた通路がへし折られていく中、土御门は通路に空いた穴を飞び越し、一点を目指して突き进む。

「|纤细《せんさい》な术式を见ると、|坏《こわ》すのが惜しくなってくる!!」

その先にあるのは、无数の杭に埋もれるように立つ、一本の木の杭。

七本の内の一本で、全ての杭を统括する弱点だった。

[#改ペ—ジ]

<a name="chap3">第八章神の右席と虚数学区とFuse=KAZAKIRI.

「|爱穗《あいほ》!!」

土砂降りの雨の中、|芳川桔梗《よしかわききよう》はようやく旧友を发见した。

夜の街は、周围一带が不气味なほどに静まり返っている。

|黄泉川《よみかわ》は路侧带に|停《と》めてある国产のスポ—ツカ—の中で、ぐったりとハンドルに身を预けていた。胸を压迫するような、见るからに苦しい体势だった。それでも彼女は身じろぎ一つしていない。意识がないのだ。

运转席のドアに手をかけると、カギはかかっていなかった。

芳川が铁のドアを开けた途端に、黄泉川の上半身がぐらりと摇れた。そのまま外へ飞び出すように、横滑りする。

「ッ!」

芳川はそれをどうにか抱え、运转席へ押し戾す。

(……何が起きたのよ)

口元に|掌《てのひら》を当てて呼吸の有无を调べ、首筋に手を当てて脉を测った。とりあえず生きているようだが、そういった事をしても、やはり一向に目が觉める样子はない。单に眠っているのとは违うらしい。

「……、」

芳川は雨も气にせず、车から周围へ视线を移す。

车が停まっているのは大きな通りだが、少し|离《はな》れただけで不良少年|达《たち》が|溜《た》まっている路地に|系《つな》がっている。

彼らに|袭击《しゆうげき》されたか、とも思ったが、それにしては黄泉川に伤がない。黄泉川爱穗は同性の自分から见ても美人だ。まして、彼女は|警备员《アンチスキル》である。袭击されたとなれば、想像を绝するような|酷《ひど》い事态になっていたはずだ。自动车もパ—ツ单位で分解されて不良少年达の小遣いに变换されているだろう。

(となると、别口……?)

芳川はそこで、|眉《まゆ》をひそめた。

不良少年でないのなら、一体どこの|谁《だれ》が黄泉川に危害を加えたのだ。

(とにかく、病院に……。そこに|诊疗所《しんりようじよ》があるから、救急车を呼ぶよりも早い!)

そんな、考えがまとまらない|芳川《よしかわ》の耳に、ガ—ッという低い音が闻こえた。

见ると、车内无线に取り付けられている小型プリンタ—が作动しているようだった。叶书サイズの纸切れが吐き出されている。

「んっ……」

运转席でのびている|黄泉川《よみかわ》の上から腕を通すようにして、芳川はその纸切れを取った。

そして、そこで固まった。

纸切れにはこうあった。

『|警备员《アンチスキル》第八四支部、铃山高等学校所属、|才乡良太《さいこうりようた》から报告あり。

第五学区内、事件现场での证言を元に、「|书库《バンク》」より照合。

|一方通行《アクセラレ—タ》、この者を杀人|未遂《みすい》事件の重要参考人として手配する』

|一绪《いつしよ》に吐き出された别の用纸には、见惯れた人物の颜写真があった。

人违いという可能性は、なかった。

|一方通行《アクセラレ—タ》は|薄污《うすよご》れた路地里にいた。

彼は再び第七学区に戾ってきたが、气持ちが安らぐ事はありえなかった。

雨音だけが续いている|暗暗《くらやみ》に、ガン、という重たい金属音が|响《ひび》く。

ポロ|布《きれ》になった『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』のメンバ—を、巨大なダストボックスに放り?んで|盖《ふた》を闭めた音だった。ダストボックスの盖と箱の|隙间《すきま》からは、だらだらと赤い液体が垂れている。食いしん坊のよだれみたいに见えた。

|一方通行《アクセラレ—タ》は腰ぐらいの高さのダストボックスに两手を预け、体を预け、足の力を拔いて、ずるずると地面に腰を落とす。油の|染《し》み?んだ|水溜《みずたま》りが服や肌に染み?んでくるような气がした。

「はは」

笑う。

久しぶりに肉を|溃《つぶ》した。

随分饮んでなかったコ—ヒ—を、ひたすらがぶ饮みしたような气分だった。气持ち良いはずなのに、虚脱感がある。气分は高扬しているはずなのに、どこかに|谛《あきら》めがあってノリきれない。あれだけ|美味《うま》い美味いと饮み续けていたのに、いつの间にか『この程度だったっけ?』と首を|倾《かし》げているような、不思议な精神状态だった。

何となく、思い知らされた。

今の|一方通行《アクセラレ—タ》は、この手で|谁《だれ》かを杀す事をよしとしない。というよりも、八月三一日にその事に气づいたと言った方が正しいのかもしれない。とにかく、それぐらいに|打ち止め《ラストオ—ダ—》との出会いは大きな转机となった。

|一方通行《アクセラレ—タ》は|打ち止め《ラストオ—ダ—》のような人间を杀したくはない。そして、彼女と同じ世界に住んでいる|黄泉川《よみかわ》や|芳川《よしかわ》といった他人にも同じ感情を向けるのは可能だ。光の道を步いている甘ったるい人间|达《たち》が、|一方通行《アクセラレ—タ》のような|暗暗《くらやみ》に|潜《ひそ》む者达の|饵食《えじヨ》になるのは间违っている。だから、それを食い止めるためなら|一方通行《アクセラレ—タ》はたった一人で战う事も辞さない。

一见、まっとうな人间の考え方だと思えるかもしれない。

しかしこの理论には穴がある。

例えば、|打ち止め《ラストオ—ダ—》とは似ても似つかないほど腐ったクソ野郎が目の前に出现した场合。その救いようのない人间が救いようのある人间を夺おうとした场合。この时、|一方通行《アクセラレ—タ》の『谁かを杀すのはいけない事だ』という|枷《かせ》が外れてしまう。彼が恐れているのは『光の世界の住人が、暗の世界の住人の食い物にされる事』だ。|一方通行《アクセラレ—タ》が暗の世界に属する自分を嫌っている以上、同じ世界の人间を受け入れるはずがない。

从って、特定の条件が|?《そろ》った场合に限り、彼は迷わず人肉を引き裂く。

腹の中に抱えていたものが全部キレイに|弹《はじ》けて、真っ白になるまで飞んでしまう。

ちょうど、今のように。

「───、」

土砂降りの雨に打たれ、|一方通行《アクセラレ—タ》はうな垂れていた。

结局、あの程度では|驮目《ぜめ》だったのだ。八月三一日の转机ぐらいでは、|染《し》み付いた暗の属性は|拂拭《ふつしよく》しきれていなかったのだ。あれでは足りない。それでは何が足りない。人间に戾るためには、後いくつのパ—ツが必要だ。

そこまで考えて、彼は笑った。

何かを|谛《あきら》めたような、吹っ切れた笑みを。

孤独が彼を支配する。

|打ち止め《ラストオ—ダ—》と出会う前に戾ったのだ。

「はは……」

|一方通行《アクセラレ—タ》はダストボックスに背中を预けたまま、夜空を见上げた。

雨粒が体を|叩《たた》く。

云は分厚い。见ていると心が暗くなるほど真っ黑だった。

(能力使用モ—ドは、もう四分も残ってねェな……)

うんざりしたように、现状を确认する。

(|警备员《アンチスキル》にも目ェつけられた。|今顷《いまごろ》は街中に颜写真がばら|撒《ま》かれてンだろォなァ。これで、|木原《きはら》を|溃《つぶ》してあのガキを助け出した所で、|俺《おれ》はもォあの世界へは戾れねェ)

|打ち止め《ラストオ—ダ—》との接点は、もう断ち切られている。たとえ彼女を无伤で救ったとしても、同じ道は步めない。ならば、今必要なのは|打ち止め《ラストオ—ダ—》と同じ道に进むための努力ではない。目の前の事实を受け入れる强さだ。それでも构わないと、ただ彼女を助けるためだけに动ける强さだ。

チッ、と舌打ちする。

短い间だったが、失ってみると、それはそれで丧失感が胸に风穴を空ける。

だが、この程度で彼の赤い|瞳《ひとみ》が摇らぐ事はない。

(认めてやる[#「认めてやる」に傍点]。だから何だってンだ[#「だから何だってンだ」に傍点])

|水溜《みずたま》りの中に沈んでいるショットガンを、片手で|掴《つか》む。

(あのガキだけでも雕の中から连れ戾す。それだけが目的だったはずだっだからそれ以外の|赘肉《ぜいにく》は|全《すべ》て|削《そ》ぎ落とす。こっちの事はこっちでやる。今必要なのは、クソガキの身の安全だけだ)

その武器を、|杖《つえ》の代わりにしてよろよろと立ち上がる。

木原|数多《あまた》も、『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』も、|警备员《アンチスキル》も、この先の事も、もうどうでも良い。

目的は一つあれば良い。

そう考えると气が乐になった。背负っていた重みが全て取り拂われた气がした。今ならどんな目标であっても必ず|叶《かな》えられると胜手に思う事ができた。

最後の|锁《くさり》は断ち切られた。

大切なものと引き换えに「最强』を取り戾した|一方通行《アクセラレ—タ》は、杖をついて雨の街を步く。

次の标的を溃すために。

全てを血の色に染めてでも、问题を解决するために。

获物の肉には、心当たりがある。

「全施设をクリア。|谁《だれ》もいませんね」

『|猎犬部队《ハウンドドッグ》』のメンバ—、デニスは无线机から集めた情报を、待机组に传えた。

そうか、という短い声が|同僚《どうりよう》から返ってくる。

ここは病院だった。デニス|达《たち》がいるのは一阶の大きな受付ロビ—だ。|壁际《かぺぎわ》をガラス张りにして、光を多く取り?む作りにされているが、今は夜であり、その上照明は全て落とされている。

真っ暗な病院は不气味の一语に尽きた。

彼ら一四名に渡された命令は、敌前逃亡した『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の元メンバ—、オ—ソンの处分。

并びに|目击者《もくげきしや》となった白いシスタ—の口封じだ。最恶、施设に爆药を仕挂けて病院ごと吹き飞ばしても构わないとまで言われていた。

デニスはさらに续けて报告する。

「三阶の廊下に使用济みの发烟筒を发见。それほど时间は|经《た》っていないそうです」

コ应、报告ではテロ活动の危险があり、|未《いま》だ施设内に不审物が隐されている可能性があるため、一时的に建物内から全职员と患者を|退避《たいひ》させた、とあるな」

携带型のコンピュ—タを操作しつつ、报告を受けた|同僚《どうりよう》、マイクも答える。

デニスは无线机から耳を|离《はな》し、

「……气づかれましたね」

「だろうな」

マイクはつまらなそうに言った。

「个人的には、そちらの方が良かったような气もする」

「しかし、病院には大型の|医疗《いりよう》设备を必要とする患者もいたはずでは?」

「病院车でも使ったのだろう」マイクは适当に言った。「全长三○メ—トル弱、观光バスぐらいの大きさの特殊な救急车だ。现场に急行し、その场で简单な手术も行えるそうだ」

「闻いた事がありません」

「だろうな。实际にはその车体のサイズが问题となり、小回りが|利《き》かなくて现场へ到着できなかったという失败作だ。日本でなければ成功したかもしれない。あるいは|舰队《かんたい》のように、小型の救急车と连携を取るとかすればな」

「それがこの病院にはあったと?」

「地下驻车场にでもあったんだろう。この病院なら不思议ぞはない。一○台ぐらい并べてあったと言われても|颔《うなず》ける。绝对安静の患者をそちらに移し、步ける者は|各《おのおの》々退避させた译だ」

マイクは适当に言って、携带型のコンピュ—タの电源を落とした。

「|一方通行《アクセラレ—タ》讨伐组からの连络が途绝えてかなり经つ」

「やられました、ね」

「追击に人员を|割《さ》く必要がある。だからこちらも休んでいる时间はない。引き上げるぞ。病院关系者が组织的に逃走したのなら、どうせ行き先を示すものは|全《すべ》て处分されているはずだ」

「|木原《きはら》さんは纳得しません」

「时间をかけたにも|拘《かかわ》らず、何のヒントも得られませんでしたと言っても纳得しない。优先顺位の违いだ。まず|一方通行《アクセラレ—タ》を仕留め、それから病院关系者の洗い出しに戾れば良い。ミス一つを手柄一つで|覆《おお》い隐せば、あの人の怒りも|和《やわ》らげられる。全员が处分される事もないだろう」

召集をかけろ、とマイクは抑扬のない声で言った。

デニスがそれに应じて无线机のスイッチを入れようとした时、变化が起きた。

プルルルル、という电话の呼び出し音が鸣ったのだ。

「……。」

「───、」

デニスとマイクは同时に首を巡らせる。

音源は、受付カウンタ—の向こう侧だ。まるでこちらの位置を测った上で、特定の电话机に|狙《ねら》いをつけてコ—ルしてきたような正确さだった。

「トラップの可能性は?」

「ワイヤ—、赤外线ともに确认できません」

デニスの言叶を受けて、マイクは周围を警戒しながら、カウンタ—を飞び越えた。呼び出しを示す赤いランプの点灭を眺めてから、受话器を取る。

『迟かったじゃないか』

声は|瓢々《ひようひよう》としていた。

マイクは|眉《まゆ》をひそめた。黑いマスクがなければ、嫌そうな颜、と受け取れたかもしれない。电话越しの|台词《せりふ》は闻き惯れた医者のものだった。彼は、この医者に命を助けられた事があった。

「『|冥土归し《ヘヴンキヤンセラ—》』……」

『退院した患者さんと话すっていうのは医者の乐しみの一つなんだけど、ちょっと时间がないから手短にいきたい。构わないかな?』

医者もこちらの|素性《すじよう》を看破しているようだ。

おそらく自分が受け持った患者の颜や声は忘れない人间なのだろう。

(……どこからこちらを|窥《うかが》っている?)

この施设のセキュリティは突入前に|全《すべ》て|溃《つぶ》したつもりだった。しかし、カエル颜がピンポイントでマイクへ连络を入れてきた所を见ると、别系统のセキュリティが|稼动《かどう》しているものと见た方が良い。

「余裕だな。|潜伏中《せんぷくちゆう》には、こういう挑发的な行动は取らずに|沈默《ちんもく》しているのがセオリ—だ。逆探知されたいのか」

『そんな基本的な事で失败するほど子供ではないさ?それに、多少のリスクを负ってでもやっておくべき事があるのでね』

「やっておくべき事だと?」

『仆は患者の味方だ。君がベッドから动けない病人|达《たち》を|战斗《せんとう》に卷き?むような人间であっても、命が夺われようとしているのなら救わないとね。医者の言叶は重要だよ?|赖《たの》むから闻いて欲しい』

医者はスラスラと言った。

しかしそこには、やはり|若干《じやつかん》ながらの|棘《とげ》がある。

『|木原《むはら》の下を|离《はな》れ、逃走しろ。そうしないと君达の命が危ない』

「本气で言っているのか」

『君は|一方通行《アクセラレ—タ》に溃される』

「あの腰拔けにか?」

『勘违いをしているようだけどね』医者は动じない。「|一方通行《アクセラレ—タ》は、决して善じゃないんだ。白じゃない。小さな光を得て、多少の白い善を手に入れたようだが、彼は基本的には黑い恶なんだよ。今までは……そう、限りなく黑に近い灰色、といった所かな。どちらにでも转ぶ、不安定な状态の危险な存在だね?』

「……、」

『分かっているだろう?ようやくわずかな白を手に入れた彼を、再び真っ黑に染め直したのは君|达《たち》だ。|故《ゆえ》に、彼は一切の加减をしないだろうね。|容赦《ようしや》ではなく、加减をしない。その小さな光が|暗《やみ》に埋もれるのを防ぐためなら、|全《すペ》てを血に染めてでも行动を续ける。君は|一方通行《アクセラレ—タ》に会ってはならない。仆が患者に言えるのはそれだけさ。|缲《く》り返す、君は|一方通行《アクセラレ—タ》に会ってはならない。今の彼は、君が见てきた彼じゃないんだ』

「|世迷言《よまいごと》を」

『そうか。意图が传わらなかったのは残念だ』

医者はそこで言叶を切った。

それから、言う。

『ところで、仆达に危险を传えてくれたのは|谁《だれ》だと思う?』

「なに?」

マイクは|眉《まゆ》をひそめ、それから嫌な感觉が胸に落ちた。

(まさか……ヤツが……?)

そこまで考えて、ハッとした。危机を传えたのがヤツなら、当然ここに『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』が|踏《ふ》み?んでくる事も推测できているはずだ。

警戒を|敷《し》き直そうと、マイクは近くにいる|同僚《どうりよう》のデニスに身振りで传达しようとしたが、その前に医者がポツリと言った。

『死ぬなよ。死なない限りは助けてやる』

ぎゃああああ!!と。

建物全体を|震《ふる》わせるような绝叫が、|天井《てんじよう》から|炸裂《さくれつ》した。

|敷地《しきち》内のあちこちで、铳声が连续で|响《ひび》いていく。しかしそれらは、一つ一つを摘み取るように、确实に|沈默《ちんもく》していく。

何かが近づいてくる。

マイクは受话器を投げ舍て、デニスと共にサブマシンガンを取る。物阴に隐れ、暗暗の向こうへ目を|凝《こ》らし、少しでも多くの情报を先んじて入手しようと努める。

そして、

『恐怖』が目の前に现れた。

デニスやマイクを含む『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の一班は、およそ一○分间で消灭した。

ヴェントは雨の街にいた。

(くそ……)

その动きは迟い。口元に当てた手の指の|隙间《すきま》から、どろりとした血液がこぼれていた。时折、背中が大きくビクリと动いたと思ったら、赤い块を地面に背中が大きくビクリと动いたと思ったら、赤い块を地面に|吐《は》き出している。

(……何だこれは。|谁《だれ》かからの、|攻击《こうげき》……?おのれ。あと少しで、标的を杀害できたのに)

そんな彼女を、人工の光が照らしていた。

光は动いている。

デパ—トの侧面には、广々とした大画面が取いた。アナウンサ—の切羽诘まった声がヴェントの耳を|叩《たた》く。

どうやち国营放送のものらしい。

『ええ、现在、突发的に意识を失う人が出ている、という报告が全国のあちこちから届いています。警察では原因の特定を急いでいますが───』

「が、ぁ……」

体の内侧からの痛みと寒气で、そちらへ注意を向けられない。

それでも、彼女は血まみれの唇を动かす。

「……そっちの方にも广がった、ってコトね。私の攻击は|狙《ねら》いを决めるのが难しいから、なぁ。学园都市さえ……制压できれば、良かったんだけど」

『日本のみならず、海外の一部でも被害の报告が见られているようです。なお、これに伴って空港や铁道、船舶など交通机关のダイヤに|影响《えいきよう》が出始めており───』

「はぁ……」

ヴェントは大きく息を吐いてから、告げた。

「バチカンの方に被害が出ていないと良いなぁ[#「バチカンの方に被害が出ていないと良いなぁ」に傍点]」

大して气にしてなさそうな声だった。

ニュ—スの方も混乱が续いているようだが、番组の方にも尺があるらしい。别のレポ—タ—に代わり、次の原稿が读み上げられていく。

『续いては经济です。东京都内にある、世界のお果子を集めたパラレルスウィ—ツパ—クで、秋の甘味フェアが开催されました。营业开始に合わせて───』

「……、」

ヴェントはジロリと大画面へ眼球を向けた。

『来客の予定人数は、开园一周间で二○万人を超すと言われており、グッズ关连の制造で中小企业との连携も期待されている事から、アトラクション业界のみならず地域经济全体に』

ボン!!という|轰音《ごうおん》と共に、火花を散らして大画面が吹き飞んだ。

ヴェントは、ハンマ—を肩で|担《かつ》ぐ。

彼女は雨の街を再び步き始めた。

|上条《かみじよう》は今にも崩れそうなファミレスの建物から、意识を失っている客や店员|达《たち》を雨の下に引きずり出した。|下敷《したじ》きになるのを防ぐためだ。次に|怪我人《けがにん》の手当てに移る。手足を飞ばされたのは、黑ずくめの连中だけだ。ロ—プで伤口断面を强引に|缚《しば》って血を止める。感觉が追い着いていないのか、伤口を见てもパニックにならないのが逆に怖かった。

それから救急车を呼んだが、街の现状を|鉴《かんが》みると病院に着けるどうかは五分五分か。

(そうだ。|打ち止め《ラストオ—ダ—》のヤツは……)

周围を见回しても、もちろんいるはずがない。上条は雨の中を走り、近くにあった|警备员《アンチスキル》の诘め所へ入った。彼女が助けを求めるなら、そこが一番可能性は高いと思ったからだ。しかし中はしんと静まり返っていて、テ—ブルに突っ伏すように|警备员《アンチスキル》の男が倒れているだけだ。

状况的にはレストランと同じ。上条はさらに远くの诘め所を二、三件回ったが、どれも似た感じだ。ここにいても安全ではない。となると、|打ち止め《ラストオ—ダ—》は一体どこへ逃げ?んだのだろう。

あれこれ搜し回っている内に、时间だけが经过していく。

と、そこで上条は自分のポケットの中にある物に气づいた。

それは子供用にデザインされた、|可爱《かわい》らしい携带电话だった。|打ち止め《ラストオ—ダ—》がファミレスから逃げる际に落としていったものだ。これで彼女は、|谁《だれ》とも连络が取れなくなった事になる。

(あの黑ずくめと、ヴェントって名乘ったロ—マ正教の女……。どっちにも|狙《ねら》われてる事を考えると、これ以上モタモタしていられない)

ヴェントが狙っているのは上条らしいが、かと言ってあの女が|打ち止め《ラストオ—ダ—》と遭遇した场合、にっこり笑颜で仲良しになるはずがない。本命ではないからと言って、その他の人间に气を配るような人间には见えなかった。

「……、」

上条はもう一度、|打ち止め《ラストオ—ダ—》の携带电话を见た。

恶いと思いながらも、电源を入れて登录アドレスを表示した。

|打ち止め《ラストオ—ダ—》が单独で逃げるか、知り合いに助けを求めるかは上条には分からない。が、知り合いに助けを求めるなら、このアドレスを|?《たど》って行けば|打ち止め《ラストオ—ダ—》に会えるかもしれない。そうでないとしても、彼女の知人にも危险を知らせておいた方が良いだろう。|打ち止め《ラストオ—ダ—》が行きそうな场所を教えてもらうのも良い。

登录件数は极端に少なかった。

画面をスクロ—ルさせる必要もない。四件ぐらいしかないからだ。本当にただ电话番号が记录してあるだけで、名前も书いてなかった。『登录1』『登录2』という、そっけないデフォルトの表示が并んでいる。もしかすると、保护者の人に持たされているだけで、自分では全然使っていないのかもしれない。

一件ずつ登录番号に电话をかけていく。

しかし呼び出し音が续くだけで、一向に相手が应じる样子はなかった。正体不明のヴェントの|攻击《こうげき》は、予想以上に广范围に及んでいるのかもしれない。

三件は|沈默《ちんもく》だった。

残る最後の一件も同样なら、これで手は终わりだ。

祈るような气持ちでボタンを押す。

携带电话を耳に当てる。

土砂降りの雨の中、单调な呼び出し音が鸣り始めた。

|一方通行《アクセラレ—タ》は暗い病院の中で、轻く周围を见回した。

グチャグチャになって息を|吐《は》いている敌は、その边に转がしてある。|杖《つえ》代わりにしているショットガンと同じ形式の铳はなく、弹丸の补充はできなかった。|他《ほか》の铳を拾っておくという选择肢もあるにはあるが、彼はそれを|避《さ》けた。あまり铳器に|赖《たよ》っていると敌に认识させたくない。

(さて、これで分班を二つほど|溃《つぶ》した译だ)

大粒の雨が当たる窗を眺めながら、|一方通行《アクセラレ—タ》は唇の中で|?《つぶや》く。

(|木原《きはら》のクソ野郎も、これで多少はプランを变更せざるを得なくなる。|俺《おれ》を溃す事の优先顺位が跳ね上がる。その分だけあのクソガキの危险度は引き下げられるって寸法だ)

一见何もかもこちらが优位に见えるが、实际には|一方通行《アクセラレ—タ》の劣位は变わらない。普通の『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』をいくら溃した所で、木原は|焦《あせ》りはしても恐怖は觉えない。|何故《なぜ》なら木原には|一方通行《アクセラレ—タ》を素手で|叩《たた》き伏せる特殊な体术があ。るからだ。

さらに、木原|数多《あまた》や|打ち止め《ラストオ—ダ—》がそれぞれ街のどこにいるのか、ヒントもない。今の|一方通行《アクセラレ—タ》には决定的なアクションを起こす事ができない。相手がポロを出すのを待つしかない。

|打ち止め《ラストオ—ダ—》がまだ捕まっていなければ、|一方通行《アクセラレ—タ》がこれまで行ってきた战术は有效になる。木原はプランを变更し、こちらにさらなる|刺客《しかく》が回され、その分だけ招鳕?を追う人数は削られていくはずだ。

しかし、すでに|打ち止め《ラストオ—ダ—》が|木原《きはら》に捕まってるのなら、|一方通行《アクセラレ—タ》の努力は|无驮《むだ》に终わる。木原の位置が分からない以上、即座に助けに行く事もできないし、木原がボロを出すような机会も完全になくなる。彼らの目的は|打ち止め《ラストオ—ダ—》であって、|一方通行《アクセラレ—タ》ではない。下手に手を出し续ける必要もないのだ。

(二つに一つ。妥协点ナシ、か。ったく笑えねェ状况だ)

|一方通行《アクセラレ—タ》は舌打ちしてから、足元を见た。『|猎犬部队《ハウンドドツグ》が使っていた无线机がある。|苛立《いらだ》ち纷れに、彼はそれを|踏《ふ》み|溃《つぶ》した。|一方通行《アクセラレ—タ》が无线を入手した事は木原も知っているらしい。先ほどから重要な会话はなくなっていた。もう无线は利用できない。

(にしても、何でこのタイミングでヤツらがあのガキを|狙《ねら》う?)

壁に背を预け、思う。

(研究|络《から》みで|打ち止め《ラストオ—ダ—》が欲しいってンなら、やっぱ|妹达《シスタ—ズ》の方面か。っつっても、木原の野郎の言う通り、妹达ってのは战力的には大した事ァねェ。木原はこの|俺《おれ》を开发した|马鹿《ばか》だ。本气で能力者を军事利用してェなら、俺のDNAマップを使うか、俺以上のDNAマップを作るかの二择の方が性に合ってるはずだ)

地下街の出入り口付近で木原に溃されかけた时、彼は妙な事を言っていた。|量产能力者《レデイオノイズ》计画は军事利用が目的ではないとか、もしも本气で军用能力者を作りたいなら、|超电磁炮《レ—ルガン》ではなく。|一方通行《アクセラレ—タ》のDNAマップを利用していたはずだとか、そういう话だ。

(|量产能力者《レデイオノイズ》计画と、それに续く|绝对能力进化《レペル6シフト》实验)

彼はぼんやりと视线をさまよわせ、

(……俺やあのガキは、今まで一体ナニに|关《かか》わっていたンだ?)

何かを|掴《つか》みかけたような气もするが、|一方通行《アクセラレ—タ》の思考は长く续かなかった。

突然、携带电话が小刻みに|震动《しんどう》したからだ。

「───、」

|一方通行《アクセラレ—タ》は息を杀す。ポケットの中から小さな通信机械を取り出す。

画面に表示されているのは、|打ち止め《ラストオ—ダ—》の番号だった。

思う。

(あのガキ本人か、木原のクソ野郎か。まさに两极端の二择だな)

通话ボタンを押す。

携带电话を耳に押し当てる。

『良かった、ようやく|系《つな》がったな!』

声は|打ち止め《ラストオ—ダ—》のものではなかった。かと言って、|木原数多《きはらあまた》のものでもなかった。

木原の部下が电话を使っているのか、とも思ったが、

(……、この声?)

どこかで闻いた事があるような气もするが、はっきりとしない。电波の状况も良くないし、相手は外にいるのか、スピ—カ—からは豪雨の音まで入ってきている。

『今、|打ち止め《ラストオ—ダ—》の携带电话に残った登录番号に片っ端からかけてんだ。应答したのはアンタだけ。状况が|掴《つか》めないかもしれないが、协力して欲しい。あの子が危ないんだ!』

|?《わな》の可能性は十分にあった。

しかし、その?に乘らない事には|一方通行《アクセラレ—タ》に活路はない。

「どォいう状况だ?」

|一方通行《アクセラレ—タ》は少しでも多くの情报を得るため、意识を集中しながら寻ねる。

电话の声はベラベラとしゃべった。

完全下校时刻を过ぎた边りで、街中で|打ち止め《ラストオ—ダ—》と会った事。彼女の「知り合い』が正体不明の一团に|袭《おそ》われているから助けてほしいと|赖《たの》まれた事。现场に行ってみると、そこには黑ずくめの男|达《たち》が倒れているだけで『知り合い』はいなかった事。その後、黑ずくめの仲间らしき连中に追われ、|打ち止め《ラストオ—ダ—》だけ先に逃がした事。今の|打ち止め《ラストオ—ダ—》の安否は分からず、连络もつかない。彼女を|狙《ねら》う危机が去ったかどうかも判断できないため、早めに保护しておいた方が良さそうだ、

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という事。

黑ずくめの动きや|打ち止め《ラストオ—ダ—》の位置などは、『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』なら简单に|掴《つか》める。

ますます|?《わな》の可能性が高くなってきたが、

しかし同时に、

(……いかにもあのガキらしい动き方じゃねェか)

「なぁ。もしかして、アンタが……あの子の言ってた「知り合い」って事で良いのか?』

「多分な」

『良かった。そっちは无事か。|打ち止め《ラストオ—ダ—》の事もあるし、もし合流したら|一绪《いつしよ》に隐れててくれ』

话が|逸《そ》れそうだったので、|一方通行《アクセラレ—タ》は轨道を戾す。

「あのガキとはどこで别れた」

『第七学区のケンカ通り……じゃ、分かんねえか。ありゃウチらの间だけで使ってる名前だからな。っと、この道路って正式名称とかあんのかな?』

しばらく|沈默《ちんもく》が续いた。もしかすると表示板でも探しているのかもしれない。

『あった。三九号线の木の叶通りって书いてある。そこにあるオリャ·ポドリ—ダって名前のスペイン料理系ファミレスだ』

场所には心当たりがある。

あの边りは基本的には|赈《にぎ》やかだが、大きな通りを少し外れると、いつの间にか人の目が届かない里路地にいるという场所だ。表と里の接点が多く、引きずり?まれる人间も多い。

「逃げた方向は?」

『分かんねえ。建物から外へ逃がすのに精一杯だったからな。多分、通りに沿って」るとは思うけど。别れてからかなり|经《た》ってる。正直、今どこにいるかは予测がつかない』

そうでもない、と|一方通行《アクセラレ—タ》は思った。

完全下校时刻を过ぎて、バスも电车もなくなった学园都市では、乘り物がない。タクシ—を拾うにしても、あんなあからさまに金を持ってなさそうなずぶ濡れのガキが手を上げた所で、|律仪《りちぎ》に|停《と》めるようなヤツはいないだろう。

|打ち止め《ラストオ—ダ—》は步くしかない。

その上、自分でやっておいて何だが、今の彼女は|木原《きはら》の手から逃れる际に高所から水面に|叩《たた》き付けられて体力を|削《そ》がれている。それがなくてもこの土砂降り。かなり经ったと言ったが、おそらく|打ち止め《ラストオ—ダ—》はほとんど移动せず、どこかの建物で体力の回复に努めているはずだ。

电话の声が本当なら、今なら何とかなるかもしれない。

?だとしても、そこから进展する可能性はある。

「分かった。後はコッチで回收しておく。オマエはそのケ—タイを舍てて、サッサと一般人に戾れ」

『何言ってんだ!|俺《おれ》も手传うに决まってんだろ!!』

实は一人の方が动きやすいというか、下手に|素人《しろうと》に状况を乱されたくなかったのだが、意外に相手は食いついてくる。|?《わな》にしろ、そうでないにしろ、|马鹿《ばか》な野郎だ、と|一方通行《アクセラレ—タ》はウンザリした调子で、

「そォだな。オマエは第七学区のデカイ铁桥に行け。あそこがいざという时の合流地点って事になってる。アイツが今も逃げてンならそこだ」

分かった、と何やら气合の入った返事がきた。

もちろん全部|嘘《うそ》なのだが。

『气をつけろよ。なんか今日の学园都市は少しおかしい。变なヤツが街の外から侵入してきてるし、|警备员《アンチスキル》とか街中の人|达《たち》がバタバタ倒れてるし』

「なに?」

|一方通行《アクセラレ—タ》は|眉《まゆ》をひそめた。

学园都市への侵入者や、大势の人间がバタバタ倒れているという话はどちらも初耳だ。

『侵入者の方はともかく、街の异变の方も知らなかったのか?|警备员《アンチスキル》とか、ええと、黑ずくめの连中も被害に|遭《あ》ってたみたいだったな。レストランの客も倒れてた。|谁《だれ》かが腹とか|殴《なぐ》って、物理的に直接气绝させてんじゃないんだよ。その边を步いてる人间が、いきなりバタリと倒れるっていう|氛围气《ふんいき》だな。いちいち确认してね—けど、周りが妙に静かだと思わね—か』

「……、」

どういう事だ、と|一方通行《アクセラレ—タ》は少し考える。

|木原数多《なはらあまた》はそこまでやるだろうか。ヤツの部下である『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』まで倒れているというのが气になるが、しかし木原なら部下を切り舍てる事にもためらわないかもしれない。

嫌な感じがするが、今は後回しだ。

とにかく|打ち止め《ラストオ—ダ—》を回收するのが最优先である。

『かなり无差别的な|攻击《こうげき》みたいだから、お前も气をつけろよ』

「面倒臭ェ……」

二人はそれぞれ言い合って、少しだけ|默《だま》った。

やがて、电话の向こうで彼は言う。

『恶いな。本当なら、あの子は一人にするべきじゃなかった』

「……、お互い样だ。|俺《おれ》もあのガキを一人にしちまったからな」

通话を切った。

少しだけ手の中の携带电话に目をやってから、ズボンのポケットにねじ?んだ。

|杖《つえ》の代わりに使っているショットガンをついて、彼は病院の出口に向かう。

ここが正念场だ。

|木原数多《きはらあまた》は暗い一室にいた。

今は使われていないオフィスだ。仕事に使われる机材の大半は消えていて、大量の事务机と|椅子《いす》だけが取り残されている。木原は椅子の一つに腰をかけ、两足を|埃《ほこり》っぽい机に乘せてくつろいでいた。

周围には装甲服に身を固めた男|达《たち》が控えている。

最初に比べれば数は少ない。せいぜい五、六人程度だ。

それでも木原の颜から余裕が消える事はなかった。

『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』はいくらでも上から回されてくる。それはつまり、クズな人间はどこにでも转がっているという事だ。人は木原を见れば恶い人间のお手本とでも表现するだろう。しかし、そういう非难を平气で浴びせている时点で、そいつも人の痛みを知らないクズに过ぎない。

消しても消してもなくならない。

だから彼は困らない。

「复数の班から连络が途绝えました。おそらくは」

神经质な部下の声が闻こえる。

木原はゆったりとした调子で、适当に言叶を投げ返した。

「逃げたか死んだか。どっちにしても、後で心脏を集めね—となぁ[#「後で心脏を集めね—となぁ」に傍点]」

失态に对しては、死んだ程度では许さない。死体からパ—ツをもぎ取ってでもケジメをつけさせるのが木原のやり方だ。

「しかし、どちらにやられたのでしよう」

「どっちでも良いんだがなぁ。|一方通行《アクセラレ—タ》の方はどうにでもなる。贫弱すぎて|殴《なぐ》ってるこっちの胸が痛みそうなぐらいだし。……问题は、あっちの女の方だな」

学园都市の都市机能が|麻痹《まひ》しかかっているという情报は木原も|掴《つか》んでいる。

そして、それと全く同じ|攻击《こうげき》を自分の部下达も受けている。

となると、『あの女』が街に攻击を仕挂けている事になるのだが、

(……面白い现象だったな、あれ)

ナノテクや电磁波など、『目に见えない物理现象』とも违う气がする。普通、その手の兵器を使う场合は、使用者は专用のマスクやス—ツなどを装着するものだが、あの女にはそういった防护策が一切なかった。

木原はすぐ近くにいた、别の部下に话しかける。

「|一方通行《アクセラレ—タ》の乘ったワンボックスにミサイルぶち?もうとした时に、女が|邪魔《じやま》に入ったろ。あの时|?《おとり》に使った连中は回收できたか」

「ええ」

それだけで、黑ずくめは|木原《きはら》が何を寻ねようとしているのか理解したらしい。

「今、手持ちの机材で负伤者を调べている所です」

「状态は全员同じか」

「いえ。确认しただけで三种类あります。眠るように气を失っている者から、石のように硬直している者までいるようです」

「种类を分ける基准は。倒れた场所か?」

「同じ场所で倒れた者|达《たち》でも、振り分けられるグル—プはバラバラですね。この边りは、まだ分かっていません」

一番多いグル—プは、と黑ずくめは前置きして、

「研究机关に回した译ではないので正确な数值までは分かりませんが、どうも倒れた|?《おとり》达は体内の酸素が极端に减じているようです。目に见えるほどの体组织の|坏死《えし》などは起こっていませんし、おそらく脑や内脏の机能に必要最低限な分は确保できているのでしょうが」

「……、人工的な假死の|诱发《ゆうはつ》か」

人间に限らずほとんどの动物には、生命活动に必要なものが不足すると、それに合わせて体机能のレベルを低下させる防卫本能を持っている。动物の冬眠などを思い浮かべると分かりやすいだろう。

部下は续けてこう言った。

「ただ、酸素ボンベなどで一定值を供给しても变化はありませんので、何らかの『力』。が动いているものと考えた方が良さそうです。……あの女、何者なのでしょう。くそ、あんなヤツのせいで作战达成率に|影响《えいきよう》が出始めていますし、オラフやルルも───」

声がぶつ切りになったと思ったら、黑ずくめはそのまま床に倒れてしまった。ごとん、という重たい音が、やけに生々しく耳に残る。

「───、」

木原|数多《あまた》は|椅子《いす》に腰挂け、テ—ブルに足を乘せたまま、ジロリと边りを见回した。

それ以上の变化は起きない。

しばらく息を|潜《ひそ》めていたが、二发目が来る气配はなかった。

何らかの能力を使った|狙击《そげき》かとも思ったが、相手にそんな力があれば木原も|蜂《はち》の巢にされているだろう。一番初めに木原が|狙《ねら》われなかった点や、部下が倒れたタイミングも气になった。

(野郎……どうやって狙いをつけてやがる……)

この废オフィスには一面に窗があるが、单纯にそちらから照准をつけているとしたら、やはり木原の方が优先的に狙われているはずだ。目视以外の、特殊な狙い方があるのか。木原ではなく、|邻《となり》にいた部下の方に狙いが|逸《そ》れてしまうような。

木原は思考を巡らせる。今『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』を|袭《おそ》っている特殊な现象。その一连の攻击を、超能力だけで实现できるだろうか。

(难しいな)

一人二人を|狙《ねら》うなら可能だろう。しかし、先ほどの报告を闻く限り、倒れた部下の数はもっと多い。人间个人の体内の酸素を常に一定に保つだけでも大变なのに、バラバラの位置にいる复数人の体を|完壁《かんぺき》に制御下に置くとなると、技量的に无理が生じる。

まして、部下の话では违う症状で倒れている者もいるらしい。

(|牺牲者《ざせいしや》の数だけ|袭击《しゆうげき》用の能力者を|?《そろ》えりゃ、できねえ事はねえが……いくら何でもコストが高すぎる。ザコ一匹に兵队一人|缚《しば》り付けたんじゃ割に合わねえ)

あの|一方通行《アクセラレ—タ》を直接开发した、超能力开发のエキスパ—トがそう判断するのだから、これについてはほぼ间违いない。となると、目の前で起きた怪奇现象は一体どんな法则で起こされたものだ。

超能力以外の力となると、ナノテクや电磁波など复数の科学技术が举げられる。が、この场合も|木原《きはら》が无事だった理由が说明つかない。そもそも、そういった技术は人を气绝させる事ならまだしも、血中の酸素を制御するのは可能だっただろうか。

学园都市制の能力でも、先端技术でもない。

しかしだとすると、それこそオカルトの世界に话が进んでしまう。

まさか木原の前に立ったあの女は、本当に超能力以外の『力』を行使する人物なのだろうか。

(非科学、か)

木原の目が细くなる。彼はその言叶を否定はしない。

科学の最先端の场にいるからこそ、逆にその言叶は轮郭を鲜明にする。何千何万と实验を行っていると、理论だけでは演算できない妙な数值がチラリと出てきたりもする。木原|数多《あまた》は、|一方通行《アクセラレ—タ》を开发した边りから、漠然と何かに|囚《とら》われていた。自分の信じている完壁な世界の理论のどこかに、见えない穴が空いているような感觉を。

彼は舌打ちすると、事务机から两足を下ろした。

「まぁ良い。こっちはこっちの事をやるだけだ。アレイスタ—の野郎もやかましいし、さっさと动いてさっさと终わらせるか」

アレイスタ—が何を最终的な目的として|打ち止め《ラストオ—ダ—》を捕获しようとしているのか、木原は说明を受けていない。しかしやるべき事の手顺は传えられている。それを实行すれば良い。

「|学习装置《テスタメント》の用意は?」

「こちらに」

倒れたのとは违う部下が、银色のアタッシュケ—スを事务机の上に置いた。本来、电气的な洗脑机械である|学习装置《テスタメント》はかなり大きな物のはずだが、必要最低限の部分だけを拔き取ればこの程度にまで收められる。

もちろん、『余计な所』を省けば省くほど、被验者の安全は损なわれる译だが。

(|一方通行《アクセラレ—タ》……)

アタッシュケ—スのロックを外し、ガチャガチャと机材を组み立てていく部下を眺めながら、ふと|木原《ほはら》はポツリと|?《つぶや》いた。

「あらゆるベクトルを操る、か。じゃあ、ああいうイレギュラ—はどうなんだろうな」

「は?」

何でもねえよ、と木原は言った。

|一方通行《アクセラレ—タ》は第七学区三九号线、木の叶通りに来ていた。

「电话の男』の言っていたファミレスはすぐに见つかった。まるで内战国の建物のように、铁筋コンクリ—トが|剥《む》き出しになるレベルで|破坏《はかい》されているのだ。木原の『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の连中も乱暴な手当てを受けたまま倒れている。最低限の|隐蔽《いんぺい》すらされていない。

「……、」

もしかしたら、『电话の男』は|?《わな》ではなかったのかもしれない。

だとすれば、こんな惨状に卷き?まれたにも|拘《かかわ》らず、|打ち止め《ラストオ—ダ—》だけでも逃がしたというあの男は、本物だ。

(チッ、早いところあのガキを见つけねェとな。アイツは一体どこへ行った?)

目印となるものでも残してあれば良いのだが、そんな气の|利《き》いたサインを记しておくだけの余裕はなかっただろう。假にあったとしても、この雨では流されている可能性も高い。

(あのガキは|妹达《シスタ—ズ》のネットワ—クを介して、『实验』当时使われていた证据隐蔽マニュアルに从って逃亡してるはずだ。八月三一日の|天井亚雄《あまいあお》と同じパタ—ンだな)

『实验』の事は思い返すだけで胸クソ恶くなるが、そこに活路があるのでは仕方がない。

(……卫星の目を盗み、なおかつ警备ロボットの巡回ル—トを外れるような道だ)

电话の男は表通りにある|警备员《アンチスキル》の诘め所などを搜したそうだが、おそらくそちらは外れ。证据隐蔽マニュアルを元に动いているなら、むしろ里通りの方が怪しい。

|一方通行《アクセラレ—タ》はショットガンを|杖《つえ》の代わりにして、路地に入っていく。土砂降りの雨に打たれ、动きづらい体を引きずるようにして、ひたすら步く。途中、ビルの里口などがあると、一つ一つをチェックしていった。|电击《でんげき》能力を使い、强引にロックを外した|痕迹《こんせき》がないかを调べていく。

收获はなかった。

道は一本ではないし、どこかの建物に隐れているかもしれない。

いくら何でもヒントが少なすぎる。

敌から逃げるためなのだから仕方がないのだが、これでは搜しようがない。

「クソッたれが……」

|打ち止め《ラストオ—ダ—》はこの近くにいるはずだ。それは间违いない。

あるいは、|一方通行《アクセラレ—タ》の方からサインを出せば、|打ち止め《ラストオ—ダ—》は出てくるだろうか。そのサインとは何だ?|打ち止め《ラストオ—ダ—》は携带电话を手放している。そういった连络方法が取れないなら、後は电极のスイッチを解放して派手に暴れ回るのも一つの手かもしれない。

と、ここまで考えて、|一方通行《アクセラレ—タ》は别の方法を思いついた。

あまりにも|马鹿马鹿《ぱかぱか》しくて、今まで考えもしなかった方法だ。

大声で名前を呼べば良い。

|一方通行《アクセラレ—タ》の声だと分かれば、|打ち止め《ラストオ—ダ—》は出てくるはずだ。

しかし、见つからない子供の名前を呼んで步き回るだなんて、まるで迷子を搜す父亲のようだ。|普段《ふだん》の|一方通行《アクセラレ—タ》の价值观からして、最も远い行动のような气がする。

笑ってしまうが、それしか手はない。

いかにも|忌々《いまいま》しそうに舌打ちしてから、彼は大きく息を吸い?んだ。

だが、声は出なかった。

声を出す直前で、『それ』を见つけたからだ。

土砂降りの雨が地面に落ちて作られた、污い|水溜《みずたま》りの上に、何かが浮いていた。

それは破り取られた布切れだった。大きさはハンカチぐらいのものだ。近づいて观察してみると、男物のワイシャツの|袖《そで》のようにも见える。|一方通行《アクセラレ—タ》は袖口のデザインに心当たりがあった。|打ち止め《ラストオ—ダ—》が空色のキャミソ—ルの上から|羽织《はお》っていたものだ。

|一方通行《アクセラレ—タ》の思考に空白が生まれた。それから、少しずつ颜色が青ざめていく。

これは、

まさか、

そんな、

タイミングを计ったように、携带电话が振动した。|一方通行《アクセラレ—タ》は、ノロノロとポケットから电话を取り出す。画面には见知らぬ番号があった。

违う、と思う。

これがヤツ[#「ヤツ」に傍点]なら、わざわざ通知する理由がない。こんな分かりやすい手をヤツは使わない。

だから|大丈夫《だいじょうぶ》だ。これはそういうものじゃない、と|一方通行《アクセラレ—タ》は自分に言い闻かせていく。

通话ボタンを押す。

耳に当てるまでもなく、大きな大きな声が彼の耳を打った。

「元气かな—ん、|一方通行《アクセラレ—タ》。ぎやははははっ!!』

みしり、と手の中の携带电话が|轧《きし》んだ音を立てた。

あまりにも予想通りすぎて、头の血管が切れるかと思った。

|一方通行《アクセラレ—タ》の|瞳孔《どうこう》が大きく动く。ざわざわとした感情の涡が、彼を中心に周围一带へばら|撒《ま》かれていく。

「なァンの用かなァ、|木原《きはら》くゥゥン?」

『|游び心《ユ—モア》だよ。将棋にしてもチェスにしても、胜负ってなあ宣言して幕を下ろすモンだろうが。

昔の人间ってなヤルよなあ。散々ムカつきっ放しだったクソ野郎が、目の前で败北に打ちひしがれる|瞬间《しゆんかん》を存分に味わえるんだぜ。これ以上の胜利の|醍醐味《だいごみ》があるかよ、なぁ?』

「宣言だと?マジで言ってンのかオマエ」

『信じねぇんならそれでもい—けどよ。っつか、そこにガキのシャツの切れ端とか落ちてねえ?まだだったら探してみうって、わ—ざわざ残しておいてやったんだからよぉ[#「わ—ざわざ残しておいてやったんだからよぉ」に傍点]』

「───、」

『「|学习装置《テスタメント》」ってのはすげ—よな。人间の头にウィルスぶち?めるなんて普通じゃねえよ。ハハッ!このガキ|身体《からだ》あガクガクに|震《ふる》わせてやがるぜ!!おいテメェのアドレス教えろよ、动画メ—ルで送ってやる!!』

血の气が引いた。

(コイツら、あのガキをさらったのはこのためか……ッ!?)

木原が行っているのは、八月三一日に|天井亚雄《あまいあお》が行ったのとほぼ同じだ。洗脑机械を使って|打ち止め《ラストオ—ダ—》の脑を直接书き换えているのだ。どんな内容の命令文を追加しているかは知らないが、まともな神经で行える事ではない。彼女の脑みその中にありったけの**を|擦《す》り?むよりも|冒渍的《ぼうとくてき》だ。

『にしてもテメェ、分かってねえな。敌を杀さねえってやり方は、确かに有效だ。世の中には生き地狱って言叶がある。死ぬ事が世界一の恐怖だと勘违いしてる[#「死ぬ事が世界一の恐怖だと勘违いしてる」に傍点]连中は、そういうプレッシャ—に耐えられずにパンクすんだろうさ。例えばウチの部下とかな。だがなぁ……』

木原は乾いた息を|吐《は》いた。

教え子の无能ぶりに失望した教师のように。

『そいつを知ってる俺には通用しねえんだよ[#「そいつを知ってる俺には通用しねえんだよ」に傍点]。安い演出だってのが丸分かりだボケ。い—か—、テメェみてぇなクソガキに复习タイムだ、|死体《オブジエ》ってのは、杀してナンボなんだよ。息の根を止めるってなあ、雕刻の颜を仕上げるようなモンだ。テメェのオブジェはギャラリ—に饰る段阶じゃねえ。适当に石を削ってその边に投げっ放したあどういう了见だコラ。そんじゃ肉块に对して失礼じゃね—かよ—?」

|一方通行《アクセラレ—タ》は取り合わない。

今自分が置かれている状况を分析していく。

『そんな译で、一回テメェにお手本ってのを见せてやる。キレ—なお肉の作り方ってのを教えてやるよ。ガキの|残骸《ざんがい》眺めて思わずトンじまわないように觉悟しておけよぉ!!』

スピ—カ—を割るような笑い声が续いた。

|一方通行《アクセラレ—タ》はしばらくそれを闻いていた。

やがて、彼は携带电话に向かってこう言った。

「で、|俺《おれ》はなンてリアクションすりゃ良いンだ?」

『あ?』

「腹ァ抱えて笑ってやンのが正解かなァ、マゾ太クン?」

『おいおい。テメェ、状况判断能力が|坏《こわ》れちまってんのか』

「そっちこそマジメにやってンのかよォ。今回の件が单に俺を悔しがらせるためなら、オマエはあのガキを回收なンかしねェ。さっさと死体に变えて送りつけてくンだろォが。|学习装置《テスタメント》?|马鹿《ばか》じゃねェのかオマエ。ンなパッと见で分かりづれェ方法じゃ演出にならねェよ」

一方通行は笑いながら续けて言った。

「その边をウロついてるチンピラどもは、世界の|暗《やみ》に|浸《つ》かれば自由を手に入れられるとかって勘违いしてるモンだが、实际には全くの逆だ。|潜《もぐ》れば潜るほど上下关系の|缚《しば》りは强くなる。なァ、そォだろ犬コロ奴隶の木原クン」

『分かった。テメェのマイブ—ムはガキの悲鸣だな』

「むしろ闻かせてくンねェかな。展开が单调なンで饱きてンだよ。ここらで生存确认ってのをしてみてェ。何なら鼻でも削って送ってくれても构わねェぜ?」

『ご注文の品はそれで良いンだな。今ならセットで耳も届けてやるけどよ』

「|怖气《おじけ》ついてンじゃねェよ若造が。オマエだって|谁《だれ》かに雇われてンだろ。木原|数多《あまた》个人の研究に、あのガキを利用する意味はなさそォだし。どォせオマエみてェなのを好んで使ってる野郎だ。トップは『无伤で回收しろ』なンて泪|溢《あふ》れる|台词《せりふ》を|吐《は》いてはいねェよなァ?脑と心脏が无事なら後は问题ねェとか言われてンだろ。にも|拘《かかわ》らずブルッちゃって指一本触れられねェオマエは何なのよ」

「りよ—かいりよ—かい」

「|惨《みじ》めだねェ、木原ク—ン。オマエはどこのデリバリ—よ。あンだけ|焦《あせ》ってたのは届けンのに三○分|经《た》っちまうと|叱《しか》られるからだったンかァ?」

『杀す[#「杀す」に傍点]』

ブツッ、と唐突に通话が切れた。

土砂降りの雨音が、急に近づいてきた气がした。

|一方通行《アクセラレ—タ》はくるくると携带电话を手の中で回转させ、今の会话を分析する。

(あの野郎の人格なら、ここまで言われりゃ电话の前であのガキの目玉の一つぐれェは绝对|弹《はじ》く。それがなかったって事ァ、おやおや。コイツは本格的にパシリ确定かよ)

危险な驱け引きだったが、これぐらいのリスクを负わなくては木原とは渡り合えない。

「───って事は、だ」

?涟悟凯ば、|木原《きはら》をそれだ魍?い|留《とど》まらせるほどのバックが存在するはずだ。

『猎犬部队』の整った装备を鉴みるに、一番大きな可能性は、

(まさか……学园都市そのものか[#「学园都市そのものか」に傍点])

おそらくは、それらを直接束ねている统括理事会か。|妹达《シスタ—ズ》を使ったあの『实验』当时と全く变わらない。いや、もしかすると、|全《すべ》ては地续きの出来事なのかもしれない。

(木原の居场所は分かンねェ。だが统括理事会の连中なら话は别だ。そっちを调べりゃ、木原が持ってる以上の『プラン』も|掴《つか》めるかもしンねェ。ンん?……おいおい、すげェな。あっという间に进展しやがったよ。こンなに顺调でオッケ—なのか)

ばんばん、と|一方通行《アクセラレ—タ》は壁を|叩《たた》いて笑う。

彼はパチンと携带电话を二つに折ってポケットに仕舞いながら、

「ふざっけンじゃねェぞ!!ナメやがってェえええええええええええええええッ!!」

绝叫した。

首筋のチョ—カ—型电极のスイッチを指で|弹《はじ》く。

|莫大《ばくだい》な演算能力が复归する。

|一方通行《アクセラレ—タ》の立っている场所は狭い里路地で、四方を见回してもコンクリ—トの壁しかない。

それでも关系なかった。

彼は绝对座标から标的の位置情报を确实に手に入れる。ギョロリと眼球を动かす。|一方通行《アクセラレ—タ》は知っている。|暗《やみ》に身を浸していたからこそ。その方角に建っている事を。

(敌は学园都市!ソイツを束ねてンのは统括理事长!!)

窗のないビルが[#「窗のないビルが」に傍点]。

学园都市の统括理事长がいるシェルタ—が[#「学园都市の统括理事长がいるシェルタ—が」に傍点]。

「がっ、ァァああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

|一方通行《アクセラレ—タ》は手近なコンクリ—ト壁に手を突っ?んだ。ベクトル操作によって、まるで豆腐のように腕が埋没する。|一方通行《アクセラレ—タ》は|喉《のど》から血が出るほど叫びながら、壁の中にある腕を乱杂に振り回した。

全てのベクトルを统括制御する。

ゴン!!という|轰音《ごうおん》が鸣り|响《ひび》いた。

その|瞬间《しゆんかん》、九月三○日の地球の自转は五分ほど迟れる事となった。

惑星の回转エネルギ—という莫大な力を夺い取った彼の腕が、ベクトル操作によって|恶魔《あくま》の|一击《いちげき》へ|变貌《へんぼう》する。

强引に|挟《えぐ》り出したコンクリ—ト壁が、恐るべき速度で投げ放たれた。|一方通行《アクセラレ—タ》が立っているのはビルに围まれた路地の一角だが、『标的』との间を|邪魔《じやま》する复数のビルが|纸屑《かみくず》のように|倒坏《とうかい》していく。

周りへの|配虑《はいりよ》とか、一般人を卷き?む事とか、そういった|考《よゆう》えは|一瞬《いつしゆん》で|全《すべ》て蒸发していた。

气がつけば、すでに放っていた。

『标的』までの|距离《きより》はおよそニキロ超。

窗のないビル。

学园都市の统括理事长·アレイスタ—の居城と言われる世界最硬のシェルタ—。

その核兵器の|冲击波《しようげタは》を受けてもびくともしないと言われている巨大建造物に、

恐るべき速度で直击する。

|莫大《ばくだい》な音の涡が|炸裂《さくれつ》した。二キロ以上|离《はな》れていても全く关系なかった。すぐそこにあった无人の银行や役所の建物などを二轩、三轩と次々に吹き飞ばし、通りの向こうにあるビルとビルの间を突き拔け、高层ビルの侧面に取り付けられていた电光揭示板を|?《むし》り取り、そのまま标的まで一气に突っ?んだのだ。途中で人的被害が出なかったのは奇迹でしかなかった。彼は、全く考虑していなかった。

灰色の|粉尘《ふんじん》が|撒《ま》き散らされる。彼の视界が一时的に夺われた。

もうもうと立ち?める粉尘は、しばらくそのままだった。

やがて、ゆっくりと视界は回复していく。

|一方通行《アクセラレ—タ》の前に、广がっていく。

「……、」

世界は、何も变わっていなかった。

学园都市最强の超能力を全力で振るい、地球そのものの自转エネルギ—まで夺い取って放った一击。それだけのものをぶつけても、窗のないビルはびくともしなかった。

结果は明白だった。

壁は、あまりにも大きかった。

「くっ、ァァああああああああああああああッ!!」

崩れ落ち、|一方通行《アクセラレ—タ》は污い|水溜《みずたま》りに|拳《こぶし》を|叩《たた》きつけた。どれだけやってもアレイスタ—には届かない。|得体《えたい》の知れない技术で冲击は分散されているし、そもそも本当にあそこにいる保障もない。全てはダミ—かもしれない。どうでも良い。そんなのはもう、本当にどうでも良い。

|打ち止め《ラストオ—ダ—》を夺われた。

状况は考えられる限りで最恶のものだ。

彼が守りたかったものは、一つも残さずズタズタに引き裂かれていく。

(杀そう)

バチン、と电极のスイッチを元に戾して、彼は静かに思った。

|黄泉川《よみかわ》や|芳川《よしかわ》とどうにか连络を取ろうとかいう考えは、|完壁《かんぺき》に消え去っていた。

(|木原数多《きはらあまた》を杀そう。绝对に杀そう。一○○回杀しても饱き足らねェあのクソ野郎を、この一回に|凝缩《ぎようしゆく》してぶち杀そう。そォしないと何もかもが话にならねェ)

ふらふらと、彼はショットガンを|杖《つえ》の代わりにして、立ち上がる。

ポケットの中にある携带电话に意识を向ける。

そこには木原の番号が记录されている。ダミ—にしても、调べる价值はあった。普通の手段で调べられないなら、普通でない手段を取れば良い。|一方通行《アクセラレ—タ》に未来はなく、|打ち止め《ラストオ—ダ—》の未来も夺われつつあるのなら、何に|远虑《えんりよ》する必要があるのか。|警备员《アンチスキル》や|风纪委员《ジヤツジメント》の诘め所程度のデ—タベ—スで话にならないなら、统括理事会の隐れ家を一つ一つ|溃《つぶ》してでも『|书库《パンク》』に完全アクセスする、一二人のお伟いさんなど关系ない。必要なら颜でも心脏でも溃してやる。

街中に火を|点《つ》けてでも|炙《あぶ》り出して、细胞一つ残さず杀してやる。

|讴《うた》うように|?《つぶや》き、彼はゆっくりと路地里を步き始めた。

彼の背中が、さらに深い深い|暗《やみ》へ消えていく。

アレイスタ—は窗のないビルにいた。

あれほどの|冲击《しようげセ》を受けて、それでも建物の内装に变化はない。彼は广い部屋の中央にある、赤い液体に满たされた圆筒容器の中で逆さに浮かんでいる译だが、その液体が|若干《じやつかん》摇れた程度でしかなかった。

(何やら表が|骚《さわ》がしいようだが)

彼の意识は、その原因には向かない。

それぐらいなら、目を向けるまでもないと言うように。

アレイスタ—の视线は空中にあった。

どんな技术を使っているのか、何もないはずの|虚空《こくう》には、いくつもの四角い|映像《ウインドウ》が浮かんでいた。それらはアレイスタ—の眼球の动きに合わせて次々と表示を切り替え、彼の指先に合わせてコマンドが入力されていく。

これらのコマンドは、别に体を动かさずとも、脑波を检出する事でも补えるのだが、

(ふふ。たまには运动もしないとな)

体机能の大半を生命维持装置に预けているアレイスタ—は、极论を言えば|瞬《まばた》きすらしなくても良い状态にある。常に调整された液体の中にいるため、眼球を|润《うるお》す必要がないからだ。指先を动かす事でさえも、『イベント』として认识される。その微细な动きに价值を贮迹し、神经を传って脑に送られる信号を解析し、たったそれだけの仕草で|神业《かみわざ》级のインスピレ—ションを|诱发《ゆうはつ》させる译だ。

彼には、体を|锻《きた》えるという|概念《がいなん》はない。

筋肉の电气的收缩活动も、内脏の管理も、それらは|全《すべ》て机械が胜手にやってくれる杂事でしかない。かれこれ何十年も步いていない、と闻けばさぞかし不健康と思うかもしれないが、アレイスタ—はこの世界の|谁《だれ》よりも理想的な健康状态を维持していた。

それは知的活动においても同じ。

アレイスタ—にとって、脑とは部品の一つに过ぎない。|魂《たましい》や生命とは切り|离《はな》された存在であり、代用はいくらでも|利《き》く。彼のインスピレ—ションはケ—ブルによって外部へ吸い出され、そこに|镇座《ちんざ》するコンピュ—タの中で|酿成《じようせい》され、个人の意见としてアレイスタ—の脑内へ|还《かえ》る。生命维持装置は彼の|皮肤《ひふ》であり、内脏であり、脑である。もしかすると、この大型机械の群れは、今この瞬间は生きているのかもしれなかった。移植した脏器が患者の体に定着するように、あまりにも人间に接近しすぎた金属の群れは、もはや机械と呼ぶべきか人间と呼ぶべきか判断に迷うほどである。

触れれば鼓动すら闻こえそうな硬い块に围まれ、アレイスタ—はゆったりと|微笑《ほほ》む。

彼が眺めている画像には、いくつかのデ—タがある。

一つ目は、世界中にいる|妹达《シスタ—ズ》の配布图と、彼女|达《たち》の脑波パタ—ンのグラフ。

二つ目は、この街で生まれつつある『モノ[#「モノ」に傍点]』の生体デ—タ。

三つ目は、超望远で捕らえた、ヴェントが手すりに寄りかかって|咳《せ》き?んでいる映像だ。

(|木原《きはら》の方も、|最终信号《ラストオ—ダ—》の回收には成功したらしい。对象コ—ド注入後の予备段阶で、早くも学园都市の『场』に变化が生じている)

アレイスタ—の思考には余裕が生まれていた。急场しのぎで、予想していた出力を大きく下回る结果だが、これだけあれば十分だ。

(AIM扩散力场を利用した虚数学区·五行机关は展开完了した。この学园都市の内部で|魔术《まじゆつ》を行使すれば、あらゆる魔术师は暴走·自爆する。前方のヴェント、だったか。それは贵样の体とて例外ではない)

インスピレ—ションは思考を生み、思考がインスピレ—ションを生み、後はその缲り返しで历史を动かす大きな知的奔流が筑かれていく。

(现在の出力では、世界を|覆《おお》う事などとてもできない。术的な压力にしても、かろうじて耐えられるレベルだろうが……。まだまだだぞ。例のコ—ドはまだ本起动もしていない。ヒュ—ズ=カザキリの出番と共に、形势はそのまま逆转する)

空中に新たなウィンドウが表示される。

そこには、この街の变化に户惑い、雨の中を不安そうに步く、|风斩冰华《かざのりひようか》が表示されていた。

10

ヴェントは铁桥にいた。

大きな川にかかる桥だ。铁とアスファルトで作られた构造物はひたすらに寒々しい。土砂降りの雨が|影响《えいきよう》しているのか、眼下の暗い川は增水していて、|浊《にご》った水が钝い音を立てていた。

「ぐっ、げほっ、げほっ……」

水っぽい、|咳《せ》き?む音が连续する。

口を押さえる手の|

口を押さえる手の|隙间《すきま》から、重たい血がこぽれていく。ヴェントは自分の血まみれの手を眺めた。その手はガタガタと|震《ふる》えていた。

(これは……一体、何だ……?)

无理もない、彼女自身にも原因が分からないのだ。自分の体に何が起こったのか、それはどの程度のダメ—ジなのか、この体は|大丈夫《だいじようぶ》なのか、|驮目《だめ》なのか。

(……私の、カラダは、特殊な作りをしている[#「特殊な作りをしている」に傍点]とは、いえ……。今までは、こんなコトは、なかった。コレは、そっちのせいじゃない……)

げほげほと、污い音が续く。

雨に|濡《ぬ》れる路面に、新たな赤い色が散っていく。

土砂降りの雨に打たれて、目元の化妆が|若干渗《じやつかんにじ》んでいた。发を|覆《おお》っている布地、ギンプも乱れ、额の边りからほつれ毛がこぼれていた。

(となると、新たな……|魔术的《まじゆつてき》、|攻击《こうげき》……?いや、それも、违う。ここは、学园都市。魔术的攻击は、ありえない。术式を组まれた形迹も、ない。何より、私はそうしたモノを残らず迎击[#「そうしたモノを残らず迎击」に傍点]、する[#「する」に傍点]……)

「───ッ!!」

ずぐん、という震えが走る。

ヴェントの体から一齐に痛みが引いていく。

体调が回复したのではない。

逆だ。それ以上に优先すべき现象が起こったからだ。

压迫感があった。体のどこが、というレベルではない。|皮肤《ひふ》の上から内脏の奥まで、血管一本残さず|全《すべ》てを绞られているような、そんな感觉だ。

その正体は『气配』だった。

あまりにも巨大な气配が、この学园都市そのものを摇さぶっていた。气配に、敌意はない。

ヴェントなど见ていない。|喻《たと》えるなら、|豹《ひよう》やライオンといった|猛兽《もうじゆう》が、自分の鼻先であくびをしているようなものだ。相手に敌意がなくても、贫弱な人间は冷や汗を流して震えるしかない。

气配の方角は分からなかった。

缩尺の单位が违いすぎる。まるでこの街银てを滩い尽くしているようだ·狱兽げ腹に净み?まれた人间が、その体内で湘手の气配を探ろうとする行为には何の意味もないという事か。强烈すぎるのに、轮郭すらも|掴《つか》ませない。敌对するには最恶のパタ—ンだ。

その上……、

(この正体不明の气配、まだ|膨《ふく》らみ续けている……ツ—7开)

一番|惊愕《タようがく》すべきはそこだった。世界を|震《ふる》わせ、いくつもの重なった一层』をたわませ、空间に横たわっている|魔术的《まじゆつてき》法则すら吹き消そうという巨大な何者かは、まだまだ序の口だと言わんばかりに压力を增していく。十字教の『圣人』であってもここまでは行かない。ならばどう解释する。

(コレが、学园都市の、|私达《オカルト》に对する、最终ライン)

アレイスタ—の余裕の正体はここにあったのか。

确かに、これは良くない。ヴェントは学园都市の都市机能の九割近くを?毕させているが、その战况が|覆《くつがえ》されかねない隐し玉だ。しかし「方で、今まで简单すぎると思っていた节もあった。こうでなくては、魔术サイドと肩を并べる一大势力とは言えないだろう。

「……关系、ない。何が出てこようが、私は目的を果たすだけってコトよ」

ヴェントは、口の中で短い言叶を棚いだ。

彼女の弟の名前だった。

それだけで、ヴェントの体を|苛《さいな》む震えが、いくらか引いた。血を|吐《は》いている原因も分からないという恐怖も|和《やわ》らいだ。思考に冷静さが戾る。|惊《おどろ》きに摇さぶられた心が、|芯《しん》を得る。

(都市机能の九割を夺ったコトは事实。こちらの优势に变わりはない。アレイスタ—は、隐し玉を出さなきゃなんないほどに追い诘められてるってコト)

だから胜てると、ヴェントは口元の血を|拭《ぬぐ》って结论を出した。

(阴ながらの应援も[#「阴ながらの应援も」に傍点]、もう使えない。あの|上条当麻《かみじようとうま》が学园都市にとって、どの程度のポジションかは知らないが、アレイスタ—もヤツの死を止められない……)

街を防卫している|警备员《アンチスキル》や|风纪委员《ジヤツジメント》といった连中は|坏灭《かいめつ》している。そういった人间こそ、彼女の|攻击《こうげき》を真っ先に受けやすいのだから。巨大な新手が现れた事で忘れかけていたが、ヴェントが着实に手を进めているのは确かなのだ。

杀すだけだ。

标的である上条当麻を。

(科学は、キライ)

ヴェントは手すりに两手を置きながら、思う。

(科学は、ニクイ)

自分をこんな风にした科学が嫌い。弟の命を助けなかった科学が憎い。

腕で口元を|拭《ぬぐ》って、ヴェントはゆっくりと深呼吸した。

ダメ—ジを受けた自分の体に活を入れる。

さっさと标的の|上条当麻《かみじようとうま》を杀そう、とヴェントが铁桥から|离《はな》れようとした所で、

唐突に、|凄《すさ》まじい|轰音《ごうおん》が鸣り|响《ひび》いた。

何らかの|远距离攻击《えんきよりこをげき》が放たれたらしい。发射地点近くのビルがまとめて崩され、そこから斜め上方へ一○キロ近い距离を驱け拔け、どこかのビルへ突击したようだ。

(何だ、今の……?)

『神の右席』やロ—マ正教とは关系のない动きだ。侵攻部队はまだ街の外周部にいると思う。

自分以外にも学园都市はトラブルを抱えているという事か。

ヴェントは|眉《まゆ》をひそめていたが、そちらを深く追求している余裕はなかった。

「……、」

彼女は|虚空《こくう》から有刺铁线を卷いたハンマ—を生み出し、|掴《つか》む。

ヴェントの颜中に取り付けられたピアスは『肉体に金属を突き刺す』という关连性から、『神の子』を十字架に|缝《ぬ》い止めた『钉』の属性を持つ。对して、ハンマ—は说明するまでもなく、『神の子』を处刑道具に打ちつけた|铁槌《てつつい》だ。

彼女を|战斗《せんとう》态势へ促すのは、一つの音。

足音だ。

11

上条当麻は『电话の声』のアドバイス通り、夜の铁桥に走ってきた。

しかしそこにいたのは|打ち止め《ラストオ—ダ—》ではなかった。

『神の右席』。

前方のヴェント。

「なっ……テメェ!!」

上条が|吼《ほ》えると、ヴェントは振り返りざまに巨大なハンマ—を振るった。

风の钝器が雨を食い破り、上条はそれを右手で|弹《はじ》き飞ばす。

两者の间に、见えない|紧张《きんちよう》が支配する。

「何でテメェがここにいる!|打ち止め《ラストオ—ダ—》をどこにやった?」

上条の叫びに、ヴェントはわずかに|眉《まゆ》をひそめた。

それから答える。

「わざわざ杀されに来たってコト?」

「あの子はどうしたって闻いてんだ!!」

「ラストオ—ダ—だぁ?知らねえんダヨそんなモンは!!」

互いの叫びがぶつかり合う。

しかし、二人がぶつかり合う事はなかった。

ドッ!!と。

|凄《すさ》まじい|闪光《せんこう》が二人の目に|袭《おそ》いかかったからだ。

视界が涂り|溃《つぶ》される。|上条《かみじよう》はこれもヴェントの策の一つかと思って警戒したが、ヴェントの方からも|齿啮《はが》みする音が闻こえた。

状况が|掴《つか》めない彼らへ、落雷のように一步迟れて音と|冲击《しようげき》が袭いかかる。

体中の关节が悲鸣をあげた。

「ぐああっ!!」

上条はそのまま路面へ转がった。铁でできているはずの大きな桥が、|吊《つ》り桥のように摇れる。その动きに耐えられないように、いくつものボルトが|弹《はじ》ける音が耳についた。

(……っつ。何が……)

|屈《かが》み?んだまま、上条は头を振った。

光と音が|离《はな》れてやってきたという事は、今のは|远距离《えんきより》での出来事だったのだろうか。

(ヴェントは……ッ!?)

闪光は长时间にわたって目を溃すほどではない。上条は慌てて起き上がり、周围を见回す。

(……何だ?)

と、彼女は上条など见ていなかった。

铁桥の手すりに两手をつき、ハンマ—を|胁《わき》に置いて、ヴェントは远くにある物を食い入るように|睨《にら》み付けていた。

「あの野郎……アレイスタ—ッ!!」

怒りに满ちた绝叫が|响《ひび》く。

上条に向けられたものより、数倍も数十倍も色の强い、明确なる怒气だ。

ヴェントはこちらを振り返った。

「テメェみたいな小物は後回しだ。……杀してやる。そうか。これが虚数学区·五行机关の

|全貌《ぜんぼう》ってコトか!ナメやがって。そうまでして私|达《たち》を|贬《おとし》めたいかぁああああああああああああああッ!!」

ハンマ—を掴むと、それを思い切り足元へ|叩《たた》きつけた。

ガァン!!という|轰音《ごうおん》と共に、アスファルトの破片が飞び散る。

「ッ!!」

|上条《かみじよう》が两手で颜を守った时には、すでにヴェントはどこにもいなかった。

(……消えた?って、まさか!!)

慌てて彼は手すりに驱け寄る。しかしその先を|?《のぞ》き?んでも、はるか下にはごうごうと音を立てて流れる黑い川しかなかった。雨のせいでかなり增水している。まさか、あそこに落ちたのだろうか。それとも何らかの|魔术《まじゆつ》を使ったのか。

(一体、何が……。アイツは何を见ていたんだ?)

ヴェントは、上条|当麻《とうま》を杀すために、わざわざ学园都市を|袭击《しゆうげの》したはずだ。

にも|拘《かかわ》らず、最大の标的である上条を、|完壁《かんぺき》に舍て置いていた。

上条は视线を、手すりの下から正面へと移した。

ヴェントの眺めていたものを确かめるために。

「……|嘘《うそ》だろ」

12

───虚数学区·五行机关が部分的な展开を开始。

───该当座标は学园都市、第七学区のほぼ中央地点。

───理论モデル『|风斩冰华《かざきりひようか》』をベ—スに、追加モジュ—ルを上书き。

───理论モデル、内外ともに|变貌《へんぼう》を确认。

───|妹达《シスタ—ズ》を统御する上位个体『|最终信号《ラストオ—ダ—》』は|追加命令文《コ—ド》を认证。

───ミサカネットワ—クを强制操作する事により、学园都市の全AIM扩散力场の方向性を人为的に|诱导《ゆうどう》する事に成功。

───第一段阶は完了。

───物理ル—ルの变更を确认。

───これより、学园都市に『ヒュ—ズ=カザキリ』が出现します。

───关系各位は不意の|冲击《しようげき》に备えてください。

13

夜の学园都市は、雨に包まれていた。

|普段《ふだん》と比べても极端に交通量の少ない道路には光も乏しい。それは建物も同じだった。まるで街の住人がみんな出かけてしまったように、あるいは照明はなく、あるいは|点《つ》けっ放しのまま忘れられている风に、どこか夜景は取り残され、统一性を失った感じが出ていた。

そんな街の一角で、|莫大《ばくだい》な|闪光《せんこう》が|溢《あふ》れる。

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<img src="img/禁书目录13_219.jpg">

|轰《ごう》!!と。光の中心点から、无数の|翼《つばさ》のようなものが吹き荒れた。まるで刃のように锐い、数十もの羽。一本一本は一○メ—トルから一○○メ—トルにも及び、天へ逆らうように高く高く广げられていく。

周围にはビルがあるが、そんなものを气にしている样子はない。

|濡《ぬ》れた纸を引き裂くように、次々とビルが|倒坏《とうかい》していった。人间の作り上げた贫弱な构造物を食い破りながら、翼は悠々と羽ばたく。世界の|主《あるじ》は人间ではないと、言外に语っているかのごとく。

まるで、巨大な水晶でできた|孔雀《くじゃく》の羽のようだった。

「まさか……」

|上条当麻《かみじようとうま》は桥の上から、|呆然《ぱくぜん》とそれを眺めていた。

彼は知っている。

はるか前方に见える、非科学极まりないものの正体を。

ミ—シャ=クロイツェフと名乘った、あれが现れた时と全く同じ|战杰《せんりつ》の气配。

指先一つ动かさずに人类を灭亡させる术式を操り、その片手间で圣人を半杀しにした存在。

その名は、

「───天使!?」

自分の口で言っておきながら、あまりの|希薄《きはく》さに头が追い着かなかった。

(いっ、いい加减にしろよ!ただでさえ、あちこちで问题が|涌《わ》いてんのに!!一体この街じゃさっきから何が起こってんだよ!?)

ヴェントが颜色を变えたという事は、あれはロ—マ正教が用意したものではないという事か。

では、それ以外にどう说明できる?

|何故《なぜ》、学园都市で天使なんて言叶が出てくる?

学园都市の中には、ロ—マ正教や『神の右席』よりも危险な|魔术《まじゆつ》组织が|潜《ひそ》んでいるのか。

それとも、

科学サイドであるはずの学园都市が、あの天使を降临させたというのか。

状况を理解できない上条など放っておいて、远くにある天使の翼はゆっくりと动く。

|一际《ひときわ》大きな翼と翼の间で、|得体《えたい》の知れない放电のような光が|瞬《またた》く。

直後。

ゴツ!!と。

破坏の|一击《いちげき》が放たれた。

生み出された壮绝な雷光は、蛇のように生物的な动きで学园都市の外へと飞んでいく。|上条《かみじよう》はその残像を目で追う。强烈な光が突き刺さった地点は、まるで土地の地下にまんべんなく爆药が仕挂けてあったように、森と土と木々と人が上空まで舞い上げられた。学园都市の出口は地平线の前後にあるはずなのに、上条の目でも『何らかのウェ—ブのようなもの』が上下したのが确かに见えた。それほどまでに、|膨大《ぽうだい》な量の物质が喷き上げられたのだ。

数秒迟れて、爆音が全身を打つ。

それはもはや|冲击波《しようげきは》だった。あまりの威力に上条は转びそうになる。铁桥全体が、天使の出现时と同样、またもやギシギシと不气味な音を立てていた。ここにいる事に身の危险を感じる。

「……ッ!!」

|打ち止め《ラストオ—ダ—》だのヴェントだの黑ずくめの男|达《たち》だの、今日一日で样々な问题が起こっているが、あれは格别だ。あんなものが好き胜手に动き回ったら、それだけで学园都市は|崩坏《ほうかい》してしまう。

被害が学园都市の中だけで济むとも限らない。

(でも、|打ち止め《ラストオ—ダ—》の方はどうする!?)

彼女を保护しないといけないのも事实だ。『电话の声』は、この铁桥が待ち合わせ场所だと言ったが、|打ち止め《ラストオ—ダ—》はどこにもいない。本当に现れたのか。それともヴェントを见て逃げたのか。

(ちくしょう!!)

上条は|打ち止め《ラストオ—ダ—》の持っていた子供用の携带电话を取り出して、登录番号にかけた。

电话はすぐに|系《つな》がった。

「なぁ!铁桥まで来たけど、|打ち止め《ラストオ—ダ—》はどこにもいなかった!そっちは见つかっ───」

『|马鹿《ばか》じゃねェのか?本当に信じてンじゃねェよ!!』

言い终える前に、向こうから怒鸣られた。

面食らった上条に、电话はさらに|苛立《いらだ》った调子で续ける。

『あのガキの居场所は、もオすぐ突き止められそォだ。少なくとも、|暗云《やみくも》に街を走り回って见つかるトコにはいねェよ。後はこっちでやる。オマエはさっさと归れ!!』

「……、」

くそ、と上条は心の中で|?《つぶや》いた。

これに协力できない事が、胸に刺さる。

「恶い。お前、さっきのヤツ见たか?街の一角に、すげえ光と|一绪《いつしよ》に、何十本って|翼《つばさ》が|涌《わ》き出てる场所があると思うんだけど」

『……学园都市の外周に向けて、何かを|击《う》ってやがったヤツだな』

「|俺《おれ》は、あの『天使』を止めなくちゃならない。だから本当に、アンタと协力するのは难しくなる」

构わねェ、と声は气轻に返ってきた。

恶い、と上条は谢ってから、

「死ぬなよ」

『互いにな』

电话を切って、それをポケットにしまって、|上条《かみじよう》は颜を前に上げる。

多くのビルを切り崩した『天使』は、その伟容をまざまざと见せつけていた。

[#改ペ—ジ]

行间八

鼓膜が吹っ飞ぶかと思った。

|土御门元春《つちみかどもとはる》は血まみれになって、水を含んだ泥土の上を转がっていた。彼は森の中にある、放弃されたバスの整备场にいたはずだが、今ではその影もない。|全《すべ》ては掘り返され、吹き飞ばされ、|木《こ》っ|端微尘《ぱみじん》となって再びこの地に降り注ぐ。まるで大规模な地滑りが起きた後のように、ドロドロに崩れた土の中に、大量の树木が埋もれているだけだった。

敌の人影もない。泥の中に埋もれているか、あるいは木っ端微尘に吹き飞んだか。

土御门にとっては、今日が雨なのが救いだった。

彼の最も得意とする术式は?黑ノ式』、すなわち水にある。

|阴阳《おんみよう》博士として最高峰の实力を夸る土御门元春が、とっさとはいえ自分の全身|全灵《ぜんれい》をかけて张り巡らせた防御用の术式。それをもってして、彼はようやく生き延びられたのだ。

「ごっ、ぽ!?」

しかし、それでも血の块が口からこぼれた。

彼は元々|魔术《まじゆつ》が使えない体なのだが、その反动だけではない。明らかに防御用の术式を食い破って、外からの|冲击《しようげの》を受けて体が引き裂かれていた。

木の杭も何もない。

本命の术式を|坏《こわ》すどころか、周围一带の地形ごと、まとめて|破坏《はかい》された。

(な、にが……)

土御门は泥に体を埋めるような格好で、思考を巡らせる。

(一体、何が、起きた……?)

|远距离《えんきより》から一击を受けたようだが、それが具体的にどんな术式かは全く想像がつかない。その上、攻击は学园都市の方向からやってきた。安易に魔术攻击=ロ—マ正教と决め付けるには、あまりに不自然な状况だ。

土御门は起き上がる事もできず、そちらへ首を巡らせて、

(|嘘《うそ》だ、ろ……)

はるか远く、学园都市の内部で展开されている无数の|翼《つばさ》を见た。

ここからでは小さな影しか见えない。外周の壁や背の高い建物の阴に隐れて根元も良く分からないが、それらの翼が目に入っただけで、呼吸が止まった。

天使。

ミ—シャ=クロイツェフのものと外观は似ているが、中身は全く违う。大天使『神の力』が突き刺す冷气のような|氛围气《ふんいき》をまとっていたのに对し、今展开されているのは、蒸し暑い部屋に充满した接着剂の|?《にお》いを|嗅《か》いでいるような、そんな不快感が强い。

そう、あれは人工的に形作られた天使。

学园都市と敌对する|魔术师《まじゆつし》に向かって正确に放たれた|攻击《こうげき》。

(ア、レイ、スタ—……)

|土御门元春《つちみかどもとはる》は、思わず唇を动かしていた。

虚数学区·五行机关。学园都市を中心に集束し、さらには世界中にばら|撒《ま》かれた|妹达《シスタ—ズ》によって扩散されたAIM扩散力场を统御する事によって生み出される、人工の『界』。

「あれを使っちまったのか、あの野郎……」

天使の出现と同时に、学园都市内部も|大骚动《おおそうどう》になっているだろう。

しかし、土御门の予想では、『界』の完成と共にあらゆるオカルトは消灭し、魔术师も死に绝え、魔术施设は|倒坏《とうかい》するはずである。|未《いま》だに土御门の命は保たれているし、术式の构成に违和感もない。

おそらく、あの虚数学区は未完成だ。

そうでなくては、|今顷《いまごろ》土御门も『あらゆる魔术の排除』に卷き?まれている。

そんな不完全なものをアレイスタ—が引きずり出してきたという事は、

(『神の右席』……。学园都市も、本格的に手诘まりか……)

あるいは、これすらもヤツの『プラン』の一つに过ぎないのか。

思うが、今はそれどころではない。

一刻も早く立ち上がり、ここを去らなければ、次の攻击が来る。あんな物まで持ち出してきた以上、アレイスタ—は本气で敌を|歼灭《せんめつ》する腹だ。抵抗ではなく反击。ロ—マ正教からの|刺客《しかく》を残さず|叩《たた》き|溃《つぶ》すために。このままでは土御门も卷き?まれる。

「ぐっ……」

土御门は两足に力を?めたが、まともに动かなかった。

先ほどの|冲击波《しようげきは》で、体の|芯《しん》までダメ—ジが蓄积しているのだ。

「ぜぇ、はぁ……」

のろのろとした动きで、何とか立ち上がろうとする。

体は动かない。

学园都市に出现した天使が、またもや|不稳《ふおん》な光を放ち始めた。

二发目が来る。

分かっていても、足が思うように动かない。

齿を食いしばる。

前を见る。

ここで死ぬ译にはいかない。だから、彼はそれでも|谛《あきら》めない。

[#改ペ—ジ]

<a name="chap4">第九章立ち塞がる障害の违いTwo_Kinds_of_Enemies.

第七学区の立体驻车场には、巨大な自动车が|停《と》まっていた。

白い车体は观光バスほどの大きさだが、窗がない。そしてこれはバスではなく、世界最大の救急车だった。一○人の人间を收めるための生命维持装置つきのベッドが完备されている储、简单な手术を行うための设备も整っている、病院车と呼ばれるものだ。

驻车场には一○台ほどの病院车が停めてある。フルで使えば、一○○人の患者を收容できる计算だ。

その病院车の阴に隐れるように、复数の小さな人影があった。

|妹达《シスタ—ズ》だ。

少女|达《たち》は|常盘台《ときわだい》中学の制服であるブレザ—とはあまりに似合わない、アサルトライフルや对战车ライフルなどで武装していた。数はおよそ一○。彼女达は|木原数多《きはらあまた》なる人物が放つ『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』という敌对组织を警戒している。

そんな中に、少女の声が|响《ひび》く。

「|离《はな》して!?ミサカネットワ—ク接续用バッテリ—?がないなら、ここにいても意味がないかも!街の样子もおかしいし、私は确かめに行かなきゃいけないんだよ!!」

白い修道服を着た少女が、看护师达に押さえられている。|三毛猫《みけねこ》も毛を逆立てていたが、两手で女医に抱えられているので、脚をパタパタ振っても拔け出せそうになかった。

|骚《さわ》ぎ声は|御坂《みさか》妹の耳にも届いているが、首を巡らせるだけの余裕はない。

体をまともに动かせない。

『(───上位个体二○○○一号より信号を确认ご

『(───危险度5と推定、ミサカ一○○三二号は拒ぜご

『(───拒绝を认めず。R、V、Y经路で信号を|受诺《じゆだく》)』

「(───ミサっ、思考き能に重ううう大ナ负荷)』

『(───拒绝を认めず)』

ザァッ!!とミサカネットワ—ク内に巨大な波のように、ある种の信号が广がっていた。それはあっという间に世界を|覆《おお》い尽した。

|最终信号《ラストオ—ダ—》からの|紧急《きんきゆう》コ—ドだ。

その内容がどんなものであれ、下位个体である|妹达《シスタ—ズ》には|抗《あらが》えない。

脑の|稼动《かどう》领域の大半を夺われた彼女|达《たち》は、ただ呼吸するだけの生物として、|各《おのおの》々がその场で固まっていた。

どうする、と全员が思っていた。

|最终信号《ラストオ—ダ—》が何者かの手に落ちたのは间违いない。そして、そこからくる命令は、どんな恶意的なものであっても|抗《あらが》えない。かと言って、このまま指を|哑《くわ》えて状况を眺めているなど论外だ。

(命令に、抗わない范围での、行动を……)

一○○三二号、|御坂《みさか》妹は、ミサカネットワ—ク上へ情报を送信する。

(……それが、结果的に、この危机的状况の、打破に|系《つな》がれば……)

全员がそれに应じた。

ウィルス(と、|妹达《シスタ—ズ》は|最终信号《ラストオ—ダ—》からの|紧急《きんきゆう》コ—ドを再定义した)に对し、|无驮《むだ》に抗う事をやめる。そうする事で、これまで抵抗用に|割《さ》いていた演算领域を确保し直す。得られたのは、ほんのわずかな思考能力であり、御坂妹は指一本动かす事ができない。

それでも、一万もの数が集まれば一つの力になる。

|妹达《シスタ—ズ》は、その力を自分达で|溜《た》め?むような事はしなかった。

もっと有效に使える人物を、彼女达は知っている。

顺风|满帆《まんぱん》。

それがトマス=プラチナバ—グの人生を示す言叶だった。

裕福な家に生まれ、何不自由ない暮らしを送り、高い教养を身につけ、大胆な|赌《ビジネ》け|事《ス》に胜利し、结果として|莫大《ばくだい》な富と权威を手に入れてきた。|统括理事长《アレイスタ—》を除けば一二人しかいない学园都市统括理事会に、三○代後半という异例の若さで|拔擢《ばつてき》されたのも、そういった彼の遍历を象徵するトロフィ—だ。

今まで一度も失败して来なかったし、これからも成功以外の道は步まない。

一点の|昙《くも》りなく、そう信じてきた。

|谁《だれ》にも话していないが、いずれは统括理事长として学园都市の|全《すぺ》てを|掌握《しようあく》する事も难しくないと思っている。それは野心でも何でもなく、ただ自然な流れとして、今あるベストを尽くせば、後は胜手に决まっていくものだろうとしか考えていなかった。

まさか、だ。

そんな彼は梦にも思わなかっただろう。玄关のドアを开けた|瞬间《しゆんかん》にショットガンの铳口を胸板に押し付けられ、そのまま引き金を引かれて、五メ—トルも後ろへ吹っ飞ばされるなどとは。

「……、」

バゴン!!という|轰音《ごうおん》と共にノ—バウンドで空を飞んだ成金小僧を、|一方通行《アクセラレ—タ》は冷めた目で眺めていた。|日顷《ひごろ》から命を|狙《ねら》われる可能性がある事ぐらいは自觉していたらしく、どうやら衣服の下に防弹ジャケットを着ていたようだ。おかげで上半身と下半身が真っ二つになる事はなかったようだが、どう考えても|肋骨《うつこつ》は|全《すべ》て粉々になっている。体がビクビクと|震《ふる》えているのも|痉挛《けいれん》であって、意识は|完壁《かんペき》に飞んでいるはずだ。

|一方通行《アクセラレ—タ》は、何かが吹っ切れていた。

窗のないビルへ|窗のないビルへ|一击《いちげき》あのクソ医者が言っての通りだ。彼は、たとキすら敌に回すのに、どうして最初の时点知らず知らずの内に味に笑ってしまう。「くっだらねェ」ずぶ|濡《ぬ》れの格好も与は邸内を步いていく。》を放った边りからだろう。|谁《だれ》を敌に回す事も|禁忌《きんき》ではなくなっていた。あのクソ医者が言っていた|台词《せりふ》の意味が、今になって理解できた。目的は一つに绞れ。全くその通りだ。彼は、たとえ打ち止めを敌に回してでも打ち止めを助けるべきだったのだ[#「たとえ打ち止めを敌に回してでも打ち止めを助けるべきだったのだ」に傍点]。あのガキすら敌に回すのに、|何故他《なぜほか》の人间に|踏躇《ちゆうちよ》しなくてはならない?

どうして最初の时点で、こういう手を考えなかったのか。

知らず知らずの内に、心理的な死角などというものを作っていた事实に、|一方通行《アクセラレ—タ》は|自嘲《じちよう》气味に笑ってしまう。

「くっだらねェ」

ずぶ|濡《ぬ》れの格好も气にせず、|豪奢《ごうしや》な|绒毯《じゆうたん》に黑々とした|染《し》みを|擦《こす》り付けるように、|一方通行《アクセラレ—タ》は邸内を步いていく。一品一品に气を配っている割に、|屋敷《やしき》の规模はひどく小さい。そのせいか、洋馆というよりコテ—ジのように见えた。

家具の一つ一つで家が买える箱庭だ。

あちこちの部屋を|?《のぞ》くと、使用人らしき复数の男女が、ベッドやソファ、床などで寝ているのが见えた。呼び出しに成金野郎が直接应じたのはこれが原因かもしれない。

|一方通行《アクセラレ—タ》は执务室を发见し、そこにあった大きな|黑檀《こくたん》の机に向かう。アンティ—クな一品……に见えるが、スイッチを操作すると|磨《みが》き上げられた板の一部が持ち上がり、液晶モニタとキ—ボ—ドが出现した。作动音はない。使い胜手は黑涂りの高级车に似ている。

いくつかのキ—ロックがあったが、|一方通行《アクセラレ—タ》は少しだけ时间をかけて、全て解除した。指纹や|网膜《もうまく》などの生体认证は使われていなかった。おそらく、それをやると手首や生首を|快《えぐ》り取られる危险があると|踏《ふ》んでいたからだろう。实际、|一方通行《アクセラレ—タ》もそうするつもりだった。

三○インチの大きなモニタに表示されたのは、一般人ならまず触れられないようなデ—タばかりだ。

学园都市での政策をまとめた书类がいくつも出てくる。分野に偏りがあるのは、ここの|主《あるじ》の专攻に关系があるのかもしれない。デ—タの山は无意味に见えるが、飞ばし读みすると大事な资料を见逃しそうだ。かと言って、一つ一つのデ—タをじっくり调べていては、それだけで何日もかかるかもしれない。

そうやって、だんだんと|焦《じ》れてきた|一方通行《アクセラレ—タ》は、ようやく目的のデ—タに行き着いた。

「……コイツか」

『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』についての情报だ。

现崔正体不明の胁威が学园都市を弊ていて、それを取り涂ために郁?を速やかに回收する、という事が记されている。お笑い种だが、ヤツらはあれで街を守るヒ—ロ—ごっこをしているようだ。

(ふざけやがって……)

思わず|唾《つば》でも|吐《は》きそうになった。

そんなにご立派な思想があるなら、まずは自分を盾にすれば良い。あんな小さなガキを散々に苦しめて、私|达《たち》をほめてくださいなんて调子が良すぎる。

「これは───」

さらにデ—タを调べた所で、|一方通行《アクセラレ—タ》は息を止めた。

どうやら统括理事会の连中は、『ウィルスを上书きさせた|打ち止め《ラストオ—ダ—》』を使って胁威に对抗しようとしているらしい。となると、少なくともその『胁威』がなくなるまでは、|打ち止め《ラストオ—ダ—》に死なれては困るという译だ。

まだ终わっていないのかもしれない。

取り戾せるものはあるかもしれない。

|一方通行《アクセラレ—タ》は|微《かす》かな希望に|震《ふる》える手でキ—を|叩《たた》いていく。

しかし、具体的に|打ち止め《ラストオ—ダ—》を使って、どう『胁威を取り除く』のかは书かれていない。当然、胁威の内容やウィルスの详细についても触れられていなかった。明らかに情报が足りない。会议での作战申请书(という名の、实质的には命令书)があるだけで、『何を申请したのか』という肝心の情报が一切ない。ここから先のデ—タは、|统括理事长《アレイスタ—》の头の中にしかないのかもしれない。

ただ、作战指示书にあるコ—ドの名は、

(ANGELだと?)

天使。その单语に、|一方通行《アクセラレ—タ》は|何故《なぜ》か学园都市の一角に出现した巨大な羽を思い浮かべた。

そして、それを止めると言った、あの男。

|暗《やみ》の中で战っているのは、自分だけではないのか。

(……、)

ともあれ、今はそちらへ气を配る暇はない。最优先は|打ち止め《ラストオ—ダ—》だ。

以前、八月三[日に|一方通行《アクセラレ—タ》は|打ち止め《ラストオ—ダ—》の头に书き?まれたウィルスを驱除している。

しかし、それは事前にウィルス情报を入手していた上、|一方通行《アクセラレ—タ》の力が万全だからこそ实行できた事だ。今のこの状况で、それが行えるとは思えない。

何より、バッテリ—が足りない。

能力使用モ—ドは、もうあと二分间も使えない。これで|治疗《ちりよう》をするのは无理だ。

(いや、|俺《おれ》のチカラを使って|治疗《ちりよう》する必要はねェ。|木原《きはら》はあのガキの头をいじくるためにプロの|学习装置《テスタメント》を使ってるはずだ。それを利用すれば良い。ウィルス情报だって、ヤツの手にはオリジナルスクリプトがそのままあるはずだ)

ウィルス书き?み後に木原が|学习装置《テスタメント》を|破坏《はかい》している可能性もあるが……确率は低いと|一方通行《アクセラレ—タ》は|踏《ふ》んだ。それでは、万が一上手くいかなかった场合に轨道を戾せない。木原はそのために何らかの保险を用意しておくはずだ。

(となると、结局ヤル事ァ变わンねェって译か)

ガタガタと连续でキ—を打つ。

(ハッ、ヒットォ!!)

『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の待机ポイントはすぐに见つかった。

(木原を杀してあのガキをもぎ取りゃイイ。ははっ、ヤル事分かるとヤル气が出るねェ!!)

邸内には狩猎用のライフルがいくつかあった。

何种类かの弹丸の形式の中から、自分のショットガンと致している物を探す。|一方通行《アクセラレ—タ》は弹を?めて外に出る。

インデックスは立体驻车场から土砂降りの外へ飞び出した。

今までは病院みたいな大きな车に摇られていたのだが、こそこそと隐れているだけの余裕はなくなっていた。

背後から制止を求める声が追ってきたが、彼女は振り返らない。

(まったく、结局あの"ミサカネットワ—ク接续用バッテリ—?って何だったんだよ!もしかして|骗《だま》されてたのかも?しかも迷子だけでも大变なのに、学园都市にあんなのが出てくるなんて!)

やたらと羽だけが巨大で、肝心の本体はビルの阴に隐れて见えなかった。何十枚という羽の块が、ゆっくりと移动しているのが分かる。人间が步いているのと同じぐらいの速度だ。

天使。

何であん女ものが学园都市に出现したのか、インデックスには全く理解できなかった。その上、あの天使の情报は一○万三○○○册の中に存在しない。こんな事态は、アウレオルスの『|黄金练成《アルスロマグナ》』以来だった。つまり、目の前の现象はそれに匹敌する大事なのだ。

(止めないと……)

インデックスははるか向こうに见える、最大で一○○メ—トルクラスの|翼《つばさ》を|睨《にら》み付ける。

(あれを止めないと大变な事になる)

先の|一击《いちげき》だけでも壮绝な|破坏力《はかいりよく》を秘めていたが、あれがインデックスの知る『天使』と同等の存在だとしたら、その真价はそんなものではない。指先一つで地球上の生物を根绝やしにし、宇宙の星々にまで深い|影响《えいきよう》を及ぼすほどの力を持っているはずだ。

禁书目录。

|必要恶の教会《ネセサリウス》。

|全《すべ》てこうした事态に备えて作られたものだが、これほど|心许《こころもと》ないと感じた事はなかった。プロの|魔术师《まじゆつし》ですら、これだけの恐怖を受けるのだ。それを无关系な人々に与える译にはいかないとインデックスは思う。

不气味なほどに静まり返った街を、インデックスは走る。土砂降りの雨のせいか、すれ违う人は|人は|谁《だれ》もいなかった。

その时、ずっとずっと远くにいる『天使』が、夜空を引き裂くように|咆哮《ほうこう》を始めた。まるで有刺铁线で作られた首轮を引っ张られている|兽《けもの》のような音だった。

何十枚という巨大な羽が、ビリビリと|震《ふる》える。不气味に|蠢《うごめ》いているようにも见えるし、痛みに耐えて身じろぎしているようにも见える。

そうしながら、あの『天使』は鸣いている。

インデックスは少しでも多くの情报を手に入れるため、そちらへ注意を向けていたが、

「……、え?」

彼女は、ふと疑问の声を放った。

とても人间には理解できないような、ただ空气を震わせているだけの音。

なのに、インデックスはその声を闻いて、何故か怀かしさを感じていた[#「何故か怀かしさを感じていた」に傍点]。

「───、」

彼女の视线の先には、『天使』の巨大な翼がある。

本来この世界にいてはいけないはずの、|

|神々《こうごう》しいのに背筋を冻らせるような光の翼。その翼は、时々风に流されるように轮郭が|暧昧《あいまい》になり、また元へ戾っていく。海の波のように、风で|雾《きり》が摇らぐように。

その动きは乱杂に见えて、实は一定のパタ—ンがある。

完全|记忆《きおく》能力を持つインデックスだからこそ、情报を照合できたのかもしれない。

彼女はこれと同じ动きを、以前にも目击していた。

九月一日。

地下街で魔术师シェリ—=クロムウェルを击退した後、|上条当麻《かみじようとうま》と|一绪《いつしよ》にカエルみたいな颜の医者がいる病院へ行った时に。

それは、

この引っ?み思案で、何に对してもオドオドしているような|氛围气《ふんいセ》の持ち主は、

「……ひょうか?」

「どうなってんのよ、あれ」

|御坂美琴《みさかみこと》は|呆然《ぽうぜん》と|?《つぶや》いた。

コンビニで买った伞を差し、彼女は雨に打たれた街の真ん中に立ち尽くしている。完全下校时刻をとっくに过ぎているせいか、天气のせいか、それとも|他《ほか》に理由があるのか、|谁《だれ》もいない大通りで。

|上条当麻《かみじようとうま》を搜していたのだが、时间も迟くなったし、雨脚も|洒落《しやれ》にならなくなってきたし、もう引き上げようと思っていた矢先だった。突然、街の一角のビル群が|粉尘《ふんじん》を上げて崩れていき、锐く|尖《とが》った|翼《つばさ》のようなものが数十本も飞び出したのだ。

超能力にしても、随分とスケ—ルが大きい。

というより、一体どんな能力を使えばあんな事ができるのだろう。

しかも、その直後に翼は放电に似た现象を起こし、学园都市外周部を|破坏《はかい》し尽くした。

『放电に似た现象』であり、それは『放电』ではない。美琴は学园都市で最も优秀な|发电能力者《エレクトロマスタ—》だ。その彼女から见ても、あれは电气を使った力ではなかった。

では何だ?

その力が电气に似ていれば似ているほど、その正体を|掴《つか》めなかった美琴は、自分がこれまで信じてきた科学的なル—ルが通用しないのだという事を理解していく。

携带电话を使って|白井黑子《しらいくろこ》に连络を入れても、应じる气配はない。

|风纪委员《ジヤツジメント》の诘め所にかけても、|警备员《アンチスキル》に电话をしても、结果は同じだ。

とんでもない所に一人で置き去りにされた气分だった。そして、|何故《なぜ》だか知らないが、学园都市の治安维持机能は|完壁《かんペき》に停止している。その上であの怪物の出现だ。あまりにも突发的に现实味の|薄《うす》い状况に追い?まれ、美琴は伞を差したまま立ち尽くしていた。

と。

ばしゃばしゃと|水溜《みずたま》りを|踏《ふ》む音を鸣らし、谁かが美琴を追い拔いた。远くに见える怪物へ向かって行くル—トだ。雨具も持たず、ずぶ|濡《ぬ》れのまま走る少女の背中に、美琴は见觉えがあった。真っ白な修道服を着た、いつも上条と|一绪《いつしよ》にいるシスタ—だ。

「ちょ、ちよっと!アンタこんなトコで何やってんのよ!?危险だって分かんないの!」

美琴は思わず彼女を追いかけ、その腕を掴んでいた。

「|离《はな》して!!」

インデックスは振り返りもしないで叫んだ。

「行かないと。あそこにはひょうかがいるの。どうしているのか知らないけど、止めないと。あそこにいるのは私の友达なんだよ!!」

よほど切羽诘まっているのか、ほとんど说明になっていない。あまりの事态に|错乱《さくらん》しているんじゃないだろうか、と|美琴《みこと》が思い始めた时、视界に新たな人影が现れた。

「とうま!!」

そう、|上条当麻《かみじようとうま》だ。

一○○メ—トルぐらい先の曲がり角から、彼は大通りに出てきた。少年はこちらに气づいていないらしい。やはりインデックスと同じく、巨大な|翼《つばさ》の群れにしか目を向けていない。

搜し人を见つけ、美琴は思わず口を开いたが、言叶は出なかった。

知り合いを见つけたはずなのに、インデックスの抵抗が爆发的に强くなったからだ。

彼女は美琴の腕を振り|解《ほど》き、土砂降りの中で叫ぶ。。

「|驮目《だめ》だよ、とうま!ひようかを杀さないでッ!!」

上条当麻は追われていた。

铁桥でヴェントを见失ってから、最优先で『天使』を止めるために都市部へ戾ってきた矢先だった。|打ち止め《ラストオ—ダ—》を追っていたのと同じ、黑ずくめの连中と钵合わせしてしまったのだ。

とっさに车も入って来れないような细い里路地に逃げ?み、入り组んだ道を通って追迹を|撒《ま》こうとしていた。が、多少の地の利はあっても、训练された人间を手玉に取れるはずがない。

今まで体を|击《う》ち拔かれなかったのが|嘘《うそ》のようだった。

「驮目だよ、とうま!ひょうかを杀さないでッ!!」

だから、その大声を闻いた|瞬间《しゆんかん》、上条は心脏が止まるかと思った。

声の内容よりも、单に『大きな音』を铳声と勘违いして、击たれたかと|错觉《さつかく》したのだ。

「ッ!!」

その场で硬直して、二秒ぐらいかけてゆっくりと振り返り、ようやくインデックスや美琴がこちらへ走ってくるのを见て、上条はわずかに力を拔いた。すぐに力を拔いている场合ではないと思い返し、二人の腕を|掴《つか》んで别の路地へと飞び?んだ。

バタバタという复数の足音が、表通りに鸣る。

黑ずくめの连中だった。

あちこちに目を走らせているが、やがて上条|达《たち》の|潜《ひそ》んでいる场所にも气づくだろう。しかし、美琴はともかく、インデックスは黑ずくめの连中など气にも留めていなかった。何やら|怯《おび》えた|瞳《ひとみ》でこちらの颜を见上げてくる。

これまで何があったとか、|何故《なぜ》今追われているのかとか、そういう事は寻ねない。インデックスは、それより重要な事だけを告げる。

「お愿い、とうま。あそこには行かないで。どういう理屈かは私にも分からないけど、でもあそこにいる『天使』はきっとひょうかなんだよ。あれは绝对に止めなくちゃいけない现象なんだけど、でもとうまだけは|关《かか》わっちゃ|驮目《だめ》!とうまが触ったら、善恶なんて关系なくひょうかが消えちゃうんだよ!!」

雨水を吸い?んだ|上条《かみじよう》のシャツを|掴《つか》んで、インデックスは切实に诉えてくる。

よほど|兴奋《こうふん》しているのか、言叶はほとんどぶっ切りだ。

しかし、『ひょうか』という名前には心当たりがある。

|风斩冰华《かざきりひようか》。

AIM扩散力场の集合体。人间の心を持つが、人间の体は持たない者。

(まさか……)

上条の知る彼女は、ああいった|破坏《はかい》活动とは全く缘のない人间だ。しかし、AIM扩散力场の组成を外部から干涉できる者がいれば、ああいう『变化』も起きるかもしれない。AIM扩散力场を|完壁《かんペき》に操れれば、形状から言动まで、|全《すべ》てを统御できる可能性もある。

现象であるが|故《ゆえ》の不完全性。

だとすれば、彼女をあんな风にしてしまったのは、|谁《だれ》だ?

(ヴェントが街の学生|达《たち》をバタバタと倒したから……いや、违う……?)

必死に考える上条に、インデックスは切实な声で言う。

「とうま、ひょうかは私が何とかするから。だから、ひょうかに手を出さないで!」

インデックスにとって、风斩冰华は初めて作った友达だ。

禁书目录としての立场の间に摇れながらも、彼女は风斩を敌に回したくないのだろう。

上条は考える。

风斩冰华は善人だ。しかし、その彼女が暴走状态だとすれば、何の保障にもならない。泥醉した人间に、|普段《ふだん》の人格が当てはまらないのと同じだ。

だから言った。

「驮目だ」

「とうま!!」

「アイツは|俺《おれ》が止める。それに、问题はアイツだけじゃない[#「问题はアイツだけじゃない」に傍点]。お前だけには任せられない」

「でも、とうまの右手を使ったらひょうかが死んじやうよ!!」

「死なせねえよッ!!」

黑ずくめの男达から身を隐している事も忘れ、上条は思わず叫んだ。泣き言を言うインデックスの|襟首《えりくび》を掴み、强引に引き寄せる。|惊《おどろ》きで硬直した彼女に、上条は言う。

「杀すためじゃねえ!风斩を助けるために立ち上がるっつってんだ!あんなのが普段の|风斩《かざきり》に见えんのかよ!?そんな译ねえだろ。何かが起きちまったからあんな风になっちまってんだよ!だったら助けないと|驮目《だめ》だろうが!!手を出すなだって?ふざけんな。アイツを助けるのに、いちいちお前の许可なんか必要ねえんだよ!!」

インデックスは、ぱくぱくと口を开闭した。

|上条《かみじよう》は构わず言う。

「|俺《おれ》には『天使』がどうだの、|魔术的《まじゆつてき》な详しい仕组みだのは分からない。だからお前の知识が必要だ。でも今风斩に起きてる现象にはAIM扩散力场も|络《から》んでるから、お前にも分からない事があるかもしれない。だったらそっちは俺も手传える。俺|达《たち》なら风斩|冰华《ひようか》を助けられる!」

土砂降りの雨の音が远ざかっていく。

周围を支配するものは、少年の言叶だけになる。

「今日一日、街じゃいろんな事が起きた。正直、俺には|未《いま》だに|全貌《ぜんぽう》が|掴《つか》めない事ばかりだし、解决の糸口だって分かんねぇ。でもやらなきゃならねえ事は分かってる!风斩を助けるのは俺达だ!违うか!?」

确认を取るために、彼は质问する。

友达に对して、杀すだの杀さないだの见当违いな事を言っていたインデックスの目を觉まさせるために。

「行くぞ、インデックス。风斩冰华を助けるためにお前の力を贷してくれ!!」

インデックスは、その声を闻いて、こくんと|颔《うなず》いた。

上条は彼女の|襟首《えりくび》から手を|离《はな》す。

それから、改めて路地の出口に视线を走らせた。まずは表通りにいる黑ずくめの连中をどうにか|撒《ま》かないといけない。魔术も超能力も|关《かか》わらない、本当にただの铳弹は、上条にとって最も相性の恶い相手だ。彼の右手は异能の力にしか通用しないのだ。

と、

「はぁ—……」

|一绪《いつしよ》に路地に连れ?まれた|美琴《みこと》が、大きな息を|吐《は》いて伞を舍てた。何やら疲れたような颜で、上条とインデックスを见る。

「何だか译が分からないけど、またアンタはデカい问题に卷き?まれてるって事なのね」

「ま、まぁそうだけど」

「で、その中心点にはアンタの知り合いがいる、と」

「知り合いじゃないよ。友达」

インデックスが订正した。

美琴はますますつまらなそうな颜で、路地の方を眺めて、

「一つだけ确认するけど、そいつは恶人じゃないのよね」

「绝对违う」

|上条《かみじよう》は即答した。迷いもしなかった。

「インデックスも言っただろ。あそこにいるのは、|俺《おれ》の友达だ」

「友达、って……」

|美琴《みこと》は、今も远くで移动しながら、羽と羽の间で放电に似た现象を|撒《ま》き散らしている『天使』を眺め、それから上条やインデックスの颜をもう一度见直した。

「その、ええと、あの友达、で合ってんのよね?」

质问に、インデックスと上条はほぼ同时に答えた。

「そうだよ、决まってるよ」

「当たり前の事を确认させんじゃねえよ」

ははは、と美琴は笑った。

「で、さっきの黑服|达《たち》が恶者って译ね」

「何を|狙《ねら》ってるかいまいち|掴《つか》めねえけどな。少なくとも、良いヤツじゃないはずだ」

その时、复数の足音が路地の中まで入ってきた。

入口付近で情报を|窥《うかが》っていた黑ずくめの连中が|突击《とつげの》してきたのだ。

侵入ではなく突击。时间的な|犹予《ゆうよ》はない。

それでも美琴は笑っていた。

「しゃ—ない。何だか知らないけど、あれは大切な友达なんでしょ。アンタ达は一度言ったら闻かないし。さっさと助けてきなさいよ。こっちは何とかするから」

「|马鹿《ばか》、お前……ッ!!」

上条は思わず美琴の肩を掴もうとしたが、

「ごめんごめん。止める间もなく始めちゃうわよ」

美琴はすでに路地の出口に向けてゲ—ムセンタ—のコインを发射していた。

|超电磁炮《レ—ルガン》。

音速の三倍で放たれた一击は、路地の左右の壁を|扶《えぐ》り取り、|轰音《ごうおん》と|闪光《せんこう》を撒き散らして表通りへ突っ?んだ。黑ずくめ达には命中しないような轨道を选んだのだろうが、撒き散らされる|冲击波《しようげきは》だけで何人かがひっくり返っている。

灰色の|粉尘《ふんじん》が舞う。

それが雨粒に|击《う》ち落とされる前に、美琴は路地の地面に倒れていた黑ずくめ达の腹を跃みつけて意识を夺いつつ、自ら|遮蔽物《しやへいぶつ》のない表通りへ飞び出していた。

「|御坂《みさか》ッ!!」

|上条《かみじよう》は叫ぶが、表通りに控えていた黑ずくめ|达《たち》の应射が路地の入口近くまで来たため、彼はそれ以上进めない。一方、まさに『普通の战力』に对して绝大な力を夸る|美琴《みこと》は、铳弹飞び交う战场から上条へ声をかける。

「|罚《ばつ》ゲ—ムよ!!」

「何だって!?」

「何でも言う事闻くって话!今日一日はまだ有效だからね、アンタは『必ず友达助けて戾ってくる』事!!分かった!?」

上条は叫び返しそうとしたが、バチバチという放电や铳弹が放たれる音がそれを|遮《さえぎ》る。くそ、と彼は小さく|吐《は》き舍て、

「必ず守る!だからテメェも死ぬんじゃねえぞ!!」

インデックスの手を引っ张って、何かを振り切るように上条は路地の奥へ奥へと走り出す。目的地は一つ。インデックスの言叶が正しいなら、|风斩冰华《かざぽりひようか》が待っているその场所へと。

ばしゃばしゃという水っぽい足音を闻いて、美琴は战场でため息を|吐《つ》いた。

全く损な役回りだ。

(罚ゲ—ム、か。结局、こんなモンに使っちゃうなんてなぁ……)

でもまぁ、仕方がないか、とも思う。

友达を助けるために命を张るとか言っているのだ。水を差せるはずがない。しかし、そもそもこの黑ずくめ达(で、合っているのか?)が问题を起こさなければ、ちょっとはマシな罚ゲ—ムが续けられたかもしれない。

そう思うと、|若干《じやつかん》ながらカチンと来た。

「今、私はとってもムシャクシャしている」

复数の铳口が丸腰の美琴に向けられる。

だが、引き金が绞られる直前で、彼女の前面にマンホ—ルの|盖《ふた》や水道管や看板などが次々と集まって盾が作られた。磁力によるものだ。射出された弹丸は|全《すべ》て钢铁の盾に|弹《はじ》かれる。

「逃げないってんなら、それなりに死ぬ气で来なさいよ」

返す刀で、|雷击《らいげき》の|枪《やり》が乱射された。

负ける气はしなかった。

上条とインデックスは土砂降りの街を走っていた。

背後の美琴が气になるが、おそらく上条では足手まといにしかならない。

气持ちを切り替えて、上条は前を见る。

と、|邻《となり》を驱けているインデックスがこう寻ねてきた。

「ねえとうま。さっきから街が静かなんだけど、これって何なの?ひょうか以外にも、何だか别の|魔力《まりよく》の流れを感じるんだよ!」

「ああ。静かなのは多分みんな气を失ってるからだ。この街に入ってきた|魔术师《まじゆつし》のせいでな!あいつの|攻击《こうげき》の仕组みも知りたい。治せる方法があるならそいつもだ!!」

彼が学园都市で起こっている事をかいつまんで说明する。

それを闻いたインデックスは无言になり、考え事をするように|俯《うつむ》いた。

土砂降りの雨に打たれる地面を|蹴《け》りながら、彼女は颜を上げる。

「多分……それは『|天罚《てんばつ》』だよ」

「何だって?」

「ある感情を|键《かぎ》にしているの。その感情を抱いた者を、|距离《きより》や场所を问わずに|叩《たた》き|溃《つぶ》す!だから神样の『天罚』。どこだろうが|谁《だれ》だろうが、神样に|唾《つば》を|吐《は》く者を许さないって理屈だね!」

インデックスは续けて言う。

「とうま、その魔术师はそういう素振りを见せなかった?必要以上に、自分から特定の感情を|诱导《ゆうどう》するような!!」

特定の感情。

そう言われて、|上条《かみじよう》は前方のヴェントの事を思い出した。

───わざと挑发するような言动。

───わざと反发心を持たせるような化妆やピアス。

───わざと何の关系もない民间人を|狙《ねら》って放たれた攻击の数々。

ヴェントなりの行动理由や、もっと言えば魔术的に必要な事でもあるのかもしれないが、もしかすると、それ以外にも『ある感情を向けさせる』役割を持っていた可能性もある。だとすれば、その感情とは……。

「|嫌恶感《けんおかん》……いや、敌意や恶意[#「敌意や恶意」に傍点]?まさか、そいつが天罚术式の发动キ—なのか!?」

确かにそんな攻击が实在するなら、ヴェントはほぽ无敌だろう。

谁も彼女の前に立ち|塞《ふさ》がる事などできないだろう。

立ち塞がろうと思った时点で、魔术は发动してしまうのだから。

街の治安を守る|警备员《アンチスキル》は、ゲ—トを无断で通ろうとしたヴェントを止めようとした。彼らが倒れたという报告を、|他《ほか》の|警备员达《アンチスキルたち》は无线で受けた。さらにその情报を、街の人々はニュ—スで知った。

「多分、その天罚术式には敌意に应じた段阶があるんだよ!意识を夺い、肉体を|缚《しば》り、外部からの干涉すら封じるとか。でも、どの段阶であっても食らえば终わり。魔术师が『天罚は必要ない』と判断するまで、绝对に治らないと思う!!」

だからみんな倒れた。

もう学园都市内部だけではない。下手をすると、街の外───日本や世界のあちこちでニュ—スを经由して、被害は扩大し续けているのかもしれない。|他《ほか》にも、学园都市协力派の组织や机关には、自动で连络が入り、それが|牺牲《ぎせい》を生んでいる可能性もある。

だが、

「そんなのできんのか。|魔术《まじゆつ》ってのは、そこまで便利なものなのかよ!?」

「普通ならできないよ!私の一○万三○○○册にもそんな记述はない。だけどその现象を说明するにはこれしかないの!……自分でもおかしいのは分かってる。『|天罚《てんばつ》』っていうのは、文字通り天が与える罚だもの。ただの人の力で何とかできるはずがないんだよ!!」

しかし、ヴェントはそれを实现している。

それこそが『神の右席』の力だとでもいうのか。

「あの野郎、そんな方法で学园都市を───ッ!!」

「待って、とうま!今の话が本当なら、私にその魔术师の|素性《すじよう》を话さないで!今の私の『步く教会』は、法王级の防御机能が失われているの。とうまと违って、私だって天罚术式に触れちゃう危险があるんだよ!!」

そうか、と|上条《かみじよう》は慌てて口を|噤《つぐ》んだ。

ヴェントの天罚术式は、インデックスにすら防げないものなのだ。上条の|幻想杀し《イマジンブレイカ—》のような例外でない限り、条件さえ合致すれば|谁《だれ》でも|叩《たた》き|溃《つぶ》す。そしてインデックスは、他人を伤つける魔术师と战う存在なのだ。

ともあれ、治しようがないなら、ここに|拘泥《こうでい》しても仕方がない。

今は|风斩《かざきり》の方だ。

ヴェントの天罚术式すら暴いたインデックスなら、そちらも分かるかもしれない。

「あの风斩の……『天使』の仕组みはどうなってる。あいつは|大丈夫《だいじようぶ》なんだよな!まだ助けられるんだよな!?」

「それは……」

「くそ、何でこのタイミングであんなのが出てくるんだ!街で起きてる『天罚』と关系あんのか!?单なる现象の暴走じゃなくて、『天使』なんて明确な形になってる理由は!?」

「分かんないよッ!!」

一○万三○○○册もの|魔道书《まどうしよ》を丸暗记しているインデックスだが、珍しくそう叫んだ。

远くに广がっているのは、间违いなく『天使』という魔术サイドの|代物《しろもの》のはずなのに。

「……私の头の中にある魔道书と、外观や仕组みだけなら良く似てるの。でも、使われてるパ—ツが全然メチャクチャ、见た事もないようなものばかりなんだよ!!未知の文字で描かれた壁画を见ているようなの。绘面から大体何をやっているかは分かるんだけど、その文化性や精神性っていう『奥』まで|踏《ふ》み?めないんだ!!」

「───、」

一番悔しいのは、おそらくインデックス本人だろう。

まさにこういう问题を解决するための、『禁书目录』なのだから。

「少なくとも、あそこにいる『天使』と、それを统率している『核』が别々の场所にあるのは分かるんだけど……」

「インデックスでも、解けない、か」

|风斩冰华《かざほりひようか》は、AIM扩散力场によって作られている存在だ。

その根干に、超能力研究や最先端科学技术が含まれている。となると、そちらの处理をインデックスが行えないために、『天使』という现象の对策が练れないという译か。

|上条《かみじよう》とインデックスは走りながら、会话を续ける。

土砂降りの雨が气にならないほどの|焦燥《しようそう》に驱られて。

「とうまは?とうまは、今のひようかの『仕组み』について何か分からない?」

「难しいな」

AIM扩散力场を使っているとか、言叶で言うのは简单だ。しかし仕组みの解说まではできない。『车はガソリンで动いている』のは|谁《だれ》でも分かるが、『じゃあ设计图を描いてみろ』と言われて实行できるのはごく少数だろう。

(……|俺《おれ》よりもっと详しいヤツはいないか。それこそ、鼻歌交じりで『设计图』を描けるような、どっかの大学の教授ぐらいのレベルのヤツ……)

しかし、上条にはそういった大人や研究者との|系《つな》がりはない。

くそ、と|吐《は》き舍てようと思った时、彼の头に一人の人物が浮かび上がった。

「|小萌《こもえ》先生だ!!」

确か、九月の初めに地下街でシェリ—に|袭《おそ》われた时も、彼女は话を闻いただけで风斩の正体を看破していた。小萌先生ならAIM扩散力场についても详しく知っているはずだ。

电话番号そのものは、あの时にかかってきた番号を登录してある。

上条は雨の街を走りながら、早速小萌先生の携带电话に连络を取る。

が、

「どうしたの、とうま」

「くそつ!!」

出ない。

ヴェントの|攻击《こうげき》にやられたのか、それとも何らかの理由で携带电话が使えない状况にあるのか、いつまで|经《た》っても小萌先生と系がらない。

(手诘まりか……ッ!!)

上条は奥齿を|啮《か》み|缔《し》め、登录番号のリストを上下させていく。しかし|他《ほか》はみんな学生ばかりだ。小萌先生以上に知识を持った人物がいるとは───、

「ッ!!」

|上条《かみじよう》はリストの一番下にあった番号に、とっさに连络をつけた。

一番新しく登录した电话番号。

そいつの名前は、

「|御坂《みさか》ッ!!」

『だぁ!!な、何よ。このクソ忙しい中、人样の作业量增やしてんじゃないわよ!!』

ガガガッ!!という连续する铳声にまみれて、|美琴《みこと》の声が杂音混じりで返ってくる。通信状况が极端に恶いのは、彼女自身が|雷击《らいげき》を使っているからか。

こちらもそれどころではない。

苦情は闻かずに本题に入る。

「确か|常盘台《ときわだい》中学ってのは、普通の中学とは授业内容の出来が违うって话だったよな!卒业と共に第一线に立つために教育しているって事は、大学レベルの讲义も受けてんだろ[#「大学レベルの讲义も受けてんだろ」に傍点]!?」

『はぁ!?何言って───危なッ!?何言ってんのよアンタ!!』

「あの『天使』を止めるために、知识が必要だ!AIM扩散力场关连の详しいアドバイザ—が欲しい!!お前だけが|赖《たよ》りだ!任せられるか!?」

ぶっ!?という变な声が携带电话から闻こえてきた。

上条はいったん电话から耳を|离《はな》し、それから慌てて叫ぶ。

「お、おい御坂!|击《う》たれたのか!?おい!!」

『违うわよ!!』

バンバンバチン!!と续けざまに雷击の音が闻こえる。

美琴の声がその後に续いた。

『や、やるしかないんでしょ!!别の事に头使いながら战えって、本当に|容赦《ようしや》ないわねアンタ!!』

「よし、じゃあインデックス。|俺《おれ》の电话はお前に预けておく。なんか分からない事があったら全部コイツに闻け!」

え?と拍子拔けした颜のインデックスに、上条は携带电话を渡そうとする。

一方、美琴は美琴で、

『ええっ!?』

「???何だ、どうしたんだ御坂?」

「いや、えと、その、别に良いけど。でも、ええ—っ!?」

「任せたぞ!!」

なんか意味の分からない事を言ってきたが、そちらに头を|烦《わずら》わせている暇はない。

上条は白いシスタ—に携带电话を押し付ける。

「俺は右手の事もあるし、おそらく|魔术《まじゆつ》关连でお前を手传える事はね—と思う。恶いインデックス、お前、一人で何とかなるか」

「とうまはどうするの?」

「さっき、『天使』とそれを统率している『核』は别々の场所にあるっつったな。だったらお前は『核』の方に行って、问题を解いて来い。|俺《おれ》はその间、『天使』の方で一仕事しなくちゃならない」

续けて|上条《かみじよう》はこう言った。

「前に话に出た、例の|天罚《てんばつ》术式を使ってる|魔术师《まじゆつし》がいる。『神の右席』って组织の、ヴェントって魔术师が『天使』になった|风斩《かざきり》の命を|狙《ねら》ってんだ。风斩を解放するにしても、まずはそっちを食い止めないといけない。だからお前は问题を引き起こしている『核』を|赖《たの》む。俺はその间、ヴェントの|攻击《こうげき》から风斩を守ってやる!!」

それを闻いて、インデックスはわずかに心配そうに|眉《まゆ》を动かした。

上条の口から出た、魔术について色々考えているのだろう。

しかしそれは言叶に出さず、彼女は上条に别の|台词《せりふ》を放つ。

「分かった。とうま、ひょうかをお愿い!!」

「お互い样だ!|赖《たよ》りにしてるぞ、インデックス!!」

二人は别れてそれぞれの道を走る。

共に同じ、风斩|冰华《ひようか》を助けるという目的をもって。

「ははっ、スゲ—なオイ!ありゃあ一体何なんだ!?」

今は使われなくなったオフィスで、|木原数多《きはらあまた》は欢声をあげた。

数百メ—トル先で、あちこちのビルを切り崩しながら大量の『羽』が飞び出した。この窗からは『羽』しか见えないが、木原は|何故《なぜ》か一目で『天使』という言叶が浮かんだ。

事务机の上に寝かせている|最终信号《ラストオ—ダ—》の头にウィルスを流し?み、再起动させた途端に、あの『天使』が出现した。上层部から渡されたウィルスの名前は、ひねりもなく『ANGE」』。どう考えても无关系とは思えない。科学とは无缘の存在が、科学によって显现していた。その非科学的な事态を、木原は头から否定しなかった。逆に、ついに科学はこの领域にまで足を|踏《ふみ》み入れたのかと|呆《あき》れていた。

学园都市统括理事长アレイスタ—。

自分も|大概《たいがい》イカれた科学者だと思っていたが、あの野郎はそれ以上だ。

「ちくしよう、悔しい!飞んでやがるなぁアレイスタ—ッ!!理论のりの字も分かんね—ぞ!?科学者のくせに科学を否定するたぁ、何たる科学者だよオイ!!」

周围にいる五人の部下|达《たち》は、木原と违って户惑っているようだ。目の前の光景を现实に存在するものとして处理して良いのかいけないのか、その段阶ですでに迷っている风に见える。

「アイツ[#「アイツ」に傍点]を使って学园都市の敌をぶっ|溃《つぶ》すのが目的かよ!确かにあんなモン用意すりゃあ、大抵の野郎ァどうにでもなっちまうだろうな。外周部に|谁《だれ》がへばりついてたか知らねえが残念でした!见ろよテメェら!天使なんざ持ち出しやがって、非核三原则どころの|骚《さわ》ぎじやねえぞ!!圣书ってのはいつから飞び出す[#「飞び出す」に傍点]绘本になっちまったんだぁオイ!?」

脑が情报を处理しきれないまま、『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の部下|达《たち》はノロノロと|木原《きはら》の言叶に从って、|埃《ほこり》の|被《かぶ》ったガラス窗から外を见た。

しかしその谁もが、远くに见える『天使』を|捉《とら》えていなかった。

今まさに、空を飞んだ|一方通行《アクセラレ—タ》が窗を|蹴《け》り破る直前だったからだ。

ガッシャァァ!!というガラスの悲鸣が|炸裂《さくれつ》した。

すでに能力使用モ—ドは解放されている。

窗の一番近くにいた黑ずくめの一人が、|一方通行《アクセラレ—タ》の飞び蹴りを受けて反对侧の壁まで吹っ飞ばされた。ノ—バウンドで|薄《うす》い内壁に激突した『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の一人は、装甲服をバラバラに粉碎しながら床に崩れ落ちる。

|一方通行《アクセラレ—タ》は生死など确认しない。

真っ赤に染まった|瞳《ひとみ》はグラグラと摇らぎ、それでもタ—ゲットを正确に捉える。

「木ィィィ原くゥゥゥゥゥゥゥゥン!!」

绝叫しながらショットガンの铳口を向け、迷わず引き金に指をかける。

|狙《ねら》いは胸から腹にかけての全部。

完全确实に杀す气だ。

と、木原は近くにいた自分の部下を前方へ突き飞ばした。『うわっ』と间拔けな声を出した男が、ちようど木原の盾になる形で|跃《おど》り出る。

そこへ无数の散弹が突っ?み、『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の一人が血を|撒《ま》き散らして转がった。木原は气にも留めない。颜面のパ—ツが|坏《こわ》れそうなほど爆笑している。

「ちゃ—んと狙って|击《う》てよぉ!じゃね—とみんなの迷惑だぜぇ!!」

あからさまな挑发を|一方通行《アクセラレ—タ》は无视する。

うろたえ、慌てて武器を构える黑ずくめ达ヘザッと视线を走らせ、

(|邪魔《じやま》ッ|臭《くせ》ェ盾だな……)

ガギリ、と奥齿を思い切り|啮《か》み|缔《し》め、

(イイぜェ!オマエ达も、まさか『自分は命令されただけだから许してください』とかってェ|台词《せりふ》|吐《は》く气はねェンだよなァ!!)

脚力のベクトルを操作し、木原から『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』へ狙いを变更し、その内の一人の|怀《ふところ》へと突っ?む。ショットガンは使わず、そのまま五本指を伸ばした。男の装甲服にはナイフや|拳铳《けんじゆう》などが留めてあり、肩の近くには|手榴弹《しゆりゆうだん》が四っも备え付けられていた。

|狙《ねら》いはそこだ。

人差し指から小指まで使って、四本のピンを|全《すべ》て拔く。

间发入れずに腹へ|蹴《け》りをぶち?み、ボ—リングのように|他《ほか》の『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』のメンバ—を卷き?んで|剃《な》ぎ倒した。一番上にいる男が、慌てて装甲服についたままの手榴弹へと手を伸ばし、人间爆弹が起爆した。

破片を|撒《ま》き散らすタイプの手榴弹が、血と肉を飞び散らせた。

これで、|木原《きはら》を除く『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』は残り一人。

「ひっ!?」

|一方通行《アクセラレ—タ》にギロリと目を向けられた最後の男は、とっさに事务机の上に转がっている物を|掴《つか》み起こす。|学习装置《テスタメント》で无理な处理を加えられたのか、意识を失い、ぐったりしている|打ち止め《ラストオ—ダ—》だ。

|一方通行《アクセラレ—タ》が手にしているのは、细かい狙いの效かないショットガンだ。

人质を盾にすれば|攻击《こうげき》できないと思ったのだろう。

だが、

「───、」

|一方通行《アクセラレ—タ》の目の色が变わった。ゴガン!!という爆音が生じた。脚力のベクトルを操作した彼は、|一瞬《いつしゆん》で『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の真横まで|距离《きより》を诘めていた。

确かに|一方通行《アクセラレ—タ》はショットガンを|击《う》たなかった。

代わりに彼は、一メ—トルを超す金属制の铳身をフルスイングし、「|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の颜面を|叩《たた》き|溃《つぶ》した。あまりの|冲击《しようげき》にショットガンの方がバラバラに碎け散り、细かいスプリングやマガジンに收まっていた筒状の弹丸が空中を舞う。钝い音を立てて男の体は空中で竹とんぼのように四回转もし、それから床に激突して动かなくなった。

手放され、空中にあった|打ち止め《ラストオ—ダ—》の体を片手で支え、テ—ブルの上へと优しく置き直す。

それから|全《すべ》ての元凶、木原|数多《あまた》に视线を投げる。

これでヤツを守る护卫部队は全灭した。

しかし、そちらの方がかえって身轻になったとばかりに、木原はグラゲラと笑う。

「カッコイ—ッ!!一皮|剥《む》けやがって、|惚《ほ》れちゃいそ—だぜ|一方通行《アクセラレ—タ》!!」

「スクラップの时间だぜェ!クッソ野郎がァあああッ!!」

恶党二人の叫びが空间を|震《ふる》わせる。

その细い两手を一度开いて再び握り、舌なめずりしながら木原は|一方通行《アクセラレ—タ》の元へと走り?む。

木原には『反射』が通じないが、|一方通行《アクセラレ—タ》はもはや|臆《おく》しない。

こちらも一○本の指を开いて走り出す。

能力使用モ—ド、残り时间は六○秒。

|上条当麻《かみじようとうま》は爆心地にいた。

见惯れた第七学区の一角だった。背の高いビルは学生向けというにはややグレ—ドの高いデパ—トや有名な企业の建物ばかりで、デパ—トに入っているレストランなども杂志に良く绍介されている。通学路から外れているため每日访れるような事はないが、上条もインデックスを连れて(全くム—ドのない)食事に出かけたりもした。

『|学舍《まなびや》の园』のような高级感と、上条の学生|寮《りよう》のような庶民的な|?《にお》いが同居する第七学区で、その一角はどちらかというと高级感エリアに收まる。实际、日中には|常盘台《ときわだい》中学や|雾ヶ丘《きりがおか》女学院の制服を着た少女|达《たち》もたくさん步いていたはずだ。

子供だけでは作れない、一种独特の整えられた大人の空问。

そこが、

まるで砂场に作ったお城を|坏《こわ》したような、|瓦砾《がれき》の|废嘘《はいきよ》に变わり果てていた。

「……、」

爆心地から半径一○○メ—トル前後の建物が残さず|破坏《はかい》され、|剃《な》ぎ倒されていた。|欠片《かけら》も残さないような、|彻底《てつてい》したクレ—タ—という译ではない。まるで巨人の腕で一栋一栋ビルをもぎ取って行ったような、乱杂な惨状だった。しかし逆に、斜めに倾いている建物や、根元の一阶部分だけが取り残されたデパ—トなどは、妙に生々しい|爪痕《つめあと》となって上条の心を摇さぶる。

前方のヴェント。

彼女の特殊な攻击を食らって动けなくなった人达はたくさんいたはずだ。

そんな中で、さらにこんな大规模な倒坏が起きたのだ。あの瓦砾の山の中に、一体どれだけの人达が埋まっているのか、上条にはもう想像がつかない。レスキュ—の到着が迟れているが、もしやってきたとして、どれだけの人间を救出できるのだろう。

神经が|麻痹《まひ》する。

上条はふらふらとした动きで、爆心地のさらに中心点へ目をやった。

そこにいるのは、一人の天使。

本体は普通の人间と同じサイズだ。

それに对して|翼《つばさ》の方の缩尺があまりに巨大すぎて、まるで翼の块に人间が|吞《の》み?まれそうになっているように见えた。

灰色の|粉尘《ふんじん》も、土砂降りの雨も、その|全《すべ》てを吹き飞ばすように、彼女の翼は|?《つぶや》い光を放っていた。全长は一○メ—トルから一○○メ—トル。乱杂に伸びる杂草のように统一性のない、锐く|尖《とが》った巨大な|翼《つばさ》が、何本も何十本も小柄な少女の背中に接续されている。

|上条《かみじよう》から一○○メ—トル近く|离《はな》れた所にいる『天使』は、彼に对して横へとゆっくり移动していた。か细い二本の足で步いているだけのはずだが、少女が一步一步を|踏《ふ》み出すごとに、ズン……という低い|震动《しんどう》が传わってくる。

少女。

|风斩冰华《かざきりひようか》。

长い发の少女だった。黑の中に、わずかな茶色の混じった|绮丽《きれい》な发。基本は腰まで伸ばしているのだが、一房だけ头の横で|缚《しば》って垂らしていた。气弱そうなスカ—トの长さもいじっていない学校指定の青いブレザ—。その中で、赤いネクタイがアクセントとなっている。

上条|当麻《とうま》が知っているはずの少女だった。

气弱で泣き虫で、恶党を|殴《なぐ》る事にさえためらうような、そんな女の子のはずだった。

しかし、

今、上条が见ているものは、そうした风斩冰华の像から明らかにかけ|离《はな》れていた。头はグラりと垂れ、半开きの唇からは|半端《はんぱ》に舌が飞び出ていた。见开かれた眼球は、机械のレンズが细かい文字を追うようにフラフラと不规则に摇れている。颜を|濡《ぬ》らす雨水と|涎《よだれ》が混ざり合い、彼女の制服の胸元をべっとりと濡らしていた。しかし、そのぬめった光と感触を得ても、风斩は

<img src="img/禁书目录13_271.jpg">

ピクリとも动かない。

何十もの巨大な|翼《つばさ》。人间|离《ばな》れした|氛围气《ふんいユ》。壁のような存在感。

それらはミ—シャ=クロイツェフにも似ていた。

しかし、目の前にいる大天使は彼女よりもさらに不自然で、|歪《ゆが》んでいた。

彼女の颜に感情はなかった。

不气味にふらつく目玉は、泪の一滴も流していなかった。

流す事すら、许されていなかった。

何らかの制约によって。

彼女の头の上には、直径五○センチほどの轮が浮かんでいた。

轮は|风斩《かざきり》の手足の动きに合わせて回转速度を变动したり、轮の直径を广げたり|狭《せば》めたりを|缲《く》り返している。轮の外侧には铅笔のような棒が无数に出っ张っていて、ガシャガシャガチャガチャ!!と高速で出し入れされていた。

|上条当麻《かみじようとうま》は觉えている。

风斩|冰华《ひようか》の头の中には、三角柱のようなパ—ツが入っている。彼女の手足は、その三角柱に合わせて动いているのだ。

それを见ているような气がした。

|头盖骨《ずがいこつ》いっぱいに电极を刺して人间を操るのより、寒气を感じさせる光景だった。

(かざ、きり……)

あまりの光景に、上条はとっさに风斩の颜から目を|逸《そ》らしていた。

これでは死体を见ている方がまだマシかもしれない。

止めなければならないと、上条は心の底からそう思った。理由など、いらなかった。

「风斩ィィいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!」

上条は思わず叫んでいた。

どこかを目指して步いていた风斩の足が、ピタリと止まる。その首が、ゆっくりと上条の方へ向こうとする。

しかし。

ガガガリッ!!という金属を|擦《こす》るような音と共に、风斩の头上にあった天使の轮が高速回转した。轮の外侧にびっしりとついている铅笔ぐらいの棒が、ジャガッ!!と一齐に轮へ突き刺さる。

悲鸣のような音が闻こえた。

风斩の首の动きが强制的に止められ、ぎぎぎ、と|震《ふる》えた。齿车の目が诘まったように、彼女の首が元の向きへと戾されていく。不自然に首をねじったまま、风斩は再びゆっくり步き出す。

バヂッ!!と电气のような音が|响《ひび》いた。

见れば、はるか头上で、巨大な羽と羽の|距离《きより》が近づくたびに、青白い光が|瞬《またた》いている。まるで发射前に调子を确かめている风にも见えた。

チカチカッ、と|风斩《かざきり》の周围で妙な光が|瞬《またた》いた。天使の轮と同调しているようなタイミングだった。そして、その光に|诱导《ゆうどう》されるように、风斩の体が强引に动かされる。

本当は何もしたくないのに、そちらが气になって气になって仕方なくて、どうしてもそちらへ动いてしまわないと气が济まないと|怯《おび》えているように见えた。

ガスの元栓がどうしても气になるように。

何度手を洗っても污れが落ちないと思ってしまうように。

(……、重度の强迫神经症みたいなもんか)

漠然と思う。规则で决まっている译でもないのに、どうしても确かめないとならない。あの光はそれと同じだ。次々と『注意点』を飞ばす事で、风斩の动きを精神的に诱导しているのだ。

しかし。

そんな状态を延々と续けていたら、神经が|磨《す》り减っていくのは|避《さ》けられない。目隐しした人间の背中に烧けた铁板を押し付けて、逃げ惑う人间を迷路のゴ—ルへ导いていくようなものなのだから。

それは、人としての风斩の心を完全に无视した行いだった。

无样に转がる人间の背中に|嘲笑《ちようしよう》を浴びせるようなものでしかなかった。

(くそ……ふざけんじゃねえぞ!!)

思わず|上条《かみじよう》は驱け寄ろうとしたが、その足が止まる。

近づいてどうする?

彼は风斩の体には触れられない。

|幻想杀し《イマジンブレイカ—》は、风斩|冰华《ひようか》という幻想をも问答无用で碎いてしまうのだから。、

「ちくしょう……ッ!!」

上条は齿を食いしばり、役立たずの右手を|瓦砾《がれき》の壁へ|叩《たた》きつけた。

ここに埋まっている人|达《たち》も助けられない。ああして异变に|袭《おそ》われた风斩も救えない。あまりにも自分が小さすぎて、どうしようもなく|惨《みじ》めだった。

そんな彼の耳へ、新たな足音が闻こえてきた。

目の前にある不幸が、さらに别の不幸を招き寄せるように。

「おやおや。大罪人同士、キズの|舐《な》め合いでもやってるトコだったかしら」

上条は振り返る。

そこにいるのは、大昔のワンピ—スの原型みたいな衣装を身にまとった、颜中ピアスだらけの女。学园都市の都市机能のほとんどを夺い、その中を悠々と步いて上条を杀しにやってきた、『神の右席』という组织の一员。

前方のヴェント。

彼女の手には、有刺铁线を卷いた巨大なハンマ—が握られている。

病气なのか、それ以外に何らかの理由があるのか、ヴェントの口元からは赤い血が垂れ、雨に打たれた衣服のあちこちにも|染《し》みを作っていた。それでも、ヴェントの表情は变わらない。

无数のピアスによって颜のバランスが崩れ始めているヴェントは、その武器を片手にニヤニヤと笑う。|侮蔑《ぷぺつ》と|嘲《あざけ》りに满ちた、同じ人间に向けているとは思えないような笑みを。

「せっかく後回しにしてやろうって考えてたのに、自分から杀されに来ちゃったの。コレ以上|悲惨《ひさん》なモンを见たくないから先にぶっ溃して欲しいってコトかな」

「|风斩《かざきり》はやらせない」

「へぇ。あんなモンに对しても情が|涌《わ》くんだ。とんだ博爱主义者よねぇ。|默示录《もくしろく》に登场する

『特大の**』よりも|丑《みにく》く污れた|冒渎《ぼうとく》の象徵だってのに。そこらの变态でも|流石《さすが》にアレは受け入れられないと思うわよ」

「テメェ!!|撤回《てつかい》しろ!!」

「ナニについて?もしかし—、|普段《ふだん》はああじゃないとかって言うつもり?|马鹿马鹿《ばかばか》しい、私はソイツを见るのは今日が初めてだけど、あの学园都市の|长《おさ》が街の全部を使って无害で役に立たないものを作るとでも思ってんの。|莫大《ばくだい》な价值や战力があるんだよ。むしろアンタが今まで见てきたモノの方が未完成不完全のイレギュラ—だったんでしょ」

学园都市の长。

科学サイドとして、世界の半分を丸々支配下に置いている者。

风斩|冰华《ひようか》が学园都市全体のAIM扩散力场を用いて作られた存在なら、その管理を行っている(かもしれない)人物の笔头は、确かにそいつだ。ただ偶发的に生まれてきたのではなく、そこに何らかの目的があったとしたら、确かに『未完成』『不完全』という言叶にも|信愚性《しんぴようせい》が生まれてくる。

「私は『神の右席』の一员として、ソコの怪物を见过ごすワケにはいかない。ま、こっちだってロクな集团じゃないケド、そっちの怪物は、その私|达《たち》ですら认められない。ソイツは、十字架を揭げる|全《すべ》ての人々を|嘲笑《あざわら》う、冒渎の块───消灭すべき者なのよ」

バチン!!という|轰音《ごうおん》が上条の耳を打った。

(……ッ!?またか!!)

振り返れば、风斩の背中に接续されている巨大な羽から、雷に似た光が|瞬《またた》いている所だった。羽と羽の间で火花がブリッジを描いていて、音阶はどんどん甲高いものへ变わっていく。今にも|溢《あふ》れて外部へ飞び出しそうだ。

|上条《かみじよう》は少しだけ|默《だま》って|全《すべ》てについてを考えた。

それから言った。

「もう一度だけ、|缲《く》り返しても良いか」

「ナニを?」

「撤回しろ[#「撤回しろ」に傍点]、クソ野郎[#「クソ野郎」に傍点]」

へぇ、とヴェントは乐しそうに笑う。

「意外にカワイイ所があるじゃない。イイでしょう、气持ちぐらいは|汲《く》んでやるわ。どのみち、アンタ|达《たち》は顺番に杀していく予定だし、仲良く|一绪《いつしよ》に杀してアゲル」

彼女にとってはそれが最大の|让步《じようほ》なのだろう。

|上条《かみじよう》に言わせれば、|唾《つば》を|吐《は》き舍てたいほどの低条件だが。

「もしかして、その怪物に救援でも求めてる?だったら无?よ。二人がかりであっても、私には胜てない」

ヴェントは乐しげな调子でそう告げた。

「知ってる?『天使』ってのは、元々自分の意思がない。完全なる神样の道具なのよ」

ヴェントは|嘲笑《あざわら》うように告げた。

「ソイツが误作动を起こしたり、别の命令系が混线したりすると、堕天使とかって呼ばれる存在になる。一番有名なのは『|光を揭げる者《ルシフエル》』の造反よね。この一机の『不具合』に引きずられて、天界に配备されていた全天使の三分の一が混线を起こし、战争と化してしまった」

さて、と彼女はハンマ—でゴリゴリとアスファルトを|擦《こす》りながら言う。

上条の目を见て、言う。

「そこの怪物は、神圣かな?ソレとも堕落かしらん?」

「ッ」

「言うまでもないわよねぇ!そこにいるのはタダの堕天使野郎だ!!ソレも神样が|创《つく》った天使が暴走したダケじゃあない、人间の作った|不恰好《ぷかつこう》な羽つき人形がさらに混线した、罪を罪で重ねた真っ黑な罪人野郎だ!!」

ヴェントは地面につけていたハンマ—を片手で持ち上げ、上条に突きつける。

「学园都市にどんな意图があるかは知らない!|完壁《かんぺき》な天使を作ろうとして失败したのか、ソレとも最初っから堕落を作ろうとしやがったのか!いずれにしても贵样达のやってるコトを、私达は认めない!!」

その言叶は、感情だけで人间を打ちのめせるものだった。

|风斩冰华《かざなりひようか》という存在を、|完壁《かんぺき》に否定する声だった。

「今のソイツに、私の『本命』が通用するとは思えない。そもそも人间と同じ精神性を保っているかどうかも分からないしね。でも私は杀す!私の力が足りずとも、今の不完全な『堕天使』なら、空中分解しそうな内燃制御系に介入する术式を组んで、自灭を|诱发《ゆうはつ》させてやるわ!!怪物を怪物の力で吹っ飞ばしてやるって言ってんのよ!!」

|上条《かみじよう》はその言叶を受けていた。

奥齿を|啮《か》み|缔《し》め、彼女を正面から|睨《にら》みつけ、口を动かす。

「……、やらせるかよ」

|战斗《せんとう》条件は、无理难题にもほどがあった。

そもそも上条はヴェントに胜てるかどうかも分からないのに、そこへさらに|风斩《かざきり》を|庇《かば》いながら战えと言われているのだ。おまけに、その风斩だって无害であるとは限らない。あの|翼《つばさ》から|缲《く》り出される壮绝な火花で、背中を|击《う》たれれば一发でおしまいだ。

それでも、上条|当麻《とうま》は右手の|拳《こぶし》を强く握り缔めた。

彼は言う。

「……ただでさえ学园都市の上の连中からこんな目に|遭《あ》わされて、无理矢理に|诱导《ゆうどう》させられた手足を血に染めさせて、助けを求める事も泪を流す事も全部封じられて……。その上、今度は胜手に外からやってきたテメェみたいな人间に、化け物?いされたまま杀されうだと?」

今の『あの子』に传わっているかどうかなど关系ない。上条は风斩|冰华《ひようか》を守ると决めた。それを果たすため、彼はヴェントの前に立つ。土砂降りの雨に打たれて、巨大な天使を背にして、自分にとって不利な条件を|吞《の》めるだけ吞み续けて。

「ふざけんじゃねえよ。人の友达を何だと思ってやがる!!」

[#改ペ—ジ]

<a name="chap5">第十章彼らのそれぞれの战场The_Way_of_Light_and_Darkness.

制限时间は六○秒、

とにかく|木原《きはら》を杀すしかない。|战斗《せんとう》终了後にたとえ一○秒でも时间が残っていれば问题はなかった。能力使用モ—ドと通常モ—ドでは消费电力の量が棚违いなのだ。战斗时には数秒の时间でも、通常时に切り替えれば数十分间の行动が可能となる。

废弃オフィスの片隅には、携行型に改造された『|学习装置《テスタメント》』が转がっていた。

あの分なら、最低限だが|打ち止め《ラストオ—ダ—》の头を|治疗《ちりよう》する环境は整っていると言える。

本当にここでウィルスをぶち?んだのなら、おそらくオリジナルスクリプトはまだ木原が持っている。ならばワクチンプログラムを作る事はそれほど难しくはないはずだ。

(だから杀せ。とにを杀せ!!アイツを杀せば|全《すべ》てが终わる!|他《ほか》の事ァ何にも考えンな。どの道、|俺《おれ》ァもォ光の道には归れねェ。なら木原と|一绪《いつしよ》に地狱へ落ちる事だけ考えろ!!)

广い废弃オフィスの一室で、|一方通行《アクセラレ—タ》はそれだけを考え木原の|怀《ふところ》へと弹丸のように突っ?む。右手の五本指を开いた。ベクトル反射能力を利用し、|皮肤《ひふ》に触れただけで全身の血を逆流させ、结果として血管や内脏をズタズタに爆破させる|恶魔《あくま》の手。同じフロアに|打ち止め《ラストオ—ダ—》がいる事を考えると、あまり派手な手は使えなかった。それでも十分人间は杀せる。

下から颜を|狙《ねら》うように、锐く放つ。

对し、木原は首を振っただけで轻々と|避《さ》けた。そこに『少しでも触れたら死ぬ』という恐怖や|紧张《きんちよう》はない。『绝对に当たらないから问题ない』とでも言いたげな颜だ。

空振りの|一方通行《アクセラレ—タ》に、木原のクロスカウンタ—が飞ぶ。

ボクシングのジャブを何十倍も精密にした、放った直後に手元へ引き戾す拳。

それは|一方通行《アクセラレ—タ》の『反射』の壁をすり拔けて、鼻っ柱に|容赦《ようしや》なく激突する。

「ァ……ッ!!」

ガシュッ!という、すり|溃《つぶ》すような钝い音が|响《ひび》く。

决してハンマ—のように、派手で重たい一击ではない。|流石《さすが》に鼻にもらえば视界が摇れるが、かと言ってこれだけで意识が夺われるようなものでもない。

だが、

痛みによってわずかに动きを止めた|一方通行《アクセラレ—タ》へ、さらに轻い连击が|袭《おそ》った。颜、胸、肩、腹、そしてまた颜、颜、颜。木原は|一方通行《アクセラレ—タ》が腕を振れば後ろへ下がり、それを追おうとすれば逆に|距离《きより》を诘めて|攻击《こうげき》してくる。。

「ぎゃはは!!このクソ野郎が!どの|面《つら》下げて|俺《おれ》の前に立ってんだあ?」

|木原《きはら》の叫び声と共に、ゴン?という|冲击《しようげき》が|一方通行《アクセラレ—タ》の头を摇らした。

やはり『反射』が通じない。

核兵器の爆风を直接受けても发の毛一本摇らがないはずの、绝对の壁が。

|一方通行《アクセラレ—タ》はひとまず後ろへ下がろうとする。

木原はさらに大きく前に跃み?み、续けて颜面にもう一发韧?放った。

「ッ!!」

|一方通行《アクセラレ—タ》の『反射』は、分厚い防弹板を体の前に展开している译ではない。

あくまでも、『向かってきた力を逆方向に向け直す』ものでしかない。前から向かってくる力を逆向きへ变更する事で、あらゆる攻击から身を守っている。

つまり、

(後ろへ向かう力に[#「後ろへ向かう力に」に傍点]『反射[#「反射」に傍点]』をかければ[#「をかければ」に傍点]、そのまま前へ向かってくる[#「そのまま前へ向かってくる」に傍点]!!)

|殴《なぐ》られ、口の端を切って血をこぼしながら、|一方通行《アクセラレ—タ》は确信を得る。

木原|数多《あまた》は自分が放った哗を|一方通行《アクセラレ—タ》に当てる直前で逆向きにさせているのだ。『反射』のわずかな保护膜に触れるか乱かのラインに差し挂かっ瓦?隙に。そうする事で『後ろへ向かう拳を自ら前へ向け直す』羽目になっているのだ。

ならば体を守るベクトル制御能力を变更すれば良いのだが、まるでそれを先读みしていたように木原の拳のタ—ン方向も微细に再调节される。一方通行という能力[#「一方通行という能力」に傍点]を直接开发した头脑は|半端《はんぱ》ではないらしい。

「どうした小憎ォ!!あのガキ助けに来たんじゃねえのかよお?」

タイミングを夺われ、リズムを|掌握《しようあく》され、手玉に取られる。轻い轻いと思っていた木原からのダメ—ジは、アルコ—ルのように徐々に体に蓄积していく。|一方通行《アクセラレ—タ》の体の动きが钝くなるたびに、木原はより大胆な行动に切り替え、|一方通行《アクセラレ—タ》の『醉い』の速度を加速させていく。

「ぐ……ああァ……ッ!!」

さらに时间は无情に过ぎていく。

学园都市最强の能力をフルに使ってもこれだけの差があるのに、电极の加护がなければ彼は自分の足で立つ事すら难しくなる。そうなれば逆转の机会は绝对に访れない。

|焦《あせ》りが时间を削り、その时间がさらに焦りを|诱发《ゆうはつ》していく。

(……、クソッたれが!!木原ごときで止まっている余裕もねえってのに、これじゃあのガキの|治疗《ちりよう》のために『|学习装置《テスタメント》』を使う时间もなくなっちま───ッ!!)

「余裕だなぁ、スクラップの杀人野郎!!もう胜った後の算段かぁ!?」

ゴン!!という|轰音《ごうおん》が|响《ひび》く。

考え事をしていた|一方通行《アクセラレ—タ》の意识が、今度は确实に摇さぶられた。

|木原数多《きはらあまた》の动きがかなり大振りになっていた。ダメ—ジを重ねた|一方通行《アクセラレ—タ》は、もうこちらの速度を处理できないと判断したのだろう。

|一击《いちげき》一击の间隔は长くなり、その代わりに|拳《こぶし》の一つ一つに重みが增す。

「テメェさあ、もしかして自分で自分をすげ—格好良いとか思ってんのか?」

颜面を|溃《つぶ》されるような一击に、|一方通行《アクセラレ—タ》の二本の足がふらついた。注意しないと|络《から》まって转びそうになる。

「たった一人で巨大な恶の组织に立ち向かって、|哀《あわ》れな|囚《とら》われのガキい助けるために奔走して、そういった行动で自分の人生|全《すべ》てチャラにできるとでも考えてんのかよ?」

そちらへ注意を向けている间にも、さらに木原の拳は飞んでくる。两腕で急所を守ろうとしても、常に防御の|隙间《すきま》をすり拔けるように着弹した。ダメ—ジは极まり、引き结んだ唇の隙间からドロリとした血の块が喷き出す。

「ぎゃはは!ふざけんじゃねえよ!テメェは一生泥ん中だ!|这《は》いずっても这い上がっても泥まみれなんだよ!!だったらそのまま沈んでろ!テメェみてえなのがベタベタ步くと周りが污れちまうんだよお!!」

ドゴン!!という|一际《ひときわ》大きな|冲击《しようげき》と共に、|一方通行《アクセラレ—タ》の体がついに床に崩れた。|两膝《りようひざ》を折り、|绵埃《わたぼこり》と毛先が同化したカ—ペットの上に额がぶつかりそうになる。

(……ちく、しょう。クソッたれが……)

それでも、|一方通行《アクセラレ—タ》はスチ—ル制の事务机に手を置いて、完全に倒れる事だけは防ぐ。体の中にあったスタミナは、木原からのダメ—ジで|扶《えぐ》り取られていた。マラソンを终えた後のように、全身が休息を求めて悲鸣をあげている。

(……分かってンだよ。一生泥ン中だって事ぐれェ。オマエ|达《たち》が思い出させたンだろォが。だから|俺《おれ》はもォそこに未练なンかねェ。俺が求めてンのはそこじゃねェ……)

齿を食いしばり、痛みの感觉を强引にこらえて、|一方通行《アクセラレ—タ》は支えとしている事务机へ力を?める。その腕の力を使い、彼はふらふらと体を起こしていく。

(……いい加减にしろよ。ドイツもコイツも、よってたかってあのガキを|狙《ねら》いやがって。地狱へ行くのは、俺とオマエだけで良い。そこにあのガキを卷き?むンじゃねェよ、このクソ野郎……)

しかし、彼のそういった觉悟は|无驮骨《むだぼね》に终わった。

ピピッ、という小さな电子音。

首元のチョ—カ—型电极から发せられた、小さな小さな最後|通牒《つうちよう》。

一分间、六○秒が经过したという机械的な合图。

示された意味は、バッテリ—切れ。

ガクン、と。

<img src="img/禁书目录13_288.jpg">

|全《すべ》ての力を失った|一方通行《アクセラレ—タ》は、|木原数多《きはらあまた》の前で|埃《ほこり》だらけの床に崩れ落ちた。

バヂィ!!という|轰音《ごうおん》が|响《ひび》く。

『天使』の羽と羽の间を、今にも|溢《あふ》れ出しそうな火花がブリッジを描いていく。

「ハハッ!!」

前方のヴェントが巨大なハンマ—を片手に|上条《かみじよう》の元へと正面から突っ?んできた。

上条は向かってくるヴェントに合わせ、握った|右拳《みぎこぶし》を全力で|叩《たた》きつけようとする。

ビュン!!という风を切る音が响いた。

それはヴェントがハンマ—を振り回した音ではない。

ヴェントの体が真上に三メ—トルも飞び上がった音だった[#「ヴェントの体が真上に三メ—トルも飞び上がった音だった」に傍点]。

下や左右ではなく、上へ|避《さ》ける。

おそらく空气を使った|魔术《ぽじゆつ》の一种なのだろう。

拳を空振りした上条の颜面へ、|容赦《ようしや》なく飞び|蹴《げ》りのカウンタ—が|袭《おそ》いかかった。ゴン!という钝い音と共に彼の体が|濡《ぬ》れたアスファルトの上を转がっていく。

(がっ、ぁ!?こいつ……ッ!!)

鼻を押さえて|上条《かみじよう》は慌てて起き上がる。

ヴェントは目と鼻の先にいた。

振り上げられたハンマ—は、そのまま路上の上条目がけて势い良く振り下ろされる。

じゃりり!と|锁《くさり》の|擦《こす》れる音が闻こえた。

见れば、血に濡れて赤く染まった舌のチェ—ンは上条の颜を目がけて、|螺旋《らせん》の|枪《やり》を描いている。

その形をなぞるように、风の凶器が发生した。

「ぐああッ!!」

上条は叫びながら右手を突き出す。ヴェントの|攻击《こうげき》が|弹《はじ》け、周围に空气の|岚《あらし》が|撒《ま》き散らされる。雨粒の方向が、ほんの数秒だけ大きく乱れた。

それを二人は见ていない。

「ふっ!!」

ヴェントが息を吸い?み、さらにハンマ—をがむしゃらに振り回した。舌の锁は生き物のように|蠢《うごめ》く。上条は右手で受け止めるのを|谛《あきら》め、後ろへ转がるように|回避《かいひ》する。|幻想杀し《イマジンブレイカ—》に|赖《たよ》り续けては永远に不利な体势を直せない。そう思った彼は、转がる势いを利用して後方へ下がりつつ、一气に地面から立ち上がる。

外れた空气の钝器がアスファルトに突き刺さる。その破片が空中に舞う。

两腕を使って石の岚から颜面を守る上条に、ヴェントの|耳障《みみざわ》りな声が飞んできた。

「げほっ……。クソ、やっぱり出力が落ちてやがる……」

口から血の块を|吐《は》き、上条の背後にいる天使を|睨《にら》み付ける。

血の传う锁を摇らし、ヴェントは声を张り上げた。

「はは、さっきっから面倒臭いわねえ!!气持ち恶い右腕ぶら下げて、吐き气がするような『天使』を|庇《かば》って、どこまで私を笑わせりゃあ气が济むのかしらぁ!?」

「ふざけんじゃねえよテメェ!!世の中にはテメェの持ってる视点しかねえとでも思ってんのか!?何で自分以外の他人を受け入れようとしねえんだテメェらは!!」

石の岚の中を突っ切って、ヴェントはもう一度上条の|怀《ふところ》へと走り?んで来る。

不思议とアスファルトは彼女の体に当たらない。まるで向こうが|避《さ》けているような|错觉《さつかく》を得る。これもまた空气を使った|魔术《まじゆつ》の一种なのかもしれないと上条は予测する。

ハンマ—を振り回し、彼女は叫ぶ。

齿の间から、赤い血を|漏《も》らしながら。

「私は科学が嫌い!科学が憎い!!」

上条がそのハンマ—を右手で|叩《たた》き落そうとした所で、唐突にハンマ—が|虚空《こくう》へ消えた。上条の|拳《こぶし》が空を切った所で、见计らったようにもう一度ヴェントの手からハンマ—が出现する。

トン、とヴェントは无防备な|上条《かみじよう》の腹にハンマ—の先を押し付ける。

そのハンマ—の|柄《え》に、舌の|锁《くさり》をぐるぐると卷きつけて。

「私をこんな风にした科学が嫌い!」

直後、空气の钝器がハンマ—の先端から吹き荒れた。

上条はとっさに身をひねったが、それでも|胁腹《わきばら》を钝器が|掠《かす》める。たったそれだけで、グルン!と彼の体が竹とんぼのように回转した。着地などできるはずもなく、そのまま崩れかけた壁に激突する。

「私の弟を见杀しにした科学が憎い!!」

译の分からない一方的な|骂声《ばせい》を浴びせ、ヴェントはさらにハンマ—を|剃《な》ぎ拂う。あれだけ|络《から》まっていた锁はいつの间にか外れていた。空气の钝器が生まれ、上条の元へと|袭《おそ》いかかった。壁に体を押し付けていた上条は、そのまま势い良く横へ飞んで|回避《かいひ》する。

ビルの壁がオモチャのように碎けて割れた。

その威力にゾッとした上条だったが、ふと彼の动きが止まった。

碎けた壁の向こうに、大学生ぐらいの男の人が倒れていたのだ。

「待───ッ!!」

上条が止めようとしたが、

ゴォン!!という|轰音《ごうおん》が、上条の言叶に重なった。

『天使』の羽の火花だ。

それは轰音を通り越して、もはや|冲击波《しようげのは》に近かった。

「ッ!!」

あまりの|震动《しんどう》に、上条は思わず两手で耳を押さえて苦痛の表情を浮かべた。ヴェントから目を|离《はな》し、背後を振り返れば、ついに|风斩《かざきり》の羽と羽の间でブリッジを描いていた火花が、许容量を超えて解き放たれていた。

ドッ!!という音の领域を超えた何かが突き拔けた。

それは蛇のように生物的なラインを描き、|一瞬《いつしゆん》で学园都市の外まで突き拔けた。ともすれば地平线の向こうに隐れるほどの

|距离《きより》が离れているにも|拘《かかわ》らず、爆风で卷き上げられた|土壤《どじよう》がウェ—ブを描くのが确かに见えた。

おそらく『敌』を讨つため、天使の攻击が再び放たれたのだ。

(くそ……)

头がガンガンに痛む。

早くヴェントを止めないと倒れている人|达《たち》を卷き?むと分かっていても、体が上手く动かせない。

一方、ヴェントの方は痛みも气にしていないような颜で、

「科学なんてこんなモンだ!!アンタもその一员なのよ!气持ち恶いとか思わないワケ!?」

口から血を流し续けるヴェントは、力の限りにハンマ—を振り回し、舌のピアスが照准を决定し、特大の空气の钝器がコンクリ—トを粉々に打ち碎いた。

そこにいた一般人を、わざと卷き?むように。

前後左右のバランスが|掴《つか》めない。どちらに向けて力を入れれば起き上がれるのか、それすら『计算』できない。投げ出された手は见えるが、指が何本あるか、目で追いながらカウントしていくと数が分からなくなる。

バッテリ—切れによって、|一方通行《アクセラレ—タ》の首筋にある电极は效力を失っていた。

今の彼は、もう能力を使用する事もできないし、言叶を理解する事もできないし、一○本指を折れば答えが分かる程度の计算もできない。|拳《こぷし》を握って|木原《きはら》に|食《く》らいつくどころか、そもそも自分の体重や重心の管理すら行えないため、まともに立ち上がるのも难しい。

废弃オフィスの床は|埃《ほこり》まみれで、カ—ペットの毛先と绵埃が|络《から》み合っている。それを|颊《ほお》に押し当てて倒れている|一方通行《アクセラレ—タ》は、この状况を『不快』と感じてはいるのだが、

(……どう、すれば、この、『不快』を、取り除け、たっけ?)

受动的に情报を得る事はできても、能动的な反应を示す事ができない。间にあるべき『计算』が封じられているからだ。

そんな|一方通行《アクセラレ—タ》の头上から、声が降り注ぐ。

木原|数多《あまた》のものだ。

「次第に[#「次第に」に傍点]、寝ちまっては来たっつのそれは良くてそれほどたくさんの问题で远いですかぁ[#「寝ちまっては来たっつのそれは良くてそれほどたくさんの问题で远いですかぁ」に傍点]!?」

何を言われているのかサッパリ理解できない。

そもそも、自分はここで何をやりたかったのか。自问はしても自答ができない。确か|打ち止め《ラストオ—ダ—》がここにいるはずだ。彼女をここから连れ出さなくてはいけないはずだ。それは分かる。『计算』しなくても良い、あらかじめインプットされている情报を意识面に出力するだけなら|一方通行《アクセラレ—タ》にも行える。

しかし、

具体的にはどうやって?

(…………………………………………………………………………………………………、)

|一方通行《アクセラレ—タ》の动きはそこで止まった。

もっとも、そもそも彼の思考能力が万全の状态であっても、この答えを导くのは不可能だっただろう。学园都市最强の能力をフルに使っても、木原数多はそれらを先读みし、|烟《けむ》に卷き、|一方通行《アクセラレ—タ》の力を制限した上で、逆に痛烈なカウンタ—を仕挂けてくる。世界を灭ぼすほどの力を|叩《たた》きつけてもケロリとしている|木原《きはら》に对し、今の|一方通行《アクセラレ—タ》はチョ—カ—型电极の恩惠をなくし、|杖《つえ》にすがってようやく立ち上がれる程度の运动能力しか持たない。これで胜算を导き出せというのは严しすぎる。たとえ『|树形图の设计者《ツリ—ダイアグラム》』を使ったとしても、出力される解答は○%の一语に尽きるだろう。

だが[#「だが」に傍点]。

「───?」

その|瞬间《しゆんかん》、さんざん|侮蔑《ぶぺつ》の言叶をぶつけていた木原の口が止まった。

|嘲《あざけ》りに满ちた表情に、|若干《じやつかん》の困惑が加わった。

无理もないだろう。|一方通行《アクセラレ—タ》の首筋にあった机器を见て、その机能と弱点をほぼ正确に予测していた者ならなおさらに。

ミシリ、と。

事务机を|轧《きし》ませ、それにすがるように、|一方通行《アクセラレ—タ》が再び立ち上がったからだ。

とても战えるような状态ではなかった。

彼は自分自身の体重すらも支えられない。今は事务机に两手をついているが、それを|离《はな》せばすぐにでも床に崩れ落ちるはずだ。眼球の焦点も合っておらず、不规则にグラグラと摇れる黑目が何を映しているのかは、もう本人にしか分からないレベルだ。

强大な敌に立ち向かうどころか、地球の重力にも负けている|一方通行《アクセラレ—タ》。

しかし、それでも彼は木原|数多《あまた》と|对峙《たいじ》する。

その无样な样子を眺め、木原が|马鹿《ばか》のように笑った。

「同じく炮击中队を退けた事にあなたは何を与えてます[#「同じく炮击中队を退けた事にあなたは何を与えてます」に傍点]!?」

决して届かない|骂声《ばせい》を浴びせかけられる。

バッテリ—も切れたのにお前は何をやってんだよ、というニュアンスの言叶なのだが、今の|一方通行《アクセラレ—タ》に届くはずがない。そして、假に届いたとしても彼の行动は决して变わらない。

现状の|一方通行《アクセラレ—タ》はあらゆる计算ができない。

この绝望的な状况を理解できても、それを打破するための胜算が浮かばない。

けれども。

逆に言えば、今の|一方通行《アクセラレ—タ》はあらゆる败因が计算できない。

|故《ゆえ》に、彼は决して|臆《おく》しない。

たとえどんな状况に追い?まれても、次の|一击《いちげき》で杀されると分かっていても。

最後の最後のその|瞬间《しゆんかん》まで。

彼はただひたすらに、计算もしないで战う事を选择し续ける。

|上条《かみじよう》の两目が见开かれた。

|幻想杀し《イマジンブレイカ—》を秘めた右手は届かなかった。

土砂降りの雨の中、ヴェントの放った|一击《いちげき》がコンクリ—トの壁を爆弹みたいに打ち碎く。そこに气绝していた人间を含めて、|全《すべ》てが灰色の|粉尘《ふんじん》の中へ消えていった。

それは战场の野战病院を|袭《おそ》い、|治疗《ちりよう》を待っている重伤者一人一人の头に铳口を押し付けて引き金を绞るような行为だ。

どう考えても卷き?まれた人が生きているはずがなかった。

灰色の粉尘が晴れた後には、グチャグチャに引き裂かれた人肉が散らばっているだけのはずだった。

一方では、ガァン!!ゴォン!!と、立て续けに|风斩《かざきり》が放电に似た攻击を发射していく。

上条の心を余计に押し|溃《つぷ》していくように。

「テ、メェえええええええええぇッ!!」

叫びは、かなり迟れて上条の口から放たれた。

头の处理が迟れるぐらい、目の前の光景は|凄惨《せいさん》だった。

ビュオ!!と、|岚《あらし》に吹かれるように、突如として粉尘が取り除かれる。

だが。

その奥にいたのは、气を失ったまま、しかし伤一つ作っていない民间人だった。

「な……?」

「あ……?」

上条とヴェントは、倒れている大学生を见る。

攻击は、确かに直击したはずだったのに。

(どういうコト……。くそ。目の前で一般人を溃せば、感情面からちょっとは摇さぶりをかけられたはずなんだけど)

ヴェントは、そう思案していたが。

ふわり、と。

淡い光を放っ绵のようなものが、ゆっくりと夜空から降ってきていた。

首を巡らせ、上条とヴェントの二人は确认する。

无伤だった大学生の周围に、何か光る|鳞粉《りんぷん》のようなものが、うっすらと漂っていた。目を|凝《こ》らさなくては分からないほど|薄弱《はくじやく》な异能力の|证《あかし》。しかし、それらは|冲击《しようげき》を|阻《はば》むように、大学生の周围を漂い、|覆《おお》っている。それこそが、この民间人をヴェントの攻击から守ったものの正体のようだ。

どこから……?と|上条《かみじよう》は周围へ视线を飞ばす。

光り|辉《かがや》く|鳞粉《りんぷん》は、土砂降りの雨も气にせずにふわふわと周围に漂っている。

上条やヴェントは、生存者の样子と同じぐらいに、全く别のものに气を取られていた。

それは鳞粉の光。

その辉きを、上条|当麻《とうま》は知っている。

彼は後ろを振り返る。

そこには无数の|翼《つばさ》から鳞粉を|撒《ま》いている、|风斩冰华《かざむりひようか》がいた。

「はは……」

笑った。

上条は、その光景を前に思わず笑ってしまった。

周围の|瓦砾《がれき》が音を立てた。ガラガラと崩れていく|残骸《ざんがい》の中から现れたのは、大学生と同じく生き埋めにされた一般人|达《たち》だ。男も女も、子供も大人も、大势いる。

鳞粉は一○○人でも一○○○人でも包み?み、ひたすらに守り续けている。

彼らに伤は、ない。

たったの一つも。

ザァ!!と。周围一带が辉く鳞粉に照らされていく。

彼女の|想《おも》いが、|暗《やみ》を|拭《ぬぐ》う!!

「ははは」

|谁《だれ》だか知らないが、风斩をあんな风にした人间が、生存者の安否など气にしているとは思えない。だとすると、|破坏《はかい》活动の方はともかく、生存者达を救ったこの辉く鳞粉については、里侧に|潜《ひそ》む何者かの命令によるものではないはずだ。

となると、これはあの子の意思によって引き起こされた现象だ。

あんな体にされて、自由も全部夺われて、それでも必死に抵抗した结果、彼女は身を削って最後の一线を守り拔いたのだ。

风斩の头上にある天使の轮に取り付けられた铅笔ぐらいの棒が、ガシャガシャガチャガチヤ!!と高速で动く。彼女の体を|诱导《ゆうどう》するための光がチカチカと连续で|瞬《またた》く。

おそらく、风斩の胜手な行动を停止させるためのコマンドなのだろう。

ゴキリ!と风斩の右腕から妙な音が闻こえた。

あまりの|束缚力《そくばくりよく》に、彼女の腕がメキメキとシルエットを崩していく。

それでも、周围に漂う鳞粉は决してなくならない。

绝对に、彼女は守る事をやめない。

ドガァッ!!という|轰音《ごうおん》と共に、立て续けに风斩の羽から放电に似た|攻击《こうげき》が学园都市の外周部へ放たれる。しかし、その轨道を|塞《ふさ》ぐように无数の|鳞粉《りんぷん》が|食《く》らいついた。あまりの|破坏力《はかいりよく》に鳞粉は轻々と吹き飞ばされるが、|风斩《かざきり》は抵抗をやめない。どれだけ体を痛め付けられても。

破坏と守护、相反する二つの行动。

それが、今の风斩|冰华《ひようか》を示していた。

たとえ何者からの支配を逃れられなくても、他人に对する|攻击《こうげき》を止められなくても、风斩はそこで|谛《あきら》めなかった。

彼女は自分の体を|轧《きし》ませるほど抵抗し、

少しでも不幸になる人间を减らすために、

血の|渗《にじ》むような觉悟で力を振り绞り、

一绪に战ってくれているのだ[#「一绪に战ってくれているのだ」に傍点]。

「こ、の、伪善者が!!ナニやってんのよ!?」

ヴェントが颜を真っ赤にして叫んでいたが、|上条《かみじよう》の耳には届いていなかった。

「はは」

良かった、と彼は思った。

上条|当麻《とうま》は、风斩冰华を守るために立ち上がって正解だったのだと、

たったそれだけの事が、はっきりとした。

「はははははっ!!たまんね—な!たまんね—よ!!|日顷《ひごろ》から不幸不幸って言ってるけど、これだけあれば十分に幸せじゃねぇか[#「これだけあれば十分に幸せじゃねぇか」に傍点]なぁ!?」

「な、ナニを……何のコトを言ってんのよ、アンタ!!」

常轨を逸した上条の笑いに、これまで主导权を握り续けてきたヴェントの方が思わず後ろへ下がった。赤く染まった舌の|锁《くさり》が尾を引いていく。それに对して、上条の方は质问に答える气が全くない。彼はすでに满足してしまっていた。これ以上の答えを求めないが|故《ゆえ》に、ヴェントの言叶に应じる事もない。答えが出てしまっている以上、ヴェントに何を言われて何をやられた所で、上条の心は绝对に折れない。

「待ってろよ、风斩」

今度こそ、『届いている』という确信を得て、上条当麻は话しかける。

破坏のための攻击を|撒《ま》き散らし、守护のための鳞粉でそこから抵抗し续ける少女へと。

「今、インデックスがお前を助けるために动いてくれてる。この手の|厄介事《やつかいごと》は、あいつに任せておけば问题ねぇよ。なんて言っても、お前の友达だからな。期待に|应《こた》えてくれんだろ」

だから、と告げて、上条は右手に力を?めた。

先ほどまでとは比べ物にならないほど、固く、强い|拳《こぶし》が形成される。

「安心しろ。それまでの间、ここは俺が绝对に食い止めてやる」

「ふざ、っけんじゃねえそこの废人野郎ぉ!!」

|木原数多《きはらあまた》は叫び、事务机に寄りかかって体をふらつかせている|一方通行《アクセラレ—タ》を本气で|殴《なぐ》り飞ばした。もう|一方通行《アクセラレ—タ》は能力を使えない。これまでの「|拳《こぶし》を返す』特殊な殴り方をせず、全力で体重をかけて殴っても问题ないのだ。

结果、|一方通行《アクセラレ—タ》の体は|纸屑《かみくず》のように舞う事になる。

ただし、その直前で彼は木原の手首を|掴《つか》んでいた。想像以上に强い、そして『飞んできたものを掴む』という犬や猫并みに单纯な本能の动きによって、ガクンと|一方通行《アクセラレ—タ》の体が|缝《ぬ》い止められる。

「チッ!」

木原は拳に|食《く》らいついた|一方通行《アクセラレ—タ》の手を振り拂おうとしたが、思うようにいかない。その间に、|一方通行《アクセラレ—タ》はもう片方の手で|缓《ゆる》く拳を握って、それを木原の颜面へ

|叩《たた》き?む。

ぱしん、という间の拔けた音がしただけで、痛みはほとんどなかった。

|一方通行《アクセラレ—タ》が木原の耳のすぐ上───侧头部の发の毛を掴んで[#「侧头部の发の毛を掴んで」に傍点]、思い切り引き剥がさなければ[#「思い切り引き剥がさなければ」に傍点]。

「ごァああああああああああああああッ!?」

木原の绝叫と共に、血が|飞沫《しぶき》をあげた。

杂草のようにまとめて引き拔いたため、发の毛と|一绪《いつしよ》に地肌までベリベリと|剥《は》がしていた。ちょうど草の根に|络《から》む土のように、|一方通行《アクセラレ—タ》の持っている『发束』には肌色の|皮肤《ひふ》やピンク色の肉が|薄《うす》く张り付いている。

情けなどない。

|容赦《ようしや》などない。

|一方通行《アクセラレ—タ》は、表情を崩す木原のすぐ目の前で、口を引き裂いて笑っていた。

本能だけで战っているに近い彼は、极めて原始的な『|爽快感《そうかいかん》』を颜に表した。

「こんの、クソガ、キ……ッ!!」

木原は片手で头の横を押さえながら、後ろへ大きく下がろうとした。

しかし|一方通行《アクセラレ—タ》は、まるでゾンビのように木原に抱きつき、そのまま床へ押し倒す。『テメぇ!!』と木原が叫んだが、言语机能のない|一方通行《アクセラレ—タ》には|完壁《かんぺき》に届いていなかった。

(なめやが……ッ!!)

木原は叫ぽうとしたが、その时、|一方通行《アクセラレ—タ》は木原の耳を|掴《つか》み、そのまま引き|千切《ちぎ》ろうとした。

「おおおっ!?」

慌てて首を振ってその指を|避《さ》け、木原は|一方通行《アクセラレ—タ》の颜を殴って、その下から脱出する。体を转がすように、床の上を移动する。

(ふざけやがって、ここで杀してやる!!)

|木原《きはら》は倒れたまま、床に转がっている|拳铳《けんじゆう》を见た。|一方通行《アクセラレ—タ》に|溃《つぶ》された『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の武器の一つだ。

それを使って|蜂《はち》の巢にしようと思った木原だが、

「───、」

|一方通行《アクセラレ—タ》がその手を|掴《つか》む。

自分の手をさらに拳铳へ近づけようとする木原に、|一方通行《アクセラレ—タ》はもう片方の手を木原のみぞおちにねじ?んだ。それを二回、三回と|缲《く》り返すと、木原は一度拳铳を|谛《あきら》め、のしかかってくる|一方通行《アクセラレ—タ》の颜へ肩を|叩《たた》き?み、|距离《きより》を取ろうとする。

ほとんど本能的な行动か、それでも|一方通行《アクセラレ—タ》は木原と拳铳の间を割るように倒れ?んだ。

(このクソガキ……行动力を失った分、一つ一つの动きがキレ始めてやがる!?)

もぞもぞと床で|蠢《うごめ》く|一方通行《アクセラレ—タ》を|睨《にら》みながら、木原は荒い息を|吐《は》く。

もしも|一方通行《アクセラレ—タ》にまともな思考能力が残っていたら、违和感に气づいていたかもしれない。

学园都市最强の|超能力者《レベル5》を轻くあしらうような化け物が、この程度でここまで|紧张《きんちよう》するのはおかしい、と。

トリックがあったのだ。

结局の所、木原|数多《あまた》が|一方通行《アクセラレ—タ》を压倒していたのは、彼が『|一方通行《アクセラレ—タ》を直接开发したから』に过ぎない。だから性格面、能力面、运动面など、あらゆるデ—タが|?《そろ》っていた木原は、『|一方通行《アクセラレ—タ》にのみ有效な』必杀战术を身につけていただけだったのだ。

もちろんそれを成功させるには、普通の人间よりはるかに优れた体术のセンスと、|膨大《ぽうだい》な研究デ—タを战术に组み?むための天才的な头脑が必要になる。しかし、それを实现したとしても、学园都市でも七人しかいない|超能力者《レペル5》を正面から打倒するほどのものではない。

本当に小细工なしで|超能力者《レベル5》を叩き溃せるのなら、木原はそもそも『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の部下など使わないだろう。ピアスだらけの女が出现した时にも自分でさっさと对处したはずだ。实际、今回の作战で木原は|一方通行《アクセラレ—タ》以外の人间を溃す时には绝对に部下を差し向け、自分は表に出ないように|彻底《てつてい》していた。

しかし、その化けの皮はここで|剥《は》がされた。

|一方通行《アクセラレ—タ》が、|超能力者《レペル5》から何の力も使えない|无能力者《レペル0》へ切り替わった事で。

これまでの|战术《すぺて》を舍てたために、木原の『对抗策』も意味をなくしてしまった。

(|马鹿《ばか》にしやがって。杀してやる、绝对ぶっ杀してやる。くそ、何でこんな事になってんだ。|俺《おれ》はずっとこいつを压倒していたはずだ。床を|这《は》いずる理由が全く浮かばねぇ……)

口の中でブツブツと恶态をっく木原だったが、ふと窗の外に异变を感じた。

『天使』の样子がおかしい。

具体的に、一体どこに『异变』が生じているのか、木原には掴めない。だが、とにかく违和感があった。|暧昧《あいまい》な言い方をすれば、突き刺すような|祸々《まがまが》しさが消えている。

(异、变……?)

|呆然《ぽうぜん》と、|木原《きはら》は思う。

(ま、さか、アレイスタ—も、考えていなかったような、问题でも……)

额の汗を|拭《ぬぐ》い、立ち上がろうとした木原は、そこで|一方通行《アクセラレ—タ》の颜を见た。

彼の口は、言叶を发するように动いていた。

しかし、それは木原|数多《あまた》の耳まで届いていなかった。届いていたとしても、今の|一方通行《アクセラレ—タ》はまともに人の言叶を话せる状态ではない。何を传えたいのか、木原に理解するのは不可能のはずだった。それでも、木原はこめかみの血管が不气味に脉动するのを感じた。

|马鹿《ばか》にされていると、表情や|氛围气《ふんいき》だけで思い知らされたからだ。

(なめ、やがって……)

木原数多の眼球が、一气に血走る。

(杀すだけじゃ足りねぇ。ただ心脏を止めても、こいつは余裕をもって死んでいく。もっと夺え。こいつが死の意味すら夺え。そのためには何をすれば良いんだよ)

彼の思考が一气に回る。|一方通行《アクセラレ—タ》にとって何がが弱点で、何が急所で、何をやられるのが最も|辛《つら》い事なのか。演出、脚本、效果、それら|全《すべ》てをひっくるめ、最恶のシナリオを构成していく。

あはっ、と木原は笑った。

彼は自分の手を素早く白衣の内侧へ突っ?んだ。取り出されたのは一枚のチップだ。中身は|打ち止め《ラストオ—ダ—》の脑に打ち?まれた、ウィルスのオリジナルスクリプトだった。

|学习装置《テスタメント》を使って彼女の头を|治疗《ちりよう》するにしても、このデ—タは绝对に必要なものだった。

これがなければ|打ち止め《ラストオ—ダ—》は绝对に助からない。

そのチップを、

木原数多は、|一方通行《アクセラレ—タ》の目の前で、|掌《てのひら》で包んでグシャリと握り|溃《つぶ》した。

「ぎゃははははははははははははッ!!」

|嘲《あざけ》りに包まれた爆笑が废弃オフィスを摇るがした。

バラバラと、プラスチックの破片が床に落ちていく。|一方通行《アクセラレ—タ》は、动かなかった。计算のできない彼は、そのチップの|破坏《はかい》が何をもたらすのか、答えを导けない。それでも木原は满足だった。眼前で全てを破坏した事がこの上なく乐しかった。

「ざまあみろ!ざまぁぁぁみろ!!胜利条件は一つじゃねえ!悔しがれよこのクソガキ!!|俺《おれ》はテメェの一番大切にしているものを全部ぶっ|坏《こわ》してやったんだ!テメェはもう何にも取り戾す事あできねえんだよ!!あははあはぎゃはは!!」

これが|一方通行《アクセラレ—タ》や|木原数多《きはらあまた》の住んでいた世界だった。

加减も|容赦《ようしや》も情けも救いもない。

善も恶も死ぬ。ただ弱いヤツから顺番に食い物にされていく。だからこの世界に迷い?んだら、|打ち止め《ラストオ—ダ—》のような人间は绝对に生き残れない。当たり前すぎていちいち口に出す事もなかった、根本的な里社会の法则。それに卷き?まれて、また一人の人间が命を落とした。

それだけの事だ。

たったそれだけのはずだ。

木原はゲラゲラと笑いながら、|一方通行《アクセラレ—タ》の|胁腹《わきばら》を|蹴《け》りつけた。希望を夺うだけでは许さず、その上で|叩《たた》き杀す。木原の颜には、略夺者の愉悦が深々と刻まれていた。

「ほぉ—ら、次はテメェの番だ。天国ってのがあるかどうか、今からくだらねえ事でも考えてやがれ!!」

もはや、望みなどない。

しかし、救いは|一方通行《アクセラレ—タ》と|打ち止め《ラストオ—ダ—》を见舍てなかった。

「いた!!あの子だ!!」

废弃オフィスに|踏《ふ》み?んでくる足音。

つい数时间ほど前に闻いていたにも|拘《かかわ》らず、随分と|怀《なつ》かしさを感じさせる少女の声。

|蹴飞《けと》ばされ、床を转がっていた|一方通行《アクセラレ—タ》の首が、声のした方へ向く。

そこに、

ずぶ濡れの白い修道服を引きずった、インデックスが立っていた。

バチバチと放电に似た|轰音《ごうおん》を|撒《ま》き散らす巨大な天使を背に、|上条当麻《かみじようとうま》はヴェントの元へと突っ?む。

矢のような速度だった。先ほどまでの动きが|嘘《うそ》のようだ。いや、おそらく逆だろう。生き埋めにされた人々の生存が确认され、さらにあの[#「あの」に傍点]|风斩《かざきり》の心はそのままだ。彼女がそうそう简单に他人へ『敌意』を向けないのも分かりきっている。そしてもうヴェントの乱杂な|攻击《こうげき》が周围へ被害を扩大させていく事もない。|全《すべ》ての不安や|悬念《けねん》から解放された上条はその|枷《かせ》を外し、全力で战う事ができる译だ。

守れば良い。

彼はただ自分の大切な友达を守れば良い。

シンプルだ。

それ|故《ゆえ》に、|上条当麻《かみじようとうま》は何もかもから解放された。

「クソッ!!」

ヴェントは恶态をつきながらハンマ—を振り回したが、すでにその时には、上条は彼女の|怀《ふところ》深くへと|潜《もぐ》り?んでいる。ドバン!!と|一击《いちげき》で空气の钝器を吹き飞ばすと、さらにそのままヴェントのハンマ—の有刺铁线を卷かれていない所を|掴《つか》むべく、右手を前へ前へと突き出す。

「ッ!!」

触れる寸前で、ヴェントの右手からハンマ—が消えた。即座に左手にハンマ—が移り、上条の|掌《てのひら》が空を切る。

がら空きの胴を|狙《ねら》って、ヴェントのハンマ—が|横殴《よこなぐ》りに上条へ|袭《おそ》いかかる。

上条はこれを身を|屈《かが》めて|避《さ》ける。ブォ!!という|轰音《ごうおん》を头上にやり过ごし、そのままヴェントの腹の真ん中へ锐角に突き立てた|肘《ひじ》を|叩《たた》き?んだ。

ドン!!という钝い音が|炸裂《さくれつ》する。

「げうっ!?」

ヴェントの体がくの字に折れ曲がり、さらに足の里が滑って地面を转がった。上条は、さらに彼女の腹へ杭のようにカカトを沈めようとしたが、それより先に、ヴェントは倒れたままハンマ—を思い切り振り回した。

空气の钝器が、上条の颜面目がけて射出される。

「ッ!!」

慌てて後ろへ下がる上条のすぐ近くを、ビュオ!!と风の凶器が突き拔けた。土砂降りの雨を食い破り、粒子のような残像を引いていく。

仕切り直しだが、上条の颜には笑みがあった。

いける。

(ヴェントは、|俺《おれ》の右手にハンマ—を掴まれる事を避けた)

上条は、右手の五本指を开き、もう一度握って、

(つまりこいつで打ち消せるって译だ。しかも、すぐさま|坏《こわ》れたハンマ—が元通りになるって事もなさそうだな。一度ぶっ坏しちまえば、ハンマ—の方は封じられる!!)

「やっぱ近づかれて、こっちが得するコトはなさそうね……」

ヒュン、と长いハンマ—を手の中で回し、肩で|担《かつ》ぐ。

唇の间からこぼれた赤い血が、细い|锁《くさり》を传って先端の十字架を|濡《ぬ》らしていく。

上条は|拳《こぶし》を构え直し、口元に|狞猛《どうもう》な笑みを浮かべて言う。

「周りを气にしなくて良いってんなら、こっちも存分にやり合える」

「ハッ。まるで後ろの化け物に协力してもらってるみたいね」

「みたいじゃねえ。本当に协力してもらってんだよッ!」

「言ってろ!!」

ヴェントがハンマ—を肩に|担《かつ》いだ状态から一气に振り下ろし、|上条《かみじよう》が势い良く前へ驱けた。

正面から飞んでくる空气の钝器を右手で|弹《はじ》き飞ばし、续いて生み出された二发目は上条の足元へ落ちた。アスファルトが粉々に吹き飞び、大量の破片が上条を|袭《おそ》う。

彼は身を|屈《かが》め、できる限り当たる数を减らし、その上で两手をクロスして颜面へ向かってくる破片を防ぎながら、さらに前へと突き进む。

そうしながら、叫ぶ。

「これがテメェの限界だ!!人の盾を使えなけりゃこの程度じゃねぇか!!」

「「神の右席』を……ナメてんじゃねぇぞおおおお!!」

ヴェントは绝叫し、さらにハンマ—を振り回して空气の钝器を生み出そうとする。

その|攻击《こうげき》はもう读めている。

ハンマ—を使って『武器』を生み出し、舌の|锁《くさり》の轨道に合わせて发射する。ようはそのワンパタ—ンだ。上条の右手があれば对处できる。

(いや、おそらく、本来のヴェントはこんなもんじゃないはずだ)

彼女には『自分に敌意を向けた者を|全《すべ》て|叩《たた》き|溃《つぶ》す』术式がある。それとこの空气を操る攻击を组み合わせれば、ほとんどの人间は|敌《かな》わないだろう。たとえ当たらなくても[#「たとえ当たらなくても」に傍点]、凶器を向けられただけで相手の[#「凶器を向けられただけで相手の」に傍点]『敌意[#「敌意」に傍点]』は生まれるのだから[#「は生まれるのだから」に傍点]。

しかし、上条の|幻想杀し《イマジンブレイカ—》はヴェントの大本命『|天罚《てんばっ》术式』を寄せ付けない。

今の彼女は、|牵制《けんせい》のための『钝器』しか使えない。

(だから胜てる!!ここで终わらせてやる!!)

上条は右手が一つの块になるほど固く握り|缔《し》め、ヴェントの|怀《ふところ》へと飞び?もうとする。

彼の手が届く前に、ヴェントが水平にハンマ—を振るった。

空气の钝器が生まれる。

が、それが射出される前に、ヴェントは手首を返すと、さらにハンマ—を下から上へ振り上げる。ドッ!!という|轰音《ごうおん》と共に、二发目の钝器が生み出された。

二つの钝器は、バラバラに飞んでくる事はなかった。

お互いを食い破って一つの块になると、まるでシャワ—のように扇形に|炸裂《さくれつ》した。数百もの|尖《とが》った空气の|锥《きり》が、上条目がけて一气に袭いかかってきた。

これは右手だけでは防ぎ切れない。

「ああああっ!!」

前へ|踏《ふ》み?む足を强引に曲げ、上条は全力で横へ转がる。ズドッ!!という钝い音と共に、背後数十メ—トルのアスファルトがまとめてめくれ上がった。学生服の腕の边りが弹け飞び、|皮肤《ひふ》が引きつれてピピッ、と切れる。

转がった直後で身を屈めている上条へ、ヴェントはさらにハンマ—を振り上げる。

纵横に连续で振り回すと、今度は势い良く三つの钝器が生み出された。

|上条《かみじよう》はギョッと体を|强张《こわば》らせる。

(まずっ!?)

きちんと起き上がっていない今の上条は、机敏には动けない。ここへ先ほどのシャワ—が难いかかれば、今度は|避《さ》けられる保障がない。

「くそ、当たっちまう……っ!!」

とっさに右手を构えた上条だったが、

ごぽっ!!と。

ヴェントが不意に体を折り曲げたと思ったら、その口元から血の块が爆发した。

制御を失った三つの钝器が、その场で爆发する。ドン!!という|轰音《ごうおん》と共に、ヴェントの体が真後ろへ|弹《はじ》かれる。

「ヴェント!!」

思わず上条は敌に叫んでいた。

确か、以前にもヴェントは口から血を|确か、以前にもヴェントは口から血を|吐《は》いていた事があったはずだ。

「……ナニを、|马鹿《ばか》みたいな声を出しているんだか」

口の中に|溜《た》まった血を吐き舍てながら、ヴェントはよろよろとハンマ—を构え直した。

今の爆发で、黄色い衣装のあちこちが破れ、血が|渗《にじ》み始めていた。

「アンタら科学サイドが、仕挂けたコトでしょう?あの『天使』の出现に合わせ、『界』全体へ强制的に术的压迫を加える。いわば、|魔力《まりよく》の|循环《じゆんかん》不全を引き起こすってトコか。アレイスタ—も、いやらしい手を考える……」

ヴェントの口调は|朦胧《もうろう》としていて、何を言っているのか详しく理解できない。

が、どうやら今のヴェントは|魔术《まじゆつ》を使うと血を吐くような状况にあるらしい。

空气の钝器を续けて何度も生み出すやり方も、余计に负担を增しているのかもしれない。

それでも。

彼女は血を吐きながら、さらにハンマ—を续けて振り回す。

上条の颜色が变わった。

「|马鹿《ばか》野郎!!そうまでして战う理由なんかあるのか!?」

「ヒトを|殴《なぐ》り杀そうとしているクソ野郎が!白々しい|台词《せりふ》を吐いてんじゃないわよ!!」

纵から横へと续けざまにハンマ—が|跃《おど》り、三つの钝器が生み出され、ギュルリと涡を卷いて、一本の锐い杭と化して上条へ袭いかかる。

ズォ!!という轰音と共に、彼の耳のすぐ横を杭が突き拔けた。

上条がとっさに避けたのではない。

反应できなかった。当たらなかったのは、ヴェントの照准が胜手に摇らいだからだ。

彼女の体力は、もう长くは|保《も》たない。

(复数の空气をぶつけ、そのベクトルを挂け合わせ、全く别の方向や强さで风を|击《う》ち出す……)

「今の|攻击《こうげき》……流体力学の应用か!?」

「ムカつく野郎だわ。人の|魔术《まじゆつ》を知ったような颜で胜手に分类しやがって……ッ!科学的な言叶を使われるだけで|虫唾《むしず》が走んのよ!!」

叫んだが、その意思に体力が追い着いていない。

振り上げていたハンマ—が、腕ごとゴトンと地面に落ちる。两手はだらりと下がっているが、しかしヴェントの|瞳《ひとみ》からはギラギラした敌意が消える事はない。

「おおおアっ!!」

彼女は血まみれの齿を食いしばり、ハンマ—を下から上へと振るう。

体力の限界を感じさせるような、ふらふらした轨道だった。

发射された风の钝器は|上条《かみじよう》に当たらず、すぐ横の路上へ直击した。

それを见た上条は言う。

「ハッ、レスキュ—が必要なんじゃねぇのか?」

「ふざけんじゃ、ないわよ……」

「恶りぃがこっちも立て?んでんだ。さっさと病院送りにしてやるよ!!」

「|默《だま》れ!!私はもう二度と、科学なんぞに身を预けない!!」

ヴェントは|吼《ほ》えるように叫んだ。

今の|台词《せりあ》に、上条はわずかに|眉《まゆ》をひそめる。

「もう二度と、だって?」

思わず|?《つぶや》くと、ヴェントの颜により一层深い怒りが刻まれる。

口の中に|溜《た》まった血の块を|傍《かたわ》らに|吐《は》き、手の甲で唇を|拭《ぬぐ》いながら、彼女は言った。

「……私の弟は、科学によって杀された」

「なに?」

赤く染まった齿を食いしばり、全力でハンマ—を振り上げ、彼女は续ける。

「游园地のアトラクションの|试运转《モニタ—》で误作动を起こしたおかげでね。幼い私は弟と|一绪《いつしよ》に、二人|?《そろ》ってグチャグチャの块になった。科学的には绝对に问题ないって言われてたのよ!何重もの安全装置、最新の轻量强化素材、全自动の速度管理プログラム!そんな|赖《たの》もしい单语ばかりがズラズラ并んでいたのに!!实际には何の役にも立たなかった!!」

「お前……」

「だから私は科学が人を救うなんて信じない。そこの天使も同じってコトよ。何が人を守ってるだ。その阴でしっかり|破坏《はかい》してんじゃない!!」

上条は、言叶もなかった。

そんな彼に、ヴェントは舌を出して言う。

「|惊《おどろ》いたぁ?世界を|统《す》べる『神の右席』の一人が、こんな理由で战ってるだなんて。でもね、私は『神の右席』を利用してでも科学を|溃《つぶ》したいほど憎んでんのよ!!」

|激昂《げつこう》はしても、すぐさま|攻击《こうげき》は来ない。

ヴェント自身、体力の限界を肌で感じているのだろう。

必杀のタイミングを计っているのか、じりじりと足を动かし、ゆっくりと横方向へ动く。

赤く色づいた舌をベロリと出して、彼女は言う。

「B型のRh-。今、|吐《は》いてるこの血は、病理学的にはとっても珍しいモノだって医者は言ってたわ。输血のストックもそうそう简单には见つからない。じゃあ病院に运ばれた私|达《たち》姊弟はどうなったと思う?」

「……、」

「二人分の输血なんて用意できなかった[#「二人分の输血なんて用意できなかった」に傍点]。方々に连络しても一人分しか集まらなかった。ソレまで死にかけのまま待ち续けた私达は、医者达から绝望の话し声を闻いたわ。どちらか片方しか救えないって。そして私だけが生き残った!お姊ちゃんを助けてくださいって、そう言ったあの子はそのまま见杀しにされたんだ!!」

齿と齿の间から血をこぼしつつ、それでもヴェントは攻击しない。

绝对に杀すと、その时を待つと、言外に宣言しているように。

「科学は私达の道を夺い、その上、救いの术だと思っていた圣书さえ、こうして|冒渎《ぼうとく》で涂り|溃《つぶ》そうとしてる!|所诠《しよせん》、科学の本质なんてこんなモノよ。人の|邪魔《じやま》しかしない!!」

肩で息を吐き、自らの力を倍加させるように、ビリビリと空气を|震《ふる》わせて、叫ぶ。

「だから私は科学が嫌いで科学が憎い!科学ってのがそんなに冷たいものなら、全部ぶち腾して、もっと温かい法则で世界を满たしてやる。ソレが弟の未来を食い|溃《つぶ》した私の义务だ!!」

「───、」

なんていう事だろう、と|上条《かみじよう》は思った。

结局、ヴェントは自分のせいで弟を死なせてしまった事を、ずっと悔いているのだろう。彼女にとって一番の敌は、おそらく科学ではなく自分自身だ。その手で守ろうとした者を死なせて今を生きている、ヴェント自身のはずだ。

|天罚《てんばつ》术式。

自分に敌意を向けた者を、问答无用で打ち倒す|魔术《まじゆつ》。

初めて闻いた时は、さぞかし便利な力だと感じた。しかし、その术式は逆に言えば、多くの人达から常に敌意を浴び续けるような环境でなければ[#「多くの人达から常に敌意を浴び续けるような环境でなければ」に傍点]、全く役に立たないのだ。

全世界の人间から恨まれる人生を选んだヴェント。

他人から敌意を受けなければ价值も结果も作れない。それを抑えるためには世界の|暗《やみ》に身を|潜《ひそ》めているしかない。まるで好意を受ける可能性すら废しているような生き方だ。

それが|相应《ふさわ》しいと信じて、死んだ弟のためだけに、|破坏《はかい》に走る彼女。

とても、上条では|真似《まね》できないと考えた。

その上で、彼は言う。

「ふざけんじゃねえよ」

なに?とヴェントは|眉《まゆ》をひそめる。

|上条《かみじよう》は续ける。

「何が、科学が弟を杀した、だ。その医者だって初めから死なせたくなかったに决まってんだろ。お前|达《たち》を二人とも助けたかったに决まってんだろ!!事故が起きたアトラクションの方だってそうだ。人を伤つけるために动かしてた译じゃない。笑颜を作りたかったんだよ!!」

「|默《だま》れ……」

「死に挂けてたお前の弟は、お姊ちゃんを助けてくださいって、どんな气持ちで言ったんだよ!!自分がどんな状况にいるのか全部知った上で、それでもそいつはお前を助けたいって愿ったんじゃねぇえのか!!そんな人间が、科学に对して|复雠《ふくしゆう》して欲しいなんて言うと思ってんのかよ!お前の幸せを|谁《だれ》よりも愿っていた人间がッ!!」

「默れっつってんだよおおおおッ!!」

|激昂《げつこう》のあまり、ヴェントはがむしやらにハンマ—を振り回した。

これまでのような计算はない。ただ乱杂に飞ばされた空气の钝器は、上条の右手によって轻々と吹き飞ばされる。

「たった一○岁にも满たない子供が、死に挂けて意识を|朦胧《もうろう》としている状态で、目の前に伤ついた肉亲がいて!ソンナ状态で决断しろと言われたら、谁でも首を纵に振ってしまうわ!!小さな子供の意见ってコトなのよ。そこに价值なんてあるものか!!血が足りなければ弟の方に回せば良かったのよ!何なら私の血も使ってしまって良かったんだ!!」

上条の颜色はピクリとも变わらない。

土砂降りの雨の中、彼はヴェントの颜を正面から见据えて、告げる。

「价值ならあっただろ」

|唾《つば》を吐き舍て、彼は言う。

「たとえ小さな子供の意见だったとしても、そいつの决断があったから、お前は今もこうして生きてるんだろ!だったら价值はあったんだ!!その价值は、お前が一番分かってなくちゃいけないんじゃないのか!?」

「|马鹿马鹿《ばかばか》しい!!そんな言叶が|慰《なぐさ》めになるか!?私は他人の未来を|食《く》ったのよ!!」

「全く同じ境遇の人间に、今の一言を叫べるのかよ!」

「ッ!!」

ヴェントの息が诘まった。

上条は、そこへ叠み挂けるように言叶を突きつける。

「|俺《おれ》にはできない。だからお前に反论する!!そんな生き方は间违ってんだよ!お前の弟がどんな人间かは知らない。でも、そいつは|俺《おれ》にもできない事をやった。あの时、お前の弟は世界で一番すごい事をしたんだ!!そこに泥を涂るのか!?ずっと科学を憎みながら死んでいったって、そんな言叶で台无しにしちまうのかよ!!」

「───、笑わせる」

前方のヴェントは、ほとんど唇を动かさずに、言った。

「その程度の言叶で、私の道が变わると思うワケ?この道は、私が决めた。たった今、ココで话を闻いただけのテメェに、そうそう简单に捻じ曲げられるはずがないのよ!!」

一步だけ後ろへ下がると、体に残ったわずかな力を振り绞って、重たいハンマ—を持ち上げて、构える。口からこぽれた血が舌の细い|锁《くさり》を传い、先端の十字架を|濡《ぬ》らしていく。

应じるように、|上条《かみじよう》も|右拳《みぎこぷし》を固め、正面からヴェントを见据える。

互いの|距离《きより》は、わずか五メ—トル。

上条なら二步で拳の射程距离に入る。あれだけ弱っているヴェントなら、|一击《いちげき》が入ればそれで意识を夺えるだろう。

しかし、その间にヴェントも一击を放てるはずだ。复数の空气の钝器を重ね合わせた结果、まるで科学の流体力学のように形状やベクトルを变化させる、彼女の必杀技を。

一发ずつの、小细工なしの胜负。

周围の|瓦砾《がれき》がガラリと崩れる音と共に、|火盖《ひぶた》は切って落とされた。

「「!!」」

上条の体が前へ突き进む。

ヴェントはハンマ—を连续で势い良く振り回し、血を|吐《は》きながら一度に七つもの风の钝器を生み出す。それらは互いに食い合い、ベクトルを变え、ギュルリと涡を卷いて、一本の巨大な|杭《くい》と化した。

三本の钝器を束ねた杭ですら、上条は反应できなかった。

二倍以上の数となれば、どれほどの威力が出るのか想像もつかない。

それでも上条は|臆《おく》しない。

|避《さ》けるための动作へ移らない。真っ向から拳で迎え|击《う》つため、拳にさらなる力を加える。ほんの数センチ、拳と杭の照准がずれれば上条の头は确实に爆发するはずだ。その事实を理解して、なお上条の|瞳《ひとみ》は全く摇らがない。

(学园都市や|风斩冰华《かざきりひようか》が抱えている危机的状况も)

あるいは、ヴェントの目の动きや呼吸のタイミングで、攻击を予测できるかもしれない。土砂降りの雨粒を使えば、风の攻击を读める可能性もある。

(ヴェントが|囚《とら》われている、科学への憎しみも)

しかし、|上条《かみじよう》はそういった打算は|全《すべ》て舍てた。

この胜负の决着は、そういう小手先で决まるのではない。

胸の中の全てをぶつけ、最大の|一击《いちげき》を放とうとしている彼女を见て、そう思った。

(そんな幻想は、ここでまとめてぶち|坏《こわ》す!!)

「おおおおおおおおおおおおおおおおおお治おおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

上条とヴェントは叫ぶ。

|拳《こぶし》と|杭《くい》は、ほぼ同时に飞んだ。

ゴォッ!!という|轰音《ごうおん》と共に、ヴェントと上条の间を杭が突き拔け、雨粒が碎け散り、粒子状に吹き飞ばされた。细かい|雾状《きりじよう》になって爆发した雨粒が、|瞬间的《しゆんかんてき》に视界を|塞《ふさ》ぐ。まるで蒸气のように周围へ|撒《ま》き散らされる。

音が消えた。

その直後。

ドガッ!!と原始的な音が|炸裂《さくれつ》し、上条の拳が空气の杭の先端を|捉《とら》え、その一击をまとめて打ち碎いた。

「……ッ!!」

ヴェントはさらにハンマ—を振り上げようとしたが、もう体力が残っていないようだ。

そして、上条はそこへ深々と|潜《もぐ》り?む。

「お前の弟に比べれば、全然大した事はないだろうが……」

その拳を限界まで固く握り|缔《し》め。

ヴェントの颜を|睨《にら》み付けて、

「少しだけお前を救ってやる。もう一度やり直して来い、この|大马鹿《おおばか》野郎!!」

ゴン!!と上条の拳がヴェントの鼻っ柱に突き刺さった。

彼女の体が数メ—トルも飞んで、雨に|濡《ぬ》れたアスファルトの上を转がった。

インデックスは、ボロボロになって床に倒れている|一方通行《アクセラレ—タ》と、彼を|蹴飞《けと》ばしている白衣の男を发见した。それは奇しくも、地下街の出入り口近边で目击した时と似た构图だった。

(あの时の……ッ!!この人|达《たち》もあれと关系があるの!?)

とはいえ、今は彼らの方へ向かう余裕はない。

彼女にとって、一番重要なのは『大天使』を抑えるためのカギだ。

だが、

(ッ!?)

インデックスの目が见开く。白衣の男は|一方通行《アクセラレ—タ》の正面に立つと、倒れたままの彼の头を思い切り|蹴《け》り飞ばした。|一方通行《アクセラレ—タ》の体が、抵抗なく床を转がる。

インデックスは思わずそちらへ驱け寄ろうとしたが、

「おおおゥゥあッ!!」

|喉《のど》から叫び声とも鸣き声とも言えない音を出し、|一方通行《アクセラレ—タ》は事务机に、バン!と手をついて起き上がった。ちようどインデックスの盾になる位置だった。

インデックスはやや|逡巡《しゆんじゆん》したが、やるべき事は山积みだ。

彼女は机の上に置いてある、电话线の拔かれた电话机を|掴《つか》むと、それを白衣の男に向かって投げた。その动きに合わせて|一方通行《アクセラレ—タ》が飞び挂かっていくのを|尻目《しりめ》に、インデックスは事务机に寝かされている、一○岁前後の少女へ目を向ける。

携带电话の写真で一度だけ眺めた事のある、|一方通行《アクセラレ—タ》の搜し人。

この少女が、|全《すべ》てのカギだ。

(ここじゃ|驮目《だめ》だ。『作业』するにしても、もっと安全な所へ……ッ!)

インデックスはぐったりしている少女の体を抱えて、废弃オフィスを出ようとしたが、|打ち止め《ラストオ—ダ—》の|衰弱《すいじやく》した样子を见て、下手に动かすのは危险だと判断した。|战斗《せんとう》に卷き?まれないよう、机の上から、阴になる位置にゆっくりと床へ下ろす。

「テメェ!!胜手な事してんじゃねえぞボケがぁ!!」

白衣の男が|唤《わめ》いたが、そこへ、|一方通行《アクセラレ—タ》が强引にしがみつく。

インデックスは改めて少女の体を头の先から足の先まで观察する。

|魔术的《ぽじゆつてき》な视点で。

(やっぱりこの子が全ての『核』だ。基本は天使の构筑。形のない『|天使の力《テレズマ》』を人のイメ—ジという『袋』に押し?め、风船人形のようにシルエットを作っていく。クロウリ—も所属していた『黄金』の魔术结社でも行われていた术式)

ザァッ!!と、一○万三○○○册の知识があっという间に魔术の|谜《なぞ》を解き明かす。

しかし、

(……ここから先が分からない)

ギリッ、とインデックスの奥齿から音が鸣った。

(おおまかな全体图は分かっても、それがどんな部品で作られてるのかが理解できない!!)

|喻《たと》えるなら、木を削ってバイオリンを作っている职人に、电子部品を使ってエレキギタ—を作ってくれと|赖《たの》むようなものだ。同じ乐器であっても?う分野が违いすぎるため、『何となく』でしか状况を|掴《つか》めないのだ。

そして、精密な作业を行うのに『何となく』では话にならない。

インデックス一人ではここが限界だった。

だからこそ、彼女は迷わず救いを求める。

「短发、质问!!」

インデックスが言叶をぶつけたのは、彼女の手にある携带电话だ。

その先に|系《つな》がっているのは、一人の少女である。

『|美琴《みこと》サマと呼べ!!で、质问って───ザザザ!ガリガリガリ!!っ何なのよ?』

バンバンガン!と电话の向こうから|频繁《ひんぱん》に爆发音が闻こえた。しかし、美琴はそちらには触れない。そっちが背负う必要はないと言わんばかりに。

インデックスはその好意に甘える事にする。

「"脑波を应用した电子的ネットワ—ク?って何!?」

インデックスの质问に、美琴は|常盘台《ときわだい》中学で得た知识をフルに使って回答していく。

その答えを闻いて、さらに次の质问が飞ぶ。

「"学园都市に|蔓延《まんえん》しているAIM扩散力场?っていうのはどういう意味!?」

二人の少女は、それぞれ科学と|魔术《ぽじゆつ》、片方ずつの知识が欠如している。

だから、お互いに导き出そうとしている答えを|だから、お互いに导き出そうとしている答えを|完壁《かんペき》には理解できていない。

「"脑波を基盘とした电气的ネットワ—クにおける安全装置?っていうのは?」

それでも、构わず二人の少女は突き进む。

问题を解くために。途中の解法を理解できなくとも、正答していれば构わないと。ある意味でプライドを舍て、|蚊帐《かや》の外にいる事すらも自觉して、ひたすらに状况の回复だけを愿って行动を续けていく。

(ようは、街中に特殊な力が满ちていて、それを束ねるのがこの女の子で、この女の子の精神を|缚《しば》る事で特殊な力を|捻《ね》じ曲げ、『天使』を作っているだけ!それなら!!)

「この子の头の中にある『结び目』をほどけば良いんだ!!」

科学サイドの人间なら、それは『ウィルス』と呼んでいたかもしれない。

(でも、この考えを具体的な手段にするにはどうすれば……)

インデックスに魔术は使えない。

そして、|打ち止め《ラストオ—ダ—》を助けるのに魔术を使う必要はない。

インデックスはその『结び目』をほどくために、『言叶』を使う事にした。人间の精神をいじくるというと、さぞかし特殊に闻こえるかもしれないが、本を读んで勉强するのだって同じ事だ。人间は元々そのための『窗口』を解放しているのである。

『结び目』に适合した言叶を选び、それを闻かせる事で『ほどけば』良いのだ。

そのための具体的な方法は、

「……歌」

インデックスはそう思う。

「单纯な言叶よりも传わりやすい。一时间の说教を受けたって泣かない人も、一分间の歌で泪を流す事もある。リズムや音程を使って、多重的に感情をやり取りできるから。だから」

しかし、それを闻いた|美琴《みこと》はやや慌てた调子で反论した。

『ちょ、ちょ、|大丈夫《だいじぎぷ》な译!?人间の头の上书きは反复学习が基本だし、そもそも脑の|记忆《きおく》や适应がそんなに优れているとは限らないのよ!!その上、电气的ネットワ—クに介入するなら、「|学习装置《テスタメント》」みたいに专用の机器を使ったデジタルな数值入力は必须でしょ?そんな声とか歌とか、原始的なアナログ方式でどうにかなる译!?』

美琴の|台词《せりふ》に出てくる科学的な单语の意味は理解できないし、インデックスだって确证はない。彼女は「|魔灭の声《シエオ—ルフイア》』や『|强制咏唱《スペルインタ—セプト》』など、いくつか人の精神に干涉する|攻击《こうげき》方法を觉えているが、こういう使い方は初めてなのだ。

「できるよ……」

それでも、インデックスはそう答える。

「祈りは届く。人はそれで救われる。私みたいな修道女は、そうやって教えを广めたんだから!」

迷わずに、ただ前だけを见て。

「私|达《たち》の祈りで救ってみせる。この子も、ひょうかも、学园都市も!!」

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|木原《きはら》に|殴《なぐ》られ、|叩《たた》かれ、|溃《つぶ》され、|一方通行《アクセラレ—タ》の体が床を滑る。

今の彼は、战える状态ではなかった。

そもそも脑の损伤のせいで、二本の足で立ち上がる事もできないのだ。半ば倒れ?むような动きで木原の体にまとわりつくというこれまでの战い方も、木原の方がそれを警戒し、|距离《きより》を取って战うようになれば封じられてしまう。

「あははぎゃははあはははッ!!」

|喉《のど》を裂くような木原の笑い声が续く。

とても头の|皮肤《ひふ》を思い切り|剥《は》がされた人间の颜とは思えない。

|一方通行《アクセラレ—タ》は胸仓を|掴《つか》まれ、床から引きずり起こされ、事务机の上に背中を叩きつけられ、そこへさらに木原の|拳《こぶし》が放たれる。ミシミシと|头盖骨《ずがいこつ》から嫌な音が闻こえ、颜の皮肤が引きつったように切れていく。脑が摇さぶられたせいか、指先から力が拔けるのが分かった。

しかし、意识だけは切れない。

そこだけは、绝对に摇らがない。

「───、」

|一方通行《アクセラレ—タ》の耳には、少女の|滑《なめ》らかなメロディが闻こえていた。

言语机能を失った|一方通行《アクセラレ—タ》には『声が闻こえる』というだけで、『どんな言叶か』は分からない。だが、少女の咏唱には感情があった。言语の壁を越えた所にある、|打ち止め《ラストオ—ダ—》を思いやる气持ちを、|一方通行《アクセラレ—タ》は确かに感じていた。

声にどんな意味があるかなど、知らない。

あるいは、单に|打ち止め《ラストオ—ダ—》の手を取って痛みを|和《やわ》らげようとしているだけかもしれない。

だが、それは立派な救いだった。

|打ち止め《ラストオ—ダ—》は、今までそんな事もしてもらえなかったのだから。

「おおおおおおぉぉあああああああッ!!」

木原の绝叫と共に|一际《ひときわ》重たい拳が放たれ、|一方通行《アクセラレ—タ》は事务机を|蹴散《けち》らして污い床を转がった。体のあちこちが激痛を发した。起き上がるのが|亿劫《おつくう》なほどに。

それでも、|一方通行《アクセラレ—タ》はうっすらと笑っていた。

少女の滑らかな歌は续いていた。

温かい光の中にあるような咏唱だった。おそらくは、本来、|打ち止め《ラストオ—ダ—》がいるべき世界の人间にしか出せない声だった。|一方通行《アクセラレ—タ》は、ただそれを闻いていた。ろくな演算能力もない头で。自分には绝对出せない声を。

|打ち止め《ラストオ—ダ—》みたいなガキは、木原|数多《あまた》だの、|一方通行《アクセラレ—タ》だの、そういったクソ野郎どもの手を行ったり来たりするべきではない。光の世界の住人は、同じ世界の温かい人々に助けてもらうのが、[番まっとうなのだ。

しかし、

それがどうした。

|何故《なぜ》、|一方通行《アクセラレ—タ》がそこで引け目を感じなくてはならない。何故、その光を|眩《まぶ》しいものだと、自分のような|暗《やみ》が触れてはいけないな老と结论付けなくてはならない。

正しい事は正しい人间だけがやるべきか?善行は善人だけがやるべきか?なるほど确かにその通り、それこそが|筋《すじ》を通すというものだろう。

だが、

そもそも、そんな风に筋を通さなければならない理由は何だ。

|一方通行《アクセラレ—タ》は、|打ち止め《ラストオ—ダ—》を助けたい。

理不尽な暴力に|虐《しいた》げられ续ける彼女を、助けてやりたい。

そう思う事の、どこが恶い。

光とか暗とか、そんな立ち位置などどうでも良い。

|一方通行《アクセラレ—タ》が光の世界にいるから、彼女を守りたいのではない。たとえ彼女がどんな世界にいても、|一方通行《アクセラレ—タ》はこの手で少女を守りたい。

世界の区别など、关系ないのだ。

恶人が善人に手を差し伸べたって、问题はあるか。

暗の人间が光の世界を守ったって、文句はあるか。

今の今まで|傍若无人《ぽうじやくぷじん》に振る舞ってきた学园都市最强の恶党が、

この段阶にきて、そこだけを|律仪《りちぎ》に守る必要がどこにあるというのだ。

「……、」

ガン!と、|一方通行《アクセラレ—タ》は、座ったまま事务机へ手を伸ばした。

そのままギリギリと音を立て、彼はゆっくりと立ち上がる。

结论は出た。

恶にしても胸を张れ。暗の世界を突き进んだとして、それでも光を救ってみせろ。进むべき道が周りと违うからといって、それを耻じるな。暗の奥にいる事を夸りに思えるような、それほどの黑となれ。

既存のル—ルは全て舍てろ[#「既存のル—ルは全て舍てろ」に傍点]。

可能と不可能をもう一度再设定しろ[#「可能と不可能をもう一度再设定しろ」に傍点]。

目の前にある条件をリスト化し[#「目の前にある条件をリスト化し」に傍点]、その壁を取り拂え[#「その壁を取り拂え」に傍点]。

「き、はら」

言语机能を失ったはずの口から、声がこぼれた。

ぎちぎちぎちぎちぎち、と彼の足が、ゆっくりと体を支え、

「|木《き》ィィ|原《はら》ァァあああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

その|瞬间《しゆんかん》、|一方通行《アクセラレ—タ》は动かせないはずの足を使って走り出した。

天敌である|木原数多《きはらあまた》の元へと一直线に。

たとえ、あらゆる现实と战い、伤つき、多くのものを失ってでも、

たった一つの幻想を守り拔くために。

木原数多の笑みが、より一层深く、|狞猛《どうもう》に刻まれていく。

あの|一方通行《アクセラレ—タ》が、立ち上がった。

あれだけ痛めつけても、さんざんに|殴《なぐ》り飞ばしても、それでも自分の名を叫びながら、こちらへ走ってきた。

まるで、背後にある空间を守ろうとしているように。

事务机の阴に隐れている、二人の少女を助けようとしているように。

「……面白れェ」

敌が倒れない事に对し、木原はそう言った。

その颜は狞猛な喜びで满ちていた。

「そお—だよなぁ!!そんな简单に倒れちまったらつまんね—もんなぁ!サ—ビス精神|旺盛《おうせい》で助かるぜぇ|一方通行《アクセラレ—タ》!こっちも今までテメェにゃムカつきっ放しだったんだ。铳なんか使わねえよ。杀す前に|拳《こぶし》でたぁっぷりと沈めてやるぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

木原の头の中が飞んだ。

|兽《けもの》のように|吼《ほ》える。その叫びを闻いても、|一方通行《アクセラレ—タ》はもちろん、变な女の歌も摇らがない。极限の集中で、もはや周りの何も见えていない───あの女は瞑想状态に入っているのだろう。何もかもが|辉いている《テキだらけ》。最高の舞台だ。

(後は死体があれば|完壁《かんぺき》だが───何でテメェは生きてんだぁコラ!!)

木原は向かってくる|一方通行《アクセラレ—タ》をそのまま迎え|击《う》った。

两手の拳を握り、ゴキリと关节を岛らす。

钢铁のように拳を握り|缔《し》めると、|一方通行《アクセラレ—タ》の颜の真ん中へと|容赦《ようしや》なく|叩《たた》き?む。

ズドン!!という|轰音《ごうおん》が|响《ひび》いた。

ミシミシペキペキと细かい感触が木原の腕に传わってくる。

なのに、

|一方通行《アクセラレ—タ》の动きは、全く止まらない。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおああああああああああああああああああッ!!」

颜を|溃《つぶ》されるのも气にせず、カウンタ—の拳が木原の颜面を|捉《とら》えた。木原の鼻が碎けて痛みが爆发した。全力の|一击《いちげき》だった。说明されるまでもなく、それが分かった。

(……ご、ぽッ!!)

ギリギリと、飞んできた拳を押し返すように、|木原《きはら》は首を元に戾す。

彼は握っていた五本指をさらに固くして、

「おおぁ、|响《ひび》かねえぞ小僧ォああああッ!!」

拳を|一方通行《アクセラレ—タ》の细い颜面へ|叩《たた》きつけた。彼の体がグルンと回转し、そのまま床へ倒れ?む。何やら床でモゾモゾと|蠢《うごめ》いていたが、木原はそこへ全体重を乘せた足を突き?んだ。

太い|杭《くい》を、|金槌《かなづち》で打ち?むように。

ゴン!!という|轰音《ごうおん》が|炸裂《さくれつ》する。木原は意味不明の绝叫を|缲《く》り返しながら、|一方通行《アクセラレ—タ》のあちこちを次々と|踏《ふ》み|溃《つぶ》す。何かが碎ける音が闻こえ、赤い液体が飞び散った。

「よぉ—し调子が出てきた!|俺《おれ》ぁエンジンようやく温まってきたけどテメェはどうだよ!?すげ—なぁお前、もしかしたら本气であのガキ助けられんじゃねえの?」

乐しげな言叶に、|一方通行《アクセラレ—タ》は一切应じない。

床の上で溃されながらも、その眼光だけは决して衰えない。

助けるために。少女の命を守るために。

彼の心は碎けない。

「はぁ—っ!!ぜぇ—っ!!」

踏み溃している木原の方が、息切れするほどの执念だった。

ははは、と彼は笑って周围を见回す。

あちこちの床には、|一方通行《アクセラレ—タ》に倒された无能な『|猎犬部队《ハウンドドツグ》』の部下|达《たち》が转がっている。そして、彼らの持っていた铳器なども同样だ。色々と面倒臭くなってきた木原は、そちらに近づいて、床に|屈《かが》み?んだ。

「……ちょっと面白くしてやるからさぁ、もっとやる气出してくれよ」

その中から一つを选んで拾い上げ、彼は|薄《うす》く笑った。マラソンを终えた後のランナ—のような表情だった。

木原|数多《あまた》は、手の中にあった物を、今も倒れている|一方通行《アクセラレ—タ》へ轻く放り投げた。

ピンを拔いた、对人杀伤用の|手榴弹《しゆりゆうだん》を。

ただでさえ脑の机能の一部を失われ、木原に打ちのめされて床に转がっている|一方通行《アクセラレ—タ》に、その手榴弹を|避《さ》けたり|弹《はじ》き飞ばしたりするだけの余裕はなかった。

ゴッ、という小さな音と共に、手榴弹は|一方通行《アクセラレ—タ》の额にぶつかって、わずかに跳ねた。

小さな块が、ふわりと浮くだけの时间もなかった。

バガッ!!という爆发音と共に、手榴弹が炸裂した。|冲击波《しようげきは》と共に大量の破片が|撒《ま》き散らされ、灰色の烟が吹き荒れた。|近距离《きんきより》で爆发したため、|木原《きはら》の|颊《ほお》にも破片の一つが|掠《かす》めた。それだけでも雕刻刀で切りつけたように、ざっくりと肌が切れる。しかし木原は笑っていた。|爽快感《そうかいかん》しかなかった。

|沈默《ちんもく》が访れる。

|瞑想《めいモう》状态に入ったままのシスタ—だけが、细く长く咏唱を|响《ひび》かせている。

「ひゃ」

胜った。

「ぎゃははははははははははははははははははははははははははははははははははッ!!」

木原は腹の底から|吼《ほ》えた。

死んだ。あれは死んだ。何しろ头から数センチの位置で爆发したのだ。何をどうやったって生身の人间に耐えられるはずがない。今は烟のような|粉尘《ふんじん》に|覆《おお》われているが、それが晴れた後にはグチャグチャに引き裂かれた、元の体格が分からなくなっているぐらい

|破坏《はかい》された死体が、木原の前にさらけ出されるはずだ。

|手榴弹《しゆりゆうだん》の生んだ灰色の粉尘が、密度を|薄《うす》めつつ周围へ广まった。まるで大波のように、木原の前から後ろへ流れ、彼の视界を覆っていく。

この烟が晴れた时、|一方通行《アクセラレ—タ》の死体が现れる。

その无样な终わりを见て、木原|数多《あまた》の战いは终了する。

(アレイスタ—は、量产品のガキは杀すなっつったが、それ以外なら何やってもイイんだよなぁ。ならあの变な歌を续けてるシスタ—ともども、とりあえず|手土产《てみやげ》にコイツの死体でも押しつけて、自我をぶっ|坏《こわ》してやるか)

「はは、」

そんな风に思っていた、木原の颜を、

ガシィッ!!と。

何者かの手が、正面から|鹫栏《わしづか》みにした。

「……ッ!!」

木原数多の目の前に、|谁《だれ》かが立っている。

粉尘の中では、それが谁かはハッキリと见えない。

(が、ぁ───ッ!?)

普通に考えれば、|一方通行《アクセラレ—タ》である可能性が一番高い。しかし、木原には纳得できなかった。能力さえ使えなければ、|一方通行《アクセラレ—タ》はその边の高校生よりも体は弱い。何のトリックもなく、手榴弹の爆风を|凌《しの》ぎ切れるはずがない。

彼の『反射』が何らかの理由で复活したとも考えにくい。彼を掴む腕には、|煤《すす》がついていた。『反射』が机能しているのなら、小さな污れすらも|弹《はじ》き返すはずだ。

「どうしてだよ……」

しかし、そこにいたのは确かに|一方通行《アクセラレ—タ》だ。

白い发、赤い|瞳《ひとみ》、整った颜立ち、张りのある肌、细いライン、首元のチョ—カ—、灰色を基调にした衣服、筋肉の少なめな手足、ギラギラと光る黑い靴、

それら全てを无视して[#「それら全てを无视して」に傍点]、木原数多は绝叫する[#「木原数多は绝叫する」に傍点]。

「どうなってんだよ、その背中から生えてる真っ黑な|翼《つばさ》はァあああ!?」

翼というよりも、喷射に近かった。

墨よりも黑く、光をも|吞《の》み?む、正体不明の喷射の羽。

彼は『天使』というものを|目击《もくげき》している。その出现の片棒を|担《かつ》いだ事も理解している。にも|拘《かかわ》らず、目の前で展开された现象を、正しく认识する事ができなかった。

(こ、この野郎……)

|一方通行《アクセラレ—タ》の力は、『种类を问わず、あらゆるベクトルを制御下に置く』事にある。彼の言语机能や步行机能、そして『新たな力』の补给も、それら|全《すべ》てはこの空间内に存在する、何らかの力を利用しているのだろう。

科学的に考えて、今の|一方通行《アクセラレ—タ》には物理法则の演算ができないため、それらの力を制御するのは不可能だ。

しかし、それ以外の法则ならば。

そもそも、非科学的な理论を|捉《とら》えるのに、既存の演算能力など关系があるのか。

オカルト。

|木原《きはら》クラスの研究者でなければ逆に分からない、数千数万と科学实验を重ねた中で、ほんのわずかに颜を|?《のぞ》かせる、イレギュラ—な法则のようなもの[#「ようなもの」に傍点]。

(新たな|制御领域の扩大《クリアランス》の取得だと。こいつ、『|自分だけの现实《パ—ソナルリアリテイ》』に何の数值を入力した……。一体どことの通信手段を确立しやがったんだ!?」

思い当たる节と言えば。

この学园都市に满ちている力の代表格と言えば。

(AIM[#「AIM」に傍点]……おい[#「おい」に傍点]。まさか[#「まさか」に傍点]……天使だの何だの[#「天使だの何だの」に傍点]、あの力の正体は[#「あの力の正体は」に傍点]!?)

しかし、相手はそんな事など气にも留めない。

メキィ!!と、|一方通行《アクセラレ—タ》はさらに腕に力を?め、木原の|头盖骨《ずがいこつ》を压迫すると、

「───、」

彼は笑う。静かに笑う。

「は、はは」

|木原数多《きはらあまた》も手足をダラリと下げて、思わず笑い返していた。

质问する。

「うっ、後ろ……气づいてんのかよ、化け物」

「ihbf杀wq[#「ihbf杀wq」に傍点]」

ドォッ!!と、黑色の|翼《つばさ》が爆发的に喷射する。

|掌《てのひら》から喷き出した、说明不能の不可视の力が木原数多へ|袭《おそ》いかかった。

彼の体が|一方通行《アクセラレ—タ》の手を|离《はな》れ、恐るべき速度で废弃オフィスを突っ切り、碎けた窗の外へと放り出され、そのまま音速の数十倍の速度で夜空を|搔《か》っ切った。あまりの速度に、プラズマ化したオレンジ色の残像が尾を引いていく。

生死など、わざわざ确认するまでもない。

10

土砂降りの雨の中、甥鹫脚道路に座り?んでいた。元々全身はびしょ|濡《ぬ》れなので、もう雨水だらけの路面など气にならない。ようやく体を休ませる事ができて、ホッと息を|吐《つ》いた。

天使の羽は|沈默《ちんもく》していた。

先ほどまで散々|击《う》ち续けていた|膨大《ぽうだい》な火花が、すっかりなりを|潜《ひそ》めている。

(……インデックスの方は……)

向こうも顺调なのだろう。まだ|风斩《かざきり》の羽や天使の轮が完全に消える事はないが、そちらの轮郭も徐々に摇らぎつつある。

(本当にヤバかったら、それどころじゃないだろうしな。|打ち止め《ラストオ—ダ—》……あの电话の野郎、ちゃんと助けてると良いんだけど)

电话、で思い出した。

上条はポケットから|打ち止め《ラストオ—ダ—》の携带电话を取り出す。学园都市はこんな状态だが、一应救急车を呼んだ方が良いだろう。他人の电话を使うのは气が引けるが、今はそんな场合ではない。

案の定、电话に应对した人间はいつも通りの对处はできないかもしれないと言ってきた。それでも、何もしないよりかははるかにマシだ。

携带电话をポケットに戾し、上条は周围を见回した。风斩の出现と同时に边り一面は|瓦砾《がれき》と化した译だが……それと共に、彼女の力によって、そこにいた住人|达《たち》はかろうじて助かった|螺《ヨ》しい。今も|暗暗《くらやみ》のあちこちに、光る|鳞粉《りんぷん》のようなものが漂っているのが见える。

救助した方が良いのだろうか、と思う反面、上条の|幻想杀し《イマジンブレイカ—》であの鳞粉の效果が失われるかもしれない。ひとまずそちらは放っておくしかなさそうだった。

「にしても……」

|上条《かみじよう》はその边に转がっているヴェントを见た。

どう考えても意识はない。

『|天罚《てんばつ》术式』を受けて、学园都市で倒れている人々を起こす方法でも寻ねてみたかったが、何度|颊《ほお》を|叩《たた》いても、目を觉ます气配はなかった。

これからヴェントはどうなるんだろう、と上条は思う。学园都市の都市机能をほぼ完全に停止へ追い?んだ存在を、学园都市が野放しにするとは思えない。科学と|魔术《ぽじゆつ》のパワ—バランスうんぬんの话も通じないだろう。そもそも、先にそれを破ったのは魔术サイドなのだ。

一线を越えてしまったかもしれない。

学园都市としては、たとえ彼女を杀してでも危险な技术をこの世から消そうとする。一方、『神の右席』やロ—マ正教は、それほど高威力の术式を、そうそう简单に手放そうとはしないはずだ。これまで何度かあった『科学と魔术の话し合い』とやらで何とかなるとは思えなかった。最恶、これが|全《すべ》ての|崩坏《ほうかい》の引き金となる危险性すら考えられる。

(クソツ……)

确かにヴェントのやった事は历史的に见ても|大事《おおごと》だろう。しかし彼女の事情を知る上条としては、ここで安易に处刑したり战争の道具にしたりというやり方に赞同できない。|偿《つぐな》うにしても、その方法は最恶だ。

(科学と魔术の两方全部を敌に回して、この狭い地球を永远に逃げ续けるなんてできねぇよな。でも、何とかしねえと。せめて事态を收めるまで、一时的にでも隐れてもらわないと。|土御门《つちみかど》のヤツに相谈するのが妥当かも。それでも上手くいくかどうか……)

单纯にイギリス清教に预かってもらうという选择肢はない。それをやるにはヴェントの存在は重すぎる。何より、一介の高校生が世界レベルの问题を『收める』なんて、できるとは思えない。それでも、何かしなければ气が济まなかった。このままヴェントを舍てておくのは、あまりにも後味が恶すぎる。

「とりあえずは、目を觉ますのを待つか。派手に|殴《なぐ》っちまったし……」

|风斩《かざきり》の方……と上条はヴェントから视线を移したが、相变わらず反应はなかった。彼女の样子に变化はない。何だか|虚《うつ》ろな目で、背中に巨大な|翼《つばさ》をいっぱい生やしている。翼の轮郭は时间が|经《た》つにつれて少しずつ|暧昧《あいまい》になっていく。比较的短い翼は、ほとんど形状を失いつつある。おそらく、インデックスが何らかの干涉を行っているからだろう。

しかし、|完壁《かんぺき》に翼が消えるには、まだ时间がかかりそうだ。

上条は自分の右手を见た。そこに宿る力を使えば、あんな翼の一○本二○本は触れただけで打ち消せる……かもしれない。だが、それと|一绪《いつしよ》に风斩本体まで卷き?まれてしまっては元も子もない。こういった时に役に立たない自分の力が少し恨めしかった。

(それにしても……)

ヴェントが风斩を憎んでいた以上、やはりあれは学园都市が起こした现象なのだろう。上层部、という事だったが、彼らの|狙《ねら》いは何なのだろう。ヴェントが突发的にやってきた以上、单にその防卫·|迎击《げいげき》のために|风斩《かざきり》が生み出されたとは思えない。何か|他《ほか》に目的があるのだ。

问题は山积みだ、と|上条《かみじよう》は|?《つぶや》く。

その时、

ゴン!!と。

突然目の前のコンクリ—トの山が碎け、上条の视界が灰色の|粉尘《ふんじん》で|覆《おお》われた。

「!?」

上条は目を|庇《かば》うように手を当てて、思わず後ろへ下がった。

バランスを失った|瓦砾《がれき》に、|残骸《ざんがい》の山の一つが丸ごと吹き飞ばされていた。

空气中の粉尘は、土砂降りの雨に流される。

爆心地に突き立っていたのは、风力发电のプロペラだった。无造作に引き拔いて投げつけてきたのか、瓦砾を吹き飞ばしたクレ—タ—のど真ん中に、柱の半分ほどが埋まっていた。电柱のように巨大な柱が、だ。

一体どんな腕力があればこんな事ができるのか、上条は|愕然《がくぜん》としていたが、

(!!……ヴェントは!?)

慌てて周围を见回す。

先ほどまで、すぐ近くで气を失って倒れていたはずのヴェントがどこにもいない。

しかし代わりに、上条は别のものを发见した。

少し|离《はな》れた所に、一人の男が立っている。

「|谁《だれ》だ!!」

上条がいきなり攻击的に叫んだのは、男がぐったりしたヴェントを片手で抱えていたからだ。

青系の|长袖《ながそで》シャツの上に、さらに白い半袖シャツを着重ねている。ズボンは通气性の良さそうな、|薄手《うすで》のスラックスだった。スポ—ティな格好ではあるが、元气さはない。壮年の男性が好むゴルフウェアを连想させた。シックな黑い伞と合わせて、上条のような高校生には出せない静かで摇るぎない气配で满たされている。

が、これだけの惨状を|目《ま》の当たりにして、少しの|紧张感《きんちようかん》もない方が逆に恐ろしかった。白い肌も茶系の发も、|全《すぺ》てが锐い刃に见える。

「失礼」

男は言った。|流畅《りゆうちよう》な日本语だった。

「この子に用があったものでな。手荒な|真似《まね》を|避《さ》けるために目を|?《くら》ませてもらったが、气に|障《さわ》ったかね」

「|谁《だれ》だっつってんだよ」

「後方のアックア。ヴェントと同じく、『神の右席』の一人である」

あっさりと出てきた名前に、|上条《かみじよう》はより一层の警戒を抱いた。『神の右席』という组织内の上下关系は全く分からないが、单纯にヴェントと同等の力を持っていると假定すると、これはかなりまずい。|疲弊《ひへい》しきった今の学园都市にさらに第二波が|袭《おそ》いかかれば、もうこの街は立ち直れない。

と、ガチガチに体を|强张《こわば》らせている上条に、アックアは小さく笑った。屈强そうに见えるこの男には、あまり似合わない表情だ。

「心配しなくても良い。兵の|无驮死《むだじ》には|避《さ》けるべきだ。今日の所はこれで引き返す。|流石《さすが》に贵样の後ろに控えている『堕天使』と战うのは|无谋《むぽう》だろう。少なくとも、准备を整えるまではな」

逆に言えば、准备さえできればいつでも战える、とアックアは言っている。

上条の目がより一层严しくなるが、それを受けても彼は|堪《こた》えない。

「今までヴェントを苦しめていた、|魔术《ほじゆつ》を|溃《つぶ》す效果はすでに失われているようだが、こちらにも事情がある」

彼は息を|吐《つ》きながら、|离《はな》れた所に|伫《たたず》む|风斩冰华《かざほりひようか》へ视线を投げた。

天使と言えば、あの|神裂火织《かんざきかおり》ですら互角に持ち?むのが精一杯だった存在だ。『神の右席』という译の分からない集团でも、それは驱け引きの材料になるらしい。

ともあれ、|默《だま》って归ってくれるなら一向に构わない。

ただし、

「ヴェントを离せ」

上条は、アックアに对してその一言を突きつけた。

「……学园都市の负伤者を助ける方法でも闻き出す气かね」

「それもある」

彼は答えた。それ以外もある、という意味で。

「そいつの科学への敌对心はただの勘违いだ。そいつだって本当はその事に气づいてる。『神の右席』なんて场所にいたら、いつまで|经《た》ってもその感情から拔けられない!」

「ヴェントの|暗《やみ》が、そう简单に打ち消せるものか」

アックアはつまらなそうに答えた。

「我々『神の右席』は、单なる不幸な小娘に、同情心で手を差し伸べる事はしない。我々は世界を动かすために存在する。そしてヴェントは、その力を使ってでも个人の事情を贯こうと决意していた。今まで、彼女がどれだけのものを支拂ってきたか、知っているか。その力がどれほどのものか、贵样に想像がつくのか」

言われてみれば、ヴェントの行动理由には、组织としての成果などは含まれていなかった。逆に考えれば、组织にいるためには、そのメリットを自分で作り续けなくてはならない。

|上条《かみじよう》は、少しだけその事を考えた。

考えた所で、そんな简单に彼女の气持ちが理解できる译がない。

「……だったら、何だよ」

「なに?」

「言叶を闻いてもらえないからって、そこで何も言わねえんじゃ、どうにもならねぇんだよ」

上条とアックアは正面から视线をぶつける。

もっとも、上条とは违って、アックアの方には随分と余裕があった。

ふん、とアックアは息を|吐《つ》いた。

「ここでヴェントを|离《はな》したとして、科学サイドに|捕缚《ほばく》されれば间违いなく处刑だな」

「ッ!!」

アックアの言叶に、上条は身を固くした。

そんな彼の样子に、アックアは笑みを深くする。まるで七夕の短册に记された愿い事を读んでいる大人のような目だ。

「これをくれてやる」

ピッ、とアックアは指先の动きだけで、上条に向けて何かを|弹《はじ》いた。

受け取ると、それはヴェントの舌についていた|锁《くさり》と十字架のアクセサリだった。

「どの道、贵样の右手で|破坏《はかい》されているから必要ない。ただのガラクタだ。それが|坏《こわ》れたから、ヴェントはもう『|天罚《てんばつ》』を使えん。制压された人间もすぐに回复するだろう。今はそれで学园都市の|平稳《へいおん》を守れたという事で安心しておけ」

「待てよ!!そんなので纳得できるか!!」

上条は|拳《こぶし》を握るが、アックアは一向に取り合わない。

「一つだけ、贵样に教えてやる」

彼は堂々と背中を向け、それから言った。

「私は圣人だ。|无暗《むやみ》に|喧哗《けんか》を卖ると寿命を缩めるぞ」

ダン!!という地面を|蹴《け》る|凄《すさ》まじい音が闻こえた。

上条が|瞬《まばた》きした时には、もうアックアとヴェントはどこにもいなかった。前後左右のどちらへ走ったかも分からない。あるいは上に飞んだのかもしれない。ともかく、上条に分かるのは|桁违《けたちが》いの速さだという事だけだ。

战いが终わっても问题は解决しない。

それどころか、もっと大きな战いを招いているだけの气がする。

(……止めるんだ)

ロ—マ正教。

学园都市。

(ちくしょう。この流れを、必ず止めるんだ……)

土砂降りの雨の中、|上条《かみじよう》は夜空を见上げて口の中で|?《つぶや》いた。

黑い云が晴れる气配は、ない。

[#改ペ—ジ]

<a name="chap6">终章正と负の进むべき道へThe_branch_Road.

アックアはヴェントを|胁《わき》に抱えて学园都市の外へ出た。

ヴェントの|灵装《れいそう》が|破坏《はかい》された事によって、街の住人は顺次目を觉ましていくだろう。あの术式は後遣症もなく、ただ敌对者を无力化していくという、ある意味において理想的な大规模制压术式だった译だが、それもここでなくなった。

これからは、そういう甘い事も言っていられなくなる。

今度ぶつかる时は、确实に大量の血が流れるだろう。

「嫌な世の中だ」

本当に|郁屈《うつくつ》そうな声を出して、アックアは气を失っている|同僚《どうりよう》を抱え直す。

今度は携带电话が鸣った。

伞とヴェントにそれぞれ手を|塞《ふさ》がれているアックアは、面倒臭そうに两手を见て、それから伞を横へ放り舍てた。|水属性《アツクア》の名を冠するくせに、土砂降りの雨に打たれた途端に彼は颜を|昙《くも》らせる。

携带电话の画面には、见惯れた番号が表示されていた。

「テッラか」

『ええそうですよ。左方のテッラです。そちらは终わりましたか、アックア』

金属を|擦《こす》るような、耳に|障《さわ》る声だった。

アックアは片手で抱えているヴェントへ视线を投げかけ、

「ヴェントがやられた。今、回收して学园都市外周部の别动部队を下げさせた所である。我々の被害が七割を超えたため、|上条当麻《かみじようとうま》への|追击《ついげき》、及び学园都市の攻略は一时中断とする。事前に贵样から提示された状况对处方法一览にある通りだ。……不完全とはいえ、『天使』が出てきてここまでやられるとは|流石《さすが》に予测もつかなかったがな」

『ご苦劳样です』

「|叱责《しつせき》はなしか」

『あなたや……まして、あのヴェントに对して恶意を向けてどうするのです。もっとも、やられたというのなら、灵装の方も|溃《つぶ》された可能性が高そうですがね—』

「未练もなさそうだな」

『元々、ヴェントの性质「|神の火《ウリエル》」があっての「|天罚《てんばつ》」ですからね—。ぶっちゃけ、灵装单品に未练はありませんよ。そもそも我々は一般的な|魔术师《まじゆつし》からはかけ|离《はな》れた存在ですからね—、|各々《おのおの》に调整されたもの以外は一切使えません。「|神の药《ラフアエル》」の私が持っても意味のない道具に、一体何の价值があるのです?「|神の力《ガブリエル》」たるあなたも分かっていますよね—』

アックアは思わず息を|吐《つ》いた。

『神の右席』というのは、どいつもこいつも自分本位の连中ばかりだ。

「ヴェントはこちらで回收したが、连络の取れない|他《ほか》の『别动部队』の方はどうなった?」

『例の「堕天使」の|一击《いちげき》で|坏灭《かいめつ》しましたね—』

「我らとまでは言わずとも、ヤツらにも力はあったはずだ、人数も相当のものだ。本当に───」

『まとめて|溃《つぶ》されました』

さらりと答えは返ってきた。

『学园都市侧から局地迎击展开していた者|达《たち》は、科学サイドに回收されたようですけどね—』

アックアはわずかに|默《だま》った。

「では、我らの|手驹《てごま》は死んだのか」

『物理的な面はもちろん、精神的な伤が|半端《はんぱ》ではありません。かろうじて生きていますが、あれを|系《つな》ぎ合わせるなら新しい人材を补充した方が简单ですね—』

その边りは、二○亿の信徒を抱えるロ—マ正教独特の考え方か。

アックアは|胁《わき》のヴェントを抱え直し、それから言った。

「ならば、|残骸《ざんがい》は私が拾っておこう」

『あなたが?「神の右席」が、死体回收の杂务を负うと?』

「今も|败北者《ヴェント》を运んでいる。ものはついでだ。残骸の数が多少增えても许容できる。それに生き残る见?みがあれば、それに越した事はない」

『お优しい事です』

「生きていようが死んでいようが回收はするのだ。自分の足で步ける者には步かせた方が手间は省けるというだけである」

ふん、とアックアはつまらなそうに息を|吐《つ》いた。

雨に打たれながら、彼は续けてこう言った。

「次はどう出る?何なら私が今から引き返して标的の首を切り落としてきても构わんが」

『やめておきましょう。アックアも见たんですよね—?|巷《ちまた》では面白い情报が飞び交っていますよ。そちらの详しい话を闻いた上で、あの学园都市をどう落とすかを考え直した方がよさそうです』

「……学园都市を落とす、か」

『气に入りませんか?』

「贵样の意见に合わせて|退《ひ》いたが、やはり私一人でも学园都市に戾って、今すぐ|上条当麻《かみじようとうま》とアレイスタ—を|斩《き》り舍てた方が早い气がする。小细工は苦手だ。倒すべき敌は、真正面から倒した方が乐に决まっている。今なら民间人の|牺牲《ぎせい》も最小限で济むだろう」

『いやいや。どうなんでしょうね—。确かに溃すだけなら简单ですけどね—、どうにも利用价值があるとは思えませんか。例えば、あの「堕天使」とか。实に我々「神の右席」向けの素材じゃないですか?』

「……、」

『倒すべき敌と、残しておきたいものの仕分けをしておきたいのですよ。今やってしまうのは、博物馆で|战斗《せんとう》を始めるようなモンですか』

「战场での略夺行为には赞同しかねるぞ」

『ははぁ。元|骑士《きし》らしい发想ですね—。贵族样の口はお上品だ。出てくる言叶が违います』

「骑士ではない。私は|佣兵《ようへい》崩れのごろつきである」

『战场でのモラルを重视するごろつきね—。ま、ともあれヴェントを连れてさっさと引き返してくださいね—。こいつは「右方のフィアンマ」からの指示でもあります』

「了解した」

アックアは携带电话を切って、それから学园都市の方を一度だけ振り返った。

───|溃《つぶ》すだけなら简单。

───倒すべき敌と、残しておきたいものの仕分けをしておきたい。

それらテッラの言叶を|反刍《はんすう》してから、今度は别の人间の|台词《せりふ》を思い出していた。

『ヴェントを|离《はな》せ』

つい先ほど出会った少年のものだ。

『そいつの科学への敌对心はただの勘违いだ。そいつだって本当はその事に气づいてる。「神の右席」なんて场所にいたら、いつまで|经《た》ってもその感情から拔けられない!』

そして、今後间违いなく|刃《やいば》を向ける敌のものだ。

「果たして……」

アックアは放り舍てた伞を拾い上げ、口の中で|?《つぶや》いた。

敌の事情にさえ胸を痛めた、あの标的の颜を思い出しながら。

「……学园都市は、贵样が思っているほど贫弱な存在なのかね。左方のテッラ」

「!!」

|上条当麻《かみじようとうま》は大天使の方を见た。

インデックスの处置が终わったのか、|风斩《かざきり》の背中に接续されていた何十本もの|翼《つばさ》が、一つ一つ空气に消えていく。一○メ—トル级でも、一○○メ—トル级でも、消える速度に变化はない。カウントダウンのように均等な间隔を空けて翼が失われていき───最後の一本も消えた。

「やった……。インデックスのヤツ、ちゃんとやりやがった!!」

とん、と。

风斩|冰华《ひようか》は力なく|膝《ひざ》から地面へ崩れ、そのまま横に倒れた。ゆっくりとした彼女の动きを追うように、长い发が尾を引いていく。

「|风斩《かざきり》ッ!!」

|上条《かみじよう》は思わず叫んで驱け寄ったが、右手の|幻想杀し《イマジンブレイカ—》を考えると抱き抱えるのは危险だ。そんなもどかしさに|囚《とら》われている彼をよそに、风斩は|濡《ぬ》れた地面に手をついて、のろのろと上半身を起こした。

「良かった……无事だったか……」

力を贷せないせいも手传って、上条は余计にホッとした。立ち上がれないような状态だったらどうしようと思っていたのだ。

「どっか痛む所とかないか?お前も大变だったな。インデックスがやったんだから、多分|大丈夫《だいじようぶ》だと思うけど、一应确认してみろ。あいつも心配してたし、问题ないなら早くやるべき事を终わらせて、みんなの状态を确认して、それからインデックスに颜见せに行こうぜ」

ようやく一息ついた上条に、风斩は不思议そうな颜をした。

それから、彼女は言う。

「だめ、ですよ」

「あ?」

「良かったなんて、思えないです……」

ガタガタと|震《ふる》えながら、风斩の唇が动く。

その视线は、上条に向いていなかった。、そして、上条はその先を知った。风斩|冰华《ひようか》は、メチャクチャに|破坏《はかい》された街并みを、ただ|呆然《ぼうぜん》と眺めていた。自分の身が暴走した事も、『天使』という、|谁《だれ》にも说明のできない事柄に卷き?まれた事も、|全《すべ》て|胁《わき》に置いて。

「……何で、こんな事になっているんですか……」

おそらく、风斩がずっと|憧《あこが》れていた街并み。

それらが片っ端から粉々になったのだ。彼女の目の前で。

「全部、私のせいなのに。私がここにいなければ、少なくとも周りに被害は出なかったのに。どうして、私一人だけが无伤なんですか。おかしいでしょう、こんなのって」

「……、」

「结局、私って何なんですか!?みんなと|一绪《いつしよ》にはいられない、少しでも近づけばこんな风に|坏《こわ》してしまう!なら、何で私は生まれたんですか!!AIM扩散力场に支えられているだけのくせに!能力者の人|达《たち》の力でやっと存在している化け物なのに!!」

おそらく、彼女自身、自分が何を言っているのか、何を言おうとしているのか、心の整理がっいていないのだろう。

それぐらい、风斩冰华は目の前で起きた惨状に心を痛めている。

痛めてくれている。

「せっかくあの子に『友达』って言ってもらって、それで少しは人间らしくなれたと思ったのに。あんな羽が生えて、凶暴な火花を散らして、みんな|叩《たた》き|坏《こわ》して!これじゃ本当にただの化け物じゃないですか!!もう嫌なんです。私を|殴《なぐ》って全部终わりにしてください!!」

AIM扩散力场の集合体である彼女が、|上条《かみじよう》の右手に触れればどうなるか、それぐらい|风斩《かざきり》なら分かっているだろう。分かっている上で、そう言っているのだろう。

何が化け物だ、と上条は思った。

こんなにガチガチに|震《ふる》えて、それでも|命乞《いのちご》いの一つもしないで、みんなの心配をしている少女の、一体どこが化け物だ。|拳《こぶし》を握って殴り合う事しかできない上条よりも、よっぽど『人间』らしいじゃないか。

そう考えたら、上条はつい口元を|缓《ゆる》めてしまった。

「……な、何で、そこで、そんな颜を浮かべるんですか?」

「安心したからだ」

ポツリと、彼は|?《つぶや》いた。

「お前の申し出は受けられない。|俺《おれ》は、自分の体にどうしてこんな力が宿ってんのかは知らない。だけど、少なくとも、そんな事をするためのものじゃねぇ。自分の『友达』を消しちまうぐらいなら、役立たずの右手なんて、ここでぶち切った方がまだマシだ」

その言叶に、风斩の目が见开かれた。

友达と、そう言われた事に。

「どう、して」

「こっちこそ、分かんねえな。あの光の|鳞粉《りんぷん》みたいなのは、お前が作ったんだろ。お前は、みんなを守ってくれたじゃないか。自分の身に何が起きてるかも分からなくて、これからどうなっちまうのかも读めなくて、そんな中でもみんなを守るために努力したんだろ。それは、お前の思い浮かべてる『人间』とは违うのか。お前の中の『人间』は、それでもまだ足りないのか」

风斩は、もう何も言えなかった。

雨の中で、上条の言叶だけが续いた。

「お前はきっと、俺みたいに|驮目《だめ》な高校生なんかよりも、ずっと立派な『人间』なんだ。お前はそれを夸って良い。胸を张れよ。前を见ろ、颜も知らない人|达《たち》のために战い续けて、ちゃんとみんなを守り拔いたお前に、|俯《うつむ》いて下を见る理由なんか一つもねえんだ」

それでも、风斩|冰华《ひようか》は颜を上げなかった。

ぐすっ、と。鼻をすする音が闻こえた。

上条は小さく笑って、视线を风斩から远くへと移した。问题が解决したのなら、さっさとインデックスと合流したいが、携带电话は彼女に预けたままだったので连络の取りようがない。さっきは|打ち止め《ラストオ—ダ—》の携带电话を使ってしまったが、レスキュ—と私信では话が违う。

「さて、と。多分お前の鳞粉のおかげで|大丈夫《だいじようぶ》だと思うけど、一应手当てが必要な人がいないか确かめてみよう。闻いた话じゃ街の机能はすぐに复活するって言うし、そしたらレスキュ—も动くだろうからそんなに心配いらないだろうけどな」

|上条《かみじよう》は乐观的に告げた。

「终わったら归ろう。インデックスもその内、|寮《りよう》に戾ってくるだろ。お前もいつ消えちまうか分からないし、それまでにインデックスと合流しとかないと、あいつは本当に怒りそうだからな。……っと、お前は|俺《おれ》の部屋に来るの初めてだっけか。ま、污ねえ所だけど|我慢《がまん》してくれよ」

「うう、あ……?」

|风斩《かざきり》は何かを寻ねたが、それは|鸣咽《おえつ》としゃっくりに|阻《はば》まれ、上手く出てこなかった。

だが、上条は笑ってこう答えた。

「何で、とか言ってんじゃねえよ。友达だからに决まってんだろ」

|一方通行《アクセラレ—タ》は废弃オフィスの事务机に寄りかかっていた。

「だっ、|大丈夫《だいじようぶ》なの!?」

歌のための|瞑想《めいそう》状态を解除し、パタパタと走ってきたのはインデックスだ。もっとも、今の|一方通行《アクセラレ—タ》には他人の言叶が理解できない。何となく、表情や声の大きさなどで『心配されているらしい』事が|掴《つか》めるぐらいだ。

インデックスは伤の具合を确かめつつ、|一方通行《アクセラレ—タ》の背中をじろじろ眺めて、その白い手でペタペタと触っていく。

「???……何にもない……?」

确かに|恶魔《あくま》のような|翼《つばさ》が生えていたはずなのだが、|痕迹《こんせき》らしいものは残っていなかった。衣服が破れている样子もない。

「(……力场は『|天使の力《テレズマ》』に|酷似《こくじ》していたけど、实质的には全然违った。そもそも、恶魔学の实用は普通の『|天使の力《テレズマ》』とは?いが违うものだし……あんな大量の力、圣人だってまとめきれるかどうか……)」

口の中でブツブツ言っていたインデックスだが、

『こら!结局何がどうなったのよ!?歌の时からこっちが何言っても全く反应しないし!あのでっかい羽もなくなったみたいだけど、本当にもう大丈夫な译!?黑ずくめどもは全部片付けたから、なんか手传う事あればそっちに行くけど!?」

携带电话からの声を闻くと、ハッとしたように颜を上げた。インデックスはとにかく|一方通行《アクセラレ—タ》や|打ち止め《ラストオ—ダ—》の体の具合が恶い事を优先するようにしたらしい。

「まっ、待っててね。今お医者さんを呼んでくるから!!あの子はもう大丈夫だから、あなたも倒れちゃ|驮目《だめ》だよ!!」

『ち、ちょっと闻いてんのアンタ!?』

インデックスは废弃オフィスから飞び出して行った。|一方通行《アクセラレ—タ》はそれをぼんやりと眺めながら、

(……ああう、ぐ……)

言叶はサッパリ理解できなかったが、今はそちらよりも气になる事がある。

|一方通行《アクセラレ—タ》は首を动かした。

污れた事务机の下に、|打ち止め《ラストオ—ダ—》の小さな体がぐったりと横たわっていた。本当に助かっているのかどうかも分からない状态だ。一应、窗の外に广がっていた天使|骚动《そうどう》は收まっているのだが、计算のできない彼は『天使の消失』と『|打ち止め《ラストオ—ダ—》の状况の变化』を结び付けられない。

彼女は|大丈夫《だいじようぶ》なのか。ウィルスなどはどうなった。医者に连络は。普通ならあれこれ考えるべき事はあるはずなのに、电极のバッテリ—が切れた事で、少しも意见がまとまらない。体の方も、先ほどの战いでボロボロになり、もうまともに动かせなかった。

そこへ、新しい足音が闻こえてきた。

インデックスのものではない。足音は复数ある。

『|一方通行《アクセラレ—タ》。お话がありますが、よろしいですか』

飞んできた声は、こんな状态の|一方通行《アクセラレ—タ》でも理解ができた。

声は、耳を介して届いているものではない。どうも脑に直接干涉する、何らかの能力でも使っているらしい。

|一方通行《アクセラレ—タ》が目を向けると、废弃オフィスに数人の人间が入ってきた所だった。シルエットは一般的な男性よりも二回り以上|膨《ふく》らんでいる。表面は非金属の素材を利用しているようで、头の先から足の里まで全部|覆《おお》われていた。各关节に曲げるための|龟裂《きれつ》が走っている。头と首と肩のラインが|滑《なめ》らかに|系《つな》がり、一体化していた。背中にある|薄《うす》っぺらいリュックのような物は、バッテリ—だろう。手足が动くたびに、小さなモ—タ—音が|响《ひび》いてくる。

|驱动铠《パワ—ドス—ツ》だ。

ずんぐりした装甲を摇らす彼らは、ド—ム状の头部を回转させ、无数のカメラで|一方通行《アクセラレ—タ》を观察している。オ—トフォ—カスのせいか、キュイキュイという音が耳についた。

と、そこまで『考え』た|一方通行《アクセラレ—タ》は、ふと|眉《まゆ》をひそめた。

(……计算、能力が……?)

ある程度、戾っている。能力使用には程远いが、少なくとも普通の生活の思考ぐらいなら问题なさそうなレベルまで。

久方ぶりに『疑问』の处理を行えるようになった|一方通行《アクセラレ—タ》に、连中の一人が告げた。

その人物だけは、周围の|驱动铠《パワ—ドス—ツ》とは违う。

スマ—トな黑の|装束《しようぞく》で身を包んだ、线の细いシルエットだった。

やはり颜まで隐されていて、性别も分からない。

『复数の方式の|精神感应《テレパス》系能力者を用意しています。我々の言语、演算能力をあなたとリンクさせる事で、极めて短い时间ですが对话の可能な状态を维持しています。あなたからの言叶も、我々には通じるはずですよ。おっと、超能力は范围外です。「|自分だけの现实《パ—ソナルリアリテイ》」までは补えませんからね』

『……能力者か』

|一方通行《アクセラレ—タ》は|郁屈《うつくつ》な表情で告げた。

『こちらも「外」での仕事がありまして。今も回收部队が|土御门元春《つちみかどもとはる》などを救出していますが、我々は一足早く「中」へ归还した译です』

チッ、と|一方通行《アクセラレ—タ》は舌打ちする。

|妹达《シスタ—ズ》という例外を除けば、铳器と能力の两方を使う特殊部队の存在は闻いた试しがない。|风纪委员《ジヤツジメント》などは『训练で触れてみる』程度のものだったはずだ。危险度で言えば、|木原《きはら》の操っていた『|猎犬部队《ハウンドドッグ》』以上だろう。その上、この连中は|一方通行《アクセラレ—タ》や木原|数多《あまた》の动きを正确に追っている。そうでなければ、|战斗《せんとう》终了のタイミングを见计らって|踏《ふ》み?んでこれない。

おそらくは、彼らこそ学园都市の最も暗い|暗《やみ》の暗。

|一方通行《アクセラレ—タ》は、ついにその连中と接触してしまった译だ。

『何の用だ』

『ええ。大切なお话があります』

『闻いてやっても构わねェが、その前にこっちの质问に答えろ』

何でしょう、と男は气轻に返してきた。

|一方通行《アクセラレ—タ》は告げる。

『|打ち止め《ラストオ—ダ—》はどォなった。ウィルスは』

『一应停止していますが、ずさんですね。言ってしまえば、齿车を一つ取って、空回りさせている状态に过ぎません。|所诠《しよせん》、あれが|连中《うも》の限界でしょうね。ウィルスの进行速度はストップしていますので、「|学习装置《テスタメント》」を使えば再调整可能ですが』

『余计な|真似《まね》すンじゃねェ!医者と研究者には心当たりがあるンだよ!!』

『そうですか。まぁ、彼らに任せても问题はありません』

|一方通行《アクセラレ—タ》は、|唾《つば》を|吐《は》き舍てた。

こちらの战力や|手驹《てごま》、人闻关系も|全《すべ》て把握济みのようだ。

『……本题は何だ?』

『协力的で助かります』|丁宁《ていねい》な言叶が返ってきた。『今回、|贵方《あなた》が引き起こした一连の|骚动《そうどう》、并びに学园都市が|被《こうむ》った损害についてのご相谈をと思いまして』

『……、』

『续けさせてもらいますね。まずは金钱的な问题を。建物や施设に对する物理的损害、「|猎犬部队《ハウンドドッグ》」の欠损人员の|治疗《ちりよう》と|补偿《ほしよう》、民间人に对する情报操作の费用、それら|全《すぺ》てを合わせますと、ざっと八兆圆ほど请求させていただく事になります。次に统括理事会の一人、トマス=プラチナバ—グ|袭击《しゆうげき》についてですが───』

男は延々と说明しているが、その口调は轻い。|一方通行《アクセラレ—タ》はうんざりした目で彼の颜を见返す。

『その|代偿《だいしよう》として、|俺《おれ》を灭多切りにして研究素材にでもすンのか?』

『それも道の一つですが、我々は别の道も提示したい』

男は人差し指を立てた。

『我々と行动を共にする气はありませんか?』

『何だと』

『あなたの力はそのまま军事方面に使えますし、现实的な话だと思いますよ、军需产业は值がインフレを起こしていますからね。|战斗机《せんとうき》一机、|舰船《かんせん》|一只《せき》でいくらすると思います?まぁ、ざっと一舰队级の动きをしていただければ、八兆圆程度なら拂い切れるでしょう。多少、时间はかかりますがね』

チッ、と|一方通行《アクセラレ—タ》は舌打ちした。

『学园都市は何をそンなに急いでやがる。ここまでやらかした俺みてェな人间を使い回そォなンざ、まともな思考じゃねェ。どっかと战争でも始めるつもりか』

『お答えできません』

『そォかい。まァオマエの答えが何であれ、俺が言うべき事は一つだけだ』

|一方通行《アクセラレ—タ》は男を|睨《にら》みつけ、そして言った。

『───ふざけンじゃねェよ』

『へえ』

『ナニが损失の|补填《ほてん》だ。ナニが学园都市が

|被《こうむ》った损害だ。元はと言えば、全部オマエ|达《たち》みてェなクソ野郎が群がってきたのが原因だろォが!!』

事务机に背中を预けるように座ったまま、|一方通行《アクセラレ—タ》は|吼《ほ》える。

『どォしてここまでやられた俺达[#「俺达」に傍点]が、これ以上オマエなンぞの言いなりにならなくちゃならねェ!?|叩《たた》き杀されてェのかオマエは!!ここはオマエ达の方が头を下げる场面なンだよ!里でコソコソ何してっか知らねェが、ソイツに俺やあのガキを卷き?むンじゃねェ!!』

正论だった。

正论を言わないはずの彼の口から、正论が出た。

『学园都市は、ここが正念场です』

『……人の话を闻いてやがンのか?」

『下手をすると、落ちる[#「落ちる」に傍点]と言っているのですよ。我々はこれに|抗《あらが》いたいし、あなたにも协力して欲しい。まぁ、强制はしませんが、一度良く考えてみる事です。假に学园都市が完金に消えた场合、我々能力者に居场所はあるのか。また、その他の技术[#「その他の技术」に傍点]に关しても同样です』

『───、』

学园都市内でも许されない、国际法で禁じられた军用量产能力者一万体。彼女|达《たち》は『外』に居场所がない。下手をすると、今までより|酷《ひど》い军事研究所へ送られる羽目にもなりかねない。何しろ、|打ち止め《ラストオ—ダ—》达は何らかの大きな计画を|担《にな》うぐらい、重要な价值のある存在なのだから。

|一方通行《アクセラレ—タ》が守るべき少女、そして彼女が爱した风景のためには、今の学园都市は必要だ。敌が何であるかは分からないが、みすみすここを|破坏《はかい》させる译にはいかない。どれだけ|丑《みにく》かろうが、やはり学园都市は小さな小さな子供达の世界だった。

统括理事会という『教师』は污いが、彼らがいなければ学园都市という「学校』は机能しなくなる。こればかりは『生徒』の方がいくら暴れても解决はしないだろう。

结局の所、进むべき道は一つだ。

彼は舌打ちすると、觉悟を决めた。

目の前の男に言う。

『一つだけ教えろ』

『何でしょう』

『今回の件の|首谋者《しゆぼうしや》の名前だ。予想はついてるンだが确证がねェ。だから教えろよ。あのガキをこンな风に?った人间の首を切り落とす。そいつを契约条件にしてやっても良い』

『回答するのは构いませんが、どうせスケ—プゴ—トですよ?』

|一方通行《アクセラレ—タ》はわずかに|默《だま》った。

『……なるほど。回答を控える程度には价值がある人物って译か』

『で、どうしますか[#「どうしますか」に傍点]』

『好きにしろ』

『良い返事です』

男は腰に差していた|拳铳《けんじゆう》を拔いた。

その铳口を、座り?んでいる|一方通行《アクセラレ—タ》の胸板に突きつけて、

『どうぞよろしく、新入りさん』

ガンゴン!!と立て续けに铳声が|响《ひび》いた。

暴徒镇压用のゴム弹を受けた|一方通行《アクセラレ—タ》の体が、床に转がる。男は拳铳をホルスタ—に戾しながら、周围の|同僚《どうりよう》へ指示を出した。

「|撤收《てつしゆう》する。|战斗《せんとう》の|痕迹《こんせき》を削除しろ。负伤者は经路B、|一方通行《アクセラレ—タ》は经路Gを使って运び出せ」

气を失った|一方通行《アクセラレ—タ》の两手を、二人の男がそれぞれ|掴《つか》んで引きずっていく。

ようやく小さな光を知った彼は、再び|暗《やみ》の奥へと落ちていく。

今度こそ、二度と这い上がれないほど深くへ。

カエル颜の医者は病院へ戾ってきた。

もっとも、その下准备にかなりの手间をかけていた。建物内に|妹达《シスタ—ズ》を先行させ、敌兵の待ち伏せや爆弹などの置き|土尘《みやげ》がない事を确认するだけで一时间以上も经过している。

(まさか、患者さんに仕事を手传わせるとはね)

少々本气で嫌气が差したように、カエル颜の医者は息を|吐《は》く。今後は自分の手足となる人间をきちんと雇っておいた方が良いかもしれない。

主立った负伤者|达《たち》は、观光バスクラスの特殊な大型救急车两『病院车』の中で处置を终えていた。ベッドの空き状况を确认し、それぞれの患者达を病室に戾し、ようやく一段落ついた……といった所である。

诊察室の|椅子《いす》に座り、彼はしばらくぼんやりと|天井《てんじよう》を眺めた。

それから、机にあった电话机に手を伸ばす。

外线のボタンを押してから、シャ—プを数回|叩《たた》いた。乱杂なようでいて、一定のリズムがあった。その後に、特殊な番号を次々と打ち?んでいく。

受话器に耳を当てると、普通の呼び出し音は闻こえなかった。

ワンコ—ルもなく、即座に相手へ|系《つな》がったのだ。

「おはよう、アレイスタ—。さんざん好き胜手に暴れた气分はどうかな?」

『とてもとても。ようやく第二段阶ヘシフトできた、という所だ。この程度で好き胜手などと呼ぶのはまだ早い』

音质は|惊《おどろ》くほどクリアで、同じ电话回线を使っているのかと疑问を抱くほどだった。电话机に全く别のケ—ブルが系がっていると言われた方がまだ说得力がある。

しかし、カエル颜の医者にとっては惯れたものだ。

彼は|一方通行《アクセラレ—タ》にも述べている。自分は世界の|暗《やみ》を知る先辈だと。

「まだ早い、か。君は一体いつまで|一方通行《アクセラレ—タ》や|打ち止め《ラストオ—ダ—》を使い回すつもりなんだい?」

『さあな。それよりも、最後まで|保《も》ってくれるかどうかの方が|悬念《けねん》されている。ベクトル制御装置に、AIM扩散力场の数值设定を入力する作业はようやく终えた所だが……もう片方の完成度が今一つでな。

|一方通行《アクセラレ—タ》、

|最终信号《ラストオ—ダ—》、

|风斩冰华《ヒュ—ズカザキリ》で

|三位一体《さんみいったい》とする方法もあるのだが、それでは甘い。私はその先へ行かねばならない』

「|绝对能力《レペル6》の、さらに先にあるもの……か」

『そうでなければ、わざわざ外部から|幻想杀し《イマジンブレイカ—》を招き寄せた意味がない』

「アレイスタ—。一つ君に言っておくべき事があるんだけどね?」

『何だ』

「仆の患者をオモチャにするのはやめてもらいたいんだ」

『ふ』

笑みが返ってきた。

|沈默《ちんもく》する医者に、统括理事长は语る。

『闻かなかったらどうする。いや、何ができると言うんだ』

「分かっているさ」

カエル颜の医者は、照明も|点《つ》けずに真っ暗なままの诊察室で、静かに言った。

彼の表情は、|谁《だれ》にも见えない。

「仆だって、ここまで力をつけた君に何ができるのか、本当は分かっているんだよ?」

でもね、と医者は语る。

「それでも、あの子|达《たち》は仆の患者なんだ」

『……、』

「そして仆は医者なんだ。アレイスタ—、君が何者であれ、ここを曲げる事はできない。アレイスタ—、分かるだろう?仆の觉悟がどんなものか」

カエル颜の医者は、受话器を握る手に力を?める。

低く、静かな声で、彼は续けてこう言った。

「かつて仆に命を救われた、君ならば」

真っ暗な诊察室に、沈默が满たされる。

カエル颜の医者も、アレイスタ—も、しばらく何も言わなかった。

やがて、アレイスタ—はポツリと|?《つぶや》いた。

『……あの时の私は、本当に死にかけていた』

医者は、その言叶に颜をしかめた。

恩を卖るようなこの状况そのものに、胸を痛めているように。

『イギリスの|片田舍《かたいなか》だ。国家宗教の|魔术师《まじゆつし》讨伐组织に追われていた私は、裂けた袋のようになって转がっていたな。それを|系《つな》ぎ合わせ、英国という国家から|匿《かくま》い、生命维持装置を与え、日本という场所を绍介し、学园都市という仕组みを作る手传いをしてくれたのは、|全《すべ》て贵方[#「贵方」に傍点]だった』

「……、」

『後悔しているか』

「本气で寻ねているのかい?」

『远隔操作で生命维持装置を止めるなら今しかないぞ』

「仆を|马鹿《ばか》にするならいい加减にして欲しい」

そうか、とアレイスタ—は小さく笑ったようだった。

『私は、そう言ってくれた|贵方《あなた》をも敌に回さねばならないのだな』

「……、」

『十字教の中でも严格と言われた一派、世界最高と言われた黄金の|魔术《まじゆつ》结社、|他《ほか》にも国家から家族まで、私は今まで样々なものを敌に回してきたが……まさか、ここに来てまだ失うものがあったとはな』

「意思は、变わらないのかい?」

『贵方は私の理由を知っているはずだ』

「……、そうだね」

『私は止まれない。もうその段阶は过ぎている』

きっぱりとした决别だった。

それは|哀《かな》しい。なまじ、最初から敌ではなかったが|故《ゆえ》に。

アレイスタ—は最後にこう言った。

『お别れだ。优しい优しい私の敌』

それで、通话は切れた。

最後の|系《つな》がりであった细い线が消失し、後には单调な电子音しか残らなかった。

カエル颜の医者は、たっぷり一○秒は固まっていた。

ゆっくりと、受话器を置く。

照明もない真っ暗な诊察室で、彼は小さく息を|吐《つ》いた。

(忘れていないかい、アレイスタ—)

カエル颜の医者は、窗の外に目をやった。ここからでは见えないが、そちらの方角には窗のないビルが建っているはずだ。

彼の背中は小さかった。

|贯禄《かんろく》も何もない、ちっぽけな背中の男は、静かに思う。

(君だって、仆の患者の一人だっていう事を)

この日、学园都市は正式に魔术集团の存在を肯定した。

学园都市の外───ロ—マ正教には『魔术[#「魔术」に傍点]』というコ—ドネ—ムを冠する科学的超能力开发机关があり[#「というコ—ドネ—ムを冠する科学的超能力开发机关があり」に傍点]、そこから|攻击《こうげき》を受けたのだという报告书をまとめ、その日の内に世界各国のニュ—ス番组で取り上げられた。

一方、ロ—マ正教は学园都市の内部で『天使』の存在を确认。十字教の宗教的教义に反する|冒渍的《ぼうとくてき》な研究が行われているとして、ロ—マ教皇自らが学园都市を非难した。

互いは互いの主张を『|马鹿马鹿《ばかばか》しい』と一切认めず、そして自らの主张のみを相手に|叩《たた》きつける。そこには一切の|让步《じようほ》や妥协といった色は见られず、むしろ争いが激化するのを望んでいるような动きさえ受け取れた。

争いが、始まろうとしていた。

学园都市とロ—マ正教の正面对立。

世界で三度目になるかもしれない、大きな大きな战争が。

[#改ペ—ジ]

あとがき

一册ずつ读んでいただいている|贵方《あなた》へ、ありがとうございます。

一气にまとめて一二册も读破した贵方へ、本当にありがとうございます。

|镰池和马《かまちかずま》です。

これにて衣替え终了です!それにしても、今回はバトルばかりでしたね。ほのぼのシ—ン一切なし。あっちを凶てもこっちを见てもケンカだらけですが、たまにはこういう杀伐とした|氛围气《ふんいき》もアリかな、と思います。

それぞれ二组存在する主人公と敌キャラは、お互いが|完壁《かんぺき》に正反对の道へ向かうように书いてみました。しかし今回の主人公が入れ替わっていたら、敌キャラの对应もまた变わっていたかもしれないな、と思います。もちろん、それ以前に胜负にならなかった可能性もありますが。

今回のオカルトキ—ワ—ドは『天使』。ですが、これまでのように明确な『|魔术《まじゆつ》の话』『科学の话』という译でもありません。单に视点が二つ、事件が二つに分かれていたのではなく、そもそもお互いの领域を区切る壁を|暧昧《あいまい》にしてみました。

机会とお暇がありましたら、体どこにどれだけの壁があったのか、そしてその壁の内のいくつが暧味化してしまったのか、などを调べてみるのも面白いかもしれません。壁の数は组织间の防壁の数とも表现できますので、实はあまり触れていない『当作品世界全体の大きな动き』が|掴《つか》めると思います。

イラストの|灰村《はいむら》さんと担当の|三木《みき》さんには感谢を。当シリ—ズにおいてコメディ一边倒、バトル一边倒という构成は结构冒险だったかなと思いますが、お付き合いいただき、ありがとうございました。

そして读者の皆样にも感谢を。コメディを期待していた方には头が上がりませんが、今回の冒险にここまでお付き合いいただいて、本当にありがとうございました。

では、今回はここでペ—ジを闭じていただいて、

できるだけ早く次のペ—ジを提供できれば良いなと思いつつ、

本日は、この边りで笔を置かせていただきます。

彼らの道が再び交差するのはいつの日か[#地付き]镰池和马

[#改ペ—ジ]

とある魔术の禁书目录12

镰池和马

发行2007年4月25日初版发行

著者镰池和马

发行者久木敏行

发行所株式会礼メディアワ—クス

平成19年4月28日入力·校正にゃ?


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